MIN-IRENトピックス

2023年3月23日

第45期第2回評議員会方針

2023年2月19日 全日本民医連第45期第2回評議員会

はじめに
第1章 「転換点」の情勢~進行する危機を綱領の視点で
 第1節 健康権を侵害する困窮のひろがり
 第2節 岸田内閣の政策動向~戦後最悪の大暴走
 第3節 国連障害者権利委員会の審査と勧告の意義
 第4節 ロシアによるウクライナ侵略の即時停止を求める
第2章 総会運動方針に照らしての中間的到達と今後の方針
 第1節 新しい局面を迎えた新型コロナウイルス感染症への対応
 第2節 コロナ禍を乗り越える医科・歯科・介護の一体的提供をすすめよう
 第3節 改憲・軍事大国化阻止、人権としての社会保障運動を両輪ですすめよう
 第4節 複眼の視点で経営実態をつかみ、たたかいと対応を強めよう
 第5節 医師が生き生き働ける受け入れから育成・集団づくりをすすめ、医師増員を訴えていこう
 第6節 1年間の実践を確信に「育成指針」のいっそうの具体化を
 第7節 共同組織とともに地域で共同の〝わ〟をひろげよう
 第8節 民医連組織の発展のために

おわりに

はじめに

 すべての職員、共同組織の仲間のみなさん。
 新型コロナウイルス感染症は、最大規模の感染者数、医療崩壊、医療・介護事業所のクラスター多発、過去最悪の死者数をもたらすなど、深刻な事態をくり返しています。そのなかで一貫していのちの平等を掲げ、日々の医療・介護の実践を続けている全国の仲間の奮闘を、互いに称え合いたいと思います。
 いま日本は、大軍拡し戦争する国になるのか、憲法を生かし平和と人権・社会保障が充実した国になるのか、岐路に立っています。
 今期前半の情勢の激変は、その緊迫感を深刻化させるすさまじいものでした。ロシアのウクライナ侵略戦争に端を発した世界的軍事緊張と、それを利用した大軍拡の推進、アベノミクス失政による日本経済の行き詰まり、国民負担を強いることでしか継続案を示せない社会保障解体路線など、これ以上の平和と人権尊重の流れへの逆流、後退を許すならば、戦後、日本が何とか守り続けてきた、この国のありかたそのものが、瓦(が)解(かい)する危機に直面しています。私たちは共同組織とともに、より広範な人びとと連帯し、これを乗り越えていかなければなりません。
 理事会は、憲法の理念を高く掲げ、これまでの歩みをさらに発展させ、すべての人が個人として尊重される社会をめざす、全国の団結と実践の先頭に立ちます。
 45回総会運動方針の基調は、人権を守り公正でいのちとケアが大切にされる社会の実現をめざし、すべての活動場面において、個人の尊厳とジェンダー平等を基本に据え、「医療・介護活動の2つの柱」(以下、「2つの柱」)を深め、前進をはかることです。
 今期の活動の重点は、共同組織とともに、①かつてない憲法の危機という認識のもと、平和憲法を守り抜くことを今期最大の課題とし、組織をあげて全力でとりくむこと、②切実さを増す地域要求に応え、無差別・平等の医療・介護を一体的、総合的に、人権尊重・共同のいとなみの視点で創造し、それを通じ、健康権の実現と安定的な事業・経営の確立をめざすこと、③市民とともに地域の医療・介護、公衆衛生の体制をいのち優先に転換し、地球環境を守り、平和でケア労働者が大切にされる社会の実現をめざすこと、④職員のいのちと健康を守り抜き、改定された職員育成指針にもとづき、医師をはじめとした職員の確保と育成をすすめることです。
 評議員会では61人が発言(文書含)し、全会一致で方針案を決定、決算・予算を承認しました。すべての県連、法人、事業所で方針を具体化し、平和と人権、いのち優先の社会へ向けた実践をすすめることを呼びかけます。

第1章「転換点」の情勢~進行する危機を綱領の視点で

 第1章では、主に第1回評議員会以後の特徴的な情勢を、民医連綱領の視点で確認し、人権を守り公正でいのちとケアが大切にされる社会の実現をめざす、民医連の役割を深めます。
 憲法の明文改憲を執拗(しつよう)にすすめ、実質的に破壊している岸田政権は、過去にない立憲主義と平和、くらしの破壊者です。市民と野党の共闘の力で早期退陣を求め、平和でいのち・くらし優先の社会をめざします。
 今年4月に全国の多くの地方自治体で、統一地方選挙があります。地域から憲法を守り生かし、住民福祉の砦(とりで)としての地方自治と民主主義を守る意思を表示する、絶好の機会です。いのちとくらしの現場から声をあげましょう。

第1節  健康権を侵害する困窮のひろがり

 45回総会運動方針は、「コロナ禍で噴出した貧困と不平等は、歴代の政権がすすめた新自由主義的改革によって構造的につくられた、人びとの生活をささえる社会的基盤の不安定さ、生活困難に対応すべき社会保障制度のぜい弱性が浮き彫りとなったものである」
と記載しました。現在の困窮の拡大は、健康権を大きく脅かしています。
 コロナ禍で生活困窮者などに貸し付けていた生活福祉資金貸付制度の「コロナ特例貸付」は、2023年1月から順次、返済が始まっています。しかし困窮の改善が見通せないなか、返済免除申請は3割を超えています。2022年12月16日に全国社会福祉協議会政策委員会による「コロナ特例貸付からみえる生活困窮者支援の在り方に関する検討会報告書 中間取りまとめ」(以下、中間取りまとめ)が公表されました。
 申請者の特徴として中間取りまとめでは、「コロナ禍以前から、①生活困窮の状態が多い、②雇用が不安定な人が多く」、9割を超える人が「生活保護の利用に至らないが生活困窮状態」となっています。中間取りまとめは、その調査結果を踏まえ、今後の社会保障・セーフティーネットの再構築へ向け、①生活保護を必要な人に届く仕組みとするため、財源と人員面で必要な措置をはかる、②社会保障の枠組みに「住まい」を位置づけ、「住宅付き包括支援体制」の構築をはかる、③自営業者・フリーランス向けの支援の拡充、休業補償の仕組みの検討など、7項目を提言しています。
 雇用は、非正規労働者の拡大、完全失業者数の増加など、ひきつづき深刻です。
 総務省労働力調査(2022年10月)では、雇用労働者数6081万人と前年比55万人増加していますが、正規が3614万人、5カ月ぶりに前年比17万人増加した一方で、非正規は2116万人で34万人増加と、非正規の拡大が続いています。完全失業者数は178万人と、コロナ禍前の145万人(2019年12月)をいまだ23%上回っています。
 こうしたなか、厚生労働省の発表で、コロナ禍前まで減少していた自殺者数が2022年には、2年ぶりに増加しました。男性が13年ぶりに増加し、失業者、年金生活者などでも増えています。
 年末年始を含め、各地で共同組織や諸団体ととりくんでいる食糧支援の来訪者が増え、女性、子ども連れなど、年齢層も多様になっています。
 コロナ禍以前の構造的な困窮に加え、コロナ禍と物価高騰がくらしを直撃しています。2022年10月に弁護士、労働組合などが合同で開催したコロナ禍の生活困窮の電話相談では、相談者のうち所持金なしの人が40・2%にのぼっています。各種の調査でも「生活にゆとりがない」との回答が前年より14・4ポイント増加し(グラフ1)、低所得世帯ほど重い食品値上げの家計負担(グラフ2)などの影響が表れています。

第2節 岸田内閣の政策動向~戦後最悪の大暴走

 45回総会運動方針では、岸田内閣について「コロナ禍の失政の総括をせず社会保障解体をすすめるとともに、憲法9条を改憲し、戦争する国に突きすすむもの」と記載しました。
 第1回評議員会では、岸田内閣の「2022年骨太方針」が、①日本の軍事大国化によりアジアでの緊張を拡大し、戦争する国づくりへ暴走する危険に満ちている、②医療提供体制の縮小など、社会保障の解体と国民の大規模な負担増をよりいっそうすすめ、医療と介護をさらに国民から遠ざける、③経済政策は、「小泉構造改革以降の新自由主義的政策を転換する」「成長だけでなく分配にも目配りする方針」は取りやめ、格差と貧困をひろげたアベノミクスを全面的に評価し、国民生活の困窮をさらにひろげるものとしました。
 第1回評議員会以降の半年、岸田政権は重要な政策の大転換を次々と議会を無視して決め、戦後最悪の暴走状態にあります。

()立憲主義に反し、くらし・憲法・平和を壊す大軍拡の推進
 自民党・公明党が政権に復帰してから10年がたちました。安倍氏、菅氏、岸田氏と首相が交代してきましたが、その間、特定秘密保護法や共謀罪、2014年閣議決定による集団的自衛権の行使容認、2015年安保法制(戦争法)の強行など、一貫して「戦争する国づくり」に突きすすんできました。2022年12月16日には、岸田内閣が安保法制(戦争法)を担う自衛隊の能力の抜本的強化と、それをささえる国家総動員体制をつくりあげる目的で、「安全保障の3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)」(以下、3文書)を閣議決定しました。
 今回の3文書改定により、これまで歴代政権が、憲法9条のもとで認められないとしてきた「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を持ち、国の決まりとしてきた「専守防衛」を逸脱することになります。軍事力強化のための防衛費も、5年間で計43兆円(現行計画の1・6倍)と大幅に増やし、くらし・憲法・平和を壊す大軍拡を推進する内容です。
 岸田内閣は、第2次安倍政権以降と同様に、それまで憲法に縛られて政府が積み重ねてきた施策を、内閣だけで行う閣議決定で勝手に変え、立憲主義を踏みにじりながら、戦争する国づくりをすすめています。
 人類が到達した普遍的な価値である平和と人権、一人ひとりの尊厳が、すべての分野で貫かれる社会を実現していく規範が、日本国憲法です。国会議員や公務員は、憲法に縛られ、憲法を守る義務があります。この仕組みが立憲主義です。立憲主義を守らない政権に、政治を行う資格はありません。

①敵基地攻撃能力(反撃能力)により、自衛隊がアメリカと共同して戦争すれば、国土は焦土と化す
 敵基地攻撃(反撃能力)は、相手国が日本へのミサイル攻撃に着手すれば、反撃(攻撃)するというものですが、相手国の武力行使着手の認定は困難で、日本側が国際法で認められていない「先制攻撃」をした、と捉えられる危険性があります。敵基地攻撃に必要な兵器は長距離攻撃が可能な兵器(スタンドオフ・ミサイルなど)で、東アジア全体が攻撃の射程内に入ります。中国、朝鮮半島をはじめとする東アジア諸国にとっては、日本の脅威はさらに高まります。仮に日本が敵基地をミサイルで攻撃すれば、敵国もミサイルで日本を反撃し、全面的な戦争に発展する可能性があります。日本が東アジアの国ぐにに対して軍事的圧力を高めていくことは、戦争の抑止でなく、果てしない軍拡競争を招き軍事的衝突の危険を高めるもので、安全保障上も失策です。
 攻撃を思いとどまらせる抑止力の強化を名目にこのような事態を招く敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つことは、ミサイルの大量配備をすすめ、外国を攻撃できる装備を持つことに他ならず、憲法9条にもとづく「専守防衛」を形骸化させるものです。
 「専守防衛」は、戦争の反省の上に定めた憲法前文や9条のもと、戦後の歴代内閣が堅持してきました。「攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様(ありかた)も自衛のための必要最小限にとどめる」、「専守防衛」を踏まえ、敵基地攻撃自体は、ほかに対抗手段がない場合は「自衛の範囲内」と認めつつも、他国に攻撃的脅威を与える兵器を平素から持つことは「憲法の主旨ではない」としてきました。
 岸田内閣が「専守防衛はまったく変わらない」とするのは詭弁(きべん)です。
 アメリカのバイデン政権が、2022年10月に公表した「国家安全保障戦略」のなかで、「唯一の競争相手」と位置づける中国への対抗措置を、最優先課題に掲げました。2015年9月19日に成立した安保法制(戦争法)のもと、台湾有事をめぐり米中に武力紛争が起きれば、政府は「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した」として存立危機事態を認定し、自衛隊が集団的自衛権にもとづき、米中の戦争に参戦することになります。
 南西諸島や九州、そして日本全土も相手国の反撃を受け、甚大な被害を受けることは明白です。安保法制(戦争法)のもとで、敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つという政策の大転換は、日本が米中戦争の当事国となる危険を飛躍的に高めることになります。
 アメリカと中国の戦争が起きないようにするなら、日本国憲法を力に両国に外交的に働きかけ、平和的解決をめざすべきです。

