民医連新聞

2022年1月18日

地域でNO2測定続け大気汚染と気候危機に挑む 京都・久世診療所

 待ったなしの気候危機、環境問題に、医療・介護の現場からどう挑むか―。京都・久世(くぜ)診療所(京都市南区)は29年間、二酸化窒素(NO2)測定大気汚染調査を続けています。(丸山いぶき記者)

 夕日に染まる国道171号線、京都から大阪へ延びる幹線道路沿いで、小さな物をポールに粘着テープで貼りつける人影が。昨年12月2日午後4時、「こうして蓋を外して24時間、明日の同じ時間に回収する」と説明するのは、久世診療所の山本昭郎所長です。
 設置したのは、内壁に試薬を浸したろ紙を密着させた親指大のプラスチックカプセル、天谷式NO2測定簡易カプセルです。

■29年続くNO2測定

 同診療所では毎年6月、職員や友の会、地域住民の協力のもと久世地域100カ所超でNO2測定を実施し、データを蓄積。山本さんが所属する京都府保険医協会でも2001年以降、府全域の調査を2年に1回12月に行っており、今回のように協力しています。
 調査では、人の口・鼻の平均的な高さにあたる地上から1・5メートルの場所にカプセルを下向きに取りつけ、24時間大気にさらします。回収したカプセルは、東京の「大気汚染全国一斉測定運動実行委員会」に分析を依頼。NO2は物の燃焼に伴い発生し、大気中のNO2濃度は気管支喘息(ぜんそく)の発症率と相関関係があると言われています。
 きっかけは、1983年に持ち上がった、京都市内中心部に高速道路を走らせる市の計画でした。山本さんら京都下京西部地区医師会の有志5人が、大気汚染による健康被害を危惧し、1992年6月から調査を開始。久世地域でも計画への反対運動がおこり、とりくみが始まりました。

■気候危機も根っこは同じ

 「当初は言われるがまま参加した」と照れ笑う入職3年目の川端莉奈さん(事務)は、調査が環境問題を学びとりくむきっかけに。「思いはあっても、行動は難しいと感じる同世代も多いはず。知識を得て発信したいです」
 NO2濃度は、地球温暖化に重大な影響を与える二酸化炭素(CO2)濃度とも、正の相関関係にあると言われています。
 「民医連が長年とりくんできた水俣病や大気汚染などの公害問題と気候危機の根っこは同じ。企業が利潤を追求して、私たちの健康と暮らしを脅かし、自然を破壊し、危機を招いている」と山本さん。日本で気候危機のとりくみが遅れていることに危機感を抱き、隔年の京都府保険医協会の新聞紙上でのNO2測定調査結果報告のほか、2005年頃から気候危機問題についても積極的に発信。「民医連としてもっと関心を寄せ、伝わっていない事実を伝え、運動にしていかないと。脱成長、自然エネルギーへの転換、脱炭素、脱原発を」と訴えます。

■ともに考え、行動したい

 昨年10月の第15回学運交で調査のとりくみを発表した平井雅志さん(事務)は、「NO2測定や発表を通じて環境問題について理解が深まった。気候危機の解決は個人の努力だけでは難しい。温室効果ガス排出割合の多くを占める企業に、しっかりとりくんでもらわなければ」と話します。
 経年調査から、久世地域のNO2濃度は低下傾向を示しています。自動車の排気ガス規制、電気自動車の普及、新しい橋や道路の開設に伴う交通の分散が要因とみられます。しかし、依然として大気汚染は続いています。
 約25年調査に携わる友の会の山内裕子さんは、国道から30メートルの自宅のベランダがすすだらけになる日々に「便利になりすぎた社会に矛盾を感じる。健康への影響が不安」と訴えます。「24時間営業のコンビニや過度なイルミネーションなど、本当に必要なのだろうか?」と話すのは、近所の人に調査協力を呼びかけてきた髙木しげ子さん。折戸やよいさんも「地球環境を意識して調査を続ける意味は大きい」と語ります。
 機関紙や学習会を通じて環境問題を発信する同診療所では、友の会役員の賛同を得て、院内処方で薬を手渡す際に使っていたビニール袋を廃止。当初から調査に加わってきた看護師長の佐敷屋かがりさんは、「どの世代も声を上げなければ。積み上げてきたデータを根拠に運動を広げるためにも、調査を継続したい」と話します。

(民医連新聞 第1752号 2022年1月17日)

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