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2020年6月2日

国民を守るのはオスプレイじゃない 医療資材と医師、看護師だ 全国公私病院連盟会長 邉見公雄さん

 全国で新型コロナウイルス感染症拡大にともなう緊急事態宣言が解除されました。しかし、第二波、第三波も危惧されています。医療崩壊を回避し、医療体制を拡充するために何が必要か。全国公私病院連盟会長の邉見公雄さんに聞きました。(丸山聡子記者)

 医療現場は少し落ち着いてきましたが、いまだに消毒剤や防護具は不十分です。政府は、感染者を受け入れる病院には届けたと言いますが、都道府県や市町村に聞くと回答はバラバラ。現場への補給路が整備されておらず、実態把握のシステムもありません。

■病院に余裕がなければ

 4月2日に全国公私病院連盟で政府へ要望を出し、アメリカのCDC(疾病対策センター)のような、恒常的に疾病対策を行う政府から独立した機関の確立を求めました。日本政府の対応を見ると、最前線で患者を診る医師の意見が反映されていないと感じます。
 安倍首相や国のえらい人はイージス艦やオスプレイで国を守ろうとしていますが、それは違う。オスプレイを100機買っても国民は守れません。国民を守るのは、医療資材と医師や看護師など医療従事者です。
 医療や介護の現場は「赤字を出すな」「効率を上げろ」と言われてきました。しかし、消防や警察に「赤字だ!」と言う人はいないでしょう? 地域になくてはならない社会的共通資本だから。医療や介護も同じです。しかし現場では、「効率化」を求められ、ベッド稼働率は常に90%以上でなければ経営が成り立たない。そんな報酬体系はおかしいのです。
 病院に余裕がなければ、災害など想定外の事態に対応できません。私が経験した阪神・淡路大震災では、普段から患者を多く受け入れて懸命に医療活動をしていたところほど、突発的な事態に対応する余力がありませんでした。
 安倍首相が主導してきた三位一体改革は振り出しに戻ったと言っていいでしょう。効率至上主義は破綻し、誤りが暴露されました。

■医療機関へ大規模な支援を

 新型コロナウイルス感染症患者の治療は診療報酬を2倍にしても全く足りません。感染者を1人でも受け入れるには、例えば40床ある病棟を全て空けなければなりません。実際の入院は2床でも残りの38床はカラのまま。毎日200万円以上の損失です。
 国・自治体が大規模な支援をしなければ、経営が行き詰まる医療機関が続出します。新型コロナウイルスの第二波、第三波に備えることもできず、国民のいのちと健康は守れません。それを、西村経済再生担当大臣はじめ政府の対策本部はわかっていません。現場の状況を知らずに対策をすすめるのは、戦時中の大本営発表と同じです。
 未知の事態への対応に力を発揮するのは総合診療医です。何でも診る総合診療医がもっと必要です。政府は「医師は足りている」「偏在が問題だ」と言いますが、都市部では足りていても、地方では足りないかギリギリです。今の日本は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条)が保障されていません。つまり憲法違反だ。国民も医療関係者も、もっと怒るべきです。
 厚労省は昨年9月、再編統合を検討する病院として全国424(のちに16を追加)の公立・公的病院の名前を公表しました。厚労省の担当者に「そのうち、いくつの病院に足を運んだか?」と聞きましたが、答えませんでした。私は全国自治体病院協議会の会長の時に300近くの病院を訪れました。現地で話を聞けば、どんな役割を果たしているかわかります。それをせず、経営指標だけで判断するなんて、おかしいですよ。

*  *  *

 新型コロナウイルス対策で、政府は初動を誤ったと思います。対策に本腰を入れないといけない頃、安倍首相は、オリンピックの開催だけを重視していました。経済への影響を考えて、海外からの観光客への対応も遅れました。
 政治は生活を重視しないといけません。オリンピックや観光客より大事なのが国民のいのちと暮らしです。政府の対応の不十分さから、弱い者はより弱い立場に追い込まれるでしょう。今こそ憲法25条の精神で税金の使い方を抜本的に変え、困っている人に届く政治をしてほしいと思います。


『令和の改新 日本列島再輝論』

 邉見公雄さんの近著が好評発売中。現場の医師として全国の病院を回った経験から健康づくり、まちづくりを痛快な切り口で語ります。(幻冬舎・1900円+税)

(民医連新聞 第1715号 2020年6月1日)

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