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ここが聞きたい!介護保険と「社会保障・税一体改革 目次ページへ→

■Ⅰ 実態編

Ⅰ−1 いま、介護保険の利用者や家族をめぐってどんなことが起こっていますか。

イラスト 介護保険がスタートして丸12年が経過しました。認定者数、利用者数、事業所数は右肩上がりに増え続けています。今まで個人や家族に押し込められてきた介護問題が国民的な課題として受けとめられるようになったことは、介護保険制度がつくりだした大きな変化といえるでしょう。
 しかし、他方で、介護をめぐる困難が広がり、深刻化している現実があります。現行の介護保険制度のもとで、「利用者になる権利」、さらには「利用者になってからの権利」が侵害され、生活に様ざまな支障を来している要介護高齢者が植えています。特に、低所得者、独居世帯などに制度の矛盾が集中しています。この間、実施した民医連の調査でも、経済的事情によるサービスの手控え、認定システムや支給限度額、予防給付など制度のしくみによるサービスの取り上げ、特養などの基盤整備の遅れによって「行き場」のない事態の広がりなど、介護保険をめぐる様々な問題・矛盾が明らかになっています。利用者にとっては「利用できない介護保険」、行政にとっては「利用させない介護保険」ともいうべき事態が広がっています。

 ★参考資料 全日本民医連「介護1000事例調査」(2009年)、「介護保険10年検証事例調査」(2010年)

Ⅰ−2 介護現場の実態はどうなっていますか。この間、政府は、現場の要望に応えて処遇改善策を進めてきましたが十分なものだったでしょうか。

図 困難を抱えているのは利用者だけではありません。介護の担い手である介護事業所、介護従事者の実態も深刻です。全産業者平均の6〜7割にとどまる給与水準、高止まり状態の離職率、慢性的な現場の人手不足など、厳しい状況が続いています。
 この背景にあるのが低く固定化された介護報酬です。初めての改定となった2003年改定は2.3%の大幅なマイナス改定となりました。2006年改定はそこからさらに2.4%の引き下げが実施されました。処遇改善を求める運動の広がりの中で、2009年改定で初めてのプラス改定を実現させました。しかし、3%では「焼け石に水」であり、介護保険創設時の水準を回復させるものではなく、さらに加算中心の改定となったことから、加算の算定が難しい小規模事業所の経営困難に拍車がかかり、介護事業所は二極化する傾向を強めています。
 2009年度から介護職員処遇改善が始まりました。これも運動によって実現させた成果ですが、対象職種を限定するなど不十分な内容にとどまりました。政府はこの交付金を今年3月末で廃止し、介護報酬に加算として組み込みましたが(2012年介護報酬改定−後述)、3年間で廃止する方針です。

 ★参考資料 介護報酬改定関係資料(2003〜2009 改定に対する会長声明など)

Ⅰ−3 なぜ、このような困難な事態がつくりだされてきたのでしょうか。

 第1に、介護保険制度が最初から備えていた「構造的欠陥」の問題です。
 介護保険は、「介護の社会化」を求める国民の世論を背景にしながらも、政府が本格的に推進しようとしていた社会保障構造改革の「牽引車」と位置づけられ、高齢者・国民からみれば「構造的(致命的)な欠陥」ともいうべきしくみが最初から組み込まれました。このしくみとは、現金給付(サービス費支給)方式と利用者・事業者の直接契約方式(※解説) 、認定制度や支給限度額という給付の査定・制限システム、国庫負担の削減(従来の5割から2割へ)、在宅事業に対する営利企業の参入容認などです。介護保険は、「第5番目の社会保険」と言われながら、医療保険とは「似て非なる」制度として設計されました。
 第2に、こうした「構造的欠陥」が、社会保障構造改革路線のもとで、制度施行後いっそう増幅・拡大してきた点です。
図 2000年の制度施行後まもなく発足した小泉内閣は、「聖域なき構造改革」を真正面に掲げ、社会保障費全体の大幅な削減を断行しました。介護保険については徹底的な給付抑制と負担増がはかられました。介護報酬の連続引き下げ、「予防重視」の名による軽度者からの介護の取り上げ、施設の居住費・食事の自己負担化、軽度者に対する福祉用具の利用制限、認定制度の見直しによる軽度判定の促進、特養をはじめとする施設整備の抑制など、相次ぐ制度改定を通して、介護保険制度がそもそも備えていた「構造的欠陥」が、是正されるどころか逆にいっそう拡大・強化されてきました。2009年、「介護保険制度の抜本改革」を掲げた民主党政権が誕生しましたが、基盤整備や処遇改善などはじめとする個々の介護政策は、自公政権末期時代の政策の域を何ら超えるものではありませんでした。そればかりか野田政権は「社会保障・税一体改革」を掲げ、介護制度のさらなる改悪を打ち出しています(後述)。
 ※解説 「現金給付(サービス費支給)方式と利用者・事業者の直接契約方式」とは?
  介護保険は、現物給付の医療保険と異なり、現金(サービス費)を利用者に直接支払う方式として設計されました。このことは、介護報酬表において、例えば、「訪問介護」ではなく「訪問介護費」と表現されていることにも示されています。利用者はこのサービス費を使って、直接サービス事業所と契約を結び、サービスを利用することになります。ただし、実際は、利用者にサービス費を直接支払うのは煩雑になるため、事業者が利用者に代わって「介護報酬」という形でサービス費(9割分)を受け取るしくみを採っています(代理受領)。
 「支給限度額」という保険給付の上限設定は、こうした方式(サービス費=現金の支給)ゆえに可能となります。現物のサービスでは切り分けができませんが、サービス費(現金)であれば自在に線引きができるからです。このことで、介護保険においては、保険内のサービスと保険外サービスとの併用(「混合介護」)が可能になります。現物が給付される医療では、保険内と保険外との併用、すなわち「混合診療」は認められていません。
 国や自治体は、介護サービスという現物を保障する責任がなくなり、利用者が事業所が契約できるよう「調整」する責任のみを負うことになります。介護保障に対する公的責任を大幅に縮小させるしくみといえるでしょう。同じ社会保険でありながら医療保険とは「似て非なるもの」といわれるゆえんです。現在焦点になっている「子ども・子育て新システム」は、介護保険のこうしたしくみをモデルに制度化されようとしています。

 
全日本民医連
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