健康・病気・薬

2016年11月21日

【新連載】22.過活動膀胱治療薬の副作用

口渇・口腔乾燥、循環器系、消化器系の副作用、α1遮断剤による女性化乳房

 

 過活動膀胱(Overactive Bladder:OAB)は、膀胱の過活動による尿意切迫感、頻尿および切迫性尿失禁をひっくるめた、新しく定義された概念です。以前からこれらの症状に対しては、抗コリン剤、中でもムスカリン受容体拮抗薬が中心に使用されています。古くから使用されている膀胱選択性の低いオキシブチニン(ポラキス/ネオキシテープ)やプロピベリン(バップフォー)は、副交感神経遮断や中枢神経系抑制による副作用(口渇、便秘、せん妄、ふらつきなど)が問題になっていました。現在は、膀胱選択性を高め、脳内への移行性が低い治療薬として発売されたソリフェナシン、トルテロジン(デトルシトール)、イミダフェナシン(ウリトス/ステーブラ)、フェソテロジン(トビエース)など多種薬剤が揃い、特徴も様々です。

 161121_012016年7月までにおける当モニターへの報告を薬剤ごとに横断的に見てみました。オキシブチニンでは87件中、口渇が36件、排尿困難が5件、便秘3件、眼のかすみ4件と、抗コリン剤特有の副作用が多くなっています。プロピベリンでは口渇52件、便秘30件、尿閉を含む排尿困難10件、めまい・ふらつき11件、目のかすみ・調節障害11件、眠気8件、吐き気4件、幻覚・せん妄4件、と、オキシブチニンと比べて、幻覚やパーキンソン症候群のような中枢性障害が加わってきているのが気になるところです。フラボキサートは37件と報告数は少なく、薬物性肝障害が11件と最多でしたが、便秘、口渇が各3件、排尿困難、目の調節障害が各1件と、抗コリン作用に基づく副作用でも比較的少なく、かつ、重篤な副作用はありませんでした。

 過活動性膀胱治療剤として続々と登場した薬剤群では、2016年7月までにおける集計は、デトルシトールでは合計47件、やはり、口渇18件、便秘5件、排尿困難・尿閉7件、と、抗コリン性の副作用が多数を占めています。ベシケアでは合計107件で、口渇39件、便秘12件、目のかすみ等の眼症状5件、イミダフェナシン(ウリトス/ステーブラ)になると合計24件で、口渇6件、排尿困難・尿閉3件、目のかすみ等は2件でした。報告件数は少なくなりますが、気を付けなければいけない副作用として、ベシケアとイミダフェナシンには不整脈関連で各2件の報告が出ていることです。かつて、テロヂリン製剤ミクトロールで死亡者が多発した事実を念頭に、長時間作用型抗コリン剤の潜在的危険性を念頭に管理する必要がありそうです。

 

ソリフェナシン

 ベシケア錠(コハク酸ソリフェナシン)は膀胱平滑筋に対する選択性の高い抗コリン作用を持つOAB治療剤として2006年4月に承認されました。既存の同効薬と比較して、口渇や尿閉などの副作用が少ないと期待されました。しかしこれまでに、当モニターに10例の報告が寄せられており、症状は、口渇6件、尿閉2件、ほか、口内過敏、ふらつき、眼充血が各1件となっています。添付文書には、ベシケアの承認時1267件中、口内乾燥358件(28.3%)、便秘182件(14.4%)、霧視42件(3.3%)と、副交感神経遮断によると思われる副作用が高率で報告されています。他の同効薬に変更し、口渇が改善された例もあるので、選択性が高いからといって、必ずしも副作用が少ないとは言い切れません。以下、副作用モニターとして取り上げた記事を紹介します。

 

口渇、口腔乾燥の副作用

 ある民医連の病院での本剤の使用後調査では、47例中24件(51.1%)で口渇が出現し、国内臨床試験の28.3%を上回っていました。この症状を訴えた人の半数は服用を自己中止しており、重篤とはいえないものの、不快な副作用であることがうかがえます。

 また、口渇発現時の用量は5mgが7件、10mgが17件で、高用量になるほど、頻度が高く、用量依存性を示唆します。

 口渇の対処法としては氷片を舐める、シュガーレスガムの使用などがあります。また、本剤の最高血中濃度到達時間は5.5時間とされているので、夜間頻尿だけを訴えるケースでは、1日1回夕食後の服用にすれば口渇が軽減する可能性もあります。このように服用時間を工夫することによって、副作用に対処できるケースもあると考えられます。

