いつでも元気

2002年12月1日

特集2 不整脈 脈が速くなる場合、遅くなる場合 生活の改善でよくなるものから手術が必要なものまで

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吉田廣海
東京・クリニック千駄ヶ谷(内科)

 正常な心臓は1分間に60~100回規則正しく拍動しています。しかし、これと違って心臓の拍動が速くなったり遅くなったり、また、乱れたりすることがあります。これを不整脈といいます。
 不整脈について日常診療の現場からみたお話しをしたいと思います。

健診で発見されることも
 不整脈は、その多くが、動悸、胸の圧迫感、息切れ、むくみ、めまい、失神などの自覚症状があって受診されたときに発見されます。
 また、最近では、自覚症状がなくても、健康診断のときに、心電図の検査などによって発見されることが増えてきました。
 自覚症状と不整脈の程度とは直接関係はありません。自覚症状がない場合でも、ときには放置すると悪化する不整脈の前ぶれのことがありますので、注意が必 要です。不整脈といわれたら、一度はきちんとした検査を受けることをおすすめします。

心臓が動くしくみ 

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図1 心臓のしくみと電気刺激の流れ

 心臓には、左心房と右心房、左心室と右心室の4つのへやがあります(図1)。
 心臓の拍動は、心臓内の微弱な電気の流れによっておこされます。その電気の流れは、刺激伝導系とよばれ、右心房上部にある洞房結節という部分で生じ、心房筋を刺激して収縮させ、血液を心室に送ります。
 電気の流れは、次に房室結節に達し、そこから右脚、左脚前枝、左脚後枝の3つの束に分かれて心室筋に伝わります。今度は心室を収縮させて、拍動をおこし、血液を全身に送るしくみです。
 洞房結節と房室結節は、特殊な細胞でつくられており、電気の流れを一時的に遅らせて、心臓を効率的に収縮させる役割があるのです。
 

■頻脈型(速くなる場合)
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■徐脈型(遅くなる場合)
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図2 おもな不整脈の心電図

不整脈の種類
 不整脈は脈が速くなる頻脈型と、脈が遅くなる徐脈型に分類されます(図2)。
頻脈型不整脈
 普通の脈よりも速くなる場合で、次のようなタイプがあります。
(1) 全体がそろって速くなる洞性頻 脈(1分間に100以上)。

(2) 心臓がしゃっくりのようにとき どき速く打つ期外収縮。
(3) 期外収縮が多数連続しておきる発作性頻拍症。
(4) もっと速く無秩序に収縮をくり 返す細動、粗動。
 なお、それぞれ不整脈のおこる場所により上室性(心房性)と心室性に分かれ、それぞれ上室性期外収縮、心室性期外収縮というようによばれます。
徐脈型不整脈
 普通の脈よりも遅くなる場合、次のようなタイプがあります。
(1) 全体がそろって遅くなる洞性徐 脈(1分間50以下)。
(2) 刺激伝導系といわれる微弱な電 気の流れの経路がうまくつながら なくなるために、拍動が遅くなる 心臓ブロック。
 ブロックは、洞房結節と房室結節でおきやすくなります。ブロックには、(1)電気の流れがつながるものの、普通より遅い場合、(2)ときどきつながらな くなる場合(不完全ブロック)、(3)まったくつながらない場合(完全ブロック)の3段階があります。
 ブロックの場所により、洞房ブロック、房室ブロックというようによばれます。

不整脈の原因 

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 不整脈の原因としては表1のように、心臓そのものに障害がある場合と、心臓以外の原因で心臓に影響を与える場合があります。
 心臓そのものの障害としては、心臓弁膜症、虚血性心疾患、心筋疾患、先天性心疾患などといった心臓の病気が原因となります。
 心臓以外では、高血圧、肺気腫などの慢性呼吸不全状態、貧血、甲状腺機能異常、慢性腎不全、電解質(カリウム、カルシウム)異常、発熱、薬物の影響、アルコール、たばこや不眠、過労などによる自律神経の緊張があげられます。
 原因がよくわからないこともありますが、何が原因なのか考えてみる必要があります。

