健康・病気・薬

2016年2月26日

【新連載】1.副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました(下記、全日本民医連ホームページでご覧になれます)。
 今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。

https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】当面連載予告>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用

  以下、57まで連載予定です。11215159_826236590792918_2763733254995999633_n

2016年2月17日
第41期全日本民主医療機関連合会 薬剤委員会・医薬品評価小委員会

 

(全日本民医連副作用モニターの発足)
 1965年に全日本民医連・第1回薬剤問題検討会(20県連102人参加)が開催されました。この会議で、薬には、「効果・副作用がある化学物質の面」と「利益を生み出す商品」と言う面があると言う、「薬の二面性」が明らかにされました。製薬大企業が①薬害を引き起こし②薬の安全性を軽視した販売活動を行なう、等の理由で、薬を厳しく見る視点が必要とされたのです。
 全日本民医連の副作用モニターは、1977年に「(特に同じ)患者に二度と同じ副作用を起こさない」と言う目的で発足しました。1つの病院や調剤薬局では、少ない副作用しか集まりませんが、全国の副作用をモニターすることにより、より大きな意味を持つ事につながっています。
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(副作用モニターの歴史的トピックス)
1.ACE阻害薬による咳
 1986年、当時はACE阻害薬による咳は現在のような代表的副作用とは認識されていませんでした。東京民医連で、「カプトプリル(高血圧治療薬)を止めたら咳が止まった」と言う医師からの報告を元に、全日本民医連の副作用モニターを確認すると5例の報告がありました。そのため、カプトプリルによる咳が無いか、集中的なモニタリング活動を行ないました。その結果、ACE阻害薬に高い咳の副作用がある(17.4%)事が分かり、学会に報告が行われ、添付文書も改訂されました。今では、作用機序も明らかになり、製薬会社も注目する副作用になっています。
「長年苦しんでいた咳が止まって良かった」と言う患者様の声は、今後も引き継いでいきたい内容です。

2.ショック症状
 1992年3月28日の朝日新聞に、「多い薬の副作用」と言うタイトルで全日本民医連の副作用モニターの集計結果が掲載されました。同月、日本薬学会で報告された内容が報道されたものです。
 記事の中では、1986年から1990年の集計で、全副作用報告15,124例のうち、急に血圧が下がったり、気分が悪くなったりするショック症状が182件(1.2%)報告されていると言う事が取り上げられました。
 薬効群別では、診断用薬、抗生物質、中枢神経系薬の順に多いとされ、「添付文書に記載されていない薬剤でも場合によってはショック症状を起こすことが分かった」とされています。
 現在の添付文書は、副作用部分の整備が進みましたが、当時は「副作用記載が多いと売れない」とあえて避ける傾向がありました。

3.その他
 1984年ヴェノピリンによるショック、1989年チエナムによる痙攣などはメーカーの添付文書改訂に先駆けて、民医連が注意喚起を行いました。また、2007年には「タミフルによる犠牲者拡大を避ける緊急提言」を行ない、異常行動に関する注意喚起を厚生労働省に先駆けて行っています。
 4.添付文書改訂に結びついた全日本民医連の副作用モニター
 副作用が多数報告された場合には、メーカーに添付文書改訂の申し入れを行っています。ニフェジピン(アダラートL 当時)による頻尿、テオフィリン(テオドール)による高尿酸血症、バラシクロビル(バルトレックス)による意識障害の副作用モニターから透析患者の投与量調整など、実際に添付文書改訂に結びついたケースもあります。     

(全日本民医連副作用モニターの報告件数
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 全日本民医連の副作用モニターの報告件数は、一時は3,000件程度ありましたが、ここ数年は2,000件程度になっています。
 事業所別では、およそ200事業所が報告をしており、内訳は、およそ2/3が調剤薬局、1/3が病院、残りが診療所などになっています。
 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)によると、年間の副作用報告件数は企業報告40,000件、医療機関報告5,000件との事です。以上の報告と民医連の医療機関の大きさを考慮(外来で全国の2%程度)すると、大きな取り組みを続けていると考えられます。

 

(副作用モニターから新薬モニターへの展開)
 副作用モニターは、副作用という切り口から医薬品を評価すると言い換える事も可能です。民医連の薬事委員会では、医薬品採用に当たって「有効性・安全性・経済性」の3点で薬を評価する活動を続けてきました。
 副作用モニターの活動を柱にして、現在は薬事委員会の取り組みを交流し、新薬を評価する中身にまで展開しています。現在の副作用モニター活動を継続しながら、まだ安全性が十分分かっていない医薬品について、現場で交流を続け、評価力量を高めていくことも重要な課題です。

%e8%96%ac%e5%89%a4%e5%b8%ab2(民医連副作用モニターの視点)
1.副作用モニター情報を共有
 私たちが取り組んでいる副作用モニターは、積極的に自らの症例を蓄積する活動にほかなりません。新しい医薬品を採用した時など、重点的にモニターすることなどを通して、全国の副作用を交流し、患者に安全で安心な薬物療法を提供する糧にしていきましょう。

2.全職種が参加するモニター活動へ
 現在、副作用報告の殆どは薬剤師が行っています。薬剤師は、引き続き職能として副作用モニター活動の先頭に立つ必要があります。
 一方、患者が投薬を受ける場面に居る、医師・看護師・放射線技師など、複数の職種がその専門的視点からモニター活動に参加することは非常に意味のある事です。病棟で副作用を最も早く見つけるのは看護師ですし、造影剤のショックなどの副作用は放射線技師の観察が必要です。多くの職種が副作用モニターに参加し、情報を共有していけるよう努力していきます。

3.薬事委員会との連携
 民医連の副作用モニターは、全国的ネットワーク(141病院・505診療所・350保険薬局など)を活かして、各県連・事業所へのフィードバックをする事が可能になっています。薬事委員会で医薬品を評価する際に、特定の薬剤について副作用調査を行うなど、組織的で患者様の方向を向いたモニター活動に昇華させていきましょう。

(今後の副作用モニター活動)
1.誰でも参加できる工夫を、より多くの副作用を
 PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の報告様式を始め、民医連の副作用モニター用紙も含め、副作用モニター報告用紙は書き込む内容が多く、作業も大変です。簡易的な報告内容を記載する用紙で工夫している事業所など、様々な取り組みが行われています。事業所で掴んでいる事象を出来るだけ多く報告できるように、対応する副作用に適切な内容でモニターを行ないましょう。

2.重篤な副作用、稀な副作用は必ず報告しましょう
 私たちがつかんだ副作用は、全日本民医連の全国的ネットワークを通して医師・薬剤師・看護師…、最後には患者様に戻っていきます。報告することで、医療の質が向上していくと考え、だからこそ副作用報告も促進していくと考えましょう。

3.医師や多職種と副作用を共有しましょう
 医師は治療のために薬剤を投与し、効果や使い方を知るために製薬会社に接触します。効果を実感する中で、重篤な副作用を経験する医師は多くありません。一方、重篤な副作用を経験した医師は、薬の使用に慎重になる傾向があります。
 薬剤師から副作用情報提供の機会を強化し、薬の利益と害を、複眼的に捉える仕組みを作っていくことが大切です。そのような視点から、医師に情報提供を行ない、同時に、患者様の近くに居るスタッフに副作用情報を提供していきましょう。

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画像提供 鹿児島民医連 総合病院鹿児島生協病院薬剤部・国分生協病院薬剤部

http://www.kiseikyo.or.jp/yakuzaibu.html

 

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