②軍事費を2倍にしても平和は守れず、軍事大国化によって福祉国家と基本的人権の尊重の原則に甚大な影響を与える
 軍事費を5年間で計43兆円と大幅に増やすことが決められましたが、そうなれば、軍事費はGDP比2%の水準で、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の規模となります。これまで日本は、平和憲法にもとづき、専守防衛を国是(国としての方針)として軍事費をGDPの1%内としてきました。それが近隣諸国に安心を供与し、平和の構築に寄与してきました。
 この制約を根本的に取り払い、GDP比2%の防衛費を捻出したとしても、中国の現状の軍事費とはまだ3倍近い差があり、日本の5倍程度のGDPを有している中国と、同等の軍事力を備えることは不可能です。軍拡は、相手国のさらなる軍事力の拡大を招くだけであり、軍拡では永遠に平和は得られません。
 岸田政権が2022年12月23日に閣議決定した2023年度政府予算案(一般会計総額114兆3812億円)は、「防衛関係費」が前年度比89%増、1・9倍の増額です。その一方、社会保障やくらしの予算を軒並み削減し、コロナ危機や物価高騰への対応はまったく不十分です。
 防衛費は「防衛力強化資金」(2023年度の軍事費6兆8219億円とは別建てとし、2024年度以降に使う軍事費を先取りし、外国為替特別会計からの繰り入れ、政府が保有する不動産の売却のほか、国立病院の積立金やコロナ対策資金の一部まで流用)という仕組みをつくり、繰り入れた3兆3806億円を合わせて10兆2000億円となりました。また、自衛隊の艦船建造、施設建設に4343億円の建設国債を充て、「軍事費の財源として公債を発行することはしない」(1966年の福田赳夫蔵相答弁)とした政府見解を反故(ほご)にしています。核弾頭を搭載できるトマホーク巡航ミサイルの購入費2113億円など、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有も既成事実化する予算案です。
 社会保障費は、高齢化で増える「自然増」の伸びを1500億円圧縮し、75歳以上の高齢者の医療費窓口負担の2倍化などで「自然増」を削減します。公的年金の支給額を抑制し、物価高で実質減となります。岸田首相が言う「子育て予算倍増」は実現の見通しがなく、就任前に掲げた「1億円の壁の打破」「金融所得課税の強化」は影も形もありません。
 歳入面では、物価高騰で一段と必要性が高まっている消費税減税を求める声は無視し、消費税収の2023年度見込みは、23兆円超と4年連続で最大の税目となります。
 またこの大軍拡予算は、増税以外の「財源確保策」も予定通りすすむとは限らず、「防衛力強化資金」も一度使えばなくなるものも多いため、今後の増税は1兆円程度でとどまる保証がありません。
 国民のくらしを犠牲にし、「戦争する国づくり」に財政を総動員するのは、日本がアジアへの侵略戦争でたどった道です。戦費調達を目的とした国債を大量に発行し、際限のない軍拡に突きすすんだ歴史を、くり返してはなりません。

()原発への回帰・推進は、エネルギーの問題ではなくいのちの問題
 政府は昨年末、老朽原発の運転期間延長と新規原発建設という、原発推進の基本方針を決めました。「可能な限り原発依存度を低減する」としてきた政府自らの立場を投げ捨てる暴挙です。
 運転期間延長は、原子力規制委員会の審査などで停止していた期間を上乗せして、60年超の運転に道を開こうというものです。しかし、止まっていても機械設備は劣化します。世界でも60年を超えて運転した原発はなく、「未知の領域」であり、前例のない危険なやり方です。
 新たな原発の建設は、日本社会を将来にわたり原発に縛りつけ、将来世代に処分困難な「核のゴミ」を大量に背負わせ、世界有数の地震・津波国にくらす国民の生命と財産、経済と社会を危険にさらすものです。
 東京電力福島第一原発事故では、16万人以上が避難を余儀なくされ、いまなお多くの人が苦しんでいます。くらし、地域産業、文化が深刻な被害を受け、放射性物質で強く汚染された地域では、現在も帰還は見通せないままです。
 再稼働を加速しようにも、原発が立地する各地で、避難計画づくりや地元同意のめどは立っていません。茨城県の東海第二原発は、水戸市を含む94万人が避難対象ですが、計画策定は困難を極め、各地の原発立地自治体も同様です。そもそも重大事故が起これば、たとえ避難できたとしても、ふるさとを失います。
 ロシアのウクライナ侵略では、原発が標的にされました。この現実こそ直視すべきです。原発は絶対に人類と相いれないものです。
 原発をめぐる方針の転換は、大手電力会社と原発業界の強い要求です。政府は、ロシアのウクライナ侵略の影響によるエネルギー情勢や、「脱炭素」を口実にしていますが、欺瞞(ぎまん)に満ちていると言わざるを得ません。
 「脱炭素」という場合、2030年までに世界の排出量を半分近くまで減らし、2050年までに実質ゼロにしなければなりません。今後数年間の行動が決定的です。現に気候危機は深刻な形で進行しています。昨年の11月に開催されたCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)の前に、気候変動枠組条約事務局は、各国の削減目標を合計しても2030年の世界の温室効果ガス排出は2010年に比べて10・6%増えると試算しました。国連環境計画は、現段階の目標を達成しても、世界の平均気温が今世紀末までに産業革命前と比べて約2・5度上昇すると警告しました。1・5度の上昇でも、洪水にさらされる人口は世界で2倍に増えると予想されています。
 この危機にある時に、温室効果ガス排出量で世界第5位の日本の政府が、2030年代以降に使用可能となる見込みの新設原発開発で脱炭素を論じることは、気候危機を打開する上でも障害にしかなりません。

()生活困窮を顧みない年金・医療・介護大改悪など社会保障解体
①コロナ禍で推しすすめられた負担増路線の継続
 長引くコロナ禍と40年来で最大の物価高騰で、生活困窮がひろがるもと、年金切り下げ、2022年10月の後期高齢者370万人の窓口負担の1割から2割への2倍化、2023年10月からの高齢者世帯を中心とした生活扶助基準の据え置きなど、国民への負担増をすすめながら、政府は大軍拡によるさらなる負担増を押し付けようとしています。安倍・菅政権から岸田政権への10年、まず自分で努力し、家族や地域で互いにささえ合い、それでも困難な時だけ最後に国に助けてもらう「自助・共助・公助」という考え方にもとづいて、憲法に保障された人権としての社会保障理念を自己責任に変質させ、憲法25条の実質改憲・社会保障解体が推しすすめられました。さらに「骨太の方針2022」では、全世代型社会保障改革へと社会保障解体路線が継続するなかで、「給付は高齢者中心、負担は現役世代」、「社会保険は共助」など恣意(しい)的な解釈を根拠に、世代間の利益が対立するような虚構で若者と高齢者を分断し、国民の対立をあおっています。
 全世代型社会保障改革を突きすすむ自公政権に、処方せんはありません。憲法25条のもと、どこでも誰でも国の責任で健康権が保障され、必要充足・応能負担原則にもとづく、本来あるべき人権としての社会保障が実現されるよう、国のありかたの転換を求めていきます。

②改正感染症法
 度重なる感染拡大の波のなかで、感染者の自宅療養や高齢者施設などへの留め置き、救急要請しても入院できない事態など、受療権が奪われ、高齢者の人権、いのちの尊厳にかかわる事態が各地であい次ぎました。専門家や現場の医療・介護従事者の意見を踏まえた十分な対策の検討もないまま、事態の悪化を放置する政府の姿勢は、日本の「金看板」のアクセス保障である、皆保険制度の立場を危うくするものです。
 2022年秋の臨時国会で改正された感染症法は、罰則強化により事実上、医療機関にコロナ対応を「強制・強要」するもので、医療専門職の増員なしに到底実現できず、このままでは地域の医療崩壊をくり返します。

③全世代型社会保障構築会議報告書と通常国会の予定法案
1)軍事大国化の進行のなか、社会保障財源なしの異常事態
 2013年「社会保障制度改革国民会議報告書」、2020年「全世代型社会保障検討会議最終報告」に続き、2022年12月16日、全世代型社会保障構築会議は岸田首相に対し「報告書~全世代で支え合い、人口減少・超高齢社会の課題を克服する~」(以下、「報告書」)を提出しました。今後、政府は「報告書」で示された改革の方向性などを、社会保障審議会の各部会などで具体化していきます。
 「報告書」の大きな特徴は、岸田政権が防衛費の対GDP比2%確保という軍事大国化財源確保をすすめるなかで、増加する社会保障財源についての手立ては、「子ども・子育て支援の充実」を除き触れられていないことです。コロナ禍を踏まえ、少子高齢化が進行するもとで、ますます強くなる医療・介護への国民的要求にどう応えていくかに対し、「財源なし」という異常事態と言えます。
 根底にある社会保障の捉え方について、「社会保障は世代を超えた全ての人びとが連帯し、困難を分かち合い、未来の社会に向けて協力し合うためにある」「社会保障は元来、個人の力だけでは備えることに限界がある課題や、リスク、不確実性に対して、社会全体での支え合いによって、個人の幸福増進を図るために存在するもの」など、この10年間の「歪(ゆが)み」を固定化し、社会保障の権利性、人権としての社会保障という視点を、さらにないがしろにしています。

