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■Ⅱ 介護保険法2011年「改正」編

Ⅱ−1 昨年、介護保険法の「改正」が実施されました。現在の制度が抱える様々な問題はどう扱われたのでしょうか。

 2011年6月、介護保険法が「改正」されました(介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律)。
 しかし、高い介護保険料と応益負担の利用料、実際の状態と判定結果の違いが指摘されている要介護認定、保険給付の上限設定(区分支給限度額)、日数や回数が制限される予防給付、特養をはじめとする基盤整備の遅れなど、「保険あって介護なし」の事態を深刻化させている制度の根本問題にはメスが入れられませんでした。
 介護職員の処遇改善に対する十分な施策は示されていません。「介護職員処遇改善交付金」にかえて「介護職員処遇改善加算」が新設されましたが、抜本的な改善とは到底いえず、依然として離職率は高く、介護現場では人手不足状態が続いています。介護福祉士養成校の定員割れが続くなか、介護の担い手を確保する対策は依然として不十分なままです。
 介護保険財政の見直しも見送られました。介護給付費と保険料が連動するしくみのため、国や自治体の公費負担割合の大幅な引き上げにより、高齢者の保険料負担を圧縮しない限り、「給付の増大に対応した保険料の引き上げ」が続くことになります。これまで、都道府県財政安定化基金や市町村介護給付費準備基金を取り崩して介護保険料の引き上げを押さえてきましたが、一時しのぎの対策でしかありません。

Ⅱー2  昨年の「改正」は、どのようなものだったのでしょうか。

 「改正」法は、日本の高齢化がピークとなる2025年に向けて、「地域包括ケアシステムの実現」を前面に掲げました。「改正」の柱として、(1) 医療と介護の連携の強化等、(2) 介護人材の確保と養成、(3) 高齢者の住まいの整備等、(4) 認知症対策の推進、(5) 保険者による主体的な取り組みの強化、(6) 保険料の上昇の緩和の6点を挙げています。
 この中には、「情報公表制度の見直し」や「認知症支援の強化」など、利用者の要求や介護現場の実態に対応する内容や、今後の高齢化に向けた様ざまな課題も含まれていますが、全体として、現行制度の様ざまな困難の根本的改善をめざすものではなく、逆に「給付の重点化・効率化」の推進によって、利用者と介護現場に新たな困難をもたらす「改正」といえます

Ⅱ−3 創設された24時間訪問サービス(定期巡回随時対応型訪問介護看護)はどのようなものですか。事業は広がっていますか。地域に必要なサービスとして機能するしくみになっていますか。

 「定期巡回随時対応型訪問介護看護」は、要介護高齢者の在宅生活を支えるため、日中・夜間を通じて、定期的に訪問するサービスと随時対応するサービスを組み合わせて、「訪問介護」と「訪問看護」を一体的で密接な連携を保ちながら提供するサービスです。定期巡回サービスは、1回15分程度の訪問を1日に複数回実施することで日常の生活をささえるサービスとされています。随時対応サービスでは、利用者から事業所の24時間対応のオペレーターへの通報により、電話等による対応・訪問などが随時行われます。これまで対応が難しかった「短時間での見守り」や「夜間の安否確認」等が可能になります。
 各自治体は、「第5期介護保険事業計画」(※解説)にもりこみ、日常生活圏域(中学校区程度)ごとに設置することになります。2012年度中に189の保険者で実施される予定となっていますが、4月末での同サービスの指定事業所は27保険者にとどまり、事業所数は34事業所でした。全国訪問看護事業協会がおこなったアンケート調査では、24時間訪問サービスを実施している、または実施の意向がある事業所は、全体の13.6%にとどまっています。この新サービスがすべての地域で機能するにはほど遠い状況といえます。
 このサービスを利用すると、既存の訪問介護サービスは利用できません。1つの事業者が一定のエリア内(日常生活圏域)を独占し、後から参入できないことなどの問題点も指摘されています。また、介護報酬が月ごとの定額であることから、この範囲内で必要な訪問サービスを十分受けられるのか不安視されています。支給限度額との関係での問題もあります。訪問介護と訪問看護を行う「一体型」の事業所の場合、このサービスを利用すると要介護2で支給限度額の7割、要介護4では8割を占めることになります。支給限度額を超えないよう、通所系サービスや短期入所などの利用を減らしたり、もしくは限度額を超えて多額の自己負担が発生する事態も生じることになります。

