全日本民医連 歯科部
 民医連HOME 歯科部トップ 民医連歯科の活動 第18回 歯科学術運動交流集会

第18回歯科学術・運動交流集会 概要報告

2008年9月 歯科部・歯科学運交実行委員会

◇概要
 第18回歯科学術・運動交流集会が、2008年9月13日(土)〜14日(日)、横浜市開港記念会館をメイン会場として開催されました。30県連、75歯科施設、314名が参加し、演題数127と、どれも過去最高数でした。
 主管は関東甲信越地協が担い、神奈川民医連歯科職員を中心として現地実行委員会を構成しました。神奈川民医連歯科では若手職員がほとんどを占め、民医連や民医連歯科についての学習から始めなければならなかったことには困難がありましたが、1年半にわたり毎月実行委員会を開催し、特に当日は全歯科職員と県連職員の力により運営を行い、集会成功を収めることができました。集会運営を通じて、神奈川民医連としての結束力を高めることができました。実行委員会発足後、2007年度の「保険で良い歯科医療を」の運動、第38回定期総会を通じ、経済格差が拡大し、貧困問題が悪化する中、歯科の視点から人権や「命の平等」を考え、これまで気づいてきた地域の中での存在意義に目を向ける必要を感じ、テーマを「守ろう命〜地域の人々と共に未来へ〜」としました。また、「1施設1演題」の目標を掲げ、準備を進めました。
 歯科部企画では、第38回定期総会のテーマである “まっすぐな人権意識”を基軸に、経済的な理由で起こる健康破壊の事例を報告し、深刻化する貧困問題は、歯科医療現場からどのように見ることができるか、またそういった患者の受療権をどのように守れば良いのか、生活保護申請援助や無料・低額診療実施に関する相談活動の具体例を報告し、課題提起しました。さらに、“患者の社会的背景を含めてみる”ことについては、「その人にとってその時に本当に必要な処置は何か」、「受療権を守るためには通り一遍ではない対応が必要」という事例を具体的に示し、学術的な視点、制度的な視点だけでない“まっすぐな人権意識”を持った歯科医療の実践について提起しました。
 発表演題は「医療の安全性の追求・患者サービスの向上」、「歯科医療(QOLの向上をめざして)」、「経営改善・事業展開への挑戦」、「社保活動・地域、共同の取り組み」の4つのテーマで集め、7つの分科会を設けました。幅広いテーマで演題が集まり、また歯科の無い県連での歯科医療・保健活動の演題、言語聴覚士や介護福祉士といった他職種からの演題もありました。
 記念講演では、尚絅学院大学女子短期大学部保育科の岩倉政城教授に今回のテーマで講演していただきました。歯科医療費の抑制政策や、年金生活の高齢者などの経済的な理由で歯科にかかれない状況等を指摘し、変革の必要性を話されました。また、口臭の悩みを持つ患者同士で同じ机について話をする方が、歯科医師や歯科衛生士による相談・指導よりも効果があったこと、歯みがき指導も患者自らがすることによってその重要性や技術が理解されることなどを紹介し、“患者の立場にたつ”という医療のあり方をわかりやすく、具体的に話されました。いかに地域に出て、患者中心で医療・保健活動をすすめることが重要かを学びました。さらに歯科は精神・心理学的に有用な機能を持ち得るため、歯科医療が様々な人の精神的支え、“人生の伴走者”となることができるという、今後の展望を熱く語っていただきました。

◆ 開催日時 :2008年9月13日(土)12:00〜14日(日)12:15
◆ メイン会場:横浜市開港記念会館
◆ サブ会場 :産業貿易センタービル8階
◆ 交流会会場:ローズホテル横浜
◆ 参加者数:314名(30県連、75歯科施設。内2県連3名は歯科の無い県連から)

