MIN-IRENトピックス

2021年4月6日

歯科治療に使用する金属の価格が高騰 公定価格のブラックボックス化の是正を 岩下明夫全日本民医連副会長歯科部長に聞く

 今年1月、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で厚労省は、歯科治療の補綴(てつ)に使用する貴金属の価格をめぐり、昨年10月に改定を見送った4種類の歯科用金属について、本来は改定すべきだったと発表しました。歯科治療に使用する貴金属の価格は高騰しており、購入価格が公定価格を上回る、「逆ザヤ」の状態が続いています。全日本民医連副会長で歯科部長の岩下明夫さんに聞きました。(丸山聡子記者)

 虫歯や歯の欠損などの治療である補綴治療は、歯科治療の中心です。金銀パラジウム合金(金パラ)は、詰め物やかぶせ物、欠損部分をつなぐ義歯や人工歯を歯にかけるクラスプなど歯科技工物をつくる際に使用します。
 今回の問題の背景には、歯科治療に欠かせない金パラの価格が高騰し、なかでも投機の対象となるパラジウムの価格高騰が著しいことがあります。公定価格の見直しは年2回から4回に変更されました。しかし、厚労省は昨年10月の見直し時に改定すべきだった4金属の価格を改定せず、計算に誤りがあったと公表しました。
 問題は、厚労省の公表がなければ私たちは計算の誤りに気づくことができない、いわばブラックボックス化していることです。厚労省は「再発防止」を明言しましたが、そのためには金属価格の計算方法の透明性の確保と、公開が必要です。全日本民医連は田村憲久厚労相に対し、(1)金属価格の試算方法の検証を可能にするための透明性の確保、(2)歯科材料価格の決定方式の公開と技術料の適正評価により保険診療での「逆ザヤ」の解消―を要望しました。

■問題は「逆ザヤ」

 要請でも指摘した通り、金属価格の高騰の中で保険点数が材料費に見合っておらず、歯科技工物をつくるほど赤字になる、という「逆ザヤ」が問題です。
 民医連歯科の多くは、自前の技工士、技工所ですが、国内の歯科の多くは外部の技工所に発注しています。技工所は仕事を受注するために単価を引き下げざるを得ません。経営を維持するため多くの仕事を安価で引き受け、長時間過密労働が常態化。海外の技工所への発注や、重労働・低賃金による技工士の減少、養成所の閉鎖などの原因のひとつです。

■コロナ禍で医療にかかれない

 厚労省は私たちとの懇談の中で、公定価格の試算方法について透明性を高めると回答しました。しかし、具体的な方法は明らかではなく、厚労省ホームページに公開されている計算式も一般には理解しにくいので、再発防止としては不十分だと考えています。
 金属価格の高騰は続いており、単に報酬に反映させれば、患者負担が重くなります。保険適用の治療であっても、高い医療費自己負担を払わなければ治療を受けられません。金属は補綴材料として優れていますが、金属アレルギーの問題もあり、金属ではない安価で良質な材料にシフトしていくタイミングでしょう。世界の流れも「金属は使わない」です。
 長期化するコロナ禍で、保険料や医療費自己負担の重さから、医療にかかれない人が増えています。私が働く東京・相互歯科でも、無料低額診療事業の利用申請が、コロナ以前に比べ2倍ほどに増えています。保険で受けられる歯科治療を広げ、医療費の自己負担割合を減らしていくことも必要だと思います。

(民医連新聞 第1734号 2021年4月5日)

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