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2018年1月31日

保険はずして『元気でまっせ』? 
介護保険“卒業”の実態・大阪府大東市

文・写真 奥平亜希子(編集部)

 2017年4月から全国で始まった「総合事業」。
 大阪府大東市は2016年4月にスタートしましたが、介護保険からの強引な“卒業”を進め、
 必要なサービスが受けられない事態が起こっています。

 大東市は超高齢社会に立ち向かうための方法として“3本の矢”を提案し、市民に協力を呼びかけています。

(1)介護予防の強化 住民主体の通いの場を増やし、大東市が作成した「大東元気でまっせ体操」を普及する。
(2)介護専門職以外の新たな支え手の確保 比較的元気な高齢者による「生活サポーター」を活用する。
(3)介護保険の上手な使い方をみんなが知る できることは自分でやり「自立」を目指す。

 一見すると、市が住民の集う場を積極的に作り、地域住民と協力し、介護保険の学習を進めていく内容にも思えます。しかし、この3つの提案は介護サービスからの卒業=保険外しが真の目的。具体的には、従来の介護サービスから「元気でまっせ体操」や「生活サポーター」などの住民主体事業(住民による有償ボランティア)への移行を進めています。

要支援の方の訪問介護(ホームヘルプサービス)と通所介護(デイサービス)を、介護保険から切り離し自治体が新たに設定したサービスに移行させるもの。

サービスは削減 
保険料は値上げ

 住民主体事業は、本来であれば介護保険の制度として資格を持ったヘルパーが行うところを、2日間の研修を受けた一般市民がサービスを請け負うもの。窓口まで本人が歩いて来られれば「自立」、這ってでもトイレに行くことができれば「自立」として、要介護認定の申請を水際で引き止め、住民主体事業へ誘導しています。
 市の担当者は「介護保険サービスを使う人が増えれば増えるほど、介護保険料も高くなっていく。逆に使う人が減れば、介護保険料は減らすこともできます」と述べています。
 2016年度は135人が要支援から“卒業”となりました。その他の削減分と合わせると、介護給付費は年間1億2000万円減。2017年度は倍の2億4000万円を削減する予定です。一方で、市は介護保険料の値上げを明言しています。
 市は市内の介護事業所に対し、利用者が卒業したら「卒業加算」、総合事業のサービスに移行したら「移行加算」として事業所の収入が増える仕組みに。一定数の卒業や住民主体サービスへの移行がないと、要支援のサービスを行えなくする「更新拒否」の“アメとムチ”の政策を打ち出しています。
 市が勧める住民主体事業に地域の人たちが出向き、前向きに体操などを行った結果、体調が回復し要支援から外れる人がいる一方で、サービスが受けられなくなり症状が悪化してしまう人が出ています(実例参照)。

大東方式を全国に
広げさせない

 大阪社会保障推進協議会と大東社会保障推進協議会は、昨年11月17日に大東市で「介護保険総合事業現地調査」を行い、市内外から220人が参加しました。
 市内の介護事業所への聞き取り調査や、住民主体の集いの場の見学、「元気でまっせ体操」の体験など、6つのコースに分かれ行動しました。
 大阪社保協の寺内順子事務局長は「大東市のやり方は、介護保険を利用できないサービスにし、卒業させた人を自立どころか孤立させています。住民主体事業は事故が起きた場合の責任の所在も曖昧で、これから制度として10年20年先まで継続する保障はありません。しかし国は大東市のやり方を“先進例”として広め、今後進んだ取り組みを行う自治体には交付金を出す方向で話し合われています。自立支援の名の下に『大東方式』を取り入れる自治体が増える可能性は大いにあります」と危惧します。

「現地調査」参加者が大東市役所前でアピール行動(11月17日)

「現地調査」参加者が大東市役所前でアピール行動(11月17日)

 全日本民医連・介護福祉部の林泰則事務局次長は「総合事業には、そもそもサービスの打ち切りや、要介護認定の申請さえ受け付けないことが可能な仕組みが組み込まれています。総合事業をどう実施するかは市町村に委ねられるため、必要なサービスが確保され、受給権を侵害しない内容で実施するよう市町村に求めていくことが必要です」と述べています。


大東市で起きている実例から

■ヘルパーから生活サポーター(有償ボランティア)に変更になったが、サポーターは高齢の男性で頼んだことをなかなかしてもらえない。米2kgを頼んでも「安かったから」と10kg袋を買ってくる。一人では食べきれず、虫がついた。
■これまでデイケアと訪問リハビリを行っていたが、4月から訪問リハビリは受けられなくなった。5月から腰痛がひどく、動くのがつらくなり受診できないときもある。歩行はグラグラで不安定だが、介護認定は要支援2のまま。
■医師が通所リハビリを必要と判断したにもかかわらず、市のリハビリ職が認めず、自宅でDVDを見て「元気でまっせ体操」を行うように指導された。通所リハビリでの入浴も利用できなくなり、代わりに風呂場に手すりを付ける住宅改修を行ったが、結局1人では入浴できなかった。状態が悪化して要支援1から要介護5になり、今は入院している。
■「元気でまっせ体操」に行きたいが、その場所まで行くことができない。タクシーを利用するのは、年金暮らしで経済的に無理。
■要介護から要支援になり、デイサービスの中止を提案された。デイサービスに行っている日が家族にとって唯一の休息を取れる時間だったため、市に直談判。継続して利用できるようになったが、直談判できない人はあきらめているのではないか。
■要支援1の男性。これまでデイサービスに行っていたが、昨年から利用できなくなった。それでも必要なので、自費で利用している。

いつでも元気 2018.2 No.316

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