職種

参加数

前回

歯科医師

108

86

歯科技工士

33

28

歯科衛生士

126

123

事務

41

44

その他

6

4

合計

314

285

*その他:ST、介護福祉士、医療生協理事、不明

地協

参加数

北海道・東北

23

北関東甲信越

51

神奈川

28

南関東・茨城

124

東海・北陸

13

近畿

29

中国・四国

30

九州・沖縄

11

全日本民医連

5

合計

314

◆ 演題数:127演題(28県連。75施設。内1県連2演題、2施設2演題は歯科の無い県連・法人から)

職種

演題数

前回

歯科医師

48

33

歯科技工士

11

7

歯科衛生士

47

49

事務

16

5

その他

5

1

合計

127

95


演題テーマ

演題数

前回

T「医療の安全性の追求・患者サービスの向上」

10

13

U「歯科医療(QOLの向上をめざして)」

65

49

V「経営改善・事業展開への挑戦」

24

17

W「社保活動・地域、共同の取り組み」

28

16

合計

127

95

 参加者数は過去最高の314名となりました。2007年度経営実態調査によると歯科の常勤換算合計数は1488人なので、約2割、歯科職員の5人に1人が参加したことになります。歯科独自の集会ならではの高参加率です。
 今回は歯科の無い青森民医連や新潟民医連から、また歯科の無い神奈川の法人からも参加があり、民医連歯科の活動を広く交流できました。
 演題数も過去最高の127となりました。
 実行委員会では“1施設1演題”を目標として準備をすすめ、歯科施設111施設中7割弱の施設からの演題発表になりました。
 3年ぶりの開催であったこと、首都圏である横浜での開催であったこと、特に前回開催地の大阪民医連から目標を大きく上回る参加・演題申込があったこと、職員規模の大きな関甲信地協各県連から多くの参加や協力があったことなどが、今回過去最高の参加者数、演題数となった要因と考えられます。

◆ プログラム

<13日>

12:00

開会挨拶

  • 中村守 歯科学運交実行委員長
  • 堀内静夫 神奈川県民医連会長

12:15

歯科部長挨拶・基調報告  江原雅博 歯科部長

12:35

歯科部企画

 

  • 経済格差と口腔健康破壊について(東京、岩下明夫)
  • 歯科における相談活動(京都、前野弘)
  • 無料・低額診療の実践(福岡、平良幸秀)
  • “患者をみる”とは(岡山、小崎哲)

13:45

----会場移動----

14:05

分科会(開港記念会館)

14:15

分科会(産業貿易センタービル)

18:00

----分科会終了・移動----

19:00

夕食交流会

21:00

職種別交流会・終了

<14日>

9:20

記念講演 「守ろう命〜地域の人々と共に未来へ〜」
尚絅学院大学女子短期大学部保育科
岩倉政城 教授

11:40

指定演題報告

  • 「当院における感染対策〜ICTに参加して〜」(汐田総合病院歯科 竹内友香)
  • 「症例検討を通して気づかされたこと」(玉島歯科 陶山ひとみ)
  • 「知的障害のある生活保護患者の総義歯製作に関わる事例」(相互歯科 田口綾子)
  • 「全職員が主体的に参加する、法人、院所運営についての経験」(ふしこ歯科 遠藤高弘)

● 歯学生のつどいの報告(歯学生のつどい実行委員長 本吉敦)

12:10

閉会挨拶  安藤大 副実行委員長

12:15

閉会

 


◆ 各企画要旨

開会挨拶  第18回歯科学術・運動交流集会 実行委員長 中村守

 社会保障費抑制政策、後期高齢者医療制度の施行、貧困問題の深刻化などにより、医療崩壊のしわ寄せが高齢者や低所得者に向かい、十分な医療が受けられない、医療を受けられない人が増加しています。この状況を打開するためにどのように取り組んでいけば良いのか、受療権を守るためにはどのような取り組みが必要かなどを、皆さんと考えていきたいという思いから、テーマを「守ろう命〜地域の人々と共に未来へ〜」としました。このテーマの下、参加者のみなさんが一つでも多くのことを持ち帰れるよう期待して開会の挨拶とします。