 頻尿や尿失禁は、高齢者にとって日常生活を阻む不快な症状です。これらを少しでも改善し、副作用の発現を最小限にすることが生活の質の向上に役立ちます。そのためには、薬剤の選択、投与量に注意を払うのがよいでしょう。

(民医連新聞 第1437号 2008年10月6日)

循環器系、消化器系の副作用にも注意を

 近年、ベシケアをはじめ数種の薬剤が膀胱選択性の高い抗コリン薬として発売され、売り上げを伸ばしています。ベシケアは発売後3年が経過し、前年報告より、さらに7件が報告されましたので紹介します。内訳は、嘔気2件、便秘2件、複視、眩暈、浮腫・高BNP(脳性Na利尿ペプチド)上昇・高血圧・高カリウム血症併発が各1件でした。発現時期は直後~3.5ヶ月後と幅がありました。

 

症例1)80代前半の女性。頻尿のためベシケア2.5mg 1日1回を処方されたが、誤って2.5mgを1日3回服用した。5日後、顔のむくみで受診、体重は2kg増。足の浮腫みは2~3日前から気になっていた。ベシケアを中止し、フロセミドを処方。中止1日後のBNPは 165pg/mL、4日後は143pg/mLの高値だったが、10日後には体重が2kg減少し、むくみは元に戻った。血清カリウム値は5.0mEq/L、血圧は171/90mmHg。エコー検査では心機能は良好で、心不全の所見はなくなったが若干の浮腫が残り、フロセミドは継続中。

症例2)60代女性。頻尿のためベシケア5mg1日1回を服用開始。1ヶ月ほど経ったころ何の前ぶれもなく突然嘔吐した。嘔吐の回数が3日に1回から2日に1回に、そして毎日、と日が経つにつれ増していった。嘔吐は決まってベシケアの服用後60~90分で起きた。ベシケアの副作用を疑って中止したところ、吐き気はすぐにおさまった。

(民医連新聞 第1475号 2010年5月3日)

 

 2015年末までには合計84例、そのうち、口渇、口内乾燥で29件の報告が寄せられました。前述のように、2016年7月までとなると107件と、いっそう増えています。

 

フェソテロジン

 フェソテロジン(トビエース)による副作用は過去1年間で3件、以下の症状が報告されています。

症例1)80代男性

既往歴は、前立腺肥大症、高血圧症、脳梗塞後遺症、アルツハイマー型認知症。

ベタニス50mgを内服していたが、症状が改善しないためトビエース4mgに変更。服用28日目、夜間失禁は改善傾向。54日目、夜間に行方不明になる。119日目、尿失禁あり。152日目、腹痛にて受診。尿意はあるが排尿なし。検査し異常は無く、導尿して帰宅。153日目、症状改善せず他院受診。尿閉の可能性が高く尿道カテーテル留置となる。154日目、トビエースの副作用を疑い服用中止。中止7日目、尿道カテーテル抜去。中止8日目、尿意あるが排尿なく腹痛あり。導尿で症状改善。中止9日目、尿閉続くため、尿道カテーテル留置。バルン管理となる。

症例2)70代男性。既往歴は、COPD、起立性低血圧、不眠症。

頻尿に対しトビエース4mg開始。内服5日目、4日間排尿なく、腹痛、吐き気あり。イレウス疑いで救急搬送。腹部CTにて尿閉と診断。抗コリン作用のあるスピリーバ、トビエースを中止。中止2日目、尿閉が続き導尿、ザルティア5mg開始。中止5日目、尿閉持続。バルンカテーテル留置。自尿向上を目的にアボルブ、ベサコリン散、ユリーフ開始。中止24日目、自尿改善ないため、内服中止し、バルンカテーテル管理となる。

症例3)50代女性

既往歴は、糖尿病、高血圧症、鼻炎、高脂血症。

頻尿にてデトルシトール4mgを使用。採用の切り替えに伴いトビエース4mgに変更。内服数時間後、ひどい口渇。3日間服用後中止、翌日には回復。

 

