いつでも元気

2006年4月1日

恐ろしい勢いで進む日本の貧困化 小泉「構造改革」が国民のくらしをブッ壊す

「格差が出るのは悪くない」と首相

医療改悪で命の格差ひろげるのか!

 所得の「格差」が拡大していることが社会問題になっています。国会で小泉首相は、「格差が出るのは悪くな い」「これまでが悪平等だった」などと答弁。自民党の石原伸晃議員は、生活保護を「施し」だとする暴言を吐いています(2月5日、NHK日曜討論)。人間 らしく生きる権利の否定です。小泉「構造改革」の痛みが国民を直撃し、格差を広げているなか、首相は「構造改革」の仕上げを豪語し、医療大改悪に乗り出し ています。

 中央社会保障推進協議会の相野谷安孝次長(全日本民医連理事)にききました。

「構造改革」の本質は

利益のためには何でもあり

 いま、「構造改革」の本質を見極めることが、ほんとうに大切になっています。この間、もうけのためには何でもあり、といわんばかりの、国民の命・安全を脅かす重大事件が次々と起きていますね。

 「住」の安全を民間任せにした耐震強度偽装事件。株取引の規制緩和が生んだライブドア事件。平気で障害者を排除する東横イン事件。昨年5月のJR西日本の事故も、競争、効率化のなかで起きたものではないでしょうか。

 米国産牛肉輸入再開事件では、「食」の安全までアメリカに売り渡したことが明らかになりました。

小泉政権下で天下り2倍以上に

 極めつけが、防衛施設庁官製談合事件です。天下りが生み出す巨大利権、しかも米軍の施設を思いやり予算で 作る公共事業。幾重にも国民を踏みにじる税金のむだ遣いです。談合による事業費は2~5割も水増しされ、天下り先のOBの給与になっています。その給与額 も年1000万~2000万円。人事院発表では、直接民間企業へ天下りした高級官僚の数は2000年は41人、04年は89人。小泉政権下で2倍以上に増 えました。

 そのうえ談合疑惑の企業16社から自民党に、02~04年の3年間で4億1100万円もの献金が。政官財が癒着し、天下りや企業献金を野放しにして税金をむだ遣いしながら、国民には負担を押しつける。

 モラル破壊もここまできたかという感じですが、ここに「構造改革」の本質が現れています。日米大資本のもうけのために、国民の命やくらしに大打撃を与えるというのが、「痛みをともなう小泉構造改革」だからです。

 「“構造”改革」というのは、「経済社会全体のしくみ」を転換するということを意味しています。資本が生 き残るためには、世界市場で競争力を強化しなければならない。そのために、規制緩和で資本の勝手放題を広げる。賃金や税金などへの支出を大幅に減らす。こ れによって利潤の拡大を最大限にするというのです。

企業の負担を軽くするため

 彼らが掲げたのは「高コスト体質の是正」。企業の負担を軽くすることです。

 まず、労働者の賃金を抑える。そのために、雇用のあり方を変えた。日本型の終身雇用を維持している企業は 一部になり、年功序列型賃金もほとんどがやめました。政府は労働分野での規制を次つぎ緩和し、リストラを奨励。正規雇用は減り続けています(図1)。経済 産業省は2025年には、全体で約4割が非正規雇用になると試算しています。

 その結果、すでにサラリーマンの年収は15年前の水準にまで落ちています。

 第二に、企業の税負担を軽くする。最大のものが消費税です。高齢化社会に備えるといって1989年に導入 されましたが、まったくのウソ。減り続けた法人税とそっくり置きかわり(図2)、国に納める法人税は、かつての20兆円から10兆円に半減しました。財界 は、さらに法人税の引き下げと、消費税の引き上げを要求しています。

 第三が、社会保障への企業負担を軽くすることです。事業主負担が義務づけられている社会保障そのものを切り下げろ、と要求しています。社会保障でなく、これからは「自己責任」による「自助と自律」だというのです。

 こうして大企業は史上空前の利益を上げる一方、庶民の家計は苦しくなった(図3)。小泉「構造改革」は、自民党政府も長年やれないでいた大改悪をむき出しに強行し、やりあげようというものです。

 そして、いま、総仕上げの医療大改悪にとりかかろうとしているわけです。

追いつめられた国民のくらし

所得も社会保障も悪化して

 国民の生活はどうでしょう。一口でいって、恐ろしいほど貧困化が進んでいます。65歳以上の高齢者世帯の 8割が年収400万円以下(図4)。43%の世帯は生活保護基準(200万円)以下です。貯蓄ゼロ世帯、教育扶助・就学援助を受ける児童の比率も激増して います(図5)。

 こうしたなかで、年金・介護保険・医療の改悪、増税が相次いでいるわけです。「構造改革」によって所得が切り下げられ、さらに社会保障も切り下げられて、所得・資産の格差が、そのまま生存権を脅かす事態になっています。

