いつでも元気

2005年12月1日

特集1 ずさんなアメリカのBSE対策 米国産牛肉このまま輸入再開でいい?

視察ビデオからみえてきたものは

話し合った人

石黒昌孝さん
(農民連食品分析センター所長)

赤嶺琢哉さん(33)
(全日本民医連事務局・沖縄から出向中。牛肉大好き青年)

相原政恵さん(31)
(川崎セツルメント診療所職員。
3歳と6歳の男の子のお母さん)

 BSE(牛海綿状脳症)問題で二〇〇三年末から停止していたアメリカ産牛肉の輸入。この一二月の輸入再開にむけ、動きが早まっています。アメリカに BSE視察団を派遣した農民運動全国連絡会(農民連)と国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(食健連)は「アメリカの対策は、ずさんを通り越してBSE をみつけないための対策」と告発します。食健連が作成した「ノーモアBSE」のビデオをみて、三人で話し合ってもらいました。

日本のBSE対策は?

 相原 ビデオをみて、アメリカのBSE対策のずさんさには驚きました。うちはハンバーガーショップとかにはあまり行かないし、BSE問題のニュースは見ていますが、「食べないでおこう」というくらいの意識しかありませんでした。
 赤嶺 牛肉好きにはまったく腹立たしい。日本のBSE対策は?
 石黒 日本では〇一年に千葉県白井市で一頭目のBSEの牛が見つかり、四つの対策をとりました。
 一つめは、今後屠畜される牛はすべて全頭検査をする。ウェスタンブロット法で検査し、異常なしでなければ一般市場には出さないと。これは脳の中にある延 髄をとってすりつぶし、電流でたんぱく質を分離し、異常プリオンの有無を調べる感度の高い検査です。
 二つめは、危険部位とされる脳、脊髄、回腸(腸の丸まっている部分)などを全頭で全部除去し、燃やしてしまう。
 三つめに、牛の解体後の肉の残渣や皮や骨などを燃やしてしまう。これらを乾燥して、粉砕したものが肉骨粉で、エサとして使われていました。危険部位や肉 骨粉を食べることでBSEになるといわれていますので、全部燃やしてしまう。イギリスやEUでもそうしています。
 四つめに牛の耳に番号をつけて、どこで産まれてどこで育って、どこで売られたか追跡できるようなシステムをつくる。 日本はこの四つをがんばってやって いるのですが、アメリカは、どれもやっていません。一応三七万頭の検査をしているようですが、全部で三五〇〇万頭いますから、約一精にすぎない。検査方法 も明らかにしません。
 赤嶺 なぜ、ちゃんと検査をしないのでしょう。
 石黒  アメリカの場合、屠畜から肉にするまで、タイソンなど、大きい会社が自社で全部やっています。日本の場合はたとえば東京の品川の屠畜場は都が管理し、検査 をしていますが、アメリカは企業の中でやります。もしBSEが出ると、評判が落ちて売れなくなるので、できるだけ危ない牛は検査をしないようにしているの です。
 検査はどこで、どういう手法でやっているのかを食肉輸出連合会に質問したら、「テロに攻撃されるので、食品の検査をどこでやっているかはいえない」と。 危険部位については、三〇カ月齢以上の牛(全体の一割以下)は全部除去するといっていました。
 ところがそれさえも、検査官労組のカーペンター委員長は、「ちゃんとやっていませんよ」と。アメリカでは歯がある程度抜け替わったら「三〇カ月齢」とい うような雑な決め方なのです。それに除去した特定部位は、乾燥して粉にして餌に混ぜている。解体中に肉に混じってしまうこともあるといいます。
 アメリカは肉骨粉については九七年に禁止したことになっていますが、「牛に食べさせてはいけません」というのが袋に張ってあるだけで豚や鶏には食べさせ ています。それから屠畜場で血がたくさん出ますが、これも牛の成長に必要なたんぱく質として、食べさせています。
 アメリカで発生したのは今二頭ということになっていますが、もっといるのではないかという見解があります。
 相原 そんな危険な状態なのに、なぜ日本政府は輸入再開を急ぐのでしょう。
 石黒 アメリカからの圧力も非常に強く、ブッシュ大統領やライス長官は日本の大臣に会うたびに、まだかまだかと催促する。二〇カ月齢以下の牛だから大丈夫と、輸出プログラムをつくっています。
 一つはこの牛が二〇カ月齢以下だという判定基準は、肉質や骨のかたちなどからアメリカ政府が責任をもって決めるというのです。それからもう一つは、日本 に行く牛については危険部位は除去すると。しかし、今でも三〇カ月齢以上しかやっていないのに、全部ちゃんと除去できるのか疑問です。生まれてからどのく らいたっているかをきちんと証明できるしくみをつくりなさいというと、〇九年になったらつくりますという。
 農務副次官に会って、「あなたの国のカリフォルニア大学教授で異常プリオンでノーベル賞をもらったプルシュナーという人が蕫日本のように全頭検査をやる べきだ﨟とおっしゃっている。やればいいじゃないか」というと、「そんなことはできません、やってもムダです」という見解でした。

