MIN-IRENトピックス

2019年11月29日

あすをつむぐ看護

文・奥平亜希子(編集部)
写真・野田雅也

健康講座で薬のの飲み方について話す坂本さん

健康講座で薬のの飲み方について話す坂本さん

 埼玉県西部の中核都市、所沢市(人口約34万人)にある埼玉西協同病院は、一般病棟と地域包括ケア病棟を備えた在宅療養支援病院である。同院には保健師の資格を持つ看護職員が10人いる。
 保健師はケガや病気の看護だけでなく、生活環境が健康に与える影響や社会情勢、社会保障制度なども踏まえ、そこに暮らす人と協力して健康をつくる“地域看護”のスペシャリスト。一般的には保健所や市町村、学校などで勤務することが多い保健師だが、坂本真由美さんは埼玉西協同病院の地域包括ケア病棟で働いている。
 地域包括ケア病棟の役割は、患者が自宅や介護施設で安心して療養できるように必要なケアを行うこと。入院は最大60日間と定められている。この間に、疾患の治療とともにリハビリや栄養管理、介護指導などを行う。

生活を見る保健師の視点

 坂本さんの仕事は病院内にとどまらない。患者宅を訪ねる「家屋調査」では、リハビリ職員や医療ソーシャルワーカーと協働し、段差や手すりの有無、トイレや浴室のつくりなどを確認し、同居する家族からも話を聞く。家の中がゴミであふれ生活できない状態だったときには、看護師も「おそうじ隊」として家の片付けに行くという。最寄りのスーパーや医療機関まで歩き、安全に買い物や通院ができるのかを確認することも。
 こうして得た情報は、毎週火曜日に行うカンファレンスで介護福祉士やリハビリ職員、医療ソーシャルワーカーなど多職種と共有。生活上の不安や困難を解決するために、さまざまな職種で知恵を出し合い退院後の生活を支える準備を行う。
 退院しても介護するのが年を取った妻や夫…いわゆる“老老介護”も珍しくない。食事の支度や決まった時間に薬を飲むなど、元気なときにはできていた日常生活が困難になることもある。退院後の生活で必要になるであろう公的なサービスや、家族や地域住民の支援体制を整えるのも大切な仕事だ。退院前には、患者が暮らす地域の組合員も交えたカンファレンスを行い、地域ぐるみでサポートすることもある。
 退院したらそこで終わり、ではない。退院後の生活で新たな問題や不安が生じていないか、看護職員が訪問する「退院後訪問」にも力を入れている。
 「病棟ではどうしても疾患に目がいきがち。でも、その人の不安のもとが病気だけでなく生活にあることもあります。訪問し、確認することが大事」と坂本さん。「患者の疾患を看る」だけでなく、「これからの生活や健康をつくる」という保健師の視点が、生活者の視点に立った看護にも活かされている。

 組合員との会話が活きる

 病院近くの医療生協さいたま松井支部では、毎週水曜日に組合員が集まり体操を行っている。毎月第一水曜日には坂本さんも参加。一緒に体操をしたあとに30分ほど健康講座の講師を務める。
 取材した日のテーマは「正しい薬の飲み方」。専門用語をなるべく使わない講座は「分かりやすい」と好評だ。講座のあとの質問時間には、ひとつの質問から話が広がったり、地域の困り事が話題になったりと話は尽きない。
 「ここに来ると、病棟では聞けない地域の人の関心事や、いま困っていることを知ることができます。そうすると、病棟で患者さんやご家族と話していても『こういうことが分からないんじゃないか』『この情報を伝えておいた方がいいかもしれない』と気付くことができるんです」。組合員とのかかわりが坂本さんの経験となり、看護の仕事にも活きていた。

自分の目で見る大切さ

 埼玉西協同病院総看護長の小野寺由美子さんは語る。「ふだんから地域に出ていれば、何かあったときにすぐに足を運ぶことができる。地域に出ると、病棟では見ることのできない『生命を脅かすようなひどい生活環境』にも触れることがある。私が10を語るよりも、自身で地域の実情やニーズをつかむことが大事。そういう機会を得られるようにサポートすることが私の役割です」。
 取材をして、ふと小学校の保健室を思い出した。そこには笑顔で迎えてくれる保健室の先生がいて、具合が悪くなくても訪ねて行きたくなる温かさがあった。埼玉西協同病院も「病気でなくても足を運びたくなる病院」をめざしているという。住民とともに健康をつくり、安心を育む“まちの保健室”のような病院だ。

いつでも元気 2019.12 No.338

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