民医連新聞

2022年5月6日

第45期運動方針を学ぼう 民医連医師への道 ~未来をつくる医師養成~

 第45期運動方針を学ぼう――。民医連では後継者確保・育成のため奨学金制度をつくり、将来いっしょに働く仲間として、学生のうちから学習などの支援をしています。第2回は医師養成について、北海道・勤医協中央病院(以下、中央病院)を取材しました。(稲原真一記者)

価値観を育てる奨学生活動

 「オリエンテーション中は同じホテルに泊まっていて、毎日の交流が楽しい」と、話すのは鳥井沙南(さな)さんと小内(おない)ゆいさん。2人は今年4月から研修をスタートする1年目研修医です。どちらも北海道出身で、入学当初から民医連の奨学生活動をしていました。
 地元の北海道大学に進学した鳥井さんに、奨学生活動の印象を聞くと「日々衝撃の連続だった」と言います。活動は地元の医学生が集まって定期的に行われるミーティングを基本に、県連や地協、全国での学習・交流企画やフィールドワークなどさまざまです。先輩医師や職員が困難事例を通して社会問題を問いかけたり、専門家から平和や憲法について話を聞いて、学生同士でディカッションしたり。「日本にこんな大変な人たちがいるのかと衝撃を受けた。ディスカッションでは、奨学生の先輩の考え方や姿勢がかっこよかったことを覚えている」と鳥井さん。「人の役に立ちたい」という思いで医師をめざしましたが、活動を通して「学び、行動しなくては」と変わっていきました。
 一方で、島根大学に進学した小内さん。薬学部に通っていましたが、障がい者と交流する自主サークルでの経験から、「社会的に大変な人たちが、その人らしく生きることをささえたい」と思うようになり、卒業後に医学部への編入を決意。しかし、いざ入学すると成績や学力を価値基準とする閉鎖的な雰囲気に、大きなずれを感じ、「自分の学びたいことが学べ、価値観を共有できる奨学生活動がよりどころだった」と、ふり返ります。また反核平和には元々関心があり、入学当初から反核医師の会に入会。地協の企画で長崎の原爆被害や米軍基地を見学し、「ニュースや新聞だけではわからないリアルな経験や講師の話を聞いて、行動すれば変えられると感じた」と、思いを強くしました。

思いに寄り添う医学生担当者

 こうした奨学生の活動をささえているのが、全国の医学生担当です。中央病院医学生課の課長の鎌田修平さんは、「いまは民医連を知らない新入医師も増えている。元奨学生には、医師集団でのリーダーシップを発揮してほしい」と期待を寄せます。
 北海道民医連では、奨学生の入職辞退が続いた時期がありました。対応を議論するなかで、共同組織や職員から「もっと地域の思いや、現場に触れる機会を」と声が上がりました。それを受け長期休暇には可能な限り、医療過疎地などでの実習を取り入れ、民医連の果たしている役割を肌で感じられるよう援助。新入生歓迎企画で「この地域でなにができるか」をテーマにするなど、「地域住民の思い、ここに病院がある意味を伝えたい」と、価値観の共有を大切にしています。現在は「北海道民医連奨学生活動指針」を作成し、奨学生にも伝えています。
 「所属県連がどこかはあまり意識しなかった」と話すのは、島根民医連の元医学生担当で、松江生協病院の医師研修医担当事務の岩成浩昭さん。島根での小内さんの活動に寄り添ってきました。「医学生は医学生の中で成長する」ことを意識し、一人ひとりの興味や関心を大切にかかわりました。毎月のミーティングでは、奨学生が学習テーマを決め、講師も務めます。討論でお互いの意見や考えを出し合い、職員も参加して民医連の価値観を伝えてきました。
 島根民医連の医学生担当の大國将さんは「小内さんは奨学生以外の人も巻き込み、学生のなかに民医連への理解がひろがった」と言います。『学習ブックレット 民医連の綱領と歴史』の連続学習企画などに、つながり学生を誘って参加。今年は学習を通じて島根