米の大会社には日本は貴重な客

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「ストップ狂牛病」と訴えるアメリカの消費者団体の人たち

若い世代にヤコブ病発生

 石黒 いまアメリカではヤコブ病で亡くなる方が年間三〇〇人います。もちろん遺伝性や硬膜 移植などが原因の場合もありますが、その場合は六〇歳以上で発生するといわれています。ところが二〇代から四〇代で発生しているのです。それも普通なら一 〇〇万人に一人くらいなのに、地域でまとまって発生している。とくに多いのがニュージャージー州です。ニュージャージー州では危ない牛を処理して、競馬の 馬に食べさせていますが、同じ肉をミンチにし、安いハンバーガーにして低所得者が食べている。そういうところで発生している病気が、変異型ヤコブ病なのか どうかという検査はやらせないのです。その上で「アメリカはヤコブ病になった人は一人しかいない、日本も一人だから同じだ」というのです。
 相原 アメリカの消費者は、牛肉対策についてどう思っているのでしょう。日本に輸出しようとしている肉と、アメリカの消費者が食べる肉は同じものなのかとかも、ちょっと気になるところです。
 石黒 私たちが会った消費者団体の人は、「日本は買 い手だ。買い手が全頭検査をしてくれというのなら、すればいい」といっていました。アメリカでは牛肉は輸入の方が多く、輸出は少ないのです。オーストラリ アやカナダから輸入して、輸出は日本や韓国などです。ですからアメリカの農民も消費者も、日本に売れなくても別に困らない。困るのはもうけ損なう大きい会 社だけです。クリークストーン社みたいに、ちゃんと全頭検査をし、日本の要求に応えようとする会社もあるのに、「やったら処分するぞ」と脅かして、アメリ カ政府がやらせない。消費者に対しては農務省は「安全なんだ」の一点張りです。
 相原 それで納得しているのですか。
 石黒 消費者はあまり危険を知らないから。ステロイ ド剤の一種である人工成長ホルモンを牛に使うと、早く太ってオッパイもよく出ます。アメリカの肉牛は九割以上で使っている。その成長ホルモンが働くにはた んぱく質や油が必要だから、肉骨粉や牛脂をどんどん食べさせているんです。そんなこともあまり知らされていないのです。
 とにかく大きい会社にとっては、日本は貴重な客です。アメリカではぜんぜん食べない牛タンや横隔膜のところにあるハラミをちゃんとした金で買ってくれる と。それから牛肉の安い部分や脂を欲しがると。吉野家の牛丼は、そういうハラミとか、脂を入れてつくっていますから。
 相原 子どもたちは牛肉大好きです。本当に心配になりますね。
 石黒 日本と同じくらいの検査体制とか予防対策をやってくれればいいと思うのです。日本が全頭検査をして発見した二〇頭のうち一頭は二一カ月齢です。ヨロヨロした牛ではなくて、健康な牛からも見つかっているのですから、アメリカのやり方だけだと安心できません。