 過活動膀胱の有病率は年齢とともに増加し、60歳以上で13.8%と報告されています。高齢者に珍しい病気ではなく、泌尿器の専門ではない医師も診療にあたる機会があるでしょう。特に、抗コリン薬の中でも副作用を軽減したものが発売され、治療に汎用されています。フェソテロジンもトルテロジンをプロドラッグ化したことで、安定した血中濃度が維持でき、QT延長症候群の危険性を軽減した薬です。しかし、高齢者はコリン分泌機能が低下しており、増量すると副作用が発現しやすくなります。また、併用されている薬(抗コリン作用を有する抗精神病薬、抗うつ薬、抗パーキンソン薬、抗不整脈薬、胃腸薬、カゼ薬、鼻炎薬、かゆみ止めなど)によっては、口渇、便秘、尿閉、認知機能の低下、めまいなどを強める可能性があります。注意しましょう。

(民医連新聞 第1606号 2015年10月5日)

 

アドレナリンα1受容体遮断剤

α1遮断剤による女性化乳房

 女性化乳房女性化乳房を引き起こす薬剤として、これまで当モニターにはスピロノラクトン(利尿剤)、ニフェジピン、アムロジピン(血管拡張剤)、ロサルタンカリウム(降圧剤)、ランソプラゾール、ファモチジン(消化性潰瘍用剤)などが報告されています。症例数においてはスピロノラクトンによるものが圧倒的ですが、今回はアドレナリンα受容体遮断剤について注目してみました。

 当モニターへの報告件数は、2016年7月までに、プラゾシンでは33件、テラゾシンでは12件、ウラピジルでは32件、タムスロシン137件、ナフトピジルでは87件、シロドシンでは107件でした。目立った特徴はないものの、シロドシンでは、射精障害や口渇という、他のα1受容体遮断剤にはさほど見られない副作用が7件ずつ報告されているのが気になります。ナフトピジルでも口渇が4件報告されていますが、いわゆる高力価の抗コリン作用があるのではないかと疑う必要がありそうです。

 

 当モニターではシロドシンによる副作用報告が目立ち、α1受容体遮断剤については民医連新聞に3回も掲載しているので、あらためて紹介したいと思います。

 アドレナリンα受容体遮断剤は、高血圧や前立腺肥大に伴う排尿障害に対して、主に高齢者に処方されることが多い薬剤群です。当副作用モニターに、これまでに女性化乳房の副作用が報告されたのは、タムスロシン(ハルナールD)7例、ナフトピジル(フリバス)2例、ドキサゾシン(カルデナリン)2例、プラゾシン(ミニプレス)1例です。乳房痛、乳頭痛、乳房のしこり、胸の張りなどの症状として報告されています。

 副作用発現時期は、服用開始後、数カ月から2年以上にわたっています。服用中止により徐々に改善していきますが、症状が消失するまでに半年程度かかった症例が3例ありました。

 薬剤により乳房が女性化してしまうメカニズムは判っていません。薬剤の受容体選択性からみると、α受容体はα1A(前立腺に多く分布)とα1D(膀胱に多く分布)、α1B(血管平滑筋に分布)に分類されます。報告例の多いタムスロシンは、受容体選択性がそれほど高くありません(α1A1D=3.3倍)。一方で、選択性が非常に高いシロドシン(ユリーフ)は(α1A1D=55倍)、多彩な副作用症例が報告されている中、胸部の訴えは圧迫感不快感が1例のみでした。
 全症例が軽微なものとして報告され、副作用としては重篤ではありませんが、患者さんにとっては不快な症状が長期にわたっている例もあり、また再投与での繰り返し例も3例ありましたので副作用歴にも注意が必要です。

(民医連新聞 第1600号 2015年7月20日)

シロドシン

 シロドシンは前立腺肥大症に伴う排尿障害を改善する薬剤です。選択的α1Aアドレナリン受容体遮断薬で、前立腺や尿道に分布するα1A受容体を遮断することにより下部尿路平滑筋の緊張を緩和します。類似薬のタムスロシンに比べてα1A受容体への選択性が20~30倍高く、かつ1日の用量も高く設定されているため、副作用頻度と重篤度が増す危険性があります。

 

