民医連新聞

2023年1月5日

にじのかけはし 第18回 日本の政治と宗教 文:吉田絵理子

 「新聞を読まない医者にだけはなるな」と、父から口酸っぱく言われながら私は、新聞を読まず、政治にまったく関心のない研修医になりました。民医連に就職し、職員と選挙の話になって「“個人的なことは政治的なこと”なんだよ」と第2波フェミニズム運動のスローガンを教えてもらった時も、何のことかわかりませんでした。しかし、民医連で患者が置かれた社会的困難の背景を知るうちに、段々政治に関心を持つようになり、さらにLGBTについて学んだ今は「個人的なことは政治的なこと」の意味を痛感しています。私がバイセクシュアルとして体験した苦しい出来事の数々は、異性愛主義を前提とした社会構造から生じたもので、私だけに特別に起こった個人的な経験ではなく、政治的な出来事だったのだと理解できるようになりました。
 政治に関心を持ち始めるとさまざまな疑問が浮かんできました。同性婚を実現した国が増えるなか、日本ではその道のりが遠く険しく見えるのは、なぜなのか。選択的夫婦別姓が実現していないのは、性教育がこんなにも遅れているのは、なぜなのか。新聞を読み始めてみましたが知りたい情報にたどり着けず、前提知識が足りないのだろうと思い、政治学の本なども読みすすめていました。
 そんなある日、神社で選択的夫婦別姓に反対する運動があると知りました。学びをすすめると、日本全国約8万の神社を包括する神社本庁の関連団体の神道政治連盟が、選択的夫婦別姓、よりすすんだ性教育、同性婚に対し長年反対運動をしてきたことがわかりました。2022年6月には安倍晋三元首相が会長を務め、多数の自民党議員が参加する神道政治連盟国会議員懇談会で、「同性愛は後天的な精神の障害、または依存症」とする内容の冊子が配られたとの報道がありました。この団体には、「LGBTは生物学上、種の保存に背く」「LGBTは生産性がない」という発言をした議員たちも所属しています。漠然と日本はあまり宗教心がない国だと思ってきましたが、宗教は深く政治に食い込んでいたのです。私は政治に関して無知でしたが、こうしたことを日本に住む多くの人が知っているとも思えませんでした。


よしだえりこ:神奈川・川崎協同病院の医師。1979年生まれ。LGBTの当事者として、医療・福祉の現場で啓発活動をしている。

(民医連新聞 第1774号 2023年1月2日)

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