民医連新聞

2022年10月18日

にじのかけはし 第14回 なぜ、性の多様性について知らないのか 文:吉田絵理子

 読者から「今まで知らなかったことが、たくさんあったと気づかされた」という感想を複数もらいました。今回は、なぜ、私たちは性の多様性についての知識がないのか、掘り下げていきます。
 5月に私の所属する大学院での研究成果が、論文になりました。テーマは、日本の大学の医学部におけるLGBTの教育の実態調査です。調査の結果、臨床前教育でLGBTについて教えていた学校は52.5%で、まったく教えていない学校は30.5%でした。9年前に米国、カナダで行われた調査では、臨床前教育で教えていなかった学校は6.8%であり、大きな差がありました。このように医学教育において、学ぶ機会が限られているという現実があります。
 また、“自分の周りにLGBTの人はいない”と感じていることも、関心を持ちにくい要因の1つかもしれません。イプソス株式会社の27カ国を対象とした調査では、親戚、友人、同僚のなかにレズビアン/ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人がいると答えた人は、日本でそれぞれ7%、4%、4%だったのに対し、27カ国全体の平均は42%、24%、10%でした。これまでに行われた調査結果から、日本のLGBTの人口規模が諸外国に比べて低いということはないと推測されるにもかかわらず、日本ではLGBTの人はとても見えにくいという現状があるとわかります。
 学校教育でも性の多様性について学ぶ機会が限られていることが、大きな課題としてあげられます。日高庸晴先生による小中高・特別支援学校の2万人を超える教員を対象とした調査では、「同性愛について教える必要があると思う」との回答74.7%、「性別違和や性同一性障害について教える必要があると思う」との回答85.7%に対し、「実際に授業で取り入れた」という回答は14~15%程度にとどまりました。
 「知らなかったことがたくさん!」とショックを受けている人もいるかもしれませんが、日本のこのような現状を考えると、仕方がないことかもしれません。ただ、知識がないことで差別的なことをしてしまった場合には「仕方ない」とは言えないでしょう。今日から、いっしょに学び、また学ぶことのできる機会を増やしていきましょう。


よしだえりこ:神奈川・川崎協同病院の医師。1979年生まれ。LGBTの当事者として、医療・福祉の現場で啓発活動をしている。

(民医連新聞 第1770号 2022年10月17日)

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