(※解説) 介護保険事業計画
 円滑な介護保険事業の運営のために、各市区町村が介護保険事業計画を、都道府県が介護保険事業支援計画を3年ごとに作成しています。計画には、特別養護老人ホームや居宅サービスの数量含まれ、介護保険料が設定されます。
 市区町村の計画策定にあたって「策定委員会」等を設置し、委員の公募や会議の公開など住民参加のシステムを持たせているところもあります。

Ⅱ−4 創設された複合型サービスとはどのようなものですか。全国でどのくらい実施されていますか

 複合型サービスは、居宅サービスや地域密着型サービスのうちの2種類以上を組み合わせることで効果的・効率的であるサービスとするもので(組合せは厚生労働省が定める)、2012年は小規模多機能型居宅介護と訪問看護の組み合わせが新サービスとなりました。
 小規模多機能型居宅介護は、通所介護、訪問介護、短期入所の各サービスをサービスの拠点施設を中心にして提供するサービスで、訪問看護サービスの一体的な提供を加えることで医療管理の必要な利用者の対応も可能となります。
 複合型サービスについては、第5期介護保険事業計画で実施を見込んでいるのは全国で109市区町村にとどまっています。

Ⅱ−5 介護療養型医療施設(介護療養病床)は廃止されることになったのですか。

 2006年の医療制度改革で、当時の自公政権は、約12万床あった介護療養病床を2012年3月までに廃止することを決め、対象の病院には、交付金を支給するなどして、老人保健施設など介護施設への転換をすすめてきました。
 その後、2009年に「介護療養病床廃止の凍結」を掲げた民主党政権が誕生したものの、2011年の「改正」介護保険法では、転換期限を6年間延長し2018年3月末まで延長しました。民主党政権は、自公政権のすすめた「介護療養病床の廃止」方針を継承し、廃止の方針をとっています。今後、新規の介護療養病床の設置は認められません。

Ⅱ−6 特養の待機者が42万人いるそうですが、必要な時にすぐに入所できるのですか

図 2009年に公表された厚生労省の資料によると、特養待機者は約42万人と報告されています(図)。このうち、要介護4、5の重度で在宅で入所を待っている申込者が16%(6.7万人)を占めています。特養は絶対的に不足しており、在宅での家族介護が困難になっても、2〜3年の待機が常態化しています。
 今後の特養増床計画は、各自治体が作成している介護保険事業計画によると、入所希望者がすぐに入所可能なものとはなっていません。国は、今後いっそう「施設から在宅へ」の流れを推進させる方針であり、多くの国民が要望する施設の整備には消極的です。

U−7  「サービス付き高齢者住宅」とはどのようなものですか。低所得者でも入所できますか

 2011年10月に施行された「高齢者住まい法」改正による新しい高齢者賃貸住宅で、2012年7月現在、全国で、1,791施設、57,376戸が登録されています。
 基準には、(1)居室の床面積は25㎡以上(浴室・キッチン等が共用の場合は18㎡以上)、(2)キッチンや水洗トイレなどを設置、(3)バリアフリー構造、(4)常駐する介護の専門家による安否確認、生活相談サービスの提供、(5)長期入院などを理由に事業者から一方的に解約出来ない等居住の安定がはかられている、(6)入居者の支払いは、敷金、家賃、サービス対価のみで、権利金や更新料などはありません。

   ★参考(サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム
               http://www.satsuki-jutaku.jp/system.html

 この制度によって、これまでの「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)、「高齢者円滑入居賃貸住宅」(高円賃)などは廃止され、「サービス付き高齢者向け住宅」におおむね一本化されます。
 しかし、入所者負担が高額で厚生年金受給程度の収入がある方が対象(厚労省職員)と言われ、生活保護受給者をはじめ低所得者が利用するのは困難な施設となっています。また、家賃補助のある「高齢者向け優良賃貸住宅」(高優賃)が廃止されたため低所得者の住まいに関わる施策は後退しています。

図

Ⅱ−8 「介護予防・日常生活支援総合事業」では、今までのどおりの介護予防サービスを  利用できますか。今年度から実施する市町村はありますか

 介護予防・日常生活支援総合事業は、介護保険法「改正」で創設されたサービスです。 要支援者(介護認定で要支援1・2)・介護予防事業対象者(非該当で要介護状態になるおそれのある人)を対象となります。状態像に合わせて、見守り・配食等を含めた、生活を支えるためのサービスを総合的に実施する制度で、この事業の導入は市区町村ごとに判断がおこなわれます。
 この事業は、利用対象者の「状態像」や「本人の意向」に応じて、予防給付(介護保険給付)で対応するのか、介護予防・日常生活支援総合事業(地域支援事業)を利用するのかについて、市区町村・地域包括支援センターが、判断し決める仕組みとなっています。要支援2の認定の方であっても、これまで通りの介護サービスが継続できるとは限らず、介護予防・日常生活支援総合事業の利用が相当と判断される場合もあります。
 この新事業については、ほとんどの自治体が検討中のようです。