2)「報告書」の内容
 「報告書」は「目指すべき社会の将来方向」として、①「少子化・人口減少」の流れを変える、②これからも続く「超高齢社会」に備える、③「地域の支えあい」を強める、の3点をのべ、「最も緊急を要するとりくみは、『未来への投資』として、子育て・若者世代への支援を急速かつ強力に整備すること」とし、基本理念を、①「将来世代」の安心を保障する、②能力に応じて、全世代がささえ合う、③個人の幸福とともに、社会全体を幸福にする、④制度をささえる人材やサービス提供体制を重視する、⑤社会保障のDX(デジタル・トランスフォーメーション)に積極的にとりくむことを掲げました。「社会保障の機能強化」は、「子ども・子育て支援の充実」以外はなく、子ども・子育て支援の充実も「将来的に子ども予算の倍増をめざしていく」ための「恒久的な施策には恒久的な財源が必要」と、具体的な記載はありません。一方、首相公約の出産育児一時金を2023年4月から50万円に引き上げるための財源は、「後期高齢者医療制度が出産育児一時金に係る費用の一部を支援する仕組みを導入すべきである」としました。
 「報告書」は、非正規雇用や短時間労働者、フリーランスなどは「働き方の多様化」だとして、困窮の温床となっているこれらの働き方を放置する一方で、2035年には就職氷河期世代が高齢期を迎え、そうした労働者の多くが困窮し、地域で孤独・孤立がひろがることを懸念しています。そのため、週20時間未満の短時間労働者や5人未満の個人事業所の労働者など、「働き方や勤め先の企業規模や業種にかかわらず」、雇用がどのようなありかたでも対象とする「働き方に中立的な社会保障制度」を構築し、次期年金制度改正に合わせ、被用者保険の適用をひろげようとしています。しかし、事業主負担のありかたなどへの言及はありませんでした。具体的な制度設計について運動を強めていくことが必要です。
 医療・介護制度の改革は、①医療保険制度、②医療提供体制、③介護、④医療・介護分野などにおけるDXの推進の4分野ですすめるとしています。「後期高齢者医療制度の保険料負担の在り方の見直し」をあげ、保険料の引き上げを明示し、一方で介護保険料の応能負担の強化には触れられていません。
 医療提供体制では、第1回評議員会で問題点を指摘した「骨太方針2022」の「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」について、6つの制度整備が提案されています。今後、かかりつけ医の役割を法定化するための医療法改正法案が、通常国会に提出されるなど、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」の討議と具体化がすすみます。また、地域共生社会の実現では、「ソーシャルワーカーなどの確保・育成」、「住まいの確保」が大きな柱として位置づけられており、今後、注視していく必要があります。
 岸田内閣は2月10日、医療制度の大改悪を閣議決定し、法案を国会に提出しました。75歳以上の中間所得層以上(年収153万円以上)を対象に2024年度から医療保険料を段階的に引き上げること、一部を出産育児一時金にあてること、65歳から74歳の医療給付費の財政調整を見直すとして協会けんぽへの国費補助を1290億円削減すること、国民健康保険料の大幅な引き上げにつながる都道府県の国保の保険料水準の統一をさらに迫ることなど、健康権を脅かす困窮の実態がひろがってもなお負担増をひろげようとしています。また、「かかりつけ医機能」を都道府県が医療機関から報告を受けて公表する仕組みも含む一括法案です。
 また、感染症法に関連した内閣感染症危機管理統括庁(仮称)設置法案、コロナ禍の特例措置の恒久化や見直し、「住宅確保給付金」の恒久化に向けた生活困窮者自立支援制度の法改正も提出予定です。
 法案をともなわない2025年以降の地域医療構想改定の議論も始まります。

3)介護
 2022年12月20日、介護保険部会(社会保障審議会)が報告書をとりまとめ、介護保険の次期見直しの方向を示しました。「給付と負担の見直し」では、大幅な給付削減と負担増の論点が当初示されていましたが、改悪反対の世論が強まるなか、「ケアマネジメントへの自己負担導入」(ケプランの有料化)、「要介護1、2の生活援助等の総合事業への移行」、「被保険者・受給者範囲の見直し」(年齢引き下げ)などの実施は先送りとなり、「利用料2割負担の対象者の拡大(「一定以上所得」金額の引き下げ)」、「施設多床室の室料負担の見直し」(特養に加えて老健施設なども室料徴収の対象に)、さらに新たに追加された「高所得者の介護保険料の引き上げ」について、実施の方向で夏(骨太方針)に向けて検討を継続していく、と結論づけられました(表1)。政府の思惑通りの改悪は阻止することができましたが、利用料や室料負担の引き上げなど、利用者・事業者にさらなる困難を強いる改悪が残されたことは、重大です。「高所得者の介護保険料の見直し」は、所得が高い層の保険料を引き上げ、その分を低所得者対策にまわすというものですが、高騰を続ける保険料の仕組みを改善する内容ではなく、世代内での負担の付け替えにすぎません。
 2022年の老人福祉・介護事業所の倒産件数は143件に達し、2020年の118件を大きく上回って過去最多となりました。小規模事業者を中心に経営的な困難が増大しています。政府は今後の介護職員の需給見通しについて、2025年に32万人、2040年に67万人が不足すると推計しています。こうしたなか、新たな処遇改善策(交付金制度)が昨年2月から開始されていますが、すべての介護職員の給与を9000円引き上げるものではないことが明らかになっています。10月からは介護報酬(ベースアップ等加算)に組み替えられたことで、新たな利用料負担が発生しており、「分配」とは名ばかりの「分断」を、職場内や事業者と利用者との間に持ち込むものとなっています。生産性の向上による人手不足の解消策として、テクノロジー機器の導入を要件とした人員配置基準の引き下げ(現行3:1から4:1へ)が計画されています。人を機械に置き換える「合理化・効率化」は、人手不足を解消するどころか、現場の困難や矛盾をいっそう強めるものです。
 今春より、2024年報酬改定(介護・障害・医療トリプル改定)の審議が本格化します。各自治体では、第9期(2024~2026年度)に向け、介護保険事業計画の策定、介護保険料の見直しの検討作業が開始されます。

第3節 国連障害者権利委員会の審査と勧告の意義

 2022年9月、国連障害者権利委員会は、障害者権利条約に沿った日本の施策の進捗状況を審査し、総括所見(勧告)を公表しました。障害者の人権をめぐり、世界標準と国内の大きなギャップが確認され、その改善に向けた勧告が出されました。私たちも認識を深め、運動に生かしていくことが大切です。
 総括所見は、法律・政策の基本的な考え方を医学モデルから社会モデル・人権モデルへ転換すること、そして政策などの意思決定過程に多様な障害者の代表を参加させることを勧告しています。勧告のポイントとしては「自立した生活と地域社会への参加」として、障害児を含む障害者の施設収容を廃止し、地域で自立して生活できるような支援を行うこと、精神科病院の強制入院を障害にもとづく差別として、自由を奪っている法令の廃止を求めています。くわえて分離された特別支援教育の中止に向け、障害のある子どももない子どももともに学ぶ「インクルーシブ教育」を受けられる行動計画を求めました。また社会にひろがる優生思想や能力主義の撲滅と、旧優生保護法のもとで優生手術を受けた被害者に一時金を支給するという対応のしくみを変え、すべての被害者に謝罪し、救済する制度を求めています。
 障害者団体は、「総括所見は、日本社会のありかたや障害者をめぐる課題を根本的かつ鋭く問いただし、長年にわたって私たち障害者関係団体が求めてきたことが網羅されました」と評価し、「総括所見の内容を学び合い、深め合うことがその第一歩、総括所見を多くの人たちの共通認識にしていくための努力も必要」とのべました。そして「かつて国連は、障害者を締め出す社会は弱くもろいと言明、障害者政策の根本的な解決は、社会のありかたとも深く関係する」「国連総括所見(勧告)の具体化を、市民社会のみなさんといっしょに実現していきたい」と表明しています。当事者からの提起を受け止め、ともに改善していくことが大切です。
 なお、国連の各権利条約では、「自由権規約」「社会権規約」「女性差別撤廃条約」「障害者権利条約」などにおいて、選択議定書で個人通報制度を定めています。個人通報制度への加入により、個人の人権侵害の救済、条約機関から人権侵害の原因となっている法制度の改善が国として求められ、さまざまな国内の人権の水準、国内制度を国際基準に沿って改善する道が開かれます。しかし、日本政府は、すべてにおいて選択議定書を批准していません。日本政府の人権政策の水準を引き上げ、実効性を高める上で、選択議定書の批准実現を多くの団体、個人といっしょに求めていくことが大切です。

第4節 ロシアによるウクライナ侵略の即時停止を求める

 ロシアのウクライナ侵略(第45回総会前日の2022年2月24日)から約1年がたちました。戦争は、決して始めてはならないこと、いったん始めると終わらせることはたやすくないこと、軍事的対応では地域の平和は守れないことが教訓です。
 ウクライナでは、都市部の電力、水、エネルギーの供給が破壊され、人的、物的被害の深刻な実相がひろがっています。
 ロシア軍、ウクライナ軍兵士20万人の死傷者(2022年11月9日付アメリカ発表)、民間人の死者6490人・うち子ども403人、負傷者9978人・うち子ども745人(11月7日付国連人権高等弁務官事務所発表)が報告されています。ほとんどがミサイル、重火器など爆発兵器での無差別攻撃による殺傷です。ウクライナ全土への都市空爆により80万戸以上の家屋破損・破壊、医療システムも破壊されています。住民の多数が、住居をなくし、暖房を利用できない状態での生活を強いられるなかで、凍傷、低体温症、肺炎、脳卒中、心臓発作につながる可能性がひろがっています(10月14日付WHO欧州地域事務局長会見)。
 戦争により、高齢者、子ども、障害者、LGBTQなどの社会的弱者が健康、安全、食料へのアクセスにおいて、甚大な困難に直面しています。男性の多くが兵役にとられるなか、女性が社会や家庭で過重な負担を担わざるを得なくなっています。また、ウクライナ国民4100万人の約3分の1が避難し、戦後最大規模の難民が生まれています。
 戦争の長期化により、人類を破滅に導くプーチン大統領による「核兵器使用の可能性」へのくり返しの言及や、エネルギー危機を引き起こすなかで、気候危機への深刻な影響も続いています。
 こうしたなかで、世界の国ぐにから、国連を中心にロシアの蛮行を非難し、早期の停戦を求める声がひろがっています。2022年10月12日、国連総会緊急特別会合で、「武力による威嚇・行使によるいかなる領土取得も、合法的なものとして承認しない」「国連憲章の諸原則に従い、国際的に認められたウクライナ国領内でのウクライナの主権と領土保全を尊重する立場での交渉と対話」での戦争の早期解決を柱とした決議が、圧倒的な賛成多数で採択されました。
 私たちは、あらためて「ロシアのウクライナからの即時撤退」、戦後世界の秩序である「国連憲章と国際法にもとづく解決」を求めます。
 国際紛争を武力で解決することを放棄した日本国憲法を持ち、唯一の戦争被爆国であり、非核三原則を持つ日本政府には、早期の停戦を実現するため、対話と外交努力を惜しまず、力を尽くす特別の役割と責務があります。憲法を守り生かす、私たちの運動の重要性を自覚し奮闘していきます。

