医療・福祉関係者のみなさま

2011年9月16日

【2011.09.16】アスベスト問題の解決を遅らせる泉南アスベスト国賠訴訟・大阪高裁の不当判決に断固抗議する

2011年9月16日
全日本民主医療機関連合会
会 長  藤末 衛

 大阪高等裁判所は2011年8月25日、昨年5月の大阪地方裁判所の判決を覆し、原告の請 求を棄却する不当判決を下しました。この訴訟は、「国は、知ってた!できた!でも、やらなかった!」をスローガンに、アスベストによる健康被害を知りなが らそれを食い止める政策を実行しなかった国の責任を追及してきたものです。

 一審の大阪地裁は2010年5月、アスベスト被害において初めて国の不作為による不法行為 責任を認める画期的な判決を下しました。しかし今回の大阪高裁判決では、「化学物質の弊害が懸念されるからといって、工業製品の製造、加工等を直ちに禁 止」すれば「産業社会の発展を著しく阻害する」として、規制には「高度に専門的かつ裁量的な判断に委ねられる」として国の責任を免罪しました。産業発展の ためと称して労働者・国民の生命や健康をないがしろにしてきた国の責任を不問に付すもので、断じて認めることは出来ません。

 一方で、労働者に対しては、アスベストの危険性について一部の新聞報道が行なわれていたこ とから「マスクの着用や、アスベスト粉じんが付着した作業衣を自宅に持ち帰らないことは常識であった」と責任を転嫁し、規制をしなかった国の責任は認めて いません。健康被害を受けた労働者や家族、周辺住民に責任を押し付ける露骨な「健康(疾病)の自己責任」論というべき暴論です。

 大阪・泉南地域では1907年から約100年間アスベスト紡績業が営まれていました。その 企業規模は小さくほとんどが零細・家内工業的なものでした。作業環境は劣悪で、昭和初期には内務省保険院の調査で石綿肺の発症が指摘されていました。とこ ろが戦前は軍需産業優先、戦後は高度経済成長政策のもとでアスベスト製品の製造が奨励されました。そしてアスベストの健康被害について労働者や住民には知 らされることなく、多くの被害者を出す結果となりました。

 アスベストは、石綿肺や中皮腫、肺がんと言った極めて重症で予後不良な疾病を発症させま す。その発生予防には、根本的には有害化学物質であるアスベストの製造・使用禁止措置が必要です。さらに使用禁止するまでの間は作業場の局所排気装置の設 置などの作業環境管理・作業管理が重要であったことは当然です。WHO、ILOは1972年に石綿の発がん性を警告し、EU諸国では1980年代にアスベ スト禁止に踏み出しています。しかし、わが国では1986年に採択されたILO石綿条約に2005年まで批准せず、アスベストの全面禁止は2006年と他 の先進諸国と比べて極めて遅く、局所排気装置の設置も不十分でした。現在においても、建築物等の解体工事でアスベスト対策は十分行なわれていないのが実態 です。
 アスベスト被害者は今後も長期にわたって出続けることが予測されています。アスベスト作業者が健康管理手帳の対象となったのは1996年からと他の有害 物質と比べて著しく遅れており、クボタショック直前の2004年には全国で592人と極めて限定的に交付されていたに過ぎません。健康管理や被害補償にお いても国の責任は重大です。

 「結果的に、石綿という有毒な化学物質によって石綿取扱作業に従事した労働者及びその周辺 関係者等に重大な被害が生じた」としても、国には責任が無いとする今回の判決は、健康で働き、生活する国民の固有の権利である「健康権」を不当に軽視した ものです。そしてアスベスト問題にとどまらず、全国でたたかわれている公害被害の問題や、重大な事態となっている福島原発事故の健康被害に対する国の責任 に関しても、悪影響を与えかねない許しがたい判決といえます。

 「働く人々の医療機関」である私たち民医連は、今回の大阪高裁の不当判決に断固抗議し、最高裁判所での公正な判決を求めます。同時に、国にアスベスト被害の責任を認めさせるために広範な国民・労働者とともにたたかう決意をあらためて表明します。

(PDF版)

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