歓迎の挨拶  神奈川県民医連 会長 堀内静夫

 全日本民医連第1回評議員会で「歯科再生プラン」が提起されました。患者負担の増加によって受診が抑制され、政府の歯科医療抑制政策が医療機関の人材難・経営難を招き、歯科医療が崩壊の危機にある事が指摘されています。その上に立って、歯科医療政策の根本的な転換が提案されています。みなさんの議論でこのプランを発展させてください。来るべき総選挙を、日本の医療と福祉を変えてゆく力にしましょう。川崎医療生協の再建では、全国の仲間からさしのべられたご支援と励ましに心から感謝いたします。歯科医療の明るい展望を目指して努力されている皆様に敬意を表し、交流集会の成功をお祈りします。


歯科部長挨拶・基調報告  全日本民医連歯科部 部長 江原雅博

 歯科学運交も18回を迎えました。今回のテーマは「守ろう命」です。集会の準備をしていただいた皆さん、ありがとうございます。
 「再生」というテーマで開催された前回の大阪集会から3年あまりが過ぎましたが、3年間に多くのことがありました。貧困問題が深刻化する一方で、自公政権は小泉・安倍・福田と次々に頭のすげ替えを行い、政治には全く無責任な態度をとっています。
 私たちの運動は、ナースウェーブ・ドクターウェーブ・介護ウェーブの運動をつくり出しました。
 歯科分野では、2006年度診療報酬改定で歯周病メンテナンスが制限されました。これに対し民医連歯科では3ヶ月あまりで3万筆を集め、厚労省交渉を行いました。これを皮切りに「保険で良い歯科医療を」の運動が広がり、昨年10月の「歯は命」集会の成功、27万筆署名と全国の300もの自治体の決議をかちとりました。
 現在、民医連歯科は「経営問題」という大きな課題を残しています。新患数・延べ患者数の減少と経常赤字が拡大しています。今年度第1四半期の傾向でも、事業所による赤字・黒字の固定化がみられます。「良い医療をしているのだから仕方がない」、「赤字でもやってこれた」、「法人が何もしてくれない」など、歴史のあるところほど、こういったしがらみからの脱却ができていないようです。
 今、大きく舵をきるため、県連・地協・歯科部をあげて、経営改善に取り組まなくてはいけません。
 今期、歯科部は次の三つの大きな提案をしています。
(1) 全ての法人・事業所で経営計画を立て、待ったなしで黒字体質づくりをめざすこと、
(2) 「保険でよい医療を求める」運動の発展強化、現状の告発と対策の実践。
(3) 民医連歯科の人づくり・職員育成です。
 歯科の再生プランが発表されました。職員がしっかり学び、民医連の歯科政策を歯科医師会など関連団体、共同組織や民主団体に広げていきましょう。
 民医連歯科の発展の原動力は、(1)無差別平等の、人権としての歯科医療、(2)医科・介護との連携と地域での総合的な医療、(3)地域での健康づくりの活動、共同組織とともに歩む活動、です。
 今集会の、各演題発表の中に、宝があります。全国の仲間と交流し成果を学びあい、この二日間を有意義なものにして下さい。


歯科部企画

 はじめの挨拶 企画担当(進行役) 歯科部副部長 小崎哲
 今回の歯科学運交のテーマでもある「命を守る」ということ、また第38回定期総会のテーマにもあった“まっすぐな人権意識”とは、受療権を守るとはどういうことか、具体的な報告を基に皆さんと考えていきたいと思います。

1. 経済格差と口腔健康破壊について(東京、岩下明夫)
 小児の患者で特にう蝕の進行が顕著な症例を紹介し、また各症例からキーワードを拾って分析した結果を報告した。う蝕の進行が顕著な症例では、親の喫煙、経済事情有り、多兄弟のキーワードが多くかかりました。また、口腔の健康破壊の顕著な青年の症例も示し、社会的背景として、不規則な生活(食事・睡眠など)、長時間労働、不安定労働、家庭事情、経済不安などをあげました。
 こういった歯科にかかれない実態に対してどう取り組むかという視点での、ネットカフェ調査、駅前でのシール投票などの取り組みを紹介しました。
 最後に、仕事に就けないことや医療にかかれないことは決して自己責任ではないということについて、現在の社会保障制度の考察を基に述べました。

