MIN-IRENトピックス

2017年12月29日

医療と介護の倫理 
「本人の意思を尊重する(1)」

堀口信(全日本民医連 医療介護倫理委員会 委員長)

 認知症があるからといって、意思決定能力が全くない、意思がないわけではありません。たとえ重度の認知症でも適切にサポートすれば、口から食べられなくなった時に胃ろうを造るかどうかなど、重要な意思決定に本人も関わることができます。認知症の医療では、この「意思決定支援」が重要です。
 具体的な支援方法については、京都の多職種研究チームが開発した「認知症の人への医療行為の意思決定支援ガイド」があります。
 これは認知症でも、適切に本人の能力を捉え、能力を引き出すためのサポートをすることで、本人の希望に沿った医療が提供できることをめざして作られたガイドです。
 急変時や口から食べられなくなった時にどこまで医療を行うのか。本人の意思が分かりにくい場合、医療者はまず家族に相談します。家族自身の希望ではなく、本人の元々の希望や、「本人だったら多分こう望むはず」という“推定される本人の意思”を家族が医療者に伝えることは、意思決定支援の第一歩になります。この時点でまだ本人の意思が分からなくても、複数の家族で話し合ったり、本人に根気よくたずねて反応をみることも大事です。

特養の胃ろう選択

 特別養護老人ホーム(特養)には、「ここで最期を迎えたい」と希望する人も大勢います。特養で口から食べられなくなった時、胃ろうなどの人工栄養法を行うかどうか、選択をすることになります。
 北海道民医連の特養「かりぷ・あつべつ」(札幌市)の仲紘嗣医師が、入居者自身の胃ろう選択の意思を調査しています(日本仏教心理学会誌第8号=2017年6月=掲載)。
 仲医師は同施設の5年間の入居者151人を調査。8~9割は中等度以上の認知機能低下の方でした。入居者の中で胃ろうを造った人は18人。このうち12人は本人の意思を確認できず、4人は拒否的な意思表示をしていましたが、いずれも家族の希望と当時の施設の方針で造られました。残り2人のうち1人は本人が他施設入居時に希望、もう1人は夫の意見に従うと述べていました。
 一方、胃ろうを造っていない133人のうち、12人が胃ろうに対して拒否的な意思表示をしていました。
 151人全体でみると、中等度以上の認知症でも18人は胃ろうについての本人の意思表示があり、そのうち16人が拒否していました。

意思を尊重する難しさ

 本人の意思にかかわらず胃ろうを造った事例を紹介します。高齢の女性で誤えんによる肺炎で入院し、口から食べることが難しいため胃ろうを検討しました。
 医師と看護師が別々に本人の意思を確認したところ、明確に拒否しました。しかし、家族の強い希望で胃ろうが造られました。介護施設に戻ってからは、胃ろうからの栄養注入のたびに手足を激しく動かして抵抗しました。
 仲医師は先の報告の中で「医療そのものが、本人の意思のみで行われるのではなく、病態に応じての医学的判断あるいは医師の良心に基づいての診断・治療が行われる場合もある(中略)。高齢者がそのような医療を望まない場合、家族・医療者双方の了承を得るには、当事者の相当の決意がなければ達成できない」と述べています。
 また「日本人には自分の意思・意見を通すより、家族の意思に従うという傾向があるので、ことはそう簡単ではない」とも指摘しています。
 人生の最期が近づいた時、最後まで本人の意思を尊重することの大切さと難しさに今、私たちは直面しています。

いつでも元気 2018.1 No.315

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