民医連新聞

2021年7月6日

コロナ禍における社会保障問題 非営利総研いのちとくらしがシンポ

 全日本民医連も参加する「非営利・協同総合研究所いのちとくらし」が6月19日、「コロナと社会保障」をテーマにWEB形式で記念シンポジウムを行いました。大要を紹介します。(多田重正記者)

「世帯責任」を土台とした社会保障制度の転換を

 冒頭「コロナと日本の社会保障」と題して、都留文科大学名誉教授の後藤道夫さんが基調講演。後藤さんは、コロナ禍で起こっている事態を見る重要なデータとして、昨年4~10月の雇用状況の急変(解雇・雇い止め、「自発的」離職、休業、就業時間短縮)に関する調査結果(図1)を紹介。「雇用状況の急変のいずれかを経験した人が全体の22%、非正規で33%。政府の就業構造基本調査(2017年)にあてはめると非正規528万人、全体で1008万人が影響を受けたことになる」。
 一方、休業・時間短縮に対する賃金補償は「非常に低レベル」で「賃金の60%以上が補償された」との回答が、非正規で男性45%・女性44%にすぎず(図2)、月給が「3割以上減った」労働者が非正規女性で130万人にものぼったとの推計もしめし「コロナ禍による雇用収縮の影響は女性、非正規に集中した」と語りました。
 しかし「従来の日本では、非正規・女性を中心とした雇用収縮が起こっても、広範な貧困・困窮の拡大におよばないというのが常識だった」と後藤さん。各世帯で家計をささえる中心は「男性世帯主の正規雇用」とされてきたからです。実際はコロナ禍で深刻な貧困の拡大が報告されています。
 何が起こっているのか。この20年間で男性労働者の賃金が大幅に減少。男性雇用者の年収分布で見ると、35~39歳で年収500万円以上は51・1%(1997年)から34・4%へ激減。「男性が結婚を考えるポイントとされる400万円以上の層は、1997年が72・7%。これが2017年には20%近く減った」(図3)。
 さらに労働力の担い手が「男性の正規労働者」以外に拡大。「拡大した大部分は非正規・短時間労働者(図4)。日本で非正規労働者は、低賃金など低い処遇におかれている。家計をささえる構造が20~30年間で変化し(コロナ禍で)現れた」と語りました。
 子のいる夫婦世帯の割合も40代男性で71%(1995年)↓51%(2015年)に減少、逆に単身世帯や親元で暮らす「配偶者なし」が増えている統計も紹介しました。貧困支援の現場から報告される「女性からの相談が大きく増えた」事象が数字で裏付けられた形です。
 後藤さんは日本の所得保障制度は「世帯主の男性」が家庭をささえるとの考えに立ち、個々人の生活を保障せず、支援するにとどまっている」点を問題として指摘。「世帯責任・自己責任を土台として個々人の最低生活保障を課題にしてこなかった社会保障制度の根本的転換が必要」と語りました。

失業で受診が遅れ下肢切断の事例も

 続く「医療現場からの報告」は、全日本民医連副会長(立川相互病院副院長)の山田秀樹さん。新型コロナウイルスのPCR検査を2533件実施し、うち13人(15件)が自費で検査。13人のなかには次の就職先は決まっていたものの、転職の狭間で無保険状態だったため、「自己責任だから」と検査費を払った20代女性もいました。
 山田さんは、全日本民医連「コロナ禍を起因とした困窮事例調査」(昨年7~9月)で、全727例中435例が経済的困窮の事例で、うち39%が女性だったことも紹介。同調査に報告した健生会(立川相互病院の運営法人)の事例では、全62例中15例が経済的困窮に該当。糖尿病でしたが失業で通院を中断、ホームページで無料低額診療事業を知って受診しましたが下肢を切断せざるを得なかったケースもありました。
 山田さんは、健生会で無低診を実施している3事業所の利用が、コロナ禍で実数・助成額ともに過去最高になった(2020年)ことを報告。無低診が持つ生活困窮者のセーフティーネットとしての役割が高まっていることや、医療を入口に生活支援につなげること、地域の連携を広げることの重要性を強調。貧困に直面しても、自己責任論やスティグマ(社会的な恥の烙印(らくいん))を背景に生活保護の受給につながらない人が多いことにもふれ、「社会構造を変え、社会保障制度を充実させる政治への転換が必要」と強調しました。

横行する非正規差別 機能しない賃金・休業補償

 「コロナ禍の支援現場からみた制度の課題」と題して報告したのは、若者の労働・貧困問題にとりくむNPO法人POSSE(ポッセ)事務局長の渡辺寛人さん。
 同法人の労働相談は、緊急事態宣言が初めて出た4~6月に激増。コロナ禍に起因する労働相談だけで3675件(昨年2月末~今年3月末)。内容は主に休業補償、解雇や雇い止め、職場の感染対策の3つ。使用者側の事情による休業が最多で、解雇・雇い止めでは「非正規が7~8割で派遣労働者の女性が多かった」。
 労働相談全体で見ると女性の割合が高く、66%が女性。雇用形態では64%が非正規労働者でした。昨年2月以降、コロナ関連でPOSSEや労働組合「総合サポートユニオン」に相談した女性60人への聞き取り調査では、「アルバイトだから休業補償はできない」と言われた事例などが横行していました。「休業補償を行った事業主に払われる『雇用調整金』も、『制度を知っているのに払われない』という相談が多かった」と渡辺さん。昨年7月、労働者が個人で申請できる「休業支援金」制度も始まりましたが、「会社に『休業指示をしたとみなせない』と言われた」などの例が多数。「制度を拡充しても非正規労働者が弱い立場におかれているため、機能不全に陥っていた」。
 一方「コロナ禍でユニオンに参加し、立ち上がっているのはほとんどが女性」。POSSEのボランティアにもコロナ禍で150人以上が加わり、中心は1995年以降に生まれた大学生、ミックスルーツ(複数の国・文化にルーツをもつ人)、女性。渡辺さんは「日本の貧困が深まるなかで、若い人やマイノリティーなど外部の力をどうやってとりこむか、という視点をもって運動を組織することが重要では」と語りました。

◇    ◇

 このほか特別報告として総研理事で協立医師協同組合の薬剤師・高田満雄さんが新型コロナワクチンの構造や効果、問題点を解説。
 その後の討論ではPOSSEに参加するボランティアの動機についての質問が。渡辺さんは「日本で能力を発揮して生きていけると思えず、海外にあこがれていた若い人たちが多い。ところがコロナ禍で日本に留まらざるを得なくなった人たちが参加している」。
 山田さんには、後藤さんから「医療でも本格的な相談窓口をつくってほしい」と要望が。個別の相談と行政に向けた制度要求の運動などがつながり「世の中を変えるきっかけになるのでは」と期待を語りました。

(民医連新聞 第1740号 2021年7月5日)

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