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2016年1月5日

生まれ育つ家庭で健康格差抱える “貧困と子どもの健康”小児科医たちが調査

 民医連の小児科医たちが「貧困と子どもの健康」について大学と共同研究し、一一月一五日、京都で開いたシンポジウムで発表しました。佛教大学「脱貧困プロジェクト」の一環です。「こうした調査は国内に無い」と、この日講演をした阿部彩教授(首都大学東京)は評価しました。民医連の医師三人が調査結果を報告しました。長野・健和会病院の和田浩医師は開会あいさつで「調査結果から何が読み取れ、どんな政策提言ができるか、今後の調査研究をどうすすめるのか考えたい」と語りました。

(土屋結記者)

調査から見えた生活

 調査は、入院・外来・新生児の三つで実施。貧困群と非貧困群を比較しています。

入院  夜間、繰り返す入院
 入院調査は、佛教大学教授でもある武内一医師(大阪・耳原総合病院)が報告しました。小児医療を扱う一一事業所が協力し、二〇一四年度の一年間の六七五件を検討しました。貧困群に多かった特徴は、繰り返し入院、夜間入院、受診控え・支払い困難、喘息発作での入院、基礎疾患に喘息がある、でした()。
 自由記載欄には、経済的問題に加え、子の付き添いで職場に気がねがあることなどが書かれていました。

図

外来  親から見ても不健康
 外来に関わる調査は、佐藤洋一医師(和歌山・生協こども診療所所長)が報告しました。全国五四の事業所に二〇一五年二月の一カ月間に受診した小中学生の子どもを持つ家庭に聞きとりました。
 貧困群の子どもは親も「健康状態が悪い」と見ています。肥満の子どもが多く、成人した時に生活習慣病になる危険が高く、生涯にわたる健康被害です。母親の喫煙が多い、インフルエンザのワクチン接種も少ない傾向。時間外の受診や経済的理由で受診を控えた経験も多くなっていました。
 貧困群の特徴は、(1)母子家庭か祖父母などと同居、(2)若い保護者、(3)未就労か非正規雇用、(4)低学歴の保護者、(5)母親の喫煙、(6)借家で少ない部屋数、(7)国保加入。
 自由記載欄には、「慢性疾患で医療費が負担」「教育費が高く将来が不安」「両親の介護もあり生活にゆとりなし」などの不安も書かれていました。

新生児  出生前から困難
 新生児については、山口英里医師(福岡・千鳥橋病院)が報告。妊娠中から一カ月健診時までの子と家庭の状況を分析し、貧困が出産や新生児の健康・生育に影響を及ぼす要素について考えました。
 二〇一四年度に五カ所の助産施設で生まれた六七七人に、母親の学歴、就労、家族構成などの生活背景と、妊娠出産の経過や一カ月健診時の状況を聞きとりました。貧困群では若年妊娠経験や多産が多い一方、中絶経験も多い傾向。
 調査時の出産では、母親の年齢が二四歳未満で非貧困群より若い傾向にあり、育児に不慣れで支援の必要性が高い、妊娠時の喫煙率が高い、耐糖能異常や貧血、精神疾患の母親が多い、低血糖の新生児が多い、などでした。
 助産制度や生活保護の利用、加入の健康保険は国保が多い傾向。母親は、中卒・高校中退など低学歴でした。約七割が非正規雇用で、「出産を契機に退職」が目立ちました。
 世帯は母子か母子三世代、離婚歴がある母親が多数。部屋数は少ないが「五人以上と同居」が四割と住環境の悪さも目立ちました。
 多産はお金が無く中絶できないことやパートナーとの関係維持のために妊娠を繰り返すなどが要因と考えられました。生活習慣に問題のある母親が多く、子どもの健康にも影響します。貧困で複雑な家庭環境は虐待につながるおそれもあります。

結果を広げ問題解決へ

 佐藤医師は「今回の調査が貧困は子どもの健康を脅かすリスクと認識されるきっかけになれば」と期待します。「民医連外の医療機関でも貧困の背景に気づけるよう、内容を広げたい」と言うのは山口医師。貧困問題が小児科医療の基礎となるよう、調査の継続も必要と考えています。
 武内医師は、日本では貧困と健康に関する論文が圧倒的に少ないため、調査結果は今後、国内で発表していく考えです。

(民医連新聞 第1611号 2016年1月4日)

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