第2章 総会運動方針に照らしての中間的到達と今後の方針

 現在の日本は、戦後最大の平和とくらしの危機に直面しています。自公政権は国是である「専守防衛」を投げ捨て、大軍拡路線に踏み出しました。このことが、財政面でも社会保障の大幅削減と大増税を引き起こすことは、火を見るより明らかです。
 軍拡と福祉の充実がまったく両立しないことは、歴史の教訓です。大軍拡による戦争する国づくりを断固阻止すること、人権としての社会保障のこれ以上の後退を許さず、その理念の実現にとりくむこと――このことを今期後半1年間の最重点課題として位置づけ、すべての職員、共同組織の結束した力で、それぞれの地域から、草の根の運動を発展させていきましょう。
 発足以来、多くの点で国民生活との矛盾を引き起こしてきた岸田政権は、支持率を「政権の危険水域」と言われるところまで急落させています。安倍元首相の国葬の強行、物価高騰やコロナ対策での無為無策と社会保障改悪、エネルギー政策での原発推進路線への180度転換、平和憲法とジェンダー平等を敵視する反社会的カルト集団である旧統一協会との癒着、何人もの大臣更迭につながった「政治とカネ」の問題など、いずれも世論調査で多くの国民が、厳しい批判の意思を表明しています。
 加えて、大軍拡のための増税も国民の7割以上が反対しています。
 そして今、学者、知識人、芸能人、地方議員など各界の人たちが政治的な立場のいかんにかかわらず、「国会で議論することもなく選挙で信を問うこともなく、閣議決定だけで国のありかたを変えるのはひどすぎる」「『新しい戦前』にさせてはならない」などの声をあげています。
 ここに、私たちの運動を発展させていく展望とその根拠があります。
 私たち民医連はこの3年間、コロナ禍のもと、大変な不安とストレスを抱えながら、励まし合って患者、利用者、そして職員を守るために奮闘してきました。救えたはずのいのちも救えないという痛恨の事態に直面しつつ、人権や憲法のかけがえのない価値をあらためて学び深め、それをないがしろにする政治を変えようと、奮闘を続けてきました。それはまさに、いのちとくらしに真摯(しんし)に向き合うことを使命とする、医療・介護従事者としての高い倫理観を発揮してきたことに他なりません。
 民医連は今年6月7日、結成70周年を迎えます。コロナ禍でも存分に発揮された「人びとの苦難あるところ民医連あり」「たたかいあるところ民医連あり」という組織文化を、実践を通じて育み、貫いてきた不屈の歴史です。こうした私たち民医連の存在意義に確信を持って、平和とくらしの危機に立ち向かいましょう。
 全国の民医連事業所で、平和を求める街頭スタンディングアピール活動、青年職員がけん引する反核平和の学習会やさまざまな個人・団体との共同の発展、憲法の学びを力に待合室や地域でのあらゆるつながりを生かした署名活動などが、地道にとりくまれています。そうした一つひとつの積み重ねこそが、変化と前進を生み出す確かな力になります。
 政治や社会のありかたを最終的に決めるのは、私たち国民の意思と運動です。今年の統一地方選挙では、そうした民主主義の力を大いに示すことが求められます。
 45期の後半1年、民医連が組織をあげて現在の危機に挑んでいくことを呼びかけ、各分野の活動の到達点と方針を提起します。

第1節 新しい局面を迎えた新型コロナウイルス感染症への対応

 第8波から医療崩壊を防ぐという名目のもと、なし崩し的に公的医療の制限につながるセルフチェック・セルフケアが導入されました。このことは、感染者数が過小評価されることにもつながっています。医療現場では、急激な感染者の増加と医薬品の供給不足で、混乱にさらに拍車がかかる事態となりました。
 第1回評議員会以降の新型コロナウイルス第7・8波は、過去最大の死者数を出す大波となり、2022年12月~今年1月は連日20万人を超す感染者が発生し、400~500人が亡くなるという、痛ましい状況になりました。全国の医療機関や高齢者施設でクラスターが多発し、現場職員にも多くの感染者・濃厚接触者が発生するなどの影響もあり、日常医療・介護活動に大きな支障をきたしました。救急医療はほぼ壊滅的打撃を受け、消防庁の報告によれば救急搬送困難事案(医療機関への受入れ照会回数4回以上かつ現場在時間30分以上)件数は、コロナ禍前の2019年比で4~5倍に膨れ上がりました。感染者用の病床がひっ迫し、入院できないまま在宅でいのちを落とす例が多数発生するとともに、医療設備のない介護施設で、そのまま感染者が「留め置き」されることが頻繁に見られるようになり、第8波では常態化しました。「連携する開業医が点滴や酸素投与を可能な限り行い、どうしようもなくなったら保健所に連絡せよ」「その際はDNAR(延命治療を希望しない)の承諾の有無など情報を整えておくこと」との通知が発せられた県もあります。
 経済活動を最優先する方針のもと、繁華街の人混みはまるで「コロナ前」に戻ったかのようで、大きなスポーツイベントも以前通りに開催されました。感染症診療の現場の雰囲気とは、大きな隔たりがあります。
 こうした状況の背景には、政府が現在の感染状況の深刻な事態を直視することなく、対策にかかる国の予算を削減するために、現場への支援を縮小・後退させる議論に終始し、新型コロナウイルスを過小評価する誤ったメッセージを発信していることがあります。
 先の臨時国会冒頭の所信表明で、岸田首相自身が最大の死亡者を出した第7波をふり返って、「3年ぶりに緊急事態宣言等の行動制限を行わずに今年の夏を乗り切れた」と発言したことは、最たるものです。経済活動の回復はもちろん大切ですが、いかなる理由があるにせよ、人のいのちがないがしろにされることを、私たちは受け入れることはできません。
 こうした状況のなかで、今年1月20日、岸田首相は新型コロナウイルス感染症を現在の2類相当から、季節性インフルエンザと同等の5類へ変更すると発表しました。3年間続けてきた新型コロナウイルス感染症対策のありかたが、次の段階にすすむことが予想されます。厚生労働省の資料では、仮に5類相当とした場合には、①陽性者の「全数把握」は定点観測などへ、②濃厚接触者の特定・検査は、高齢者施設など必要に応じたものへ、③入院措置や勧告、在宅療養者への健康観察などは、適用とならず、④感染者・濃厚接触者の行動制限は、自主的な対応、⑤検疫(水際対策)は適用とならず、⑥原則公費負担で無料となっている治療費や検査費用は、一部自己負担となるなど、多くの変更点が指摘されています。その際に留意しておくべき点は、新型コロナウイルス感染症患者が一定数発生する環境においては、世間がどんなに「withコロナ」モードであっても、高齢者に日常的に接する医療・介護の現場では、慎重な感染対策を、今後も続けていく必要があることです。国はこの移行で、新型コロナウイルス感染症を診る診療機関を増やせるとしていますが、新型コロナウイルス感染症と診断する上でのハードルは変わらず、大きな変化は生まれないと考えられます。
 そのことを踏まえた上で、45期後半、この課題に対して重視すべき視点を整理し、ひきつづき全国の医療・介護事業所が感染対策を継続できるよう、そして何よりも、新型コロナウイルス感染症によりいのちを落とす国民を一人でも減らせるよう、以下の適切な措置を国に求めていきます。
 ①感染者が適切な診療を受けられるよう、パンデミックが収束するまでは、医療費の公費負担を継続すること。
 ②国の責任で必要な診療体制を整備し、現場に対し、人的・財政的支援を徹底すること。特に、「有事」に機能できるような「平時」からの「余力」を持った提供体制の確立は必須である。罰則強化による強制での体制確保は、地域医療を壊すことにつながり、避けなければならない。
 ③3年間の対応経験を生かし、各事業所への補助金などのありかたを、その必要性や規模、換気対策などの設備投資も含め、現場目線でより実態に合った方法に見直し、支援を強化すること。介護事業所が倒産に陥る状況を、何としても止めなければならない。とりわけクラスターを抱え、経営難に陥っているすべての高齢者施設などへの経済的支援は急務である。
 ④公衆衛生部門や検査体制の強化など、感染の再拡大に対応し得る準備をすすめること。2010年新型インフルエンザ対策総括会議の提言がまったく生かされなかった今回の大失敗を、くり返さないこと。
 ⑤ワクチンや治療薬を希望する人が、迅速にアクセスできるような体制を構築すること。
 ⑥罹患(りかん)後症状やワクチン副反応などについて知見を重ね、治療法を開発するよう、専門機関への指示・援助を強化すること。
 ⑦現場で、高齢や障害を理由に的確な治療が後回し、あるいは拒否される、いわゆる「いのちの選別」が常態化するような事態を、早急に解消すること。
 ⑧感染症診療の現場の状況を正しくつかみ、必要な情報をリアルタイムに国民に周知すること。
 ⑨ワクチン後有害事象についての解明をすすめつつも、それにより被害を被ったすべての人たち・遺族に対する補償を迅速に行うこと。
 2月8日付の会長声明で、1月27日の政府対策本部決定の問題点を指摘し、あらためて、国民のいのちを守るための施策を構築することを求めました。これまでに、全国医学部長病院長会議、全国知事会、日本医師会、日本病院団体協議会などから声明・要望が出されましたが、多くの点で認識は共通しています。3月にはより詳細な政府案が出される予定です。いのち第一の視点を貫き、国民が医療・介護へアクセスする権利を断固守るという姿勢で政府、各自治体への要請を強めていきます。
 またコロナ禍の職員のヘルスケアをひきつづき重視します。総会運動方針では「職員の健康を守り抜くことを民医連の文化に」と呼びかけました。職員健康管理委員会は、職員の健康を守る要となる労働安全衛生委員会の基本的役割や活動を学ぶために、「労働安全衛生そもそもセミナー」(2022年6月11日)や、関心が高いメンタルヘルスをテーマに「ヘルスケアチーム実践交流セミナー」(同年11月26日)を開催しました。個人や職場で手軽に学べる「ヘルスケア動画」の視聴を呼びかけています。
 コロナ禍での職場のヘルスケアに大切なことは、基本的な健康状態の維持と自分の健康を自分で守るセルフケア、上司がサポートするラインケア、仲間とささえ合うピア・サポートです。また気をつけないといけないことは、「非対面コミュニケーションの工夫」「個々の実情に合わせた働き方の柔軟な対応」「十分な情報開示とていねいな合意プロセスによる良質なコミュニケーションと対話の追求」などです。これらの実践で、職員個々の「不安」「孤立感」「無価値観」を軽減し、誰一人取り残さない職場づくりを心がけましょう。また管理職の健康問題や小規模事業所での健康問題は、ひきつづきの検討課題です。
 全日本民医連は、医師会をはじめ地域の医療・介護事業所、各団体と連携し、住民・患者に寄り添い、このパンデミックの収束まで対策を緩めることなく実践を継続します。そのために、全日本民医連新型コロナウイルス感染症対策本部機能を継続し、今後も必要な情報提供や方針提起を行います。

第2節 コロナ禍を乗り越える医科・歯科・介護の一体的提供をすすめよう
(医療分野)

 2020年から続くコロナ禍の最中での医療分野の課題としては、新型コロナウイルス感染症の診療に関すること、介護施設や在宅分野への医療支援、医療提供体制の課題、コロナ禍の社会的影響と医療活動への展望などがあげられます。

