いつでも元気

2013年2月1日

鍼灸治療 自然治癒力を引き出す伝統医療

 鍼灸治療は、日本・中国・韓国などのアジアだけでなく、ドイツ・フランスなどの欧米にも広がり、現在世界一 〇〇カ国以上で採用されています。地球上、最も普及した伝統医療になっています。一九九七年にはアメリカ国立衛生研究所(NIH)が、鍼灸治療の有効性に 関する声明を発表しました。
 このように鍼灸治療は世界的に普及している伝統医療ですが、鍼灸大学の調査(二〇〇〇年)によると、鍼灸治療を年一回受けた方は六~七%、生涯で一回以 上受けた方は約三二%と言われています。「鍼は痛い。灸は熱い」という先入観があることや、「保険がきかないので治療費が高く、受けにくい」というイメー ジがあるようです。今回の記事が、そのような心配を少しでもやわらげ、鍼灸治療をもっと身近に感じていただくきっかけになればと思います。

鍼灸の歴史

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則定邦彦 坂田哲也 大和未夏
上田ルナ 海道智紀 向井敬子
大阪・住之江鍼灸センター

 原始時代、人びとがけがをしたり痛みを覚えた場合、本能的にの箇所に手をあてておさえたり、揉んだりしたと考えられています。
やがて文明が進歩して、火を利用したり、石や金属を加工・使用したりするようになると、金属製の鍼が治療に応用されるようになりました。これが今日の鍼灸治療の原型となっています。
 鍼灸治療の発祥は中国です。中国最古の医学書としては、春秋・前漢時代(紀元前一~二世紀頃)に編さんされたとされる『黄帝内経(素問・霊枢)』があり ます。素問には気の概念をもとにした内経系医学の基本原理が、霊枢には鍼灸術の応用が書かれています。
 日本における鍼灸のはじまりは、四一四年(允恭3)に朝鮮半島の新羅からきた金武という人が天皇の足の痛みを治したのが始まりとされています。そして九 八四年(永観2)、鍼博士であった丹波康頼が随・唐医学を集成した『医心方』を著わしました。現存する我が国最古の医学書です。
 江戸時代末期には、すでに日本独自の鍼灸術が完成されつつありましたが、明治時代に入り、ドイツ医学を主体とする西洋医学が導入されると、漢方も含めた 日本の伝統医学は非正統医学として存続の危機に立たされます。鍼灸は営業資格としては残りましたが、主に視覚障害者が担うものとされていました。
 戦後、一九四八年に「あん摩師・はり師・きゅう師及び柔道整復師法」が施行され、国家資格として確立しました。

鍼灸治療の効果

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治療に使用する鍼。
(上から) 使い捨ての鍼(ディスポ鍼)と鍼管
長さ1寸の鍼と鍼管
長さ1寸6分の鍼と鍼管

 鍼灸治療は、腰痛、膝痛、頭痛、神経痛(坐骨神経痛、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛)などの痛 みをともなう症状に効果的です。家事や仕事のストレス、パソコン使用などによる眼精疲労、肩こりや足の疲れ、こむら返りが改善されます。さらに、ツボに鍼 灸治療を施すことで、便秘、下痢、痔、慢性胃炎、食欲不振、気管支炎、膀胱炎にも効果が期待できます。
 自律神経失調症、めまい、イライラ、動悸、不眠症などにも効果があり、鍼灸治療を続けることで風邪を引きにくくなります。
 そのほかにも、西洋医学では原因が分からないとされる症状(不定愁訴)など、さまざまな症状にも自然治癒力を高めることにより健康な心身を取り戻すことで効果が得られます。

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経穴人形。全身361の経穴を示している

なぜ鍼灸が効くのか

 鍼灸治療は身体の反応を利用したものです。身体の表面に機械的な刺激(鍼)や熱による刺激(灸)をあたえ、病気を治療・予防します。
 鍼や灸で身体の一部を刺激すると、中枢神経の中にモルヒネのような役割を持ったホルモン(内因性オピオイド)が放出されるため、痛みを脳に伝える神経経 路をブロックします。これによって、腰痛・膝痛などの痛みをやわらげます。
 また、筋肉の緊張をゆるめ、施術箇所周辺の毛細血管を拡張し、新陳代謝を高める効果もあります。その結果、たまっていた疲労物質が流されて、筋肉の疲労が回復します。
 鍼灸で体の表面を刺激すると、内臓にも影響をあたえ、その機能を改善させる効果もあります。自律神経系のバランスを整えるはたらきもあります。
 鍼灸治療はそれぞれの人が持つ自然治癒力を引き出し、免疫力を高めて病状を改善する治療法なのです。

経絡、経穴とは

 鍼灸治療で刺激するのは、ツボです。正式には経穴と言います。鍼灸治療では経絡を流れる気血の巡りが滞ると、その経絡につながっている内臓などに影響が及び、不調をもたらすと考えています。
 経絡は、全身に縦横無尽に張り巡っています。ツボは、経絡の気血の流れがあらわれる反応点であり、同時に治療点にもなります。
 全身にある三六一の経穴から病気に合わせたツボを選んで治療を施すことで、経絡の気血の流れを改善して病を治していきます。
 二〇〇八年にWHO(世界保健機構)がツボの名称や位置を統一し、国際標準化しています。 

