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2019年4月16日

国保料(税)生活の負担に 社会保障は国の責任で

 国民健康保険(以下、国保)は、医療を受ける権利を社会的に保障する公的医療保険のひとつです。高すぎる国保料(税)の問題は統一地方選挙、参議院選挙でも重要な争点。これまで市町村が財政運営していましたが、2018年度から都道府県が責任を担うようになりました。高い国保料(税)がさらに引き上げられる?! 国保料(税)のしくみを取材しました。(代田夏未記者)

 国保はすべての人びとの「受診する権利」「健康になる権利」「生きる権利」を保障するために、国民すべてが何らかの公的医療保険制度に加入する「国民皆保険制度」の土台として整備されてきました。公的医療保険には、協会けんぽや組合保険、共済組合などの被用者保険と、国保、後期高齢者医療保険の3つがあります。
 国保加入者の世帯主で最も多いのが無職です。次に多い被用者(労働者)と合わせると8割に上りますが、被用者の多くは派遣などの非正規労働者の増加によるものです(図1)。50年ほど前まで多かった農林水産業や自営業は、年々減少しています。

■不公平な国保料(税)

 国保料(税)には(1)前年の所得に応じた所得割、(2)資産に応じた資産割の“応能部分”、(3)世帯の国保加入人数による均等割、(4)世帯に対する世帯割・平等割の“応益部分”があります。各自治体は(1)~(4)を組み合わせて国保料(税)を計算します。“応益部分”はほかの医療保険にはありません。均等割は生まれたばかりの赤ちゃんも含まれます。世帯の人数が多いほど国保料(税)は高くなるのです。国保だけにあるこうしたしくみが負担を重くしています。
 同時に、1984年からの医療費抑制政策で、50%だった国庫負担は約25%まで引き下げ(図2)。国庫負担の減額で、国保加入者に負担と責任が転嫁されています。
 加入者の多くは低所得で、高齢者が多い特徴があります。協会けんぽや組合保険に入っている人も、退職すれば後期高齢者医療保険に加入するまで国保に入ります。そして高齢になると病院を受診することが多くなります。医療を必要とする年齢層が多いと国保料(税)の負担も増加。すると、高くなった国保料(税)を納めることができない世帯はますます増え、国保料(税)がさらに高騰するという悪循環が生まれます。

■都道府県化で負担増

 2018年4月から国保の運営主体が市町村から都道府県に変わりました(都道府県単位化)。そこには、医療費適正化計画による給付費抑制や、地域医療構想による病床削減などの権限を都道府県に統一し、多くの市町村が行ってきた一般会計からの繰り入れも廃止し、医療費削減を推しすすめる目的があります。そして、医療削減のすすみ具合を評価し、その結果にもとづいて財政支援を行う「保険者努力支援制度」も実施されます。これは自治体間で医療費削減を競争させるもので、さらなる負担が懸念されています。

継続した署名と請願運動で国保税引き下げを

 広島・福山医療生協も加盟する福山市社会保障推進協議会(以下、社保協)では、高すぎる国保料(税)の引き下げを求めてとりくみを行っています。福山市社保協を訪ねました。

■努力の源は学習

 福山市年金者組合の事務所に組合員から電話がありました。「自営業をしている知人が、市から届いた国保税の通知を見て『こんなに高くて、どう暮らせばいいのか…。市に直接自分の思いを訴えたい』と言っていた」という内容でした。
 電話を受けた福山市社保協会長の西谷章さんは、憲法第16条の請願権を紹介しました。請願権とは行政が決めたことに対して希望・苦情・要請を申し立てることができる基本的人権です。また、社保協としても国保税引き下げを求めるとりくみを福山医療生協とともに始めました。
 まずは国保について知ってもらうためテキストを作成し、組合員向けの学習会を行いました。「少子高齢化で国保制度維持のためには保険料の引き上げは仕方ないのか」、「国保料(税)はどう決めているのか」、「国保税引き下げを求める個人請願のやり方は」と3つのテーマにわけて学習。昨年12月の市議会に向けて、議長あての請願署名と、市長あての個人請願を集めました。
 11月30日、2200筆の署名と40人分の個人請願を福山市長、市議会に提出しました。個人請願を行った西谷さんは「一度の請願だけでなく不断の努力で市民の思いを伝えていく。粘り強さの源は学習」と話しました。

■40%を超える負担も

 個人請願を行った、竹本健一さんは、年金が下がっているため週3回のパート勤めをして、年収が50万円増えました。しかし、今まで国保税が11万円だったところ、収入が増えたため22万円に跳ね上がりました。「収入の半分近くが国保税として取られる。少ない年金の中での引き上げは負担の押しつけでしかない」と竹本さんは言います。
 全国商工団体連合会のパンフレットによれば、新潟のAさんは内装工事業をしており、40歳で同い年の妻と5歳の子どもの3人家族。年収は300万円。そのうち51万3500円が国保・介護保険料です(図3)。その他の国保税・住民税などと合わせると、141万3420円が税と社会保障費で支払っています。これは収入の40%を超える負担になります。

■選挙の争点のひとつに

 福山市は2月8日に開かれた国民健康保険運営協議会で2019年度の国保税を被保険者ひとりあたり10万8856円と、昨年度から3101円の値上げを表明しました。2018年度には1907円値上げがあったばかりです。西谷さんは「自己責任論が強まる中、学習を通じて税の取り方、使い方を考え直すことが必要。制度を学び、活用して行政に何度も訴えていく」「国保料(税)の値下げが統一地方選挙の争点のひとつであり、実現できるとりくみを強化してほしい」と今後の課題を提起しました。
 福山医療生協(福山市社保協の事務局団体)の花岡利明さんは、「県統一の保険税(料)になるまで毎年値上げを計画している福山市に対して、保険税の値下げと子どもの均等割の免除を中心に、市長と議会に向けて継続して要望、請願運動をすすめていく」と話します。


全国でも国保料(税)軽減に向けたとりくみが

 兵庫県は、2019年度の国保事業費納付金額を発表。ひとりあたり14万468円と昨年から7%増加。これを受けて神戸市の国民健康保険事業の運営に関する協議会は、これまでに保険料算定方法を変更し、所得割1・05%アップ。均等割6940円、平等割4660円以上の値上げです。
 神戸市民要求を実現する会は市と懇談を行い、国保税引き下げを訴えました。兵庫県社保協は、自治体アンケートで国保料が生活を脅かしている結果を明らかにしました。行きづまった国保政策は国に責任があるとして、1兆円の国庫負担の実施を国に要求するように主張しました。(県連ニュースより 堤匠、兵庫民医連・事務)

(民医連新聞 第1690号 2019年4月15日)

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