2. 歯科における相談活動(京都、前野弘)
 あすかい診療所歯科は貧困層の多い地域に4年前に建ち、黒字を続ける中で、お金が無くても歯科にかかれるように、患者の受療権を守ってきました。院所の通信を地域に配布し、気軽に相談できる院所であることを知らせています。生活保護申請において、役所保護課での面接まで同行したケース、法人の無料・低額診療制度を活用したケースなどの実践例を報告しました。
 また、こういった実践の中で、申請書すら渡さない、また誤った役所の運用方法によって、生活保護がかなり受けにくいものであることを、具体的に収入などを示し説明しました。

3. 無料・低額診療の実践(福岡、平良幸秀)
 福岡医療団で実践している無料・低額診療事業について、対象者、面談内容、証人方法、期間などについて具体的に説明しました。また、実践例を報告しました。
 無料・低額診療の実践を通し、受療権を守る取り組みとしての役割を果たしていると実感していること、患者の社会的背景から口腔状態をみるという、いわゆる“目と構え”をもった職員を育成する一つの場となっていることを成果としてあげました。一方で、症例検討などの学習、医科との連携強化、共同組織との取り組み強化などを課題としてあげました。

4. “患者をみる”とは(岡山、小崎哲)
 最後に進行役の小崎副部長より、水島歯科での症例を報告しながら、貧困問題が深刻化し、医療を受けられない人が増えるといった状況の中でどのような診療をしたら良いか提案しました。
 治療計画にも注意を払わなければならず、問診は重要で、社会的背景まで把握できるのが良く、カルテに書かれていれば治療計画にも役立つ。例えば入れ歯を入れたくないという要求、仕事が毎日いつ終わるかわからない(自分で決められない)ため予約をとることができないという状況を把握する。
 また、個々の治療(計画立案)に置いても配慮が重要ということを、症例を基に解説しました。例えばお金の無い人、仕事の都合で長く・多くは通院できない人などは、“一般的な治療”ではどうしても中断しがちなため、学術的には抜歯した方が良いケースでも抜かずに置き、先ずは一通りの主訴解消につとめることや、どの患者も初診時にはパントモをとるといった、通り一遍の診療の流れに乗せるのではない、患者要求や社会的背景を把握した上での細かな対応するといったことも、患者の受療権を守り、健康を守る上では重要であることを話しました。


分科会               

第(1)分科会
 「医療の安全性の追求・患者サービスの向上」、「歯科医療(QOLの向上をめざして)」
座長・報告者:松澤広高、宮本春奈
 院内のICTへの参加や療養型病院での誤嚥防止の取り組み、患者アンケートから業務改善、総合的な歯周病の症例、高度な自費治療への取り組み、中断の分析・C型肝炎など全身疾患・病院栄養科職員の口腔崩壊事例・小児重症ウ食の世代間連鎖など国民的な歯科医療崩壊状況や、歯科的健康格差を視座にした事例など幅広い演題内容でした。
 小児重症う蝕については、数量的方法による研究を期待する声があがりました。全国的な告発運動とあわせ、教育・保育・小児医療全般と連携して、そういった研究がなされればいいのではないかと思います。

第(2)分科会
「医療の安全性の追求・患者サービスの向上」、「経営改善・事業展開への挑戦」、
「社保活動・地域、共同の取り組み」
座長・報告者:古市明弘、道田剛
  医療安全に関するものから平和の取り組みまで幅広い演題内容でした。共同組織の方の発表もあり、内容の幅が広がりました。民医連の医療以外の活動に目を向けた内容が多く、地域訪問、患者会など工夫された取り組みが報告されました。平和を守る取り組みに関しては、写真が良く、臨場感がありました。経営分析ツールを発案する発表もありました。全国の歯科でも活用してみると良いのでは無いでしょうか。

