健康の豆知識

2009年7月1日

(得)けんこう教室/聞いたことありますか?/ぶどう膜炎

山城博子 東京・代々木病院眼科

 眼の病気と聞いて、まず思い浮かぶのは白内障や緑内障だと思います。「ぶどう膜炎なんて聞いたこともない」という方も多いことでしょう。

ぶどう膜炎とは?

kenkou_2009_07_01  そもそもぶどう膜は、眼のどの部分でしょう。ぶどう膜とは、(1)瞳孔をつくる虹彩(カメラでいう“しぼり”)、(2)水晶体を調節しピントあわせをする 毛様体、(3)血管が豊富で栄養を運ぶ役目をする脈絡膜の、三つの膜から成り立っています(図1)。メラニン色素が豊富で、ぶどうの色に似ていることから この名がついています。これらの膜におきる炎症がぶどう膜炎です。

 この病気の約半数は、ベーチェット病、サルコイドーシス、原田病が原因の“三大ぶどう膜炎”と呼ばれるものです(後でふれます)。

 三大ぶどう膜炎は、誰にでもおこるわけではありません。体には自分の体を守るはたらき(免 疫)がありますが、三大ぶどう膜炎は、いずれも免疫の異常によって発症するといわれているからです。免疫系の異常がなぜおこるのか、はっきりしたことはわ かっていません。職業も無関係です。

 このほか、膠原(こうげん)病、皮膚疾患、関節疾患、糖尿病、感染症、外傷、悪性腫瘍など が、ぶどう膜炎の原因となる場合があります。感染症や外傷などは、性別、遺伝などと関係がないため、誰でもおこる可能性があります。飼っている動物や、生 肉を食べる習慣、性的交渉などが原因となって感染症をおこし、ぶどう膜炎になる場合もあります。

症状や原因はさまざま

kenkou_2009_07_02  おもな症状には、視力の低下、蚊が飛んでいるように見える飛蚊(ひぶん)症、眼の痛み、充血、まぶしさなどがありますが、炎症のおこる場所などによって症 状はさまざまです(図2)。先に述べたように、原因もさまざまで治療法も異なるため、まず原因を調べることが大切です。

 血液検査、胸部レントゲン撮影、心電図、尿検査、ツベルクリン反応などの全身検査をおこない、これらの検査結果と眼の所見をもとに診断します。ただ、さまざまな観点から調べても、どうしても原因がわからないこともあります。

原因の半数をしめるのは

 それでは、ぶどう膜炎の原因の約半数をしめる、三大ぶどう膜炎について説明しましょう。

 ベーチェット病とは、厚労省の特定疾患医療(医療費補 助が受けられる)に認定されている難病の一つです。全身の皮膚や粘膜に、炎症の発作(突然おこる症状)が、くりかえしおこる病気です。代表的なものは、ぶ どう膜炎のほかに、口内炎や陰部の潰瘍、皮膚にできる赤い斑点のようなしこりです。

 ベーチェット病によるぶどう膜炎は、若い男性に多く、発作をくりかえすことで、眼の組織が傷つき、眼が見えにくくなり、重症化します。発作を完全にくい止める治療法はありませんが、近年では効果の高い薬も開発され、失明する確率は低くなってきています。

 サルコイドーシスは、全身のいたるところに肉芽腫(に くげしゅ)ができる原因不明の難病で、ベーチェット病と同様、厚労省の特定疾患に認定されています。肉芽腫とは、通常、炎症や感染に対して正常な免疫の反 応としてできる、腫れのようなものです。しかし、肉芽腫そのものが炎症をひきおこしたり、まわりの組織を硬い組織にかえてしまうことで病気が発症すること があります。

 サルコイドーシスはぶどう膜炎のほか、リンパ節や皮膚、肺、心臓、腎臓、脳など、さまざまな臓器や部位に影響があらわれます。眼の症状ではじめて気づき、全身を検査してみたら、ほかの臓器でも病変がみつかることがあります。

 20歳代と60歳代に発病のピークがあり、とくに50歳代以上では女性に多い病気です。全体の発症数では女性が男性の約2倍です。

 原田病は、自分の体内にあるメラニン色素をつくり出すメラノサイトという正常な細胞を、自分自身で攻撃してしまう病気です。体内に侵入した異物や細菌などを排除する免疫のはたらきに異常がおき、自分で自分の体の正常な組織を標的にしてしまうのです。

 風邪のような症状で始まることもありますが、耳の中や脳の髄膜など、メラノサイトの多い部 分に炎症がおこるため、ぶどう膜炎と前後して、めまいや耳鳴り、髄膜炎(脳を保護する髄膜に炎症がおこる)をともなった激しい頭痛などの症状が出ます。皮 膚や頭髪が白くなったりすることもあります。

治療は薬の副作用に注意しながら

 ぶどう膜炎のおもな治療は、炎症を鎮める「ステロイド薬」の点眼、内服、注射などです。虹 彩に炎症があるときは、虹彩と水晶体がくっつくのを防ぐ「散瞳薬」を点眼します。ただし原因によっては、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、免疫抑制薬な どの特殊な薬を使うこともあります。薬の種類によっては、眼圧上昇などの副作用に注意しながら治療しなければなりません。

 ぶどう膜炎は、白内障や緑内障、網膜剥離(はくり)、眼底出血などをひきおこす場合があるため、早期の治療が大切です。ぶどう膜炎の原因になっている、もともとの病気の治療も必要になりますので、専門医に相談しましょう。

過労やストレスが再発のきっかけにも

 ぶどう膜炎は、いわゆる生活習慣病とは異なり、予防することはむずかしい病気です。ただ、 過労やストレスが再発のきっかけになることもあるため、「ぶどう膜炎」と診断されたら、規則正しい生活を心がけましょう。再発することもあるため、自己判 断せず、定期検査と治療を継続することが大切です。

 イラスト・井上ひいろ

いつでも元気2009年7月号

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