民医連新聞

2003年2月11日

安心・安全の医療を求めて(4) 「悩んでいませんか?」かいせん(疥癬)対策

山梨・石和共立病院 浅野 賀世(臨床検査技師)

 疥癬(かいせん)は、近年増加傾向にあるといわれ、院内感染源としても問題です。山梨・石和共立病院の院内感染委員会では、患者の入院経路となった地域の他施設にも協力を依頼、対応基準を改定するなど対策を強化しました。

 当院の院内感染委員会は、2002年度の課題の重点のひとつとして感染対策基準の作成をすすめてきました。
 なかでも、疥癬の対策を強めることは焦眉の課題でした。
 この数年間、院内でほぼ途切れることなく、疥癬の患者が発見されています。幸いに、他の患者さんや職員と接触する際の注意を周知させ、感染の予防策を徹 底し、院内感染はおこしていません。しかし、「入院経路の調査が必要ではないか」「現状の対応策はこれでよいのか」との意見が院内感染対策委員会で出され ました。
 そこで、調査を行い、対策についての基準を作成することにしました。
 2001年4月から2002年7月までの間に、当院の検査室で鏡検により「疥癬」と診断された事例を調べました。その結果、診断数は、2001年度は三 階病棟6例、四階病棟3例。2002年度は二階病棟2例、三階病棟9例、四階病棟2例でした(表1)
 入院経路の調査では、四階病棟の発生5例が、特定の施設からの入院に限局していることが明らかになりました。その他の階の患者はいずれも自宅からの入院でした。

(表1)
疥癬(院内鏡検陽性者)
2001年4月~2002年7月まで
〈調査結果〉
01年度→ 3階病棟6例 (*)4階病棟の発生5例は特定の施設からの入院患者であった。
4階病棟3例(*)
02年度→ 2階病棟2例
3階病棟9例
4階病棟2例(*)

地域の他施設にも対策をアドバイス
 当該施設には管理部に対応を依頼して、担当医師から調査結果を伝えてもらい改善を求めました。その折に「たいへん悩んでいる。どうしたらいいのか?」と の相談を受けたので、当院の対策法を伝受しました。後日当院の副院長が、第3次長期計画について説明、懇談するためにその施設を訪問した際「疥癬は撲滅し ました」と報告を受けました。言葉通りその後、その施設の入院患者さんから疥癬は発見されなくなりました。
 また疥癬対策についての当院の基準を改定しました。インターネットで疥癬対応について検索し、また厚生省施設内感染対策相談窓口に問い合わせました。それらをもとに委員会で検討を行い、新基準を作成しました。
 薬剤γ―BHC(ベンゼンヘキサクロライド:殺虫剤)の使用方法について、インターネット検索した結果は、施設や文献によって差がありましたが、いずれ もγ―BHCを塗布した後の入浴までの時間は6時間から24時間、二回目を塗布する時期については1週間後から10日後でした。使用回数については、ほぼ 1カ月に2回までという知見を得ました。

薬剤の使用方法再検討し
 そこでそれらを検討し、当院の「疥癬」対応基準を改定しました。主な変更点は、γ―BHCを塗布しその後洗い落とすまでの時間を、従来の2時間から6時間に変更しました。二回目の塗布は従来は4日後だったものを、7日後に変更しました(表2)

(表2)
「疥癬」対応基準の改定
■γ-BHC塗布後洗い落とすまで
  2時間→6時間
■再度塗布する日
  4日後→7日後
■ノルウェー疥癬対応について追記

またノルウェー疥癬の対応についても追補しました。
 また、発生時の報告書も改善しました。疥癬発生の報告書は従来からあったのですが、非常に簡単なもので、当検査室の鏡検で(+)とならなければ、結果を 集約できず、他院にて診断されたものが集約に入ってこない欠点がありました。そこで、情報を共有し、診断、治療、感染予防を徹底するために報告書を改めま した(図1)

図1
疥癬患者発生報告書

患者番号
氏名
生年月日
    (エンボス可)
受診料 検査年月日  

検査結果:
  • 院内鏡検にて確定 虫体 虫卵 排泄物 技師名(  )
  • 他院にて確定 医師銘(  )
診断:
  • ノルウェー疥癬
  • その他の疥癬
  • 確定診断できないが疑わしい
対応方法、治療:
  • γ-HBC 1回目 月 日 時 入浴または清拭 時
  • γ-HBC 2回目 月 日 時 入浴または清拭 時
  • オイラックス
医師名(  )

〈ノルウェー疥癬の場合は個室隔離とし、入浴も最後にして下さい〉

  • 対応職員への対処
  • 同室者への説明
  • その他の注意事項
看護師長(   )

この報告書は検査室に届けてください(コピー後各階に戻します)

 疥癬は、なるべく入院時の早期に診断し、院内での拡大を防ぐことが求められています。そのためには、患者さんを 迎え入れる地域の他施設との日常的な連携の中で、問題を解決することも大切です。また疥癬に限らず、インターネット等を活用して、刻々と変化する感染対策 についての知見を学び、柔軟に対応してゆくことが肝要と思われます。
 委員会では、疥癬発生調査は検査技師が、薬剤に関するインターネット検索は薬剤師が、厚生労働省への問い合わせは医師が、基準書の作成は看護師がそれぞ れ分担し、新基準の整備をすすめました。各構成員が力を出しあうことも、委員会の機能を高める上で大切だと思います。

【解説】疥癬:疥癬虫(俗称ヒゼンダニ)の寄生によって起きる。皮膚の柔らかい部分に小丘疹が多数でき、連 続する線条(疥癬トンネル)を掻き取って検査すると中に虫体・卵・糞を認める。夜間かゆみが強い。重症のものがノルウェー疥癬。患者とともに同居者も治療 が必要。衛生状態の悪いところに発生しやすく、戦後多発した。

(民医連新聞 第1300号 2003年2月11日)

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