保険証なし世帯30万以上に

 国保料の滞納世帯は470万世帯(05年6月現在)と、1年前に比べて9万世帯増え、国保に加入している 世帯の2割近くにもなっています。国が国庫負担を減らしたため、国保料が高くなりすぎたのです。それなのに97年の国保法改悪で、国保料滞納から一年以上 たった世帯の保険証は取り上げるよう市町村に義務づけました。当時の厚相が小泉首相です。

 国保証のない世帯は30万世帯以上になっています。短期保険証も、3カ月や6カ月の有効期間が過ぎれば、 事実上無保険になり、こうした方々は100万世帯もいます。さらに、一切保険のない無保険者も、多数生み出されています。受診すれば全額自己負担。手遅れ で亡くなるというケースも後を絶ちません。

 咋年の介護保険改悪では施設の食費・居住費が自己負担化され、施設を出ざるをえなくなった人たちが、全国で一〇〇〇人以上(社保協調査)とみられます。

 全国で取り組んでいる医療改悪反対の署名ハガキに、「私を生活保護世帯にしないで下さい」という一言がありました。多くの人の実感ではないでしょうか。

 貧富の差の少ない国、といわれた日本が、アメリカに次いで格差の大きな国になり、世界でも異常な弱肉強食の国になりつつあります。このまま、「改革」を進めさせるわけにはいきません。

 当面する医療改悪に全力で反対していくと同時に、「構造改革」そのものへの反撃を貫く、幅広い共同、医・食(職)・住の安全・安心を求める共同をつくっていくことがどうしても必要です。

格差の拡大は問題だ74%

所得の再配分こそが必要

 「格差」をどう考えるかという毎日新聞の世論調査(1月6日付)は、なかなか心強いものでした。こんな内容です。

 ▼所得や収入の格差が拡大していくことは問題だと思いますか。問題だ74%、問題でない21%。

 ▼格差拡大への対応として、税金や社会保障制度などにより、豊かな人から貧しい人への所得の再配分を強めるべきだとの意見があります。再配分を強めるべきだと思いますか。強めるべきだ67%、強めるべきでない24%。

 ▼無保険が30万世帯に達し、病院に行けない人も出ています。どう考えますか。保険料を払っていないのだから仕方ない27%、予算をもっと投入し、保険料免除などの対策を拡大すべきだ73%。

 ▼生活保護者が増えています。どう考えますか。最後のセイフティーネットなので仕方ない72%、もっと審査を厳しくし減らすべきだ28%。

 ▼政府の政策として、税金などの負担は多くして福祉など行政サービスを充実させる「大きい政府」を目指す 考え方と、税金などの負担を少なくして民間に活力を発揮させる一方、福祉など行政サービスを最小限とする「小さい政府」を目指す考え方があります。どちら の政策をとるべきだと思いますか。大きい政府38%、小さい政府47%。

社会保障はすでに「小さな政府」

 格差が進み、無保険や生活保護が増えていることに対して、国の対策を求める人が7割を超しています。「再配分を強めよ」というのも、いままでカゲのうすかった主張です。このままでは危ない、という現実認識の現れでしょう。

 ところが、「大きな政府か小さな政府か」という質問になると、小泉首相がいう「小さな政府」が上回りま す。これは、「小さな政府」に対する誤解が原因だと思います。国民の求める「小さな政府」とは、むだな公共事業や天下りの禁止といった財政のむだをなくす ことです。質問の「税金などの負担」も、庶民の負担か大企業の負担か、誰の負担かがあいまいです。

 もともと日本は社会保障ではきわめて「小さな政府」。

その水準をさらに引き下げれば悲劇は拡大します。

 いま必要なのは、大企業や大金持ちに応分の税負担をしてもらい、ヨーロッパ並みの社会保障に近づけること。所得の再配分をすることです。憲法25条(生存権)を現実のものにするために、世論を広げていきましょう。

図1 激減した正規労働者、増えつづける非正規労働者
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図2 消費税は法人税減税の穴埋めに
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図3 橋本・小泉「改革」で家計はピンチ
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図4 高齢者世帯の収入は?(2004年)
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図5 急増するのは…
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図6 社会保障給付費(対GDP比)の国際比較
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図7 日本だけが減!

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医療制度改悪の特徴

(1)やっぱり高齢者いじめ=団塊の世代をねらう
 06年10月から
 ●「現役並み」所得(夫婦で年収520万円以上)の人は2割→3割
 ● 長期入院の食費・居住費を自己負担に(介護保険の後追い)
 08年4月から
 ●70歳以上の窓口負担1割→2割
 ● 高齢者医療保険制度を新設する
(2)高額療養費の負担限度額の引き上げ(06年10月から)
(3)06年診療報酬改定
 ●3・16%の引き下げ(2370億円の国庫支出削減)
 ● 混合診療の拡大。保険の使えない医療が増える
(4)都道府県に医療費抑制、在院日数の短縮などを義務づける

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いつでも元気 2006.4 No.174

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