女性の病気に

 鍼灸治療は女性に多い冷え性や貧血・月経異常・更年期障害にも効果的です。妊娠中の女性や胎児への副作用がないため、つわりやむくみにも効果があり、逆 子が治った例もあります。近年は不妊治療として鍼灸治療を希望する方も増えてきました。

子どもの症状にも

 小児鍼と言って、乳幼児から小学生の子どもの治療に使われる鍼もあります。小児鍼には、鍼の先がわずかに触れる「接触鍼」と皮膚を摩擦する「摩擦鍼」の 二種類があります。体に刺さずに皮膚を刺激することで血流を促進し、交感神経と副交感神経のバランスを整えます。夜泣き・カン虫・夜尿症・ぜんそくなどに 効果があります。近ごろは、大人にも使用することがあります。
 ちなみに鍼灸治療は、今や家族の一員として重要な存在となっている犬や猫などのペットや、競走馬、乳牛などにもおこなう動きが広まっています。

治療の器具と方法

(1)鍼について
 現在、日本でもっともよく使われている鍼が「毫鍼」で、直径〇・一二ミリ~〇・二四ミリ程度の極めて細いものです。かつては金や銀でつくられていました が、最近はほとんどがステンレス製です。折れにくく、刺したときの痛みが少ないので、世界的にも普及しています。近年は、衛生面や安全性を重視した使い捨 てタイプの鍼が主流となっています。
 鍼を刺す方法には、大きく分けて「管鍼法」と「撚鍼法」の二つがあります。日本で一般的に採用されている管鍼法は、江戸時代に視覚障害者の鍼灸師・杉山 和一が考案した方法です。鍼を管に挿入した状態で使用する方法で、容易に細い鍼を刺すことができ、ほぼ無痛であるのが特徴です。この管鍼法が、世界レベル での鍼灸の普及にも貢献しました。「撚鍼法」は管を使わず直接刺す方法で、中国では一般的に採用されています。
(2)灸について
 灸治療に使うもぐさは、よもぎの葉を乾燥させ、葉の裏側の絨毛を集めてつくられたものです。よもぎは殺菌・消炎・保湿効果にすぐれ、止血剤としても用いられてきました。
 灸の方法には皮膚の上に直接もぐさをのせて点火する「直接灸」と、皮膚との間をあけておこなう「間接灸」があります。「直接灸」の場合、もぐさの大きさ は糸状や米粒ほどの細かいものが主流で、病状に応じて熱刺激をあたえます。灸の痕が残ることを嫌う方が多いため、痕が残らないように灸点紙という紙を用い る灸が好まれています。
 また、間接灸の中には、刺した鍼の上にそら豆ほどのもぐさをのせて点火する灸頭鍼があり、温かくて気持ちよく受けることができます。

鍼灸の健康保険適用について

ツボの紹介 【足三里】
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このように、鍼灸の効果は施術した局所と経絡を通じて全身に働きかける効果があります

 鍼灸治療が保険適用となる病気は、「慢性病であって医師による適当な治療手段がないものとされ ており、主として神経痛、リウマチなどであって類症疾患については、「これら疾患と同一範ちゅうの疾患(頸腕症候群、五十肩、腰痛症及び頸椎捻挫後遺症等 の慢性的な疼痛を主症とする疾患)に限り支給対象」(厚労省通知)とされています。
 鍼灸治療を保険で受けるには、医療機関を受診して医師に同意書を発行してもらった上で、保険による治療を取り扱っている鍼灸院で治療を受ける必要があります。
交通事故による障害や後遺症などにも、鍼灸治療は適用できます。また、仕事中に起こった労働災害も所定の手続きをすれば、労災保険で鍼灸治療を受けることができます。
 この他にも、各自治体によっては鍼灸にかかわる患者負担の助成制度があります。生活保護を受給している方も、市町村で「意見書」をもらって手続きをすると、鍼灸治療を受けることができます。

伝統文化である鍼灸を活かすために

 鍼灸治療はそれぞれの人が持つ自然治癒力を引き出し、自らの力で病を治すお手伝いをします。私たち鍼灸師が治すというより、患者さんといっしょに病と向き合うと考えた方が的確でしょう。

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鍼灸治療の同意書

 高齢化がすすむ今日、病気の予防が求められています。日本の伝統医療である鍼灸治療は、「未病 (病気にはなっていないが、健康ではない状態)を治す」という病気にかかりにくい身体づくりをめざす予防医学であり、「自然治癒力を高め体質を改善する」 という、現代医療とは異なる医療の特質を持っています。
 鍼灸医学の発展のためには、鍼灸の研究所や療所が整備され、鍼灸医学を科学的に研究する社会的基盤が必要です。鍼灸医学と西洋医学を融合し、お互いに補いあっていくような医療の発展が望まれるのではないでしょうか。
鍼灸治療は、国民が体験を積み重ねてきた医療です。必要な医療を患者が自由に選ぶのは当然の権利であり、健康権保障の重要な要です。
 住之江鍼灸センターは今年、健康保険証の提示で鍼灸治療を受けられるよう、全国的な署名の準備をすすめています。

 

いつでも元気 2013.2 No.256

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