()新型コロナウイルス感染症の診療に関する課題と受療権やくらしをささえるとりくみ
 新型コロナウイルス感染症の診療に関しては、民医連はパンデミック初期から一貫して患者の受療権を守る立場で奮闘してきました。ワクチン接種を希望するすべての人に行えるよう各地域でとりくみをすすめ、経営面でも大きく貢献しました。流行の様相や行政の対応が時とともに大きく変化するなかでも、それは継続して行われています。病院や介護施設でのクラスター発生は、ウイルスの感染性の高まりとともに頻発するようになりましたが、早くからの適切な対処と法人内外、時には県連を越えた連携で乗り切ってきました。危機を早期に察知する注意力、感染の拡大を念頭に入れた早くからの対応、情報共有と連携がカギになります。今後とも気を緩めずに対処していきましょう。
 コロナ禍で、私たちは多くの倫理的なジレンマに遭遇してきました。特に第8波に入ってからの高齢患者の死亡数の急増をみると、「高齢だから」や「認知症があるから」、あるいは「医療がひっ迫しているから」という理由での積極的治療の手控え、「家族に会えない」や「認知機能低下が心配」といった理由での入院拒否など、さまざまな場面で診療の萎縮が起こった可能性があります。
 また、2022年1月から4月の超過死亡が過去最大となったとの報告(国立感染症研究所)もあり、コロナ療養期間が過ぎた後の細菌性や誤嚥(ごえん)性の肺炎、廃用などの状態悪化で亡くなっている高齢者が、相当数含まれている可能性など、新型コロナウイルス感染症以外の疾患についての診療にも、大きな影響があったことがうかがわれます。各地で、入院、救急外来、介護施設、在宅など、それぞれの場面で診療の萎縮はなかったのか、本人の意思確認やACP(アドバンス・ケア・プランニング)、DNARの確認がどのように行われたのか、結果として受療権が侵害される場面がなかったかどうか、検証が必要です。私たちの現場でもふり返りを行っていきましょう。
 医療ひっ迫の名のもとで、なし崩し的に公的医療の制限につながるセルフチェック・セルフケアが導入されました。保険はずしや公的医療の縮小などが常態化しています。政府による既成事実化をさせてはなりません。
 3年にわたるコロナ禍の結果、人びとの生活は大きな変更を強いられました。対面でのコミュニケーションが大きく減少してオンラインが増え、外出の機会が減少して自宅で過ごす時間が増えました。経済的な停滞による困窮は、非正規労働者や女性労働者に強く現れ、そこにウクライナ戦争や為替相場の変動が加わって、さらにその度合いを強めています。これらの社会的因子が、フレイルの進行、うつ傾向の増加、認知機能の低下、要介護度の悪化、若年者でもメンタルヘルスの悪化、女性の自殺者の増加、家庭内暴力相談件数の増加など、さまざまな健康障害を起こしています。
 民医連は共同組織とともに、地域の実態をつかみ、困窮した住民を支援するためのアウトリーチ活動を継続してきました。オンラインでの交流や体操教室をひろげ、人権を尊重する意識とSDH(健康の社会的決定要因)の視点を持ち、感染対策に努めながら、訪問活動やいのちの相談所活動にとりくみ、フードパントリーや子ども食堂、無料塾を開催してきました。また、テレビやラジオなどマスメディアを通じて、無料低額診療事業(以下、無低診)の紹介も行ってきました。一方で、感染対策が優先され、医療機関と地域住民との接触が制限されるなか、私たちが把握できていない実態がまだまだあるはずです。今後ともさまざまな場面でのアウトリーチ活動を継続・発展させていきましょう。

()医療提供体制の課題と人権の砦としてのわたしたちの役割
 コロナ禍を通じて、プライマリ・ケアから高度急性期医療に至るすべての現場で、マンパワー不足が明らかとなりました。新興感染症に対応できる医療供給体制を確保するためには医師、看護師のみならず介護職や保健師、薬剤師、セラピストなど、医療・介護にかかわる専門職全般の増員が必要です。しかし、政府は、従来の地域医療計画に沿って、医療提供体制の効率化をすすめる方針を変えておらず、むしろコロナ禍に乗じて制度改革を加速しようとしています。民医連独自の運動だけでなく、地域の民医連外の組織との連携をすすめて、地域医療計画を見直して人員増と医療提供体制の維持を求め、人びとの受療権・健康権を守っていきましょう。
 コロナ禍で傷んだ地域において、人権と公正を掲げて行動する民医連事業所の役割は絶大です。医療・介護ニーズをしっかりと受け止め、医療・福祉の複合体としての真価を発揮し、「ケアの倫理」が貫かれた無差別・平等の医療・介護サービスを、一体的に提供しましょう。コロナパンデミック後の社会情勢の予想は困難ですが、少子高齢化・多様化がすすみ、人口は急速に減少に向かっていくと考えられます。一方、今後も社会経済格差は拡大し、それにともなって健康格差、健康の不平等も拡大する可能性があります。人権と公正が大きく侵害されていることの認識を一致させ、障害者やLGBTQ、高齢者や認知症患者とその家族、外国人を含む社会経済的に困難を抱える人たちにとって、私たちの事業所が「人権の砦」となり得ているか、足元から点検していきましょう。民医連が人権尊重やSDHの視点で、医療・介護・地域活動に総合的にとりくむことは、今後の地域の健康を守る上で、大きな強みになるに違いありません。
 日常医療を確保するためには、急性期医療に、さらに多くの医療資源が必要であることは論をまちません。無差別・平等の地域包括ケアシステムが機能していることが必要であり、その中心的機能を担うのは、地域の総合的な中小病院や診療所が望ましいと考えます。「2つの柱」を堅持する民医連の中小病院や診療所には、大きな役割を果たすことが期待されているのではないでしょうか。将来に向かって、私たちの活動内容を内外にアピールしていきましょう。

()コロナ禍で留意すべき健康戦略
 政府は、健康日本21に続く次期国民健康づくり運動プランを策定中ですが、そのなかで「自然に健康になれる環境づくり」や、ライフコースに応じた長期的な支援(ライフコースアプローチ)をあげています。そのためには、医科・歯科・介護の一体的提供とともに、地域住民もいっしょになったヘルスプロモーション活動が欠かせません。無差別・平等で切れ目のない地域包括ケアシステムが機能し、地域のささえ合い活動が健全な形で運営されることによって、地域の福祉力が向上し、結果として健康的なまちづくりがすすみ、地域の健康が守られ増進します。医療・介護と生活の境界線はますます重なり合い、相互にオーバーラップする活動が求められています。地域の社会資源と連携した社会的処方は、英国のロンドンでは約6割の家庭医が処方していると言われ、日本でもいよいよ医療の現場に実装される段階になっています。フレイルの人が運動を継続するきっかけとなるように運動サークルへ誘う、社会的孤立状態にある人を共同組織のサロンや班会に誘うなど、社会的処方とみなされる活動はすでに民医連内で数多くとりくまれています。それらのとりくみを見直し、医療現場との連携をさらにすすめましょう。
 SDHという文言は、2018年に文科省の医学教育モデル・コア・カリキュラムに取り入れられましたが、2022年改訂版では立場の弱い人の代弁者という意味での「アドボカシー」が取り入れられました。医療従事者が備えておくべき能力(コンピテンシー)として、研修の場でも重視していきましょう。
 全国各地でとりくまれたフードパントリー活動、口腔(こうくう)ケアを通じた医科・歯科・介護の連携、栄養管理や口腔リハなどの食べることにこだわった在宅医療・介護活動など、総合的な食の支援を今後も継続していきましょう。

()45期総会運動方針の具体化について
 コロナ禍を通じてエッセンシャルワーカーへの関心が高まり、特にケア労働が注目されました。医療・介護・福祉領域だけでなく、保育や教育、地域や家庭内でのケアにも多くの関心が集まり、多方面からの報道がなされ、論評が発表されました。誰もがケアを必要とする存在であること、多くのケア労働が無償または低賃金で献身的に行われており、歴史上その多くを女性が担ってきたこと、グローバル経済がすすみ、新自由主義がはびこるなかでケアが軽視され続けてきたこと、などがあらためて認識されました。
 全日本民医連は今期の総会運動方針で、「ケアの倫理」を取り上げました。社会全般への普遍妥当性を求めるのが「正義の倫理」であるのに対し、「ケアの倫理」とは、人と人との関係性を重視し相手を思いやる立場であり、そのキーワードの一つは「他者に対する責任」です。医療・介護の現場を必死で守り健康権・受療権を守ったこと、経済的困窮に対し食糧支援や相談会活動で寄り添ったこと、社会的孤立を深める人の自宅を訪問してコミュニケーションをはかったこと、いずれも他者に対する思いやりや気づかい、相手の健康への責任感に満ちた活動でした。コロナ禍のあるなしにかかわらず、民医連の活動の多くはケアの倫理にのっとったものと言えますが、その視点からの考察はまだ緒についたばかりです。資本主義社会のなかでケア労働が軽視されてきたこと、歴史的・文化的にケア労働に従事するのは主に女性であるとされ、それがジェンダー問題の根源にあること、これらも合わせて考察・学習をすすめましょう。
 2023年12月にはこの間の実践を持ち寄り、46期に向かって飛躍をつくるために、医活委員長会議を開催します。

(歯科分野)
〇45期前半の概況
()人権としての歯科医療の実践の課題
 2022年6月、コロナ禍による社会的困難事例(2020年4月から2021年4月の期間)の47事例から、特徴的な19事例を『歯科酷書―第4弾―』にまとめ、記者会見を行って社会に告発しました。
 全国拡大歯科所長・事務長会議は、106事業所266人が参加し、無低診の受診患者の中断、地域でのフードパントリーのとりくみから無低診につながった(埼玉)、無低診で受診している人への食糧支援を行い中断させないとりくみ(山口)、地域のNPO法人と連携し、相談会で外国人の口腔内の状態が悪い人の受診につながった、などの報告がありました。「全県に民医連歯科を」に向けたとりくみでは、岐阜民医連の事業所の歯科開設準備にあたり、2022年5~9月末まで北医療生協(愛知)で歯科医師研修を受け入れ、北関東甲信越地協では新潟・かえつ歯科へ地協あげての歯科医師支援がとりくまれました。

()歯科医師をはじめとした職員の確保と育成の課題
 2022年8月に青年歯科医師・歯科奨学生合同会議をWEBで行い、青年歯科医師25人、歯科奨学生3人が参加し、WHOで決議された「口腔保健」や『歯科酷書―第4弾―』について学び、交流しました。ディスカッションでは、「健康格差のデータに衝撃を受けた」「SDHについて学生時代には教わらなかった」などさまざまな感想が出されました。
 歯科衛生士委員会では、「民医連歯科衛生士の基本となるもの(案)」の作成をすすめています。誰のために、何のために作成するのか、多職種に伝わる内容とすることなど、今後さらに歯科衛生士のフィールドの拡大が期待され、病棟や介護事業所で働く歯科衛生士への対応も考えた議論を深めています。
 歯科衛生士は、各地の事業所で常勤者の欠員など、深刻な状況となっています。この間はWEBなどを活用し、各地で高校生一日職業体験や就職説明会などが開催されています。
 歯科技工士は、学生数の減少から養成校が減少し、職業そのものの存続が危機的になっており、採用も困難となっています。歯科技工問題では、「保険で良い歯科医療を」全国連絡会は重要課題として、2022年10月29日に歯科技工シンポジウムを開催し、技工士学校の現状の訴えもありました。

()2022年度上半期経営調査の特徴
 2022年度上半期は、2021年度経営調査の結果と同様に、在宅診療での新規患者数やのべ患者数が、前年を上回る結果となりました。提出事業所合計(集約率90・7%)は5億円余りの黒字となり、黒字事業所は79事業所(黒字比率73・8%)と7割を超えましたが、外来患者数の減少は顕著で、クラスター発生などによる病棟や施設内への訪問中止もありました。また、職員の感染や濃厚接触などにより、体制が確保できない状況もありました。

()「保険で良い歯科医療を」 全国連絡会のとりくみ
 子どもの歯科矯正への保険適用の拡充に関する請願は、2022年6月16日の第204回国会衆議院厚生労働委員会で採択され、内閣へ送付されましたが、一部適用症例が増えたものの、求めていた内容には程遠く、今後も保険適用拡充のとりくみが必要となっています。

〇46回総会に向かう 基本方針
 医科・歯科・介護の連携による多職種協働の統合的アプローチの具体化に向けて、地域要求の視点とポジショニングを考慮したとりくみを、歯科事業所から主体的な提案ですすめていきましょう。