図

Uー9 たんの吸引などの医療行為を介護職員が実施することが法律上認められました。 今までとどのような違いがありますか。実施にあたってどのような問題がありますか。

 今回の「社会福祉士法及び介護福祉士法」の「改正」は、これまで特別養護老人ホーム、在宅のALS患者に限定していた介護職員等による「たんの吸引等」の医療行為を、「業務」として位置づけ、その実施対象を在宅や他の施設に拡大するものです。
 介護職員等の医療行為は、「たんの吸引その他の日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示の下に行われるもの」とされ、今回は「たんの吸引」(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と「経管栄養」が対象となっています。今後は法の「改正」を要せずに、省令によって対象となる行為を拡げることが可能となるため、介護職員等による医療行為に際限ない拡大に道を開くことになりました。「たんの吸引等」を実施出来るのは、介護福祉士(2015年4月1日以降、それ以前は一定の研修により可)と、一定の研修を修了した介護職員で、事業所は都道府県に実施登録機関の手続きが必要とされています。
 基本は、医療行為は専門的な訓練を受けた医療職が行うことが原則であり、国はそのための環境整備を行うべきです。介護職員等に「痰の吸引等」を委ねるのではなく、看護師の大幅な増員、介護・福祉現場での医療職の配置基準の改善、その配置を可能とする報酬の引き上げが必要です。
 しかし、一方では、介護職員が「たんの吸引等」に対応せざるを得ない実態や利用者・家族の切実な要求があることも現実です。介護職員による「たんの吸引等」は、必要な条件整備がおこなわれるまでの過渡的で「やむを得ない」限定的な措置として位置づけ、国は責任をもってその実施のための整備を行うことが必要です。対象となる行為をこれ以上拡大すべきでないことは言うまでもありません。
 当面、以下の点の改善が必要です。 
 第1に、気管カニューレ内の吸引などリスクの高い行為は除外するとともに、試行事業の検証に基づき、安全確保など必要な環境整備を国の責任で十分に行うこと。
 第2に、実施する介護職員への対応として、個々の介護職員の意思を尊重すること、研修受講の保障および研修中の経済的保障を行うこと、事故が発生した場合の実施者の保護制度を確立すること
 第3に、実施登録機関の安全管理上、人員配置基準の見直しを行うこと。
 さらに重大なのは、今回の法「改正」で一定範囲の医療行為を「介護」の定義に取り込んだ点です。「社会福祉士法及び介護福祉士法」で定められている「心身の状況に応じた介護」に、カッコ書きで(喀痰吸引その他のその者が日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示の下に行われるものを含む)と加えられました。これは、介護の本質の変更を意味するものであり、 「介護の定義」は元にもどすべきです。

U−10  「改正」された介護保険のもとで、新たなサービスや施設の整備などそれぞれの市町村で今後どのように進められていくのでしょうか

 市区町村は、国の基本指針に即して3年を1期とする介護保険事業計画を作成します。
 この計画には、介護給付と地域支援事業(※解説)で行われる給付等について、介護サービスごとに見込み量や確保の方策が盛り込まれ、整備が推進されます。この計画策定にあたり有識者や事業関係者、一般市民の参加による「策定委員会」を設置します。この事業計画に基づいて、自治体ごとの介護保険料が決定されます。
 2012年から3年間にわたる「第5期介護保険事業計画」の策定あたって、国は「地域包括ケアの実現」を目標にすえ、地域の高齢者の課題を具体的に把握し(日常生活圏域ニーズ調査)、介護保険事業の整備計画だけではなく、在宅医療や高齢者の住まいについても計画化するよう指針を示しています。
 以下の資料は、全国の第5期介護保険事業計画で見込まれたサービス量を厚生労働省が集計したものです。

図

※解説:地域支援事業
 地域包括支援センターのおこなう包括的支援事業や、要介護認定で非該当となった方、特定高齢者等を対象としたの介護予防事業等で、財源は介護保険財政から充当されますが十分な額ではありません。

 
全日本民医連
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