一歩ずつ前へ 後輩につなぐ思い

 中央病院2年目研修医の岡野聖都さんと佐々木啓佑さんも、元奨学生です。2人は1年目の研修を「必死の思いで泳いできた1年だった」と、ふり返ります。大学や国家試験で学んだ知識と、現場での実践には大きな隔たりがあり、「次々にやるべきことが出てきて、ここまでやったら大丈夫という感覚がない」と言います。中央病院での研修については「相談しやすく、積極的に教えてくれる指導医が多い」と佐々木さん。岡野さんも「福利厚生がしっかりしていて、職場として働きやすい」とのこと。大変な面もありますが、当直とERの両方を経験でき、どこに行っても対応できる自信につながっています。
 一方で、「社会的に弱い立場の人を分け隔てなく受け入れるのが、民医連の良いところだと思っていた」という2人。一部の同期がERの研修を目的に入職したことに驚きました。「自分たちが大変な事情を抱えた人や、無料低額診療事業の患者受け入れに抵抗がないのは、奨学生活動があったからかも」と学生時代を思い返します。指導医からも患者背景を見るくせや、大変な患者にもやさしく接する姿勢を感じています。
 今後の研修について聞くと、佐々木さんは「勉強量を増やし、できることを蓄えたい」、岡野さんは「自分が『こんな2年目がいたら』と思った先輩になりたい」と答えが返ってきました。2人はこの間の研修で感じた課題について、自分たちにできることから少しずつ変え、次の世代につなげたいとの思いがあります。「医師体制が大変ななかでも、医師のやりがいを持ち続けられる研修を、後輩にもしてほしい」と語ります。

めざす医師像を職員全体で共有し

 「プログラム上の制約で、初期研修の2年間では民医連を伝えにくい状況にある」と言うのは、中央病院医師研修課の課長の岩澤大輝さんです。背景には制度開始当初よりも、研修の自由度が狭められていることがあります。地域に触れる期間だった地域医療研修が、実質的に外来研修にならざるを得ない状況です。「新専門医制度()で難しさもあるが、初期研修以降も残ってもらえれば、本当に伝えたいものが見せられる。TY()などで残ってもらうことが課題」と言います。
 中央病院副院長で県連副会長の中野亮司さんは「困難を抱えた人は中央病院の患者さんにもたくさんいる。指導医の意識次第で、民医連を伝える研修はできるはず」と指摘します。北海道民医連は2018年に医師だけでなく、多職種や共同組織の意見を交え作成した「北海道民医連の医師が目指す医師像7つ星」を掲げました。「この内容を職員全体で共有し、研修に生かしていくことが必要」と中野さん。同時にコロナ禍や医師体制を理由に停止していた、多職種の参加するカンファレンスや専門チームを再稼働させ、研修医の教育にもつなげたいと言います。「医師だけで育てるのは限界がある。多職種協働のなかにこそ、民医連の良さがある」。

みんなで前にすすみたい

 鳥井さん、小内さんに、これから民医連でやりたいことを聞きました。「医療現場の労働環境改善、ジェンダー問題、そして共同組織の人たちとの活動がしたい」と、教えてくれました。
 鳥井さんは学生時代、全日本医学生自治会連合会で活動し、医学部の女性入試差別や地域枠制度など、社会問題にもとりくんできました。その活動で「自分の権利を自分で主張することの大切さを学んだ」と言います。同時に多職種で協働する難しさも経験しましたが、「医療現場の労働問題やジェンダー問題は、医師だけでは解決できない。職種の壁を越えて、どうすれば解決できるかいっしょに考えていきたい」と言います。「友の会が大好き」と言う2人。地域の課題を知り、つながりを力に変える共同組織のすごさを感じています。「友の会の人と話すと、民医連への期待や信頼の大きさを感じる。この人たちの誇りでいられる医師、そして民医連でなければ」と決意します。
 4月10日、札幌市内で市民によるロシアのウクライナ侵攻に反対するスタンディングデモが行われました。小内さんは鳥井さんや身近な研修医に声をかけ、6人で飛び入り参加。「初めて参加する人もいたが、全員スピーチまでしてくれた。自分が動くことで、周りや社会が変わると実感できた」と変化を感じています。
 中野さんは「今年の研修医にはオリエンテーションで、『いっしょに働きやすい職場にしよう』と呼びかけた」と明かします。「元奨学生は社会のことをよく知っている。医師の過重労働の問題や、医師の集団づくりをいっしょにとりくみたい」と期待を寄せます。


※新専門医制度
 各学会が独自認定していた専門医資格を、一定の基準で認定し医療の質を担保しようと始まった。しかし、研修の要件や施設基準が厳しく、大病院以外での実施が困難という問題がある。
※TY(トランジショナルイヤー)
 専門の研修に移行する前に、医師としての基礎を固める自由な研修を行う期間として民医連が提唱。

(民医連新聞 第1759号 2022年5月2日)

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