医療・福祉関係者のみなさま

2011年6月7日

【2011.06.07】「介護保険10年」にふさわしい、十分な審議と制度の抜本的な改善を重ねて求める - 介護保険改正法案の参議院での審議入りに対して

2011年6月7日 全日本民主医療機関連合会 会長 藤末 衛

 衆院で採択された介護保険改正法案が、6月7日、参院厚労委員会に提案されました。
 政府は2012年4月の施行を前提に、6月中旬までに可決・成立させることを狙っています。

 参院に先立って先月行われた衆院の審議はまったく不十分なものでした。厚生労働委員会 での審議時間はわずか10時間です。前回2005年の法改定の際は決して十分な審議が行われたとは言えませんでしたが、それでも36時間の審議時間が確保 されていました。また10時間の審議といっても、震災被災地の対応などの質疑にも時間があてられ、法案そのものの審議に割かれた時間は全体の7~8割の時 間にすぎません。法案への質問に対する政府側(厚労大臣、副大臣、厚労省幹部)の答弁は抽象的な内容にとどまり、「これから検討する」との言葉の繰り返し に終始するものでした。
 法案の内容が制度の当事者である利用者・高齢者に何も知らされないまま、また、委員会で詳細の内容が何ら明らかにされないまま、採択が行われたことは重 大です。今回の法改正によって自分が利用しているサービスがどうなるのか、思い描くことができる利用者は一人もいないことは明らかです。

 そもそも改正法案は、「必要な介護サービスを受けられない」事態を拡大させ、深刻化させている制度の根本問題にメスを入れる内容ではありません。利用料をはじめとする費用負担の問題、要介護認定制度、支給限度額の設定など、様々な制度矛盾は放置したままです。
 そればかりか予防給付の新たな切り下げを打ち出しています。「介護予防・日常生活支援総合事業」という、費用を抑え非専門職による対応を前提とするサー ビスを制度化し、市町村の判断で、要支援1、2の一定部分を移し替えることを可能にするというものです。これは今後の本格的な「軽度切り捨て」の出発点に すぎません。5月17日に公表された「税と社会保障一体改革」の中では、次の段階の介護保険の見直し課題として、介護保険料を40歳未満から徴収する案と ともに、予防給付を丸ごと本体給付から外す、軽度者の利用の多いヘルパーの生活援助を保険から外す方針が盛り込まれています。
 今回の改正法案は、現行介護保険制度のもとで利用者が抱えてる様々な困難な打開するところか、いっそうの困難を押しつけようとするものであり、高齢者・ 国民にさらなる負担増と給付抑制に道を開くものといえるでしょう。

 震災から2カ月半が経過しました。現地では復興に向けた取り組みが進められていますが、被 災地の要介護高齢者や認知症高齢者の困難が続いています。こうした困難は、現行の介護保険制度の矛盾・欠陥を浮き彫りにしています。民間の事業所が手を挙 げない限り整備が進まない事業計画方式や国の総量規制方針がつくりだしてきた施設の絶対的不足、要介護認定制度をはじめ複雑な手続きや利用に至るまでの様 ざまなハードル、あらかじめ設定された保険給付の上限など、いずれも現行の介護保険制度のしくみそのものに関わる問題です。
 災害に強いまちづくりは、福祉のまちづくりに直結する課題です。介護保険制度はその柱となる重要な制度のひとつです。被災地の要介護高齢者の現状の困難 を打開する対策を急ぎ講じるとともに、介護保険創設当初高く掲げられた「介護の社会化」の原点に立ち返り、被災地の実態もふまえた、制度の総合的な検証と 根本的な見直しが今こそ必要とされています。

 拙速な審議・採択に断固反対するとともに、「介護保険10年」にふさわしい制度の抜本的な改善を重ねて求めるものです。

(PDF版)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