第(3)分科会
「歯科医療(QOLの向上をめざして)」
座長・報告者:吉田心一、磯野大輔
 医科歯科連携、チーム医療に関する発表が多くありました。要介護者や障害者といった、自分で意志をつげたり、通院できない人に対して、どうやってアプローチしていくとか、主訴を引き出す取り組みについて報告がありました。その時にどこまで家庭や日常生活にふみ残るかといったことが、これからの課題になるかと思われます。

第(4)分科会
「歯科医療(QOLの向上をめざして)」
座長・報告者:青柳正人、堀口十麻子
 精神疾患者、障害者に対する歯科治療・口腔ケアについての演題が多く、医科歯科連携や栄養管理など、歯科領域を超えた取り組みを行っている院所が増えていることを実感しました。PLP(軟口蓋挙上装置)を用いたリハビリ、歯科衛生士の摂食嚥下機能療法への介入なども特徴的な報告でした。今後も患者さんとの信頼関係を重視した、思いやりのあるものへと発展していくことを印象づけられる分科会となりました。

第(5)分科会
「歯科医療(QOLの向上をめざして)」
座長・報告者:安藤大、藤村祥子
 歯科医師の演題が大半で、臨床的で学術性の高い分科会となりました。特にインプラントの診断や症例報告が多く、全日本民医連に学術交流を求める声が上がりました。その他歯周病メンテナンス、補綴に関する報告などもありました。

第(6)分科会
「経営改善・事業展開への挑戦」
座長・報告者:中村守、馬場仁
 臨床研修の取り組み、各職種の研修の取り組み、医局会議、次世代の担い手の育成などに関する発表と、院所運営に関するもので、歯科解説の歩み、患者増への取り組み、未収金問題に関する発表があった。人材育成の面でも院所運営の面でも、職員間で問題を共有し、問題に主体的に取り組む姿勢を学べた。

第(7)分科会
「社保活動・地域、共同の取り組み」
座長・報告者:萱間暁彦、薄井祐子
 憲法を守る取り組み、健康格差の問題の取り組み、「保険で良い歯科医療を」の運動、地域保健活動の4つのテーマに大きくは分かれた分科会でした。質疑討論では、参加者の自施設でも取り入れたいという意志の表われた詳しい質問内容が目立ちました。


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交流会              

 交流会では、前回の歯科学運交以降に新設した生協下関歯科(山口)とくわみず病院歯科(熊本)から、またこの9月からリニューアル移転した生協歯科(兵庫)から開設の挨拶がありました。実行委員会が発案した“ランダムな配席”と“民医連歯科ビンゴ(ゲーム)”といった工夫により、参加者同士で幅広く、深い交流が持てました。


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記念講演  尚絅学院大学女子短期大学部保育科 岩倉政城 教授               

