MIN-IRENトピックス

2021年1月29日

けんこう教室 
依存症(上)

高知生協病院
二神 啓通

 こんにちは。私は高知生協病院で20年余り内科医をしています。またアルコール依存症者本人として、断酒会につながって12年余りです。断酒までは数えきれないトラブルを起こしましたが、幸い今も家庭生活と仕事を続けられています。断酒と家族の支援のおかげです。
 依存症というテーマは本来なら精神科医の担当でしょうが、当事者本人が書いてみます。
 2018年に出されたWHO(世界保健機関)の「国際疾病分類」第11版(ICD-11)では、依存症領域に行動依存(嗜癖行動症群)というカテゴリーが新設されました。以前は物質依存だけでしたが、ギャンブルやゲーム依存が大きな問題になり、研究によってこれらの行動も物質依存と同じ脳の変化を起こしていると判明したのです。国際的に注目を集めており、日本でも大きく報道されました。

◇依存症になるプロセス

 一番分かりやすいのは酒だと思うので、まずはアルコール依存症について述べます。他の依存症も大きな枠組みは同じです。
 飲酒する理由は楽しみ、ヤケ酒、つきあいなどさまざまです。およそ次のようなプロセスを経て、依存症になっていきます。
・大量飲酒を続けていると、生活が飲酒中心にまわり始め、常に飲酒欲求がわいてきます(渇望感)
・車を運転する前など絶対に飲んではいけない時も飲み、健康を害して入退院を繰り返しても飲みます(コントロール障害)
・前と同じ酔いを得るために必要な酒量が、次第に増えていきます(耐性)
・やがて身体から酒が切れると不快になり、不眠・発汗・頭痛・いらいら・吐き気・下痢・頻脈・手指振戦(ふるえ)などの症状や、ひどい時には幻聴・幻覚などの症状も現れます(禁断症状)
・1杯飲むとこれらの症状が楽になるのでまた飲みます。飲み方がおかしいと内心感じていても、また他人からそれを指摘されても、認めようとしません(否認)
 認めなければ治療に結びつくことは困難です。飲むためには何でもする、どんな嘘でもつくようになります。
 放っておけば健康も家族も仕事も失います。断酒しないアルコール依存症患者の平均寿命は50代前半です。50代といえばそろそろ「がん」が心配になってくる年齢。その頃に寿命が尽きるこの病気は、がんよりもたちが悪いと言えます。

◇依存症は自己責任?

 依存症の危害について、「Lancet」という医学雑誌に載った論文から資料1にまとめました。
 資料2は依存性物質の有害性スコアをグラフ化したものです。これを見るとアルコールは最悪。しかも「他人への有害性」が群を抜いています。俗にアルコール依存症患者が1人いれば10人に迷惑がかかると言われます。
 そんな物質がなぜ合法なのでしょう。人間と酒とのつきあいは何千年にも及ぶため、一般には依存性薬物だという認識が極めて低く、また文化的にも酒は人間の生活と分かちがたく結びついているからです。仮に酒(エチルアルコール)が新発見の物質なら、たちまち非合法薬物にされるだろうと言われています。
 依存症には「自己責任論」がつきまといます。しかし今まで説明したように、依存症者本人は楽しいからやっているのではなく、やめると辛いから続けざるをえなくなっています。精神医学的な詳しい説明は私の手に余りますが、依存症は「脳の報酬系の障害」と説明されます。病気であることを理解して対応しないと、適切な治療(介入)に結びつきません。怒ってもなだめても無駄です。

◇大多数は内科を受診するが

 何十年間の断酒も、1杯の再飲酒で元の状態に戻ります。それほどこの病気の治療は難しいのです。
 厚労省推計では日本のアルコール依存症患者は107万人、健康障害が出る「問題飲酒者」は1000万人。飲酒者の7・5人に1人が問題飲酒! 周囲にいない方が不思議なくらいです。アルコール依存症に至ると回復が困難なので、問題飲酒の時期に治療(介入)するのが望ましいのです。
 問題飲酒者は、アルコール依存症予備軍とも言えます。それが原因で通院している人は全国で100万人以上います。うち精神科通院は数万人で、あとは身体科(精神科以外の診療科の総称)です。救急科や外科系(酔ってケガなど)も関わりますが、継続的な通院は圧倒的に内科です。飲酒は血圧、糖尿、中性脂肪、尿酸、肝硬変などを悪化させ、がんのリスクを増大させるからです。
 根本に問題飲酒があると知っていても、内科主治医は「お酒は適度に」と言う程度で本気で介入を試みることはまれです。内科医が忙しい外来診療のなか、短時間で精神科受診の説得と紹介状記載を行うことはほぼ不可能です。別に時間を設けて説得しても“対価”はほぼ何もないという構造的な問題もあります。とはいえ「根本を断つ」ことに対する内科医の意識改革は、ぜひ必要だと私は思います。

◇自助グループの役割

 内科受診の際に働きかけて、運よく患者さんが治療を受け入れてくれた場合、専門プログラムのある精神科に原則2~3カ月間入院していただきます。しかし退院後に通院と服薬を続けても、2年間断酒できる人は2~3割。多くの人は何度も再入院を繰り返します。
 断酒を続けるには、断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)などの自助グループに通うことがとても有効です。同じ依存症者同士が体験談を語りあう例会(ミーティング)に出ると、とても心が安らぎます。ザラザラした気持ちが落ち着きます。
 「何十年間断酒していても、たった1杯の再飲酒で元に戻る」というようなことも、先輩が実体験として語ってくれます。本で読むのとは説得力が違います。
 私を断酒会につなげてくれたのは妻でした。妻には心から感謝しています。本人が自分から自助グループに参加することはまずなく、大抵は私のように家族に引きずられて来るので、家族への情報提供や共に自助グループに参加してもらうことも極めて大切です。
 私は地元・高知で「AKKこうち」というNPO法人を作り、アルコールを中心に各種依存症の啓発や相談活動をしています。
 というところで紙幅が尽きました。他の依存症については次号で述べます。

参考資料 『現代社会の新しい依存症がわかる本』(樋口進・編著/日本医事新報社)

いつでも元気 2021.2 No.351

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