MIN-IRENトピックス

2017年7月4日

本人にとっての最善は何か? 多死社会の医療と介護にまたがる倫理を考える 第42期全日本民医連 医療介護倫理交流集会

 全日本民医連は六月三~四日、東京で医療介護倫理交流集会を開催。三八県連から三二五人が参加しました。今回で六回目、集会名に「介護」が入ってから二回目の開催です。テーマは「多死社会に向けた医療介護倫理」。終末期を含め、医療・介護の倫理的課題を深め事業所や職場での検討機能を高めるため、倫理を考える手順や方法論を学び全国各地の実践を交流しました。(土屋結記者)

 全日本民医連の根岸京田副会長が開会あいさつ。「今日をスタートに、倫理を議論できる人を増やし、その束を太くするきっかけに」と呼びかけました。
 医療介護倫理委員長の堀口信医師が問題提起しました。全日本民医連が四二回定期総会で提起した「医療・介護活動の新しい二つの柱」をもとに、「医療介護の倫理は、第二の柱の『医療介護の質の向上』の構成部分であると同時に、第一の柱の『無差別・平等の医療介護の実践』の基礎でもある」とし、倫理を扱う重要性を強調。今回のテーマのねらいを「高齢者・終末期の倫理的問題は病院以外でもあり、地域包括ケアがすすむ中では医療と介護が連携して倫理的課題を考える場面も増えています。両者に共通する倫理的課題を深めるため、多様な場面での終末期や看取りに関する課題を考えたい」と話しました。
 記念講演は、琉球大学医学部附属病院の金城隆展さん(臨床倫理士)が「臨床倫理とナラティブエシックス~立ち止まり物語る倫理のススメ~」と題して行いました。「臨床倫理の五ステップ」()を示し、臨床倫理の手順を紹介。その中で対話・協議する時の方法論としてナラティブを説明しました。また、日本の医療者はキーパーソンに頼りすぎ無意識に患者、利用者を置き去りにしてしまいがちだと指摘。独断・独善にならないよう「一人で決めない、一度で決めない」の民医連の大原則にも触れました。

図

倫理的ジレンマをテーマに

 シンポジウムは、「医療・介護にまたがる様ざまな場面での倫理的ジレンマ」をテーマに六事例とりあげました。
 前半の三事例は、介護、在宅医療の分野から。山梨・甲府中央地域包括支援センターの高山理恵さん(介護支援専門員)、北海道勤労者在宅医療福祉協会の阿部哲理さん(介護福祉士)、香川・生協みき診療所の石田瑞恵さん(看護師)が、介入を拒否する患者、利用者に対し時間をかけて関わり、本人の思いを引き出したとりくみを報告しました。「人間同士の関わり、コミュニケーションの大切さが再認識できた」、「医療・介護に関わる意思決定は、その人の人生に大きく左右すると理解しておかなければ」と感想が出ました。
 後半三事例は病院から。急性期・一般病棟での看取りの実情(竹本耕造さん、社会福祉士、埼玉協同病院)、「故郷に帰りたい」という本当の思いを探り患者の背中を押した事例(中澤幸久医師、愛知・協立総合病院)、気管挿管されてしまったDNARの患者事例(林浩三医師、北海道・勤医協中央病院)の報告が。DNARについては、金城さんから「具体的、限定的な条件での心肺蘇生をしない指示で、治療全般を控えたり、助かる場面で救命しないことは、本来の意味ではない」と説明がありました。

*     *

 開会前の一日目午前には倫理初級講座を行いました。「カード方式の倫理カンファレンス」と題して、金城さんを講師に「生命予後が数カ月の患者に経管栄養を続けるか」という事例で倫理カンファレンスを模擬体験。数人のグループになり、一人ひとりに患者情報が書かれたカードを配り、互いに質問しながらその情報を引き出して患者像を明らかにし、最善の方法を探りました。
(なお、本集会の詳細は『民医連医療』10月号で特集予定です)