<選別の歯科医療>
 医科診療代と比べて、歯科診療代は所得による格差が顕著です。最も高い層と、最も低い層とでは、医科診療代は1.59倍の差ですが、歯科は5.71倍もの差があります。高齢者の受診抑制も顕著に表われています。年金生活で経済的事情がある、窓口負担が高い、自由診療をすすめられる、身体的理由で通院が困難、などがその理由です。お金のない人が歯科にかかれない状況となっています。
 診療科別医師一人当たりの収入をみると、歯科は麻酔科、放射線科に次ぐワースト3となっています。麻酔科や放射線科は他科のサポート役であり、歯科のような診療科がここまで不安定・低収入に追いやられるのは不当な低診療報酬のためです。こういった状況が、歯科医院で患者が自費ばかりをすすめられる状況を生み、低所得者の歯科受診抑制につながっているとも言えます。
 診療室の外には歯科にかかれない患者がいます。そういった場に思い切って出、本当に国民の望む歯科医療を探ることが求められています。
<地域活動は診療と共に民医連歯科の両輪の輪>
 開設準備の際は地域住民と本当に一緒になってやってきた歯科でも、開設したとたん利用者(患者)と医療者という区分けができてしまいがちです。愛知の北生協歯科の発表にあったような、住民が意見・苦情箱の鍵を開け点検するという取り組み、会議への参加、集会での発表などで、歯科の土俵を専門家で密室化しないこと、絶えず大衆から点検を受けることが重要です。
 「歯みがきをきちんとしましょう」「甘い物は控えましょう」などの指導は、時として患者に伝わり難いことがあります。う蝕の進んだある子どもの家庭に行きました。寝たきりで丸一日人と会わない高齢者が、孫と過ごすのを唯一の楽しみに、孫に菓子を渡すようでした。歯科医師としてそれを控えるように“指導”することが、本当に正しい歯科医療なのかと考えさせられることがありました。現場に行って学ぶということが大事です。農家の人には「田畑を扱うように」と優しく歯茎にブラシをあてるよう話した方が伝わることがあるでしょうし、他人に歯みがきをすることによって理解が深まり技術が身に付くことがあるでしょう。
 歯科の疾患は目で見える分かり易さがあり、罹患率も高く、深刻でもないため、住民同士で話しをすることができます。歯みがきは専門家の助言やちょっとした補助さえあれば万人に可能な技術ですので、住民が教え合う関係を地域に作ることもでき、住民相互の声の掛け合いで健康な口を維持して貰うネットワークを支援することが望まれます。
 本当は無い口臭に悩む人同士が同じ机について話しをすることで、歯科医師・歯科衛生士の管理・指導や、精神科の医師がカウンセリングよりも改善効果が見られることがあります。本当は口臭が無いことや、歯みがきの方法を教えることが一番出来るのは患者かもしれないのです。医療従事者は患者のそういった潜在能力を引き出す役割を持つのです。
 医療では患者と医療者との間に圧倒的な情報差が生じてしまいます。その差を埋めるには、相手を知ること、相手の立場に立つこと、それには医療者から地域に出ることが重要なのです。
<診療者間の民主主義>
 歯科界は保健活動の担い手であった歯科衛生士を法改正で歯科医の「介補」に押し下げ、それでも高給過ぎると、歯科助手制度を作るなどと翻弄してきた歴史を持ちます。歯科技工士に対しても歯科技工士法の成立を阻止して技工法に改変し、多くの制限を課してきました。その上、技工料についても厚生省通達の7:3比率を無視したダンピング、海外発注などで不安定な職種としてきました。歯科経営の圧迫が起こると人件費による調節を技工士・衛生士の解雇で切り抜けることも行われてきました。
 歯科技工士は診療室内外で活躍の場があり、その活躍を望まれています。歯科衛生士は地域保健活動の最も強力な担い手です。
<人生の伴走者としての歯科医療の可能性>
 歯科疾患の罹患率の極端な高さ、受診に際して社会的抵抗が比較的少ないこと、受診期間が長いこと、治療効果が実感し易い、診療ポジションが近接していることなどから、歯科は他の診療科と比べコミュニケーションがとり易く、ある時ほっとした空間が生まれることがあります(精神・心理学的特性)。歯科医療者は人生の伴走者になり得る、すごく大きな可能性を持っているのではないでしょうか。


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指定報告               

 分科会で発表された演題の中から4演題を選び、全体会で再演していただきました。

「当院における感染対策〜ICTに参加して〜」(汐田総合病院歯科 竹内友香)
 2007年度より、ICT(Infection Control Team):感染対策チームに歯科が参加してきた取り組みを紹介しました。具体的な活動内容、ラウンド結果を示しました。ICTに参加し、歯科独自の感染対策から病院基準の対策となったこと、違う視点でのチェックが入ることで新たな問題点が発見でき改善することができたことをまとめとしました。
 今後の民医連歯科の役割について考える上で参考になるのではないでしょうか。

