いつでも元気

2018年6月29日

思いを乗せる無料バス 奈良

文・武田力(編集部) 写真・若橋一三

坂の多い住宅街を小回りしながら走り抜ける

坂の多い住宅街を小回りしながら走り抜ける

 吉田病院(奈良市)は「平和会健康友の会」と協力して、病院周辺の交通が不便な地域を巡回する無料バスを走らせています。
 昨年6月、週1回からはじめた取り組みは今年に入って週2回に増え、住民にとても喜ばれています。

 バスは午前10時に吉田病院を出発。普段は病院で患者さんの移動用に使っている小型バスを利用して、周辺の住宅街や駅を経由する約50分のコースを巡回します。住宅街の路地にもこまめに入り、何度かUターンしながら坂が多く狭い道を走り抜けます。
 30分ほど走ったところで、敷島町の児童公園前から「買い物に行く」という老夫婦が乗り込んできました。夫が80歳を過ぎた時に息子さんから車の運転を止められ、免許を返上。タクシーは「3日前から予約しなければ来てくれない」ほど予約で混み合っているとのこと。「バスはありがたいし助かっているよ」と笑顔です。
 近鉄・あやめ池駅から終点の吉田病院まで乗った70代の女性は、自転車でバランスを崩してけがをしそうになったことを話しながら、「望んでいたバスです。(友の会が実施した)アンケートにもそう書いたのよ」とうれしそうに話してくれました。
 バスを運転していた長井静男さんは「みなさんの足になって地域に貢献している」と、利用している方々の喜びを肌で感じている様子です。

運転手の長井さんがエスコート

運転手の長井さんがエスコート

アンケートを全戸配布

 地域にバスを走らせたきっかけは、班会で出された友の会員の声でした。「病院の周辺には、坂が多くて交通が不便な地域がある。特に病院に近い敷島町は高齢化が進み、出歩けず困っている住民が多くいるのでは…」。
 友の会員と職員が協力して、バスの需要があるかどうか調べるアンケート調査を実施。班会で話題になった地域にはアンケート用紙を全戸配布しました。すると「このままではこの地域に住み続けるのは困難。助けてください」「(バスが走れば)必ず利用します」という切実な声が届きました。
 平和会の法人組織課で友の会を担当していた柴田なおさんが事務次長の桝井隆志さんに相談。「困っている人がいるなら病院で使っているバスを利用して、週1回からでも始めてみよう」と話が進みました。
 友の会員が実際にバスに試乗しながらコースや停車場所を決定。バスが通る地域の自治会長さんたちに申し入れると、回覧板だけでなく会合で声をかけて宣伝してくれるなど、反響が広がりました。

ボランティアが活躍

 病院の小型バスが地域を走っている間、患者さんの移動用に代わりの軽ワゴン車を確保。ところが、その軽ワゴン車を運転する人がいません。柴田さんは病院のボランティア委員会などとも相談しながら、機関紙でボランティアを募集することに。吉田病院では、外来受付や敷地内の植栽など、以前からボランティアが活躍する仕組みができていました。運転手として名乗りをあげたひとり、荻田見次さんは「お役に立ててうれしい。体が動くうちはできる限り続けたい」と意欲的です。
 「地域住民が困っている課題を見つけ、病院だけでは解決できない問題でも友の会員さんやボランティアさんの力を借りて前進させることができた。小さな一歩ですが、貴重な経験になったと思います」と柴田さん。
 本来は自治体が責任をもって推進すべき施策との思いもありますが、「自分たちでやってみて、実績を見せたほうが自治体にも説得力をもって要求できる」と桝井さん。「1日1周だけでなく帰りの便も」「週3日以上運行してほしい」――地域の人々の声を受けとめながら、無料バスの夢は広がります。

いつでも元気 2018.7 No.321

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