民医連新聞

2005年4月4日

“失敗”のメカニズム学んで医療事故を防ごう 医療安全集会イニシアチブセッション講演

芳賀 繁 立教大教授

 医療安全集会・イブニングセッションは、立教大学文学部心理学科の芳賀繁教授の講演でした。鉄道の安全に 関わる仕事を経て、現職に就いた同氏は、人間工学の視点から、ヒューマンエラーとは何か、またその発生のメカニズム、事故防止について、参加者にユニーク な「テスト」も課しながら語りました。タイトルは「ヒューマンエラーと医療事故防止」。

 芳賀教授はまず、「ヒューマンエラーとは何か」についてのべました。その特徴は、意図して行うものではないこと、ヒューマンエラーは期待されるパフォー マンス(システム設計者、管理者、ユーザー、顧客、患者、社会)との関係で定義されること、やればできる能力があった(できない人にやらせた場合、やらせ た人のエラー)の三点をあげました。そして、エラーが「確認ミス=ミステイク」「動作のミス=アクションスリップ」「記憶のミス=ラプス」の三種類に分け られると示しました。

3種類のエラー

確認ミス(ミステイク)
動作の意図が既に間違っていた
認知、判断の段階で起きるエラー
(錯覚、勘違い、誤判断)
動作のミス(アクション・スリップ)
動作の実行段階で起きるエラー
動作の意図は正しかった
記憶のミス(ラプス)
動作の意図を忘れてしまった
いったん記憶された情報が取り出せなくなった

 動作・記憶のうっかりミス発生のメカニズムを、受講者にも体験させながら解説。「注意」には限界があること、またそれは、広く配分すれば浅くなり、強く集中すると狭くなる、注意と不注意の関係は表裏一体です、と説明しました。
  下の図は、受講者に見せられた交通標識です。「どちらが正しいか、覚えていますか?」と教授。会場は軽くどよめきました。「記憶」の特性は、注意を向け られないものは残らない、イメージは意味づけを行うと長く記憶に残る、強い情動が伴うほど長く記憶に残る、長期記憶に固定された知識は、消失しないが検索 できなくなる、というものです。

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違反には厳しくエラーには寛容に

 「エラーが起きやすい環境や外部条件を減らすこと」が、ヒューマンエラー事故の対策の柱としてあがりました。リスクを評価してエラーを防止するデザイン をとり入れたり、機器を人間工学的に改良すること、薬の名称や外観を識別しやすくすることなどがそれにあたります。人間の情報処理の信頼性を高める方策と して、日常生活の節制や仕事へのモチベーション、自分がおかしやすいエラータイプを知り、工夫することが紹介されました。記憶のミスには、メモをとるこ と、動作ミスには指差し呼称をすることで、防止効果があります。
 また、教授が強調したのは、意図的違反・不安全行動(リスクテイキング=RT)を減らすことです。「違反」はエラー確率を増やし、事故に結びつく可能性 を高め、事故被害を大きくします。エラー対策を無にする、と指摘。しかし、意図的行動なので、発生確率が下げられてもゼロにはできないエラーとは違い、コ ントロールしやすいものだと述べました。
 そして、違反発生の要因にもふれ、作業マニュアル違反対策として(1)違反へのリスクマネジメント、(2)ルールへの理解と納得性を高める教育・活動、 (3)無駄なルール、手間がかかりすぎる手順の撤廃、(4)決めたルールはみんなで守る組織風土(=安全文化)をあげました。
 結びに、違反には厳しく、エラーには寛容に」と呼びかけた芳賀教授は、「安全と効率は二者択一ではない、安全かつ効率的に医療サービスを提供することがプロの仕事です」と受講者を励ましました。

意図的違反の要因

1.ルールを理解していない
なぜそうしなければならないか、なぜそうしてはいけないかを分かっていない
2.ルールに納得していない
理屈は分かっていても心から賛同しているわけではない
3.みんなも守っていない
4.違反のリスクが小さい
守らなくても注意を受けたり、罰せられたりしない
5.違反するメリットが大きい

(民医連新聞 第1353号 2005年4月4日)

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