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2017年3月7日

緊急寄稿 テロ等組織犯罪準備罪テロ対策はウソ あなたも監視の対象に 「明日の自由を守る若手弁護士の会」共同代表 黒澤いつき

 安倍政権は、「共謀罪」を今国会に提出しようとしています。全日本民医連は、共謀罪(テロ等組織犯罪準備罪)法案を阻止しようとのアピールを出し、全国に運動を提起しました。どんな法案で、何が問題か。本紙連載中の「明日の自由を守る若手弁護士の会」共同代表、黒澤いつきさんの緊急寄稿です。

 すべての国民を監視し、ありふれた日常生活での言動を「それはテロの準備行為だ」と決めつけて処罰する―。こんな社会が現実になりかねません。個人の内心を取り締まる治安維持法※の再来、「共謀罪」。
 同法案は過去に三度も国会で廃案にされましたが、政府は「テロ等準備罪」と名前を変え、通常国会に法案を提出しようとしています。あらためて、共謀罪とはどのような犯罪なのかを整理し、政府が主張する新設の必要性があるのか、考えてみましょう。

共謀罪って何?

 共謀罪とは、簡単に言えば「二人以上の者が、犯罪を行うことを話し合って合意する罪」のこと。犯罪行為を計画すらしていないのに、「よし、やろう」と合意すれば罪だというのです。それは、人の心の中を取り締まることと、何ら変わりはありません。
 誰がいつどこで犯罪を思い立ち、複数人の合意が成立するのかなど、分かるわけがありません。当然、「あの時のあの会合で合意があったに違いない」「あの目配せで共謀が成立したに違いない」という捜査機関の勝手な見込みで、検挙されることになりかねません。また、処罰の条件として「準備行為が必要」と政府は強調しますが、実はその“準備行為”の内容は無限定で、ATMでお金をおろす行為ですら該当するというのです。結局、捜査機関が「その行為は準備行為に違いない」とみなせば、処罰されてしまうのです。
 このように、共謀罪は個人の内心を著しく侵害します。この法律を作ること自体、憲法上許されません。

「予備罪」はあるのに

 政府はこのテロ等準備罪(共謀罪)を、あくまでもテロ対策で「一般人は対象外」と強調します。しかし、テロ等準備罪の主体となる「組織的犯罪集団」は、単に犯罪を相談した複数人を指すので、テロリストどころか会社の同僚、労働組合、夫婦、なんでもありで、歯止めにはなりません。
 殺人やハイジャックなど重大犯罪にはすでに「予備罪」という規定があり、準備段階で摘発できるので、これ以上の、内心を取り締まる規定(テロ等準備罪)は不要です。
 また政府は、テロ等準備罪の創設が「国際組織犯罪防止条約」の締結に不可欠だといいます。しかし、この条約はマフィア対策の条約で、テロ対策とは縁遠いものです。さらに、この条約締結には憲法や刑法の原則に反する法整備などは不要です。日本は銃規制が厳しく、重大犯罪の予備罪の規定もあり、条約締結の環境は整っています。首相は「法整備できなければ東京五輪を開けないと言っても過言ではない」と発言しましたが、デタラメです。

現実になったら―

 共謀罪が現実になればどうなるか―。例えば、電力会社やブラック企業の社屋前で「抗議行動をしよう!」と市民団体の中で盛り上がれば、威力業務妨害罪の共謀罪が成立しかねません。沖縄・高江のヘリパッド建設に反対する人たちがSNSで支援を呼びかけたり、それに応じただけで、やはり威力業務妨害罪の共謀だと見なされる可能性があります。なにより警察は「共謀」を立証しなければなりませんから、労働組合や市民団体を常時監視することになるでしょうし、盗聴も導入されかねません。間違いなく「監視社会」化がエスカレートするでしょう。
 共謀罪は、一般市民を、「おまえは一般市民のふりをした犯罪組織のメンバーだ」と見なして摘発する、現代の治安維持法です。絶対につくらせるわけにはいきません。


※治安維持法…1925年に天皇制政府が制定した弾圧法。
 目的は、天皇制批判や社会主義運動、労働運動の取り締まり。団体そのものを罰する点でも、思想や研究を弾圧する点でも、前例がありませんでした。
 制定後、団体の目的遂行のための行為を一切禁止する「目的遂行罪」が加わり、自由主義的な研究や言論、宗教団体の教義・信条も処罰対象とされ、全国民を弾圧しました。最高刑は死刑。令状なしの捜査や取り調べ中の拷問・虐待が横行し、多数の死者を出しました。1945年、GHQの指令で廃止されました。

(民医連新聞 第1639号 2017年3月6日)

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