いつでも元気

2021年3月31日

まちのチカラ 
花桃香る和紙の里

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

桃源郷と称される東秩父村の春の名所「大内沢 花桃の郷」(東秩父村提供)

 埼玉県西部に位置する東秩父村。
 ユネスコ無形文化遺産に登録された手漉き和紙「細川紙」の産地です。
 埼玉県内唯一の村で、総面積の8割が山林。
 季節ごとにさまざまな花が咲き誇る、自然豊かな花の郷を訪ねました。

※感染対策をしたうえで取材しています

 関越自動車道嵐山小川インターチェンジから車で約20分、秩父盆地から山を隔てた東側にある東秩父村に到着しました。四方を山に囲まれ、川沿いのなだらかな斜面に集落が点在しています。
 村では隣接する小川町とともに、1300年の歴史を持つ手漉き和紙の伝統を守り続けています。江戸時代には和紙の一大産地として発展。なかでも国内産楮のみを原料とし、伝統的な製法と用具で作られる細川紙を漉く技術は、2014年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。強靭さとつややかな光沢が特徴の細川紙。日本が誇る紙漉き技術は、一見の価値があります。
 和紙づくりの工房を訪ねると、細川紙の技術保持者である内村久子さんが3人の研修生とともに紙漉きを行っていました。高度な技術の体得までには10~20年かかるといいます。
 「木の皮からさまざまな工程を経て出来上がった紙をかざした時に、温かみがあって良いなと思いますよ」と内村さん。次世代に技術をつなぎます。
 また細川紙を継承する体験交流施設が、道の駅 和紙の里ひがしちちぶに併設されています。案内してくれたのは元地域おこし協力隊で、現在も和紙の魅力を伝える西沙耶香さん。
 展示されている和紙フラワーは一見、本物の花と間違えてしまうほど。一つ一つ丁寧な手作りで、花の色や質感などを見事に表現しています。「暮らしの知恵や資源を最大限に活かし、村の魅力をもっと知ってもらいたい」と西さん。
 ほかにも復元された茅葺屋根の紙漉き家屋の見学や、はがきなどを制作する紙漉き体験ができます。味わいのある和紙の質感を、ぜひ触って確かめてください。

地域おこし奔走
和太鼓集団

 世界的に活躍する和太鼓集団の拠点が村にあると聞き、訪ねました。鬼太鼓座は白石地区の旧小学校分校を合宿所とし、座員らが共同生活を送りながら日々鍛錬を重ねています。その練習はユニークで、毎朝6時から八幡大神社を折り返し地点に約8kmを走り込みます。最後は長慶寺の階段を駆け上がって笛を吹き、身体と精神を磨きます。
 「8年かけて地域の方が受け入れてくれたおかげで、大音響の太鼓を打つ練習ができます。今では皆さんが親戚のように声をかけてくれたり、野菜や鹿肉などを持って来てくださるんですよ」と、鬼太鼓座座員の吉洋さん。本来は公演続きで1年の半分以上は村を空けていますが、新型コロナの影響で村にいる時間が長くなりました。
 そこで村のために何かできないかと、農産物を使った特産品を開発するなど地域おこし事業に力を入れます。過疎化が進む村にとって、若手は貴重な存在。鹿とイノシシの駆除や農作業を教わり、村じゅうを走り回ります。

四季折々の伝統行事

 村では四季を通して、神代里神楽や、浅間神社の獅子舞をはじめとする地区ごとの獅子舞など、多彩な村指定無形民俗文化財があります。
 5月の第2日曜日には、厄病神や風邪の神送りとして伝承されている白石の神送りが行われます。白石地区の住民たちが、厄病退散の願いを墨書きした小旗を持って地区内を練り歩き、一年の無病息災を祈ります。

里山を彩る花の郷

 春になると、村の北部の大内沢上ノ貝戸地区はまさに桃源郷。鮮やかな桃色が山間地全体を彩り、春の訪れを祝福しているかのようです。大内沢 花桃の郷は、地域住民が景観形成のために荒廃した農地を活用し、3月下旬~4月上旬に見頃を迎える花桃を中心に、桜やレンギョウなど約9000本の花木が大切に植えられています。
 「花桃が咲くと、高齢化の進む地域に人が来るようになって交流が生まれ、住民の活動意欲が向上して地域の活性化につながっています」と大内沢花桃の郷管理団体の眞下春男さん。遊歩道のいたるところに間伐材を利用した手づくりのベンチが置かれ、足を止めて休めるようになっています。春の陽気とともに、なんとも心地良い景観です。
 ほかにも二本木峠から皇鈴山にかけて森の中に現れる真っ赤な山ツツジの群落や、シャーレーポピーが秩父高原牧場の草原を彩る天空のポピーなど、花の名所がたくさんあります。
 春の訪れとともに、東秩父村にあたたかな笑顔の花が咲いています。

■次回は茨城県大子町です。


まちのデータ

人口
2721人(2020年12月1日現在)
おすすめの特産品
和紙製品、みかん
こんにゃく、おやき、手作りジャム
アクセス
東京から車で約90分
問い合わせ先
東秩父村 産業観光課 
0493-82-1223

いつでも元気 2021.4 No.353

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