「症例検討を通して気づかされたこと」(玉島歯科 陶山ひとみ)
 歯科技工士として、症例検討に毎回参加するようになって、上司の指導を受け、ただ模型を見たり、機能的に問題ない、見栄えの良い技工物を作ったりするだけではなく、治療前の口腔状態、患者の生活背景、主訴を意識することができました。また、患者と診療部のことを念頭において、より気持ちを込めて製作でき、最終工程を任せられる責任感を持てるようになりました。ベテラン技工士の患者や模型に対する意識の持ち方を学ぶことが出来ました。セット後、患者と話しをすることができ、笑顔をもらい、喜びを共有できたように思えました。

「知的障害のある生活保護患者の総義歯製作に関わる事例」(相互歯科 田口綾子)
 知的障害を持ち、身寄りが無く、独居で生活保護受給中の患者の症例を報告しました。10年以上通院移送費の存在を知らされず、通院困難にもなっていた患者で、ようやく2008年3月から支給が開始されました。障害を持つ患者に対する社会保障の壁を感じました。セットした義歯を上手く使えていない状況を知り、障害について把握できていなかった自身と患者の間の壁を実感しました。状況を把握し改善させるために、患者宅を訪問し、生活背景を知りました。また、義歯の使い方をイラストにして説明しました。練習・説明を通じ、義歯の使い方にも慣れ、食事もスムーズにできるようになり、食事の内容も広がりました。ところが2008年4月から通院移送費支給が原則廃止となりました。改めてできた社会保障の壁と、こういった障害をもつ人への医療制度の壁を感じました。

「全職員が主体的に参加する、法人、院所運営についての経験」(ふしこ歯科 遠藤高弘)
 組織の運営と発展のための取り組みを書き表すと、どこでも既に取り組まれているようなことになりますが、これらを年単位で続けることが重要です。何度も挫折を味わいました。歯科医集団の主体性を引き出すために、深夜までの会議を持つこともありました。悪役に立ち、賃金改定に対する批判も受けました。事務幹部と一緒に、文字通り命を削る思いで続けてきました。その結果、歯科医師が経営に主体的に関わるようになり、職員集団もまとまってきました。職員数も増えましたし、長年の赤字体質から、現在は3年連続の黒字を生み出す法人とすることができました。法人化は三つの転換を自発的に進める契機とはなりましたが、決して目標とするべきものではないと思います。何のための法人化なのかを明確にしなければなりません。経営への主体的参加、経営的な自立、民医連運動の理解と発展がなければ事業は継続しません。具体的な日、月、年単位の計画や、経営改善の方策を管理部がしっかり示さなければ現場の職員は大変です。統一経営の問題点は「誰の責任か」となることです。赤字でも運営できるという錯覚に陥ります。民主性や主体者意識は常に努力しなければどんどん低下していきます。本当の力はこれから試されるものと自覚していますし、法人幹部は常にそれを意識し、努力を怠ってはいけないと思います。これからも常に大地を歩んでゆくパイオニア精神を忘れずに行きたいと思います。


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特別報告               

 歯学生のつどい実行委員会より、この3年間の歯学生のつどいの取り組みが報告されました。実行委員がやりがいを感じて運営に携わっていること、参加者からとても良い感想をもらえていること、一方で参加者数が減ってきていること、実行委員の学年構成に偏りがあり継続困難となる将来が危惧


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閉会の挨拶 安藤大副実行委員長               

 初めはあまり実感が無いまま引き受けた実行委員会でした。若手職員でほぼ全てを占める職員集団で、民医連とは何かというところから始まり大変でしたが、実行委員会を通じ、徐々に集団としてのまとまりを感じとれるようになり、集会本番を含めとても多くのことを学ぶことができました。とてもやりがいのある実行委員会でした。


