健康・病気・薬

2016年12月9日

【新連載】23.産婦人科用剤の副作用

プレグランディン膣坐薬による子宮破裂、塩酸リトドリン(切迫早産治療薬)による白血球減少、エストロゲンによる肺塞栓症

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プレグランディン膣坐薬による子宮破裂
 プレグランディン膣坐薬は、妊娠中期の治療的流産に使用されているプロスタグランジンE1誘導体です。本剤は強い子宮収縮作用と子宮頸管開大作用を有し、重篤な副作用として子宮破裂、子宮経管裂傷、子宮出血が報告されています。

症例) 30歳代女性、妊娠18週

破水ならびに絨毛膜下血腫を伴い妊娠継続が困難と判断された。本剤を初日に3時間ごとに4個、夜間ラミナリア挿入し、翌日再度3時間ごとに3個使用し中止。2時間後子宮口開大で出血多く、血性の塊が出現。胎盤が先に出てきたため早期剥離と判断し、DIC並びに貧血の治療に移行した。8日後、エコー検査で子宮破裂を確認。翌々日に子宮修復術を施行した。

 本症例は、原疾患として絨毛膜下血腫や子宮内感染があり、子宮筋層の弱い部分があったところに本剤による強い子宮収縮で子宮破裂がおこった可能性が強いと考察されています。一般に「帝王切開、子宮切開の既往歴のある患者や多胎妊娠、多産婦の患者では特にリスクが高い」とされており、症例ごとに本剤の投与可否を含め慎重な対処が必要です。 また経過中に子宮破裂や経管裂傷を生じても、強い下腹部痛など顕著な兆候を示さない症例も報告されており、子宮内容物排出後にも慎重に内診を行うことが重要です。

塩酸リトドリン(切迫早産治療薬)による白血球減少

 塩酸リトドリンの長期投与中に白血球減少(グレード3)を起こした例が報告されました。本剤による白血球減少は、重症 例は稀とされていますが、21日以上の持続投与や総量が5000mgを超える例での報告が文献上散見されます。今回報告された症例は、週1回のペースで血算を実施していましたが、4週目で急激に減少し、G-CSF製剤を適応外で使用し回復しました。長期、総投与量が4000mgを超えるようなケースでは、週2回程度の血算を実施するなど白血球数に注意し、3000/mm3を切ったら早めに中止することが必要です。

症例)20歳代女性 妊娠30週

 切迫早産で、リトドリン錠15mg/日の内服を開始したが改善せず、2日後に入院となる。リトドリン注100mg点滴静注開始し13日後200mgに増量。投与開始から29日目に白血球数が1500/mm3となり、リトドリン注を中止しズファジラン注に変更、さらにマグネゾールを追加、さらにノイトロジンを4日間使用し5500/mm3まで回復し36週で退院。以後は経過良好、40週6日で正常分娩した。

(民医連新聞 第1353号 2005年4月4日)

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エストロゲンによる肺塞栓症について

 結合型エストロゲン(プレマリン錠等)は、凝固因子産生促進作用があり、静脈血栓形成を促進させるため、塞栓症の注意喚起がされています。一方でジヒドロゲステロン(デュファストン錠等)に関しては、プロゲスチン製剤は脂質代謝異常を誘導しやすいことから、動脈血栓に促進的に働くといわれています。またこの傾向はアンドロゲン作用が大きいものほど強く現れます。

症例)40歳代女性

 手の湿疹と眼瞼の腫れで外来 皮膚科受診したが、息切れ著明、口唇・顔面蒼白気味、冷汗あり、口唇チアノーゼあり、喘鳴なし、吐き気なし、意識クリアだがややもうろう。内科受診して検査。肺塞栓疑いにて造影CTを至急撮影し、左右肺動脈に肺塞栓を認め、肺塞栓症の加療にてICU入院となる。プレマリン、デュファストン中止し、ヘパリン、ワーファリンによるコントロール開始。10日後に退院した。

 本症例は、プレマリン錠とデュファストン錠の併用患者に肺塞栓症を発症した事例です。デュファストン錠はアンドロゲン作用を持たない製剤であることから、プレマリン錠のみを被疑薬として報告されています。

 ホルモン剤使用中の凝固能検査や、血栓症が現れる可能性について、患者への説明と注意喚起が必要です。

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画像提供 東京民医連 (株)城南医薬保健協働
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**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用 
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
 
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.抗凝固剤の副作用(ワーファリン NOAC)
  27.抗血小板凝固剤の副作用
  28.高尿酸血症治療薬の副作用
  29.糖尿病治療薬の副作用
  30.抗リウマチ薬(DMARDs)の副作用

以下、60まで連載予定です。

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