いつでも元気

2016年12月29日

けんこう教室 胸やけを感じたら

神奈川・戸塚病院 池田俊夫(内科)

神奈川・戸塚病院 池田俊夫(内科)

 胃のあたりがムカムカする胸焼けや、下を向いてしゃがみ込んだ時「うっぷ」と胃液が込み上げてきた経験のある人は多いと思います。これは胃の中の物が食道に逆流することが原因です。胃と食道の間には「噴門」があり、普段は「下部食道括約筋」という筋肉によって閉じられています(図1)。逆流現象はこの下部食道括約筋の緩みから生じます。
 そもそも胃の中の物の逆流は、ちょっとしたことで起こります。乳児期にはお乳を飲ませた後にゲップをさせますが、これをしないと簡単に嘔吐してしまいます。乳児は食道の下部や下部食道括約筋が発達していないからです。
 食道の下部や下部食道括約筋は成長とともに発達し、逆流しにくくなります。小児期~30代までは発達し続けていますが、40代以降は下部食道括約筋が弱まり、次第に逆流現象が生じやすくなります。高齢になるとともに筋力が衰え、乳児期のように逆流現象を起こす人が多くなります。

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高齢者の2~3割が発症

 誰にでも起こる逆流現象は、まだ病気とは言えません。しかし、ちょっとしたことで頻繁に逆流現象を起こすようになると、病気の仲間入りです。この段階を「非びらん性胃食道逆流症」といいます。
 この症状が常態化し炎症を起こして、ただれ(びらん)や潰瘍ができるようになると「逆流性食道炎」という病気になります。逆流性食道炎は最近テレビでも登場しているので、聞いたことがある方も多いでしょう。
 逆流性食道炎のように常時逆流現象が生じやすい状態にあると、食道下部を中心に粘膜に炎症が生じます(図2)。胃の粘膜には強い酸性の胃酸に対する特別な防御機構がありますが、食道の粘膜にはありません。そのため胃液にさらされると炎症を起こして、ただれができてしまうのです。
 この食道と胃の粘膜の胃酸への強さの差から、胃酸に弱い食道粘膜を胃粘膜に置き換えようとして胃粘膜の上昇が起こります。すると胃酸も上昇して食道粘膜がさらに弱くなり、一層逆流現象を起こしやすくなります。こうなると食道炎はどんどん進行し、もう後戻りはできません。
 高齢者の2~3割は、逆流性食道炎を発症しています。非びらん性胃食道逆流症の簡単なセルフチェックシートがあるので、確認してみましょう(図3)。

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症状

 非びらん性胃食道逆流症の段階では、胃酸が上がってくる、ゲップがよく出るなどの症状にとどまっています。しかし、食道にびらんや潰瘍がある逆流性食道炎になると、にわかに症状が増えてきます。
 典型的な症状は胸焼け、胃もたれ、飲み込んだものが食道を通過する時の胸のあたりのつかえ感や痛み、刺激物を飲んだ時の痛みです。これ以外にも、他の病気と紛らわしい症状が出ることもあります。狭心症のような胸の痛み、慢性的な咳、咽頭部の違和感やつかえ感、喘息のような発作、不眠、簡単に嘔吐するなどが挙げられます(図4)。
 これらの症状が現れた時は注意が必要です。また、慢性化すると寝ている間でも逆流現象を起こしやすくなってしまうのも、この病気の厄介なところなのです。

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危険な合併症

 さらに、多くの高齢者は逆流性食道炎になると、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。誤嚥性肺炎は命にかかわることもある病気で、加齢による嚥下機能(飲み込む力)の低下も加わると発症率は急激に増加し、命の危険と隣り合わせの生活が続くことになりかねません。
 また潰瘍やただれがある箇所からの出血で貧血になったり、食欲が低下することもあります。いずれにしても高齢者にとっては危険な合併症と言えます。

発症しやすい人は?

 若い世代で逆流性食道炎を発症する人はほとんどいません。高齢になるほど発症しやすくなります。原因は年齢や性別によって異なります。特徴は次の通りです。
(1)中年以降の男性に多くみられるのは、ストレス、不規則な生活、過度の飲酒による下部食道括約筋の弛緩です。
 また、メタボリックシンドロームによって腹圧が高くなると、胃が圧迫されて逆流現象が起きやすくなります。逆流現象による炎症は、ひどくなると潰瘍になり食道の短縮を起こします。するとますます逆流を起こしやすくなります。
(2)60歳以上の女性は、椎間板の厚みの減少、骨粗しょう症による脊柱圧迫骨折、円背(背中が丸まっている状態)などによって、次第に脊柱が短くなります。そうなると食道がたるんで下部食道括約筋の弛緩が生じ、逆流性食道炎を起こしやすくなります。
 さらに、食道のたるみが原因で胃の一部が食道下部に飛び出す「食道裂孔ヘルニア」を併発すると、常に胃液や食べたものの刺激が加わり、逆流性食道炎が一層治りにくくなります(図5)。
(3)80歳以上では、男女ともに?の傾向が強まります。
(4)胃の手術をした人は、常時逆流現象を起こしやすくなりますが、これは強い酸性の胃酸ではなく、アルカリ性である胆汁の逆流と炎症が主体です。食道粘膜もアルカリ性の胆汁には比較的強いため、胃粘膜の上昇は起こりにくいと思われます。

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診断

 逆流性食道炎の診断は、胃レントゲン検査と胃カメラ検査を行います。
 胃レントゲン検査はバリウムを飲んで行います。この検査では食道と胃の位置関係や下部食道括約筋の締り具合、食道裂孔ヘルニアの有無、逆流の度合いなどが分かります。
 胃カメラ検査では、ただれや潰瘍の有無はもちろん、胃と食道の粘膜の境界の位置、食道裂孔ヘルニアの有無などを詳しく調べます。そのため、どちらか一方の検査のみを行うときは胃カメラが有効です。CTやMRIは、特殊な場合を除きあまり有効な検査とは言えません。

治療

 手術などの治療は効果がないので、治療の基本は薬物治療です。制酸剤(胃酸の分泌を抑える内服薬)であるプロトンポンプ阻害薬や、H2ブロッカーを使用します。どちらも内服薬と注射があり、患者さんの状況によって使い分けます。これ以外に、他の制酸剤や粘膜保護剤も使うことがあります。しかし、高齢になると薬による完全なコントロールは難しくなります。

ポッコリお腹をなくそう

 逆流現象は誰にでも起こりうるので、完全に予防することは困難です。そして緩んでしまった下部食道括約筋は、再び鍛えることができません。肥満気味の人は体重を減らすことが予防に効果的です。特にポッコリお腹をなくすことで、腹圧を下げて胃への圧力を減らすことができます。
 また、骨を強くすることで、食道のたるみにつながる圧迫骨折などによる脊柱の短縮を防ぐことができます。
 食生活にも注意が必要です。粘膜の刺激になるにんにくや唐辛子などの食べ物やアルコールは控えましょう。
 食後すぐに横にならないことも大切です。臥位(寝た体勢)の時には、上半身を少し上げるようにしましょう。これは、逆流性食道炎だけでなく誤嚥性肺炎の予防にも効果的です。
 以上のことに気をつけて、逆流性食道炎の予防に努めましょう。

いつでも元気 2017.1 No.303

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