※ナラティブ…「物語」と「語り」の二つの意味が含まれる。語り手と聞き手の中で物語が循環する様子、状態がナラティブ。例えば、医師が患者の物語を真剣に傾聴し、自らの医学的診断を「医師側の物語」として患者さんに返し、そこから病の物語を共に紡いでいくこと。


5テーマで分科会

意思決定支援、看取りでの多職種連携など

 二日目は五テーマで分科会を行いました。

【第1分科会】

身寄りなく意思能力のない人の意思決定支援

 青森・健生病院の安田肇医師が、三年間で倫理委員会に寄せられた事例の約半数が、身寄りがなく意思能力の低下した患者の意思決定だった、と紹介。症例報告として、「家庭訪問を通して親族と連絡を取り、患者本人の人生を知り治療方針決定に活かした事例(愛媛生協病院)」、「病棟での多職種倫理カンファレンスや医療倫理委員会を活用し、患者の権利を擁護する努力をした経験(京都民医連第二中央病院)」などがありました。
 教育講演に、青森・健生病院の高僖晙医師が「患者の判断能力をどう評価するか」、弁護士の藤井篤さんは「判断能力の無い患者の医療同意について」と題して行いました。

【第2分科会】

看取りでの多職種連携のエアポケット

 保険薬局が連携の中心となった経験。静岡・たまち薬局は調剤・指導にとどまらず、「積極的に地域に出る、連携会議に参加することを心がけている」と報告しました。東京・ケアタウン小平訪看STは、終末期患者のリハビリでのセラピストの働きについて。技術や結果だけにとらわれず、患者や家族の思いを聞き、精神的にもささえる存在としての関わりを報告しました。東京・北多摩クリニックでは、法人内アンケートで多職種連携の難しさを多くの職員が感じているとわかり、「倫理的課題が潜んでいるのでは」と注目。「きたくりりんりんかふぇ」を立ち上げ、地域の事業所にも開放し、臨床倫理コンサルテーションや学習会などを報告しました。

【第3分科会】

認知症のケア

 神奈川・汐田総合病院の宮澤由美医師が、「認知症ケア―症状からの攻撃性・興奮状態と行動制限」のテーマで教育講演。
 事例報告は、「介護拒否がある利用者に対し、症状の理解から始め、本人の気持ちをくむ工夫で介護を受け入れられた事例(鹿児島・デイサービスセンターにじの郷たにやま)」、「症状が強い患者に対し家族と対話を重ね病状を受け入れてもらい、本人にとって最良の療養先を選択できた事例(福岡・みさき病院)」、「向精神薬を増量したところADLが低下してしまったため、職員の学習をすすめ利用者のアセスメントからその人に合った対応方法を模索した事例(大分・医療生協ケアホームたかまつ)」の三つでした。

【第4分科会】

介護現場での倫理的課題について

 「正しい“看取りの意思確認”の仕方」と題して、日本臨床倫理学会理事の箕岡真子医師が教育講演。「本当に適切な看取りの意思確認ができているか?」と、医学的・倫理的・法的なルールを確認し、現在行っている意思確認が正しいのか考えました。長野・上伊那医療生協が法人倫理委員会のとりくみを報告。全職員で一人ひとりの人生経験を聞き取り、カルテに書き込む「物語られるいのち」などを紹介しました。

【第5分科会】

倫理委員会の機能と職員教育

 教育講演は記念講演をした金城さんが「組織的に倫理をするということ」と題して、琉大附属病院での倫理委員会の機能と職員教育について紹介。中澤栄輔教授(東京大学)が「倫理委員会とはなにか 概念整理と問題点の提起」として、倫理委員会の成り立ちや役割などを解説しました。大阪・耳原総合病院からは、「すぐ相談したい」というERの要望にも応えている院内倫理委員会のとりくみ。石川民医連から、県連倫理委員会のとりくみで県連単位での学習会や事業所に出張して委員会を開いている報告がありました。

(民医連新聞 第1647号 2017年7月3日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