MIN-IRENトピックス

2018年7月31日

けんこう教室 
脳梗塞

滋賀・医療生協 こうせい駅前診療所 佐々木隆史

滋賀・医療生協
こうせい駅前診療所
佐々木隆史

 日本では脳卒中が長く死亡原因の第1位を占めていました(現在は第4位)。“卒中”とは発作的に急激な症状を起こすことを言います。医療技術の進歩もあって脳卒中による死亡率は減ったものの、高齢化でその患者数は増えています。たとえ命が助かったとしても麻痺などの後遺症が残ってしまう場合があり、依然として恐ろしい病気です。

種類

 脳卒中は血管が破れて起こる「くも膜下出血」「脳出血」と、血管が詰まって起こる「脳梗塞」に分けられます()。かつて脳卒中で死亡する人の大部分は脳出血でしたが、現在は脳梗塞が他の2つを上回っています。
 今回のテーマである脳梗塞は「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性梗塞」「心原性脳塞栓症」の3つに分けられます。
 患者の半数近くを占めるラクナ梗塞は、脳の細い動脈が高血圧のために損傷を受けて詰まってしまい、脳の深い部分に小さい梗塞巣ができるものです。小さい領域なので症状は軽いことが多いのですが、繰り返し起こると手足の動きが鈍くなったり、認知症を引き起こすことがあります。
 アテローム血栓性梗塞は、頭蓋内の比較的大きな動脈の硬化(アテローム硬化)が原因となって起こります。アテローム硬化によって動脈が狭くなったところに血栓(血の塊)ができて詰まったり、その血栓がはがれて流れ出し血管を詰まらせたりします。
 心原性脳塞栓症は、心臓にできた血栓がはがれて流れ出し、脳の動脈を詰まらせることによって起こります。心房細動や心筋症など、心臓病を患っている方は要注意です。

脳梗塞の前兆

 脳梗塞のような症状が「15分だけ続いて治った」という人がいます。これは「一過性脳虚血発作」といって、脳梗塞が起こったが短い時間で脳の血流が回復し、症状も軽快した場合です。「良かったですね」と言いたいところですが、実は脳梗塞の前兆である場合が多いのです。速やかに受診して検査・治療を始めれば、その後の脳梗塞発症の危険を減らすことができます。必ずかかりつけ医や総合病院を受診してください。

症状

 脳梗塞の症状として「突然手足が動かなくなる」が有名ですが、「突然しゃべれなくなる、ろれつ困難になる」「突然ふらついてまっすぐ歩けなくなる」などの症状も覚えておいてください。脳梗塞の場合、「何時何分から」と分かるくらい突然症状が出現します。
 脳の細胞が損傷するためにさまざまな症状が現れますが、脳のどの部位に起きたかによって症状は異なります。大脳に起きると、体の半身の運動麻痺(片麻痺)や感覚障害、言語障害が現れます。脳幹や小脳に起きると、ふらついて手足がうまく動かせない(体幹・四肢失調)、物が2つに見える(複視)、意識障害などが現れます。

治療

 脳梗塞で脳の血管が詰まると、時間が経てば経つほど脳の神経細胞は傷み、壊死の範囲は広がっていきます。早期受診・早期治療が決定的に重要です。
 脳の細胞が死んでしまう前に血栓を溶かし、血流を回復させる治療が「血栓溶解療法(t―PA治療)」です。この治療は、発症後4時間半以内なら実施することができます。他の治療よりも症状の回復率が高いので、疑わしい症状があったら夜間でも迷わず救急車を呼んでください。発症後4時間半を過ぎると効果が激減し、脳出血などの合併症が起きやすくなります。

高齢者は特に注意

 高齢者の中には、血管の中にコレステロールがたまるなどして、動脈硬化(血管が厚く硬くなる)が進んでいる人も多くいます。血液の流れが悪い状態は、脳梗塞を発症する危険につながります。
 また、脳梗塞は夏に多く発症します。気温が高くなると、体内の熱を発散しようと血管が拡張して血圧が下がり、血流がとどこおりがちになります。さらに汗をかくことで水分が不足して血液が濃くなり、血管が詰まりやすくなるのです。