()人権としての歯科医療の実践
 保険でより良い歯科医療を求める請願署名は、6月に診療報酬改定の議論が始まる通常国会に合わせて提出します。そのため運動の開始時期を早め、20万筆を目標に感染対策に留意しながらとりくみます。2022年12月17日に開催したキックオフ集会は、130人以上の参加で意思統一を行い、『歯科酷書―第4弾―』を活用し「連携」を生かした幅広い運動にしていくことを確認しました。また、気になる事例を日常的に集約し、次回の『歯科酷書』へとつなげていきましょう。
 「保険で良い歯科医療を」連絡会がある地域ではさらに協力し、連絡会のない地域では新たな連絡会結成を視野に入れながら、保険医協会や他団体と懇談・協力して運動をすすめましょう。また、統一地方選挙がある地域では、要求実現運動の一つとして活用しましょう。
 4年ぶりの開催となる歯科学運交は、今年4月29日に開催予定です。メインテーマは「つなげよう、つながろう~私たちの役割と可能性~」です。開催はWEB形式となり、事前に演題動画をアーカイブ配信します。

()歯科医師をはじめとした職員の確保と育成
 民医連の歯科医師数は、現状維持の状態です。民医連歯科空白県の克服や在宅医療・医科歯科連携、WHOの提起する口腔保健の課題を克服するための必要な人員の確保は、いっそうの努力が必要となっています。今後の10年間で予測される、団塊世代の歯科医師の引退による影響で、現在の事業所体制の維持は困難になることが考えられます。根本的には、国の責任で地域包括ケアをはじめとした、地域歯科医療の維持発展に必要な新規歯科医師数を拡大することが求められますが、民医連としても、歯科医師の確保は重要な課題としてとりくみをすすめる必要があります。今後は民医連歯科全事業所が参加する歯科医師の確保と養成の運動が重要であり、歯科部では、歯科医師委員会を中心として「未来に向かって民医連の歯科医師と歯科医師集団は何を大切にするのか(仮)」など、歯科医師の確保と養成の軸となる問題提起文書を作成し、全国的な議論の開始の呼びかけをすすめていきます。また、この1年で中堅歯科医師全国会議、青年歯科医師会議、奨学生会議を開催していきます。
 「民医連歯科衛生士の基本となるもの(案)」は、補強、修正を行い、討議に向けた全国集会の開催を行うことを検討します。同時に多職種からも意見集約し、多職種に歯科衛生士を知らせる機会としてとりくみます。
 『民医連歯科読本』は、各地協歯科委員会の協力を得ながら、歯科部プロジェクトとしてすすめていきます。

(介護分野)
〇45期前半の概況
 介護ウエーブでは、利用料原則2割化など「史上最悪」と言われた制度改悪の阻止へ向け宣伝・学習、署名活動をはじめ、各地でコロナ対策強化や減収補てん、物価高騰への財政支援を求める自治体交渉、実態調査など、コロナ禍のもとで創意工夫をはかりながら、さまざまなとりくみがすすめられてきました。全日本民医連として、省庁交渉、次期見直しに向けた影響調査などのほか、介護請願署名8万7000筆(一次分)を国会に、制度改善を求める「ひと言メッセージ」2300筆を介護保険部会と厚労省に提出しました。
 第6波以降、これまでに経験したことのないスピードと規模で新型コロナ感染が急拡大し、施設を中心に大規模なクラスターが多発するなど、介護現場に極めて深刻な影響がおよびました。医療提供体制がひっ迫するなか、施設では「留め置き」を余儀なくされ、さらに第8波では「留め置き」を前提にした対応を強いられる事態も生じています。厳しい職員体制のもとで、まさに走りながらの対応に追われ、「いのちの選別」にも各地で遭遇することになりました。こうした過酷な状況のなかで、介護事業所・現場では、職員を守り、利用者・家族をささえてきました。
 経営面では、利用控えなどによる減収や感染対策費、人権費などの経費の増加に加え、大規模クラスターの発生による減収・損失、さらに物価、水光熱費の高騰により、経営困難がいっそう加速しています。各法人では、通常営業への早期回復、利用者確保、医療機関や地域の他事業所との連携強化、経費節減の追求、業務改善、人員配置の見直し、事業所の統合再編・事業転換などがとりくまれています。
 全体として介護現場の離職率は前年より減少していますが、新規採用が伸び悩んでおり、不足状況はヘルパー、介護職員、ケアマネジャーなど、全職域にわたって生じています。職員内での紹介活動をはじめとするさまざまな確保対策、介護の魅力の発信などが各法人でとりくまれています。

〇46回総会に向かう 基本方針
()介護ウエーブ
 当面の運動の焦点は、今後継続して検討が行われていく利用料、室料の引き上げ案をかならず中止・撤回に追い込むことです。このうち利用料2割負担の対象拡大は、法「改正」を要せず、政令の「改正」で実施可能とされており、多床室室料負担の拡大は、2024年度介護報酬改定に向けて検討していくと説明されています。いずれも国会審議を経ず、パブリックコメントの募集など、型通りの手続きで実施が決定されていく危険性があります。高所得者の保険料引き上げは、高騰し続ける介護保険料そのものの問題を放置するものです。一時しのぎの対応ではなく、保険財政における国庫負担割合の大幅な引き上げと高齢者保険料割合の引き下げが、「制度の持続可能性の確保」の上でも不可欠であることは明らかです。ひきつづき力を緩めることなく、あらゆるチャンネルを通して、制度の改悪中止、大幅な改善を求める世論をひろげていきましょう。
 政府に対し、公費の投入によって全介護従事者の給与を全産業平均水準に早急に引き上げること、人員配置基準の引き下げ方針の撤回、専門職の大幅な増員の3点をひきつづき求めます。コロナ禍による減収、水光熱費高騰に対する財政的支援を重ねて要請します。2024年介護報酬改定の審議が、今春から開始されます。現場の実態を明らかにし、基本報酬の底上げを強く要求します。各自治体では、第9期に向けて事業計画、介護保険料の見直し作業が始まります。市町村介護保険財政の黒字分も活用し、保険料の引き下げ、サービスの拡充をはかることが必要です。4月の統一地方選挙で、介護問題を大きな争点に引き上げていきます。
 今回の介護保険の見直しでは、全国老人福祉施設協議会や介護支援専門員協会などの職能団体、認知症の人と家族の会をはじめとするさまざまな市民団体が、かつてない危機感を持ち、反対の世論をひろげてきたことが、全面的な制度改悪を阻止する大きな力となりました。大幅な処遇改善と「介護の社会化」の実現は、ジェンダー平等をめざす課題でもあります。介護ウエーブを全世代型社会保障改革の撤回、「ミサイルではなく、ケアを」の実現をめざす運動として位置づけ、ひきつづき「民医連丸ごと」「地域丸ごと」「ケア丸ごと」のウエーブを職場から、地域からいっそう大きくひろげていきましょう。
 現在作業がすすめられている民医連「医療・介護提言」の改定に合わせて、情勢変化を踏まえた「介護政策提言」をとりまとめます。2022年11月、日本高齢者大会で確定された「高齢者人権宣言」の学習をすすめ、とりくみに生かします。

()介護の質の向上と連携強化、 無差別・平等の地域包括ケアの実践
 ひきつづき2024年介護報酬改定を見据えながら、安全性の追求、LIFE(科学的介護情報システム)への対応、リハ・歯科・栄養の一体的な対応、各種加算の算定を通して、介護の質の向上や医療との連携強化をはかります。BCP(事業継続計画)の作成・運用のとりくみをすすめます。ケアマネジメント分野の課題を整理し、政策づくりを推進します。
 2022年7月の医療・倫理交流集会の成果を学び、倫理的な気づき(もやもや)を共有し、実践に結びつけていくことが大切です。現場から声をあげやすい環境づくりや、多職種による「倫理カンファレンス」の実施など、介護分野の倫理的課題を検討するとりくみをすすめます。
 3年におよぶコロナ禍のもと、高齢者の心身機能の低下、社会的孤立のひろがりなどが報告されています。高齢者・世帯の困難をつかみ、感染状況に留意しながら、日々の生活を守りささえる介護実践、地域でのさまざまな活動、まちづくりのとりくみを推進しましょう。

()職員の確保・養成
 法人の総力をあげ、各地の経験を学び合い、職員確保対策の強化をはかりましょう。多くの法人で管理者(幹部)の世代交代の時期を迎えており、地協、県連で管理者(幹部)養成をすすめます。全日本民医連として、「法人介護・福祉責任者研修会」(全4クール)を開催します。県連介護職部会代表者会議を開催します。

()事業基盤の強化、今後の事業展開
 経営改善に向けたとりくみをひきつづき強めましょう。制度改悪の中止、処遇改善、介護報酬引き上げを求める運動課題と一体的にとりくみます。地域の状況やニードの変化に応じて、事業転換など既存事業の大幅な見直しを含めた検討も必要です。IT機器の活用による実務の効率化など、働きやすい環境整備をすすめます。「運営指導指針」の見直しが行われており、法的整備を抜かりなくすすめましょう。
 「生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系と方略づくり」(44回総会運動方針)の具体化を、事業展開上の大きなテーマとしてとりくみをすすめましょう。今回の介護保険法「改正」では、「地域共生社会の実現」を前面に据え、在宅医療・介護連携の強化、新しい「複合型サービス」の創設、地域リハビリ、住まいと生活の一体支援など、「地域包括ケアの深化・推進」に向けた新たな政策を打ち出しています。ポストコロナを見据え、政府の政策動向や第9期に向けた自治体の動きを把握しながら、総合的な医療・介護構想と中長期計画を検討していくことが必要です。在宅分野の総合的強化、事業の大規模化・多機能化にひきつづきとりくみます。医療・介護の一体的な提供をめざし、「法人単位」の検討にとどめず、「地域単位」の視点から県連内・法人間の新たな連携や事業活動を構想・具体化することが重要です。訪問看護ステーション、地域包括支援センターの全国交流会、社会福祉法人の専務会議などを開催します。

()10年を迎えた 「民医連の介護・福祉の理念」
 「民医連の介護・福祉の理念」が確認されてから10年が経過しました。2022年10月の看護介護活動研究交流集会では、利用者に寄り添い、生活をささえ人権を守る豊かな実践が多数報告されました。日常の実践を「見える化」し、共有・発信していきましょう。理念にもとづく実践事例集づくりにとりくみます。
 「自立」理念の書き換え、「生産性」の追求やデータによる介護の一面的評価などの流れが強まっているなか、質の高い介護とはどのような介護か、本来の「自立」、介護の専門性とは何かについて、あらためて「理念」に引き寄せて掘り下げていきます。

第3節 改憲・軍事大国化阻止、人権としての社会保障運動を両輪ですすめよう

〇45期前半の概況
 45回総会運動方針では、岸田政権の改憲をストップさせ、憲法を生かし、人権としての社会保障と平和の実現を大きな中心課題に掲げました。そして、全職員で担う社保運動、気づきや医療・介護の現場の事例を大切にして社保運動につなげること、人権を守るソーシャルアクションのとりくみ、すべての地協に社保委員会の確立をめざすことを呼びかけました。

()改憲阻止のたたかい
 商店街のモニターでの動画配信やラジオCM、職員・共同組織の憲法学習、憲法川柳、憲法かるた、プラスターのデザイン募集、3分間スピーチなど職員が自分の言葉で思いを伝える工夫、外来での署名の訴え、返信用封筒での署名集約など、大いに工夫して奮闘しました。署名の到達は2022年12月末現在、28万1640筆です。

()参院選のとりくみ
 民医連の参院選要求をとりまとめて要求リーフを作成しました。各県連では、職員や共同組織での読み合わせ学習、要求リーフでの候補者・政党への要請、地域の医療機関・介護事業所への働きかけなどに活用しました。

