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2019年8月6日

フォーカス 私たちの実践 入院患者への口腔ケア神奈川・汐田総合病院歯科・口腔外科 入院患者の“気づき“が鍵 早期介入につながる工夫を

 病棟での誤嚥性肺炎を予防するためには、入院早期での口腔ケアに関する介入が効果的です。神奈川・汐田総合病院歯科・口腔外科では、病棟にかかわる多職種による口腔内状況の早期把握をサポートし、併診依頼の増加、早期介入を実現しています。第22回全日本民医連歯科学術・運動交流集会で、櫻井里絵さん(歯科衛生士)が報告しました。

 当院では、入院患者に対し、歯科・口腔外科の治療やケアをするには、口腔内汚染や咀嚼(そしゃく)障害などの患者は、病棟からの併診依頼が必要です。しかし併診依頼数はあまり多くなく、実際には「隠れ口腔内汚染」や「隠れ歯科疾患」の患者を、把握できていないことがあります。そこで、この問題の解決にとりくむことにしました。
 まず、当院のNSTチーム(メンバーに歯科医師が加わっている)にアンケートを実施。その結果、(1)歯科・口腔外科併診依頼書が複雑で依頼しにくい、(2)歯科治療や口腔ケアが必要かどうかわからない、の2点が、歯科の介入に結びつきにくい要因であることがわかりました。「歯科の専門用語が十分理解できていない」「口腔内の写真があるとわかりやすい」などの声も寄せられました。
 そこで、(1)について、併診依頼書をシンプルかつ必要な情報がわかる内容に改定、(2)については、写真付きの口腔内評価ツールを作成・利用することにしました。

■書類の簡易化と評価ツール

 実際に依頼書を作成するのは看護師がほとんどです。依頼書の項目が多く、多忙な業務の中で書くのが大変だ、という声もありました。そこで、病棟看護師の意見も取り入れながら、3回ほど見直しを行いました。
 以前の依頼書は、電子カルテで共有できる患者情報と重複する項目も多かったため、例えば「感染症の有無」など電カルで共有できる情報は省き、必要な項目についてはチェック欄を設けて簡易に書き込めるようにしました。
 歯科・口腔外科を併診するには入院費とは別に費用が発生するため、患者・家族の同意が必要です。これまでは依頼があった後に、あらためて歯科から病棟看護師を通じて同意をとり、それが歯科に届いてから初めて治療やケアが開始する、という流れでした。そのため、依頼から開始まで数日かかることも。これを踏まえ、併診依頼書に歯科・口腔外科併診と、口腔ケア用の物品購入について、同意を確認する項目を追加(左上参照)。この用紙を、入院時の説明の際に渡すようにしました。その結果、入院早期からの介入が可能になりました。
 次に、わかりやすく、多職種で統一された口腔内評価ができるように、写真付きのアセスメントツールを導入。その際、高齢者に対する口腔観察・嚥(えん)下(げ)に関する評価ツールであるOHAT(Oral Health Assessment Tool)を利用しました。口腔内の状況をスコアで表します。口腔軟組織の状態、残存歯の状態、義歯の状態、清掃状態などの項目を0~2のスコアで評価。スコアがゼロだと口腔内良好、1、2は不良です。評価結果にもとづき、要受診か否かを判断します。評価シートには口腔内の写真を付け、視覚的にどのような状態が良いか悪いか、簡易に把握できるようにしました。
 以上の改善をはかり、NST回診時に口腔内を診査し、歯科介入の提案ができるようにしました。

■誤嚥性肺炎に有効の認識広まる

 その結果、2016年に199人だった歯科・口腔外科依頼数は18年には207人に、口腔ケアの依頼も16年の15人から22人に、穏やかな増加を認めました。
 大きな変化は、併診依頼の簡易化と評価ツールの導入で、病棟スタッフの中に口腔ケアの重要性が浸透してきたことです。私たち歯科スタッフが「口腔内の乾燥がひどいが、どう対応すれば良いか」「どんな物品が有効か」などと質問を受ける機会が増えました。誤嚥性肺炎には口腔内の清潔が有効という認識も広く共有されるようになり、患者カンファレンスなどでたびたび歯科スタッフの見解を求められるようになりました。
 一方で、入院日数が短縮される中、家族から「入院中に入れ歯を調整してほしい」と依頼されても退院まで間に合わなかったり、口腔ケアが不十分なままで退院を迎えることもあります。今後、改善していきたいと考えています。

(民医連新聞 第1697号 2019年8月5日)

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