脳梗塞の応急処置

 周囲に声をかけるなどして、すぐに救急車を呼んでください。
 なるべく頭を動かさないように、静かな場所に寝かせます。
 衣服はゆったりできるよう、胸のボタンをはずし、お腹のベルトはゆるめてください。このとき枕を後頭部に置かずに、首の下や肩に当てたほうが楽に呼吸できます。嘔吐があるようだったら、顔を横に向けて、吐瀉物が気管に入らないようにします。

予防

 予防で大切なのは、脳梗塞を引き起こしやすくする要因を減らすことです。危険な要因とは高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、飲酒、肥満、運動不足、年齢、遺伝など。なかでも高血圧は、脳梗塞の最も危険な要因です。
 体の不調や病気の症状がなくても、毎年1回は健康診断を受けてチェックしましょう。問題があれば喫煙・飲酒・運動不足などの生活習慣を見直す必要があります。生活習慣病と診断されたら、医療機関と相談しながら上手に付き合うことも大切です。
 「高血圧と診断されたら一生薬を飲み続けなければならないので、健診は受けない」という人もいます。高血圧は“完治”にはなかなか至りませんが、上手に付き合って、やりたいことをやり続けられる体を維持することが大切です。
 「予防に良いと聞いたので、血液サラサラの薬をください」というご要望も診察室ではよく聞きます。ワルファリンやアスピリンなどの抗血栓薬のことを言っているのでしょう。
 しかし、抗血栓薬は血栓をできにくくする効果がある反面、出血が起こりやすくなるという副作用があります。また、アスピリンには粘膜障害を引き起こす副作用もあります。ピロリ菌が多く、胃の粘膜が炎症を起こす胃潰瘍にかかりやすい日本人には積極的に勧められません。いずれも高齢者への処方には注意が必要です。
 サプリメントに関してはなおさらです。あなたの年齢、持病、体質、家族歴、健康観などを含めて、かかりつけ医・家庭医と相談して使用するかどうか決めてください。

寝る前にコップ1杯の水?

 「テレビで言っていたので、脳梗塞予防のために、寝る前にコップ1杯の水を飲んでいる」という方が多くいます。これまでの研究で、寝る前の1杯の水が脳梗塞予防に有効であるとの結論は出ていません。飲んで悪いことはありませんが、夜間にトイレに起きて不眠に陥り、睡眠薬をもらってふらついて転倒・骨折――。そんな方を今まで多くみています。脱水は脳梗塞につながる危険な要因の1つですが、日中に水分をきちんと摂れば夜によほど汗をかかない限り脱水にはなりません。

不安の解消も!

 「手がしびれたりふらふらするが、脳梗塞の前兆ではないのか?」。かかりつけ医として、このような相談をよく受けます。16ページ「脳梗塞の前兆」で説明した一過性脳虚血発作を疑う症状は別として、単なる手のしびれやふらつきは脳梗塞の前兆とは言えません。
 緊急に受診すべきか、頭部MRIなどの検査を行うかどうかは、その時の症状やあなたが脳梗塞の危険因子をどれだけ持っているかによります。不安ならかかりつけ医に相談するのが良いでしょう。医師が脳梗塞の可能性は低いと判断しても、不安は消えないかもしれません。検査を希望するなら、率直に医師に伝えてください。
 不安というのは、さまざまな症状を引き起こします。あなたの心の状態によって、しびれやふらつきがより強くなるかもしれません。不安の解消はとても大切なことです。WHO(世界保健機関)が提唱する「健康の社会的決定要因」には、気軽に医療機関にかかれない金銭的問題や交通機関の問題、不安を1人で抱えるしかない社会的孤立などがあります。共同組織のみなさんと一緒に、これらの解消に向けて努力していければと思っています。これも立派な脳梗塞の予防の1つです。

脳梗塞のもとになる悪い生活習慣

●危険因子となる生活習慣
・塩分の摂り過ぎ
・糖分の摂り過ぎ
・脂肪の摂り過ぎ
・過度の飲酒
・食べ過ぎ
・喫煙
・運動不足

●きっかけとなる生活習慣
・適度な水分補給を忘れる
・寝不足
・過労
・長風呂、熱い風呂に入る

いつでも元気 2018.8 No.322

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