MIN-IRENトピックス

2021年2月16日

高齢者の負担増、許されない 対立、分断ではなく共同を

 コロナ禍で国民生活が脅かされる中、菅内閣は、所得200万円以上の75歳以上の人を対象に、医療費窓口負担を現行1割から2割に引き上げる法律の改正案を閣議決定しました。高齢者の生活にどのように影響するのか、日本高齢期運動連絡会(日本高連)の武市和彦事務局長に聞きました。(稲原真一記者)

貯蓄切り崩し

やっと成り立つ生活

 今回の制度改正は所得が単身世帯で200万円以上、複数人世帯で320万円以上の人を対象とし、対象者は約370万人と推計されています。総務省の調査では男性の2017年の年金受給額の平均は208万円、非正規雇用中心だった人の平均は128万円です(図1)。非正規・短期雇用が多い女性はさらに低く、年金だけでは生活できず、働いている多くの高齢者も対象に含まれます。


 国は貯蓄があると言いますが、75歳以上の所得200万~300万円の世帯の13%は貯蓄がありません。高齢世帯の支出の大半は日常生活にかかる費用で、貯蓄のある世帯でもそれを切り崩し、どうにか生活を維持しているのが実情です(図2)。医療費が2倍になればさらに厳しくなります。


 現在とりくんでいる負担増の影響調査アンケートの途中経過では、医療費が増えたら受診回数や服薬回数・量を減らす、との回答が3割近くありました。コロナ禍の中、70~80代の高齢者は、「もし感染すれば死ぬかも知れない」という恐怖の中で日々生活しています。今も受診抑制は深刻な事態ですが、さらに負担増となれば、健康への影響は計り知れません。

若者の負担減は月30円

一番減るのは国の負担

 12月の自民、公明両党の党首会談で2割化に合意した際、ほぼすべてのマスコミが制度は決まったかのような報道をしました。その影響で、すでに決まったと諦めている人も多い印象です。
 「若年層の負担軽減のため」という政府の言い分もそのまま報道され、世代間の対立と分断があおられています。しかし、実際には現役世代の負担減はひとり当たり年間700円、事業主負担を除けば350円、月30円弱です。対して公費は980億円の削減。高齢者の負担を増やし、もっとも減るのは国の負担であり“公助”です。このことをもっと知らせていく必要があります。
 後期高齢者医療制度は、医療費の増加に比例して保険料も増える高齢者差別の制度です。こんな制度は世界でも日本だけです。菅政権は自助、共助を強調しますが、社会保障は憲法で定められた国民の権利であり、それを守る責任は国にあります。
 高齢者に医療や介護が必要なのは当たり前です。これまで国をささえてきて、なぜいじめられるのか。高齢者自身も声をあげる必要があります。

国の負担を45%に戻せ

高齢者と医療者が手を結ぼう

 3月にはアンケート結果をメディアに発表し、医療費負担増の影響や高齢者の現状を訴えていきます。日本高連で出した高齢者人権宣言を普及し、「人権としての社会保障」の考えを反対署名とセットで地域に広めます。議員要請なども行い、2割化の撤回とともに、35%まで引き下げられている国庫負担率を、制度開始当初の45%まで戻すことを政府に要望していきます。
 私自身、年金生活を送るようになり、初めてその大変さ、不安を実感しました。民医連のみなさんには、患者を通して自分たちの問題でもあると考え、いっしょに行動してほしいです。高齢者と医療従事者、それぞれの立場から問題を共有し、共同することがいっそう大切です。

(民医連新聞 第1731号 2021年2月15日)

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