()地域要求を実現する運動
 国保・後期高齢者医療制度、生活保護制度、外国人の医療保障の改善や、障害者福祉の拡充など、地域要求に沿ってとりくまれました。障害者支援では、全日本民医連として千葉の天海訴訟を支援してきました。
 自治体キャラバンもオンラインを活用してより多くの職員や共同組織の参加を組織し、積極的にとりくみました。子ども医療費窓口負担減免などは、沖縄をはじめ各地で大きく前進し、子ども医療全国ネットの署名を軸に、国の制度として18歳までの子ども医療費無料化実現を求める運動が始まっています。沖縄県豊見城(とみぐすく)市、北海道の美瑛町、音更(おとふけ)町で新たに市町村による無低診の薬代助成の実施が決定しました。

()全国的交流
 2022年10月に開催した社保委員長会議では、各地の実践を交流し、「工夫すればいろいろなことができる」「成功体験の交流・共有が大事」「民医連外、行政とも連携しながらとりくむ重要性を確信した」との感想が出されました。一方で、「コロナで社保の活動量が低下。外にも出ず、何もしなくてもよくなってしまっている」「課題が多過ぎ、資材も活用しきれない」「社保委員会が課題を下ろすだけの場になっている」といった実情や悩みも出されました。
 今後強化すべき課題として、現場からの社保運動の実践と職員育成を結びつけたとりくみの重視、地協社保委員会の強化、県連社保委員長の悩みに寄り添う援助、日常的な全国のとりくみの共有、機敏な方針提起などを確認しました。

〇46回総会に向かう基本方針
 改憲阻止、軍事大国化反対、人権としての社会保障構築の3つの分野を常に一体的に情勢分析し、課題を明らかにしてとりくむことを運動の基調に据えます。

()改憲阻止・大軍拡阻止の大運動
 ①今後、大軍拡をストップすることが医療・介護、社会保障を守る中心課題になります。
 大軍拡阻止の運動は、どれだけ多くの国民に安保3文書の問題点と危険性を伝え、「軍拡のための増税反対、いのち・くらし守る政治を」「軍事費より社会保障拡充を」の願いを、圧倒的な国民世論にして、軍拡推進勢力を追い詰められるかが重要です。多くの世論調査でも、防衛力強化のための増税には、国民の6~7割が反対しています。
 第2回評議員会方針を学び、幹部、全職員、共同組織が、憲法の大切さ、大軍拡・安保3文書、自民党改憲案などを、自分の言葉で語れるようくり返し学ぶ、大規模な学習をすすめます。学習にあたっては、戦争体験、被爆体験を聴くこと、書籍や絵本、映画を通して戦争を知ること、南西諸島をはじめ、今、日本各地ですすむ防衛力強化の実態を学ぶことなど、なぜ民医連が大軍拡阻止の運動にとりくむのか、多様な形で知り、考える工夫をしましょう。
 ②4月の統一地方選挙で、声をあげ、大軍拡反対の明確な意思表示をしましょう。大軍拡を止める上で、大軍拡をすすめる自民党、公明党、それに協力する日本維新の会、国民民主党などの議員が減り、大軍拡反対、予算をいのちと暮らしに回す政策を掲げた政党の前進が不可欠です。
 地方自治、地域の福祉を破壊する大軍拡・改憲阻止を争点のひとつに押し上げ、立候補者、各政党の立場を明らかにさせましょう。全日本民医連として、大軍拡、大増税に反対するさまざまな団体、個人とともに、国会行動や議員要請などにとりくみます。
 ③憲法署名を軸に、あらゆるつながりを生かして、地域にひろく大軍拡や安保3文書の内容、自民党の改憲4項目の危険性を語り、伝えましょう。改憲阻止のために全日本民医連の100万筆の署名目標を達成しましょう。9の日宣伝行動などを位置づけ、全国いっせいの大宣伝行動を呼びかけます。
 ④全県連で憲法闘争本部の体制を強化し、各県連、法人や事業所でも改憲阻止と大軍拡阻止の体制を確立し一体にすすめましょう。
 ⑤全日本民医連として、学習資材、プラスターなどの宣伝物作成や、ニュースなどで全国の経験を共有していきます。

()人権としての社会保障実現の運動
①2023年通常国会に向けた運動
 全世代型社会保障改革関連の法案が提出されました。また、コロナ禍の生活困窮者支援の「住宅確保給付金」の恒久化や「特例貸し付け」の自治体の支援事業義務付けなどの法改正や見直しでは、生活困窮者の実態に即した真の支援にさせる運動が重要です。
 これらの改正法案などについて、署名や宣伝で地域にその内容を知らせるとともに、中央社会保障推進協議会や他団体と共同した国会議員要請や院内集会の開催、全国から厚労委員の議員や地元出身議員などへの要請行動などを提起していきます。
 医療団体連絡会で、緊急に診療報酬・介護報酬の再改定を求める全国団体署名のとりくみが、医療機関の半数以上の賛同を目標に開始されました。また、民医連独自に「すべての看護職員の処遇改善を求める」請願署名と全国アンケート調査を開始しました。地域の人びとのいのちとくらしを守るため、現場から声をあげ、ケアが大切にされる社会の実現へと前進させましょう。

②格差と貧困・困窮への支援活動
 すべての患者宅訪問など思い切った地域へのアウトリーチ、いのちの相談所の強化、地域での生活相談のとりくみを強化します。物価高騰の影響や受診控え、食、栄養状態の悪化など、地域住民の生活実態や健康への影響を明らかにしていきます。
 受診控えによる手遅れを生まないために、無低診をひろく知らせるとりくみを一段と強めます。無低診の薬代の問題や外国籍の人の医療について、厚労省と懇談、要請を実施します。各自治体に向け、無低診の保険薬局での薬代助成や、公的医療機関での実施を求めていきましょう。
 国保保険料の大幅引き下げ、活用しやすい国保44条制度への改善、資格証明書発行の中止、必要な時に誰でも利用できる生活保護制度への改善などにとりくみましょう。中央社会保障推進協議会は「軍事費の拡大でなく社会保障の拡充を求める請願署名」を2025年6月末までに、100万筆目標で提起しました。全県連でとりくみを開始しましょう。
 これらのとりくみのなかで、ジェンダー平等の視点を取り入れ、外国籍の人やLGBTQなど、マイノリティーの人びとの人権保障を重視します。社保協や地域のさまざまな団体、個人との協力、協同を追求しましょう。非営利・協同総合研究所いのちとくらしと共同して、貧困問題へのとりくみを検討します。

③統一地方選挙のとりくみ
 今年4月の統一地方選挙に向けて全日本民医連統一要求を作成しました。各地域で地元の医療機関・介護事業所などとの懇談や要求アンケートなどにとりくみ、統一要求に地域の医療・介護要求を反映させましょう。県連や法人で、候補者・政党アンケートを実施して結果を公表し、職員や共同組織、地域住民の投票を促す情報提供をしていきましょう。

④現場からの社保運動、調査・社会的発信の重視、社保分野での育成、全国交流など
 2022年手遅れ死亡事例調査、75歳2割化アンケート調査結果を、記者発表します。各県連・法人でも、統一地方選挙前の記者会見や自治体キャラバンなどに生かし、制度改善につなげましょう。
 全職員参加、日常の医療・介護現場、職場からの社保運動の実践を重ね、全国からその経験を持ち寄って、今年秋に人権としての社保運動交流集会(仮)を開催します。
 社保運動のなかでの職員育成指針の具体化として、日常の医療・介護現場のなかでの気づきを大切にし、患者、利用者の要求から学び、人権としての社会保障につなぐとりくみを通して、成長を援助することが重要です。45期人権としての社保WEBセミナーを2023年6月から開始します。
 社保委員会の活性化・強化に向け、社保運動のリーダー育成も課題としていきます。現在3~4カ月ごとに全日本民医連理事会が提起する「当面の運動課題」について、通達だけでなくオンライン会議を開催して、県連社保委員長への説明や情勢学習、各地の経験交流ができるよう改善します。地協社保委員会のとりくみも強化しましょう。

()平和・沖縄のとりくみ
 ロシアのウクライナ侵攻における核兵器による威嚇で、「核兵器は廃止しかない」という声が世界中にひろがり、核兵器禁止条約は署名92カ国、批准68カ国となりました(2023年1月9日現在)。昨年の原水爆禁止世界大会は、民医連からの参加者が過去最高の3000人超え、また44期から開催している民医連の平和の波企画は、314カ所からの視聴がありました。コロナ禍でも継続したとりくみがあり、活発な交流が行われました。

①核兵器禁止条約の批准、核被害者支援の課題
 1)日本政府に核兵器禁止条約への署名・批准を求める署名は、目標100万筆に対して20万筆を超えました。ロシアによるウクライナ侵攻で核兵器使用の恐怖が地球上を襲うなか、ひきつづき核兵器禁止の声をあげ続けましょう。
 2)今年のビキニデー(2月27日~3月1日)は、集合とWEBでのハイブリッド開催が決まりました。現地参加の検討と視聴会開催と参加で連帯しましょう。継続してビキニ被ばく船員訴訟の支援にとりくみます。

②沖縄への支援・連帯
 辺野古新基地建設反対に連帯するたたかいは、2022年9月に行われた県知事選挙が大きな山場となりました。全日本民医連は全国から支援を行いました。辺野古新基地反対を公約に掲げた玉城デニー知事が圧勝し、未来への希望となりました。
 埋め立て承認撤回を取り消した国の採決は違法だとして、県が国を相手に採決取り消しを求めた訴訟で最高裁は、県の上告を棄却する不当判決を出しましたが、ほかに軟弱地盤の改良にともなう設計変更申請をめぐっての訴訟など、法廷闘争が続きます。玉城知事は公約実現に全力を尽くす決意を示しており、ひきつづき連帯したたたかいを呼びかけます。
 1)辺野古支援連帯行動は感染拡大により48次で中断していましたが、今年5月に再開します。10月に50次記念の行動を予定しています。
 2)敵基地攻撃能力(反撃能力)の保持・大軍拡の強行のもと、とりわけ南西諸島から九州へかけて急速に日米の軍事基地強化が強行されています。深刻化する基地強化の実態を学ぶことを重視し、全国的な米軍基地・自衛隊基地強化、激化する共同訓練に反対する運動にとりくみます。

()原発ゼロ・再生可能エネルギーへの転換めざして
 原発回帰路線を許さないたたかいと、ひろがる気候危機に対する運動をリンクした運動を重ね、学習を重視しながらすすめていきます。
 ①原発をなくす全国連絡会が呼びかける3月の「原発ゼロ集中WEEK」として、全国各地で多彩な行動を呼びかけます。とりわけ岸田政権の原発回帰路線を許さないたたかいを重視します。「岸田政権の新・原発推進政策の撤回を求める全国署名」にとりくみます。
 ②ALPS処理水の海洋放出、原発事故避難者の医療支援縮小など、福島県民、原発事故被害者にさらなる被害と負担を押しつける、原発事故被害者の切りすて政治に対し原発事故被害者に寄り添い、福島の真の復興をめざす運動を強めます。
 ③統一地方選挙で、原発ゼロを予定候補の政策に反映させることや、野党共闘候補の共通政策となるようにとりくみます。
 ④各地ですすめられている火力発電所建設反対の運動を、県連を軸に強めていきます。
 ⑤各事業所で環境問題のとりくみがすすんでいます。学習を推進し、とりくみを交流していきます。
 ⑥今年7月に被ばく問題交流集会を福島で開催します。

