声明・見解

2005年4月15日

【声明2005.04.15】救急出動「有料化」、救命・救急業務の「民間委託化」に反対し、安全・安心の救急医療拡充を要求する

救急出動「有料化」、救命・救急業務の「民間委託化」に反対し、安全・安心の救急医療拡充を要求する

 2005年4月15日
 全日本民主医療機関連合会
 会長 肥田 泰

はじめに
 総務省消防庁は、救急車出動件数の大幅増加への対策として、民間事業者の活用や、救急出動の「有料化」も視野においた新たな仕組みを検討することを表明 した。
 高齢化社会の進行などによる救急需要は、2003年には全国で483万件、10年間で190万件増加している。一方、毎年5%以上増加する中で、救急隊 の人員不足も発生し、休憩をとることもできず働きつづけている実態も報告されている。
 そのような状況において、全国の各自治体で救急業務に関する検討が様々な形で進められているが、総務省消防庁の動きと連動し、受益者負担の検討が進めら れている自治体もある。
 しかし、それらの多くは、行政の「財政事情」を理由としたものであり、救命・救急に対する国民要求と乖離するものである。
 以下、救急業務に関する動向とその問題点を指摘し、救命救急医療の拡充を要求する。

1、「有料化」に関する問題
 2003年に内閣府が実施した「消防・救急に関する世論調査」では、「高齢化の進展に対応するため、出動件数の増加に対応できる救急体制を充実する必要 がある」という意見について、「賛成」が91.3%と大半をしめている。財政措置を講じても救急需要への体制整備をはかることが求められている。しかし、 既にいくつかの自治体で、財政事情等を理由に「有料化」も含む検討がすすめられ、住民からも不安の声が寄せられている。
 「有料化」の問題では、高齢者及び低所得者層の利用制限が拡大する危険性が予測されることである。「有料化」の弊害は、健康保険の一部負担金導入後の経 過を見てもあきらかなように、患者の受診抑制が強まり、症状が悪くなってから医療機関にかかることによって重度化し、結果的に国民医療費の増大につながる という側面がある。
 「有料化」は患者・国民の受療権を侵害するとともに、救急需要増加の調整策として導入することが適策でないことを指摘する。

2、「民間委託化」に関する問題
 この間、東京都が民間事業者活用として「民間救急コールセンター」事業(2004年10月~2005年3月、同年4月より本格運用)を試行したが、救急 の現場で様々な混乱と問題が発生し、国会においても取りあげられるなど、大きな問題となっている。
 報道や医療機関の報告によると、「急性心筋梗塞の患者を病院へ搬送するように依頼をしたところ、民間救急コールセンターの利用をすすめられた」、「腹部 激痛により診療所を受診した患者を病院に転送する際に、医師の同乗が無いと搬送しないと救急隊が拒否」など、異常な事態が多発している実態があきらかに なっている。
 また、民間救急コールセンターが紹介する搬送業者を利用した際の料金では、「都内大学病院から千葉県までの搬送で5万円を請求された」、「結核患者を搬 送した際に、搬送費に加え、搬送後の消毒費、及び搬送後稼働不能時間分として計10万円を請求された」など、多額の費用出費となった事例が報告されてい る。
 以上のように、「民間委託化」による市場原理の導入は、救急搬送の制限や、特に低所得者の救急利用や受診抑制につながり、受療権を侵害し、人権問題にも つながりうる危険性をはらむものと言える。
 民間参入は、本来的に救命救急医療の現場になじまないものであり、また、様々な混乱を引き起こすものであることを東京都の試行事業の教訓とし認識する必 要がある。

3、安全・安心の救急医療拡充への要求
 119番通報をすれば無料で救急車が短時間に駆けつける現在の消防救急制度は、世界に誇るべき制度であり、日本の救命救急医療に不可欠の制度である。救 急需要が増大する中で、自治体の財政事情等を理由に「有料化」及び「民間委託化」することは、国民要求を無視するものであり本末転倒である。
 国は、地方自治体への財政支援を強化し、「無償方式」の堅持と、公的責任による救急体制整備・強化をおこなうべきである。とりわけ、救急隊員の増員・労 働条件改善は、国民の安全に直結する問題であり、国家的課題として責任をもつべきである。
  また、前述の「消防・救急に関する世論調査」の報告にもあるように、救急利用の際に、適切なアドバイスがあれば救急車を呼ぶ必要が無かったケースが多 いことも指摘されていることから、「救急相談センター」など適切なアドバイスができる体制整備と広報活動の強化を検討すべきである。
 さらに、24時間対応の「見守りネットワーク」や「在宅ケア・システム」など、高齢社会に対応したシステムの整備と、総合的な住民サービスの視点で救急 医療の拡充を検討することを要求する。

以 上

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