安心して食べたいだけなのに

 赤嶺 僕は本当に牛肉大好きです(笑い)。出身は沖縄ですから、牛肉は安くて月に一度はステーキハウスに行っていたし、それも一枚ではなく多いときは二枚、三枚と食べます。大食いでもありますが、やっぱりおいしいから。
 でも「おいしい」の裏に危険性を除去する努力をしていない、むしろ危険なものを食わせるというのが信じられない。野菜も低農薬とか有機栽培というものに 変わってきましたよね。それは、体に悪いものは売らないというか、売れないからなのに、なぜ体に悪いものを売ろうとするのか不思議です。それもアメリカの ごり押しというのがまたよけい腹が立つ。
 ご存知のように沖縄は基地の町でもあります。基地と同じような感じで、食事まで危険にさらされるというのは、憤まんやるかたない。
 石黒 アメリカの消費者も「押しつけて、これで安全だから食べろというのは変じゃないか」といっています。
 赤嶺 買ってあげるからおいしくて安全なものをもってきなさい、というのが今の世の中でしょう。
 相原 買う方、食べる方が安全を求めるというのは、あたり前のことですよね。
 石黒 そうですよね。だから、安心できるものを食べ たいということで、日本では全頭検査もやっています。輸入は再開するとずっと続く。今度もしそれでいいということにすると、検査なしで輸入するということ になるわけです。内臓だってどれが二〇カ月齢以下の牛からとったものか、わからないですよね。内臓は内臓でまとめられちゃうのですから。
 輸入再開を決める第一段階は食品安全委員会です。安全委員会に対して、日本と同じ条件になったら、認めるということにしてほしいと、ハガキ運動などに取 り組んでいるところです。厚生労働省の意見募集に対して、九割くらいが全頭検査をきちんとやらせるべきだという意見が出ています。世論に従ってちゃんとや りなさいと政府に対して交渉したり、世論を喚起する上でいろいろ運動をやろうと思っています。
 われわれがいっているのは、とにかく安全が保障できるやり方を相手の国にとらせてくださいということ。日本と同じ対策をとらない限り、輸入再開するなといっているのです。

今がんばることが将来につながる

 相原 私もそうですが、BSEの問題に関して、日本の消費者も深く知らないと思います。 もっと消費者にもわかりやすい情報が必要だなと思いました。牛肉を安心して子どもたちに食べさせてあげたい。子どもも大きくなって自分で食事をするように なります。危険な肉を野放しにしておきたくない。今のアメリカ産牛肉の危険性をもっと私たちが理解して、声をあげていかなければいけないのかなと思いまし た。
 ビデオの中でも、日本の消費者が声をあげていけば、アメリカも変わるということをいっていましたよね。
 赤嶺 結局、今の政府は私たちの安全を守ってくれな いし、アメリカ産を買わなきゃいいということではすまない。こういう危険性のあるものは、一つ一つつぶしていかなくては、自分たちの安全を守れない。それ こそ自分の責任として声をあげていくということが大事ですよね。みんなと手をつないで大きい声にしていかないといけないなと感じました。
 石黒 消費者団体も、きちんと日本の基準を守らせな さいという声が強いのです。厚生労働省や農水省が意見を聞く場所を設定すると大勢行ったり、意見募集についても意見を出したりしています。労働組合や民主 団体やそういう関心をもっておられる方がみんな声をあげるようにしていけば、安全委員会でがんばっている人たちも、元気づけられるのでは。そういう動きは 広がっていますので、くい止めることは十分できると。でも、アメリカの圧力も強いのも確かです。
 ヨーロッパではBSE以外にも、ホルモンを使ったアメリカの牛肉を食べると末端肥大症になったりがんが発生するといって、輸入を長年拒否しています。で すからそういういろいろな経験を見れば、必ずしもアメリカのいいなりにならなくたってやっていけるはずです。
 今ちゃんとやっておくことが、将来子どもたちに安全を残すということにつながる。憲法や、基地問題と同じですね。ここでみんなで力を合わせて、何とか守 り抜いていくということで食の安全も守れるのでは。ご一緒にがんばっていきたいと思います。

写真・酒井猛

ビデオ「ノーモアBSE それでもあなたは食べますか~食の安全とBSE根絶をめざして~」(30分、3500円)。
 申し込みは食健連03-3372-6112

いつでも元気 2005.12 No.170

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