第4節 複眼の視点で経営実態をつかみ、たたかいと対応を強めよう

 コロナ禍3年間の経営は、新型コロナ感染患者受け入れのための病床確保や患者・利用者減少による減収の影響、多額の空床確保料、診療報酬の特例加算、PCR検査や抗原検査、発熱外来などによる収益増など、複雑で特殊な状況のもとでの経営活動となりました。
 こうしたなかでの経営の到達点を的確に認識し、今後を見通した経営活動をすすめるためには、くり返し強調しているように、複眼で経営実態をつかみ読み解く力量をはじめとして、経営管理全般にわたる総合的力量が試されることになります。
 自公政権のすすめる軍事大国化などの危機的な政治情勢のもとですすめられる、2024年度を起点とする第8次医療計画やトリプル改定へのたたかいと対応、少子高齢化、国民生活の困難、コロナ後の出口戦略をどうするかなど、たくさんの課題に立ち向かいながら、中長期的視点にもとづく戦略を確立し、必要な決断をしていくことが求められています。次回総会までの1年間は、今後の経営の維持発展にとっても極めて重要な年となります。第1回評議員会方針、2022年地協・県連経営委員長・医科法人理事長・専務会議の問題提起(以下「問題提起」)を受けて、各地での論議が開始されています。問題提起を正面に据えて、提起された諸課題を軸に、論議と実践をすすめましょう。ここでは、「問題提起」を踏まえていくつかの重点課題を方針として提起します。

()経営の現状を複眼で捉えるために
 民医連医科法人の合計で見る経営成績は、2020年度、2021年度と過去最高の利益率となりました。2022年度も、段階的縮小があるものの、空床確保料などのコロナ関連の収益など、コロナ禍のさまざまな影響を受けたなかでの経営結果となっています。また、利益の増加と緊急融資などによる借入金により、手持ち資金も大幅に増加しています。
 一方、補助金などを除く収支構造は、明らかに悪化している実態です。多額の空床確保料により経常利益が大幅に増加している法人がある一方で、補助金も少なく経営が2019年度以上に悪化している法人もあり、経営の二極化がすすんでいます。現時点で資金に余裕のある法人も、コロナ後を考えた場合、必要な資金を賄うための事業キャッシュが確保できる状況にはなく、一気に資金流出となる構造の法人が多数です。自らの法人・事業所の経営実態をきちんとつかみ、分析することが必要です。
 そのために、コロナ禍の影響をデータとしてきちんと捉えておくことが重要となっています。「全職員参加の経営」を実践する前提条件として、法人理事会や全職員に向けての経営報告なども、こうした特殊な状況を正しく伝えるための工夫がなされていなければなりません。10月からは看護処遇改善の上乗せ収益と費用が入院収益、人件費に影響することになります。
 毎月、毎期の決算書に最低、以下の点が残高として表示されることが必要です。損益計算書は、発生したコロナ補助金(収益・経費)を除く経常利益と含む経常利益、事業外収益の内訳としてコロナ補助金を別掲しましょう。また、事業収益に影響しているコロナ関連の各種加算や発熱外来収益、PCR検査などのコロナ対応の収益などはかならず数値でつかみましょう。
 貸借対照表の残高表示には、コロナ関連補助金の入金額を仮受金として金額がわかるように表示すること(通知済み)、資金繰り表、および中長期の資金計画(キャッシュフロー)には、コロナ補助金を除く事業キャッシュの表示、現預金残高の内訳としてのコロナ補助金の入金額、緊急融資による資金などの表示を行い、手持ち資金の源泉を認識できるようにしましょう。
 これらはコロナ禍による経営への影響を的確につかみ、認識するための最低限の工夫であるとともに、日当円や患者数も含めた経年比較や、中長期経営計画検討のための必要なとりくみでもあります。
 2020年度以降こうしたコロナ禍による経営影響を数値で正確につかみ、決算諸表の整備ができていない法人も見受けられます。早急に整備をすすめましょう。なお、2022年4~9月の看護処遇改善および介護処遇改善補助金と10月以降の診療報酬、介護報酬への加算などの処理については、経営管理の視点から別途通知しています。これらの課題は、保険薬局法人、社会福祉法人にも同様の整備が必要で、経営を改善するための集団的な討議と工夫が求められます。

()経営管理の基礎的課題のとりくみ
 2022年地協・県連経営委員長・医科法人理事長・専務会議の事前アンケートとして、45回総会運動方針で確認した5つの重点課題や、事業所独立会計の課題などの基本的課題の状況を集計しています(集計結果は経営部ホームページ参照)。集計結果を踏まえて、あらためて今期中に整備する課題としていくつかの点を提起します。
 毎月の決算書の確定日が15日以降の法人が、約6割となっています。診療報酬や介護報酬のしくみから収益の確定だけは10日以降となりますが、その他収益費用は10日までに確定できるはずです。経営結果を評価し対策を検討するためには、毎月12~13日には決算が確定することが必要です。山梨勤医協の倒産と再建での教訓の一つでもあり、医事会計の整備としてもくり返し提起してきた、基本中の基本の課題でもあります。これは医事職員の「がんばり」の問題ではなく、決算実務の流れなどのシステムの改善課題であることを認識して、早急に改善をはかりましょう。
 事業所独立会計管理要綱にもとづく整備と実践も不十分です。また、決算予想の作成、中長期経営計画のつくり方などをはじめ、『予算管理テキスト』に沿った整備と実践となっているか、点検整備をすすめましょう。これらは、民医連経営の強みである「全職員参加の経営」のための基本的課題です。まったなしの課題として、地協・県連経営委員会としても実態を把握し役割を果たすことが必要です。

()リポジショニングと中長期経営計画、「オール地域」の視点での運動
 中長期経営計画にもとづく「必要利益」は明確になっているでしょうか。本質的な収支構造の転換がすすまず、必要な利益・事業キャッシュに届かない状況が継続すれば、経営破たんということになります。利益・資金の中長期計画を描くためには、少なくとも今後10年程度を見通した医療・介護構想を議論・確立しなければなりません。そのためにも、自公政権のすすめる諸政策、事業所のある地域の医療・介護をめぐる情勢分析、自組織内部の到達点と今後の展望などを的確に把握し、分析できていなければなりません。すべての医科法人、薬局法人、社会福祉法人でリポジショニングを行い、中長期戦略と中長期経営計画を情勢に見合ったものとして確立しましょう。「民医連綱領の理念の実現をめざしとりくむ限り、法人形態や民医連法人間のあり方を永続的かつ固定的なものでなく、戦略的かつ柔軟に考えることが必要」(2020年度地協・県連経営委員長会議問題提起)との視点は、今日ますます重要になっています。法人形態の枠を超えて県連・地域でのひろい視野での検討もすすめましょう。また、「問題提起」に示した中長期の資金・利益計画と、2023年度予算編成に向けての留意点も踏まえて検討をすすめましょう。
 医療・介護への自公政権の政策矛盾は、多くの医療・介護事業所、法人の共通認識となっています。さまざまな問題での立場を超えて、民医連綱領のめざす医療・介護の実現に向け、地域の人びとの医療・介護を守り抜くという一致点で、「オール地域」の視点でのさまざまな連携・ネットワークをひろげ、強くしていく「チャンス」です。医療・介護活動での機能分担と連携、経営課題での連携、自公政権の打ち出す政策への意見集約と運動など、あらゆる課題で「オール地域」の視点で、とりくみの大きな前進をめざしましょう。「問題提起」に示した、看護処遇改善の見直し、紹介手数料の社会問題化、入院時食事療養費の引き上げ、物価高騰への財政支援、感染症対応への財政支援のありかたは、まさに幅ひろく一致する共通課題です。運動は現場の実践からです。全日本民医連も全国的運動の前進に向けて、とりくみを強めます。
 2025年以降急速に生産年齢人口が減少します。人材の確保は喫緊の重要課題となっています。経営課題としても全国的に知恵を集めながら、今までとは違う新たなとりくみをすすめます。
 全国医学部長病院長会議、日本私立医科大学協会は、医師の働き方改革による負担増1200億円との推計結果をもとに、適切な財政支援を求めるとしています。働き方改革対応の諸課題の整備をすすめつつ、経営的に大きな負荷となる費用増についても、民医連としての状況も把握しながら、財政支援や診療報酬の引き上げの運動を強めます。

第5節 医師が生き生き働ける 受け入れから育成・集団づくりをすすめ、医師増員を訴えていこう

 突破をはかるための重点課題の一つとしての全国的意思統一と実践をすすめるため、45期前半、第1回評議員会、都道府県連医師委員長会議を開催してきました。その到達と、医師をめぐる情勢の進展を踏まえ、46回総会へ向けた中心的な方向性を提起します。

() 「大切文書」 の議論を通して医師政策の策定を~都道府県連医師委員長会議の到達に立って~
 2022年9月、3年ぶりとなる都道府県連医師委員長会議(以下、医師委員長会議)を開催し、事前に実施した医師委員長アンケートで、医師政策の有無や「未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするか」(以下「大切文書」)の議論状況を集約しました。すべての県連からの提出を受け、結果は、「医師政策なし」が43%、「『大切文書』は今後議論予定」37%、「議論予定なし」13%でした。医師委員長会議での指定報告の学びと議論を通し、①医師政策は型にはまった画一的なものではなく、多くの医師に議論への参加を呼びかけ、各医師が何を思い、何を考えているかをつかむとりくみが重要であること、②議論のプロセスを大事にしながら柔軟に考え作成していくものであること、が確認されました。医師政策は中長期経営計画・医療構想と両輪の関係にあり、「大切文書」の議論とともに、医療構想を医局中心にしっかりと議論することもあわせて必要です。医療・介護複合ニーズの変化を受け、どう一体的、総合的に無差別・平等の医療・介護を提供するかをみんなで考え確認し、各医師が地域から求められる役割を実践するなかで、医師集団の団結は深まります。そして、自院のポジションを明確にし、将来展望を示すことが常勤医確保にもつながります。
 職員育成指針2021年版では、「医師が多職種とともに学び語り合うことの重要な意味」を提起しました。日常の医療活動の実践を通して、多職種協働や共同のいとなみを大切にする組織の一員であることを自覚し合い、多職種とともに成長し続ける医師集団をめざしましょう。
 医師政策の進捗と援助・交流を目的として、今期2回目の医師委員長会議を2023年夏に開催するとともに、医師研修委員長会議・医学生委員長会議を開催します。また、医師をめぐる情勢が大きく変化するなか、民医連の医師像は、2010年に開催した医師委員長会議で確認した「総合性を自らの専門として高い力量を持つ家庭医・総合医」と「総合的基礎力を備えた専門医」から、議論を深めることができていません。今日的な民医連の医師像を探求する議論をすすめ、言語化します。

()私たちの目標 (500―200―100) の到達と現在の課題~民医連の総力をあげ、 2024年春に500―200―100の達成を~
 奨学生集団500人、新卒医師受入れ200人、後期研修医100人(連携施設でのプログラムを選択した専攻医含む)の目標を掲げ、この間、全国での奮闘が続いています。500―200―100の目標は、民医連の医師集団が前進し続けるための必要最低限の数の目標ですが、数の追求だけでは達成は困難であり、粘り強いとりくみをすすめていくことが重要です。ここ数年で常勤医師が倍増した栃木民医連の教訓は、①職員全員での民医連医療を常に行っていること、②10年先、20年先を見据えた医師体制上の危機感を共有し、対策をとっていること、③やれることはどんどんやることの3点です。
 全国の奨学生は、2019年5月に500人に到達したものの、現在は443人(2023年1月現在)です。2023年の新歓期に向けてとりくみがすすめられています。一人でも多くの医学生と出会い、つながることを追求し、医学生の「より良い医師になりたい。仲間とともに学び語り合