 2006年5月に発売されたユリーフカプセル(シロドシン・2008年12月から錠剤に切り替わった)の副作用報告が、2008年10月までに17件寄せられています。起立性低血圧・立ちくらみが3件、 ふらつき・倦怠感が2件、頭痛・めまいが1件と、αブロッカー共通の副作用が目立ちます。また下痢が2件、吐き気が2件、腹部膨満感が1件と消化器系の 副作用が複数例ありました。

 そのほかには全身のかゆみが2件、頻尿・足の痛み・白血球減少・逆行性射精障害の疑いがある精液減少が1件ずつ報告されています。また、新たに添付文書に記載された女性化乳房について、1件の情報が寄せられました。

 患者年齢の分布は、50代が3例、60代が6例(1例は2件の副作用発生)、70~74歳が2例、75~79歳までが3例、80~84歳が2例と幅広く なっています。使用量は、起立性低血圧・立ちくらみを起こした症例をみると、70代の患者では8mg/日、80代では4mg/日でした。
 本剤は肝代謝ですが、高齢者に投与されることが多く、腎不全患者ではα酸性糖タンパクが増加して薬剤と結合するため、代謝が遅くなります。このような場合は投与間隔を開けるなど、注意が必要です。高齢者の立ちくらみなどの症状は、薬剤起因の転倒、転落にもつながります。

 本剤は世界で最初に認可されたのが2006年1月です。使用経験が短いので、今後も未知の副作用が発生する可能性があります。泌尿器科では、薬剤選択の幅が狭いため本剤が処方される機会も多く、長期投与になる傾向もあります。常に注意深くモニターすることが必要です。

(民医連新聞 第1446号 2009年2月16日)

 

症例)70代男性。

前立腺肥大に伴う頻尿がひどく、ナフトピジル(フリバスOD錠)75mgよりシロドシン錠8mgへ変更。

投与35日後、胸苦あり。血圧120/70mmHg

投与106日後、咳がひどく左胸が苦しい。胸部レントゲン、心電図とも異常なし。

投与121日後、夜中に覚醒するほどの左胸苦あり。血圧143/77mmHg、脈拍112/分、心電図で心房細動。ベラパミル(ワソラン錠40mg)3錠、ワルファリン3mgの処方開始。投与134日後、循環器受診。心電図で上室性期外収縮連発が優位。血圧120/80。ベラパミルからジゴキシン0.25 mgへ変更。

投与183日後、胸苦のため早めに受診。上室性期外収縮連発 血圧140/80。ジゴキシン・ワルファリン中止し、シベンゾリン(シベノール錠)300mg開始。シロドシンも不整脈の副作用があるため中止となる。

中止7日後、動悸改善。シベンゾリンで排尿障害なし。血圧130/80mmHg。中止42日後、シベンゾリン中止。

 

 α1Aアドレナリン受容体は前立腺以外に血管にも分布しているため、シロドシンによって血管平滑筋が弛緩して血圧低下を起こし、二次的に頻脈や動悸の副作用が生じると考えられています。

 メーカーは上室性期外収縮3件を含む29件の「不整脈関連副作用」の報告があるとしていますが、それ以外に「期外収縮・頻脈・動悸」として50件が報告されています。実際には「不整脈関連副作用」はもう少し多いと思われます。副作用の発現時期は1~275日目と長期にわたり、服用後9ヶ月を経過して発現した症例もあり、注意が必要です。

 最近の新薬は、より強い臨床効果を期待して常用量を高めに設定している場合があります。生理機能の低下している可能性のある高齢者への投与は、いま一度、「低用量から投与を開始する」という原則に留意しましょう。

(民医連新聞 第1574号 2014年6月16日)

 

 α1受容体遮断剤は、今後は降圧剤としての利用価値は少なく、泌尿器科領域だけでの使用になっていくと思われます。長期服用や長期処方となることが多いので、処方の際に副作用の有無について聞き取る機会を逃さないよう、気を配っておきましょう。

 

 

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画像提供 東京民医連 (株)城南医薬保健協働
http://jyounaniyaku-recruit.jp/

■掲載過去履歴一覧
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

■副作用モニター情報履歴一覧
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「いつでも元気」くすりの話し一覧
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**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用 
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
 
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.抗凝固剤の副作用(ワーファリン NOAC)
  27.抗血小板凝固剤の副作用
  28.高尿酸血症治療薬の副作用
  29.糖尿病治療薬の副作用
  30.抗リウマチ薬(DMARDs)の副作用

以下、60まで連載予定です。

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