民医連新聞

2022年5月6日

にじのかけはし 第3回 ギャップの大きな医療界 文:吉田絵理子

 セクシュアリティーを隠して生活している状態を、押し入れの中にいる状態にたとえ「in the closet」と呼び、その逆を押し入れから出た状態にたとえ「come out of the closet」と呼び、セクシュアリティーを明かすことは一般的にカミングアウトと表現されています。
 私は一時、家族や友人といった周りの人すべてにカミングアウトして生活していましたが、医学部編入後に再びクローゼットに戻ることになりました。編入前に通っていた理学部では、教授を先生とは呼ばずにさん付けで呼び、立場に関係なくフラットに議論ができる自由な雰囲気がありました。頭を3分刈りにして研究室に通っても、「吉田さんはそういう髪型にしたかったようだ」と受け入れられ、ありのままの自分でいることができました。
 しかし、医学部ではジェンダーギャップがとても大きいことに驚きました。2003年に実施された調査では、何らかのセクシュアルハラスメントを実習中に経験した医学生は、女性54.1%、男性14.6%と報告されています。実際に私が医学生の時にも、講義中に患者さんのセクシュアリティーについてネタにして笑うようなこともあり、背筋が凍るような思いをしました。医師は性の多様性については世間と同じように差別的であることを学び、一種の職業訓練校でもある医学部で自分のセクシュアリティーがばれたら、きっとまともな就職はできないと感じ、ごく親しい人以外には女性のパートナーがいることはひた隠しにするようになりました。
 大学卒業後には、川崎協同病院に初期研修医として就職しました。思い返すと、マイノリティー性をひそかに抱えていた私は、無差別・平等という理念を肌で感じ、民医連に就職したのだと思います。しかし、残念なことに当初は民医連においても、性の多様性は無差別・平等の対象ではないと感じる職員の言動を見聞きすることがあり、約10年にわたって自身のセクシュアリティーを隠していました(民医連で感じてきたことについては、またいずれ触れたいと思います)。今では、医療従事者が差別的な言動をしてしまう背景には、教育の不足があると考えています。次号では、性の多様性に関する用語を紹介します。


よしだえりこ:神奈川・川崎協同病院の医師。1979年生まれ。LGBTの当事者として、医療・福祉の現場で啓発活動をしている。

(民医連新聞 第1759号 2022年5月2日)

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