民医連新聞

2022年3月22日

第45回定期総会 2022年2月25~26日 特別紙面 1日目 増田剛会長あいさつ 公正の視点とケアの倫理で人権尊重の社会へ転換を

 2月24日、ロシア軍がウクライナに軍事行動を行いました。明らかな他国領土への軍事侵攻で到底許されるものではありません。
 加えて対中国を想定した軍備増強が必要、との論調が出現しており危険です。平和憲法を守る課題の重要性がより増しています。

■コロナ禍で奮闘してきた2年間

 第44回熊本総会から2年。民医連魂を存分に発揮した2年間だったと思います。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは世界中に未曾有の困難をもたらしています。全日本民医連は適切な補償や東京五輪中止など、国に種々の要請や声明を出し、世論を喚起しました。
 民医連の事業所は発熱外来、感染者入院診療・在宅ケア、ワクチン接種などにとりくむとともに、地域のさまざまな困難に対し、子ども食堂やフードパントリーなど、支援活動を他団体と協力し展開しました。44期運動方針で提起した「まず診る、援助する、何とかする」が貫かれたと感じています。
 前総会以降58人の現役民医連職員が亡くなりました。亡くなられた仲間に心からの哀悼の意を表し黙とうを捧げます。(黙とう)

■「公正」を掲げた背景

 今回の運動方針案ですが、ここでは「公正」「ケアの倫理」について補足し、討議を呼びかけます。
 「公正」というキーワードは民医連が結成以来「旗印」として貫き、2010年の綱領改定で書き込んだ「無差別・平等」に込めた思いを、世界と日本の諸運動の趨勢(すうせい)に照らして市民社会に呼びかける表現として使用しました。
 世界の健康戦略、健康権実現へのアクションの歴史は、「公正な社会の実現」というテーマのもとに進歩してきたとも言えます。
 1977年の世界保健総会で「すべての人に健康を」という目標が示され、後に設定された38の到達目標の核心が「健康における公正」です。1978年のアルマ・アタ宣言でPrimary Health Care(PHC)が提起され、「健康は基本的人権」とされました。1986年のオタワ憲章ではHealth Promotion(HP)が提起され、「すべての人びとが健康を享受できる公正な社会の創造」が強調されました。
 コロナ禍でより顕著になった格差の拡大、気候危機の深刻化に対して、世界中の若者を中心にしたアクションが、「不公正を正す」という基軸でひろがっていることは重要です。コロナ禍で富める者が大儲けをし、貧しい者はさらに生活が悪化した、背景に富裕層や大企業優遇の税制がある、これは不公正。主に先進国が、化石燃料を使いたい放題にして引き起こした温暖化で、より大きな被害を受けるのは途上国、これも不公正。温暖化の原因にかかわりの薄い若年層が将来にわたってツケを払わされる、これも不公正という主張です。
 「公正」という言葉は、その時代や主張する側の価値観が内包されていると思います。今のべた世界の状況と合わせて、コロナ禍で生業(なりわい)を失う人びと、学ぶ権利を奪われた学生、「いのちの選別」の対象とされる高齢者など、理不尽な現実に対して「公正」を求める時、人権を守ることが大前提になっているという認識が必要です。方針案に「人権と公正」とセットで表現されている意味合いこそが大事であって、まさに70年におよぶ「無差別・平等」の理念の体現に他ならないと捉えていただきたいと思います。

■ケアの視点で社会転換を

 次に「ケアの倫理」です。コロナ禍でケア労働への関心が高まると同時に、ケアが軽視・排除され、それを圧倒的に担わされてきた女性の人権が侵害されてきた事実が、よりひろく認識されてきました。ケア労働が社会的に評価され発展するには、男女間の構造的な差別や賃金格差にメスを入れることが必要で、個人の尊厳、多様性の尊重、両性の本質的平等などを定めた憲法(13、14、24条など)の精神そのものです。45期の方針の基調に個人の尊厳とジェンダー平等を据え、民医連の姿勢を示しました。
 加えて「ケアの本質が、社会や政治に生かされることが必要」という認識の発展があると考えています。ケアは個別的・相対的で「関係性」を重視する行為で、「ケアの倫理」は「関係性の倫理」という捉え方もできます。ケアの行使では個の尊重や他者への共感、謙虚さや内省が必須で、随時発生する諸問題への臨機応変も求められます。
 一方、「公正」「正義」といった概念は「一般性」「普遍性」を特徴とし、個の強さや「自立した個人」を求める傾向があるとも言われています。
 私たちが求める「公正な社会」は人権が守られ、弱者が個人として尊重される社会です。その実現には「ケアの倫理」の役割が重要だと考えます。国民の人権が保障される状況をつくるためには弱肉強食、自己責任が強要される社会のあり方を、ケアの視点で転換することが必要です。
 同志社大学の岡野八代教授は、著書で「ケアを社会基盤と捉え、公的なケアを政治の重要課題の一つと考える人々が中心となる政治を、これまでの教訓と歴史を学びながら、みなで構築・構想していく時が来ている」とのべています。医療・介護の実践でも、まちづくりや政治革新の運動でも「ケアの倫理」が生かされる状況をつくりたい、その思いを方針に込めました。
 以上、補足します。討議をお願いします。

(民医連新聞 第1756号 2022年3月21日)

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