民医連新聞

2005年2月21日

安全安心の医療を求めて(33) 福井・老健施設あじさい

リハ室が車いすの座位姿勢に着目
拘束帯ゼロ、じょく瘡発生ゼロに

 今回は、高齢者施設でとりくむ安全対策について。福井・老健施設「あじさい」では、転倒・転落防止に車いすの座 位姿勢保持に注目しました。座位保持クッションやオーダーメイドの車いすを導入し、拘束帯ゼロ、じょく瘡発生ゼロという成果があがりました。作業療法士の 上坂歩さんの報告です。

座位姿勢が悪いとじょく瘡が

 車いすを使用している高齢者の多くが施設備品のスリングシートの「標準型」車いすを使っています。この車いすは 「すべり座り」や「斜め座り」といった姿勢の崩れを起こすことが少なくありません。そのため、私たちの施設でも、転落防止にやむをえず身体拘束を行った り、座位姿勢の悪さから、じょく瘡を発生させるなど、多くの問題を抱えていました。

 そんな時、県の老健大会で他の施設が安価で簡単に作成できる「座位保持クッション」について報告があり、私たちも試してみることにしました。

 クッションの素材は「ブレスエアー」です。車いす乗車時の姿勢に問題のある利用者約一〇人に、個々の身体機能や座位バランス、座位時間などを評価して、一人一人にあわせて手づくりします。

 その結果、離床時間と座位保持時間、座位姿勢が向上しました(写真)。これに伴い、車いすからずり落ちる転落事 故が減少しました。姿勢が良くなったことで、ADL(特に食事場面で上肢が動かしやすくなった)も向上。長時間の座位による痛みや蒸れ感も減り、座位時の 快適さがアップしました。圧迫による発赤も軽減しました。

 「寝たきり・胃ろう」の状態だった方が、「車いす自走、胃ろうは継続しつつ、軟食が経口摂取できる」という状態にまで改善したケースもありました。

手作りクッションにも限界あり
オーダーメイド車いすを製作

 しかし、こういった「標準型」車いすにクッション等を使用した簡易な工夫には、限界もありました。座位能力が低 いため、リクライニング型の車いすを主に使っている方の場合、対応できないこともあります。そこで次に検討したのは、オーダーメイドの車いすの製作です。 今年度上半期は一〇人の方の車いすを作りました。

 気になるのは製作費用の問題でしたが、厚生年金手帳の整形外科療養事業と、身障手帳(一~二級)の補装具の支給 制度を使い、ほとんどの利用者に負担をかけることなく作りました。身障手帳での申請は、介護保険施行後、介護保険が優先されるため、難しくなり、申請して も受理されなかったものを、「座位保持装置」として再申請してなんとか受理され、製作にこぎつけました。また、厚生年金手帳の制度が突然打ち切りになり※ ました。本当に残念です。

* *

 車いすでやむなく身体拘束を行っていたほとんどの方は、標準型や一般のリクライニング式の車いすを使っていまし た。それが座位能力に応じて、座位保持クッションを使ったり、オーダーメイドの車いすに変えると、確実に姿勢が改善し、Y字型の拘束帯がいらなくなりまし た。また、じょく瘡の発生率は低下、もともとじょく瘡があった方は軽くなりました。

 「車いすの座面からずり落ちるから『抑制』、『滑り止めシート』を」と、安易に考えるのではなく、「なぜこの方 が座っていられないのか」を、個々の利用者さんについて検討することが大切でした。シーティングの知識と技術は「身体拘束ゼロ」や「じょく瘡予防」「自立 支援」に不可欠です。

(民医連新聞 第1350号 2005年2月21日)

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