不整脈の診断
 不整脈が疑われる患者さんが来院されたとき、診断はどうやっているのでしょうか。
 まず安静時の心電図をとりますが、これだけでは判断できないことが多く、さらに何回もとったり、1回の記録を長くとったりします。
 あるいは、階段を上り下りする、自転車をこぐ、ベルトコンベアの上を速く歩くなどの運動をしたあとの心電図をとることもあります。
 最近は、ホルター心電図といって、ウオークマンのような小型記録器を一日中つけて、心電図をとり、コンピューターで解析する検査手段を活用しています。
 不整脈があることがわかったら、その原因を調べます。心臓の検査としては、胸部レントゲン写真(心臓の大きさや形をみる)、心エコー(心房や心室の大き さや動きをみたり、弁膜の状態をみる)などで心臓の病気の状態を把握できます。
 心臓以外の検査としては、血液検査で、貧血や甲状腺の状態、不整脈の原因と疑われる薬の血液中の濃度、炎症の有無を確認します。
 また、生活習慣や仕事の状態をくわしく聞くことも大切です。

不整脈の治療 

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 治療は、表2の順序で検討しています。
 まず、原因となる病気の治療を考えます。高血圧があれば血圧を下げる工夫をし、貧血や甲状腺機能異常は薬でコントロールします。
 狭心症など心臓の病気については、病状が安定するように薬を使ったり、時には手術も考えます。
ペースメーカーを埋め込む場合
 徐脈型不整脈で、心不全や失神、めまいなどを伴うときは、悪化して死につながる危険もあるので、ぺースメーカーという人工的電気発生装置を体内に取りつける必要があります。
 70歳女性のAさんは、昨年1月からめまいをくり返していました。外出先で倒れたこともあり、救急病院に搬送されますが、心電図をとるとそのときは「異常なし」でした。
 昨年末、改めて当院にてホルター心電図の検査をしたところ、重度の房室ブロックがあることがわかり、最大3・1秒も拍動がとぎれる状態でした。
 ペースメーカーの埋め込みをすすめましたが、「携帯電話が使えなくなる」などの理由で本人はのり気ではありませんでした。
 ところが今回、知人宅で冷や汗と気分不快を訴え、翌日来院、診察中もめまい発作がおきる状態で、すぐに近くの大学病院を紹介してペースメーカー埋め込みとなりました。
 そのまま放っておいたら、取り返しのつかない事態になった事例です。
期外収縮の場合
 心臓が瞬間的にドキンとしたり、脈がとんだりする期外収縮は不整脈のなかで最も多く、心臓がときどき、もとの周期をはずれて速く収縮してしまうタイプです。
 ホルター心電図で検査すると、健康な成人でも60~90%に期外収縮が認められ、大部分の人は、ストレスを避け、よく眠る、酒、たばこを控えるなど日常生活の改善でおちつきます。
 しかし、動悸などの症状が強ければ薬を使うことがあります。また、期外収縮でも、連発したり多発したり、重い病気をもっている場合は注意が必要です。
心房細動などの場合
 心房細動は、期外収縮についで多くみられ、心房の各部分が統一を失って、まったく無秩序に細かく動いている状態です。
 頻脈が続くと、心不全をおこしやすくなったり、また、心房内に血液がたまるので、血栓(血液のかたまり)ができやすくなります。血栓が脳にめぐって、脳梗塞の原因となることがあるので、血栓をつくらない薬を使います。
 発作性頻拍症や心房細動で、薬でうまくいかないときは、頻拍の電気回路を外科的に切断する手術(メイズ手術)も検討します。

◆ ◆ ◆

 以上、不整脈は、日常生活の改善だけでよいものから、放置すると重大な障害をきたすものまで含まれていますので、必ず主治医とよく相談してください。

いつでも元気 2002.12 No.134

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