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参加者の感想               

<記念講演について>

  • 歯科医療従事者が歯科医療に誇りを持てる大変重要で良い講演でした。(北海道、歯科医師)
  • 人の心に近づき、目線を合わせることで見えてくることが沢山あると改めて考えさせられました。(宮城、歯科衛生士)
  • 岩倉ワールドに引き込まれ、地域に出て行くことの大切さを再認識させられました。人生の伴走者であることにとても責任を重く感じますが、少しでも患者さんのために自分なりに出来ることを、患者さんとともに作り上げて行けたらと思います。(宮城、歯科衛生士)
  • 私たちの言っている「地域へでよう」という意味と違っていました。友の会班会や、歯みがき会など開いてみたいと考えさせられました。もっと開放的な院所にしていきたいと思いました。(長野、事務)
  • 歯ブラシ1本で地域に出られる力をつけないと!と思いました。本来私たちが目指さなければならない医療が再認識できました。(東京、歯科衛生士)
  • 診療室にいたら患者さんとの壁や距離のようなものができて、「指導」という言葉が離れなくなっているんだという事に気づきました。(兵庫、歯科衛生士)
  • もう少し時間があればと思いました。お役に立てた話が出来たか心配です。こんな機会を作って頂き感謝しています。(大学教員)

<歯科部企画について>

  • 自院にも同じ様な患者が来院することがあります。中断してしまう方がほとんどで、対応に不安がありました。もっと患者さんの生活について理解を深められるよう努力していきたいと感じました。(群馬、歯科衛生士)
  • 賃金が低い青年、不規則な生活を送る青年の症例を見て、仕事に就けないのは本当に自己責任だけの問題なのだろうかと考えさせられました。“患者をみる”ことについては、歯科衛生の問診の必要性をとても感じました。(群馬、歯科衛生士)
  • “患者をみる”の講義が印象的でした。それぞれの患者さんの立場に立って治療することの大切さを学びました。(山梨、歯科衛生士)
  • 格差社会で治療にかかれない若者をどうしたら良いのか考えさせられました。そのような人たちはいつ治療にかかればいいのか疑問です。(東京、歯科衛生士)
  • ワーキングプア、貧困といった社会問題は、個人の力ではどうしようものないことなので、民医連全体で運動や選挙を通して、よりよい社会を目指す必要を感じました。(徳島、歯科医師)
  • 視野がどんどんせまくなっていく自分に強烈に気が付かされました。“人は健康のために生きている訳ではない”との言葉を忘れずに日々楽しんで働きたいと思います。(大分、歯科医師)
  • 単なる口の中の観察のみでは、真に治療することにはなっていない。背景に対する「目と構え」を持って行こうと思う。(熊本、歯科医師)

<分科会について>

  • 技術的なことだけでない、医療サービスの向上のための様々な発表を聴くことができ、民医連同士の活躍を知ることができ、非常に良かった。(群馬、歯科医師)
  • 諸活動を通して患者増をかちとったりしている。署名にしても形式的にとるのではなく、外に出て院所のPRをする、口の話しもする、結果的に元気が出るという内容でとても参考になった。(山梨、歯科衛生士)
  • たくさんの演題のなかで、“集団”で歯科医療や活動を行うことでの“強み”のようなものを感じた。演題発表では緊張もしたが、演題とまとめることで日々の診療の振り返りができたり、新しい課題もうまれ、とてもいい機会になった。これからも継続したい。(東京、歯科衛生士)
  • “全国でこんなに努力し、学習し合っているんだ”と、(おそらく)民医連ならではのすばらしさ、それを発表し交流し合う場があること、本当にいいと思います。(愛知、法人理事)
  • 住民、患者の目線で自声の活動を点検する視点がすばらしい。事故を人前で発表してさらすことが自己、医療変革の一歩です。(大学教員)

<その他>

  • まずは多くの演題を良く集めましたね。取り組みも大変だったでしょうが、民医連歯科が本当に成熟してきた証です。おめでとうございます。(大学教員)
  • 経営問題、技工士職員からの話など、本当に困難な課題を真正面から取り上げていく菅田に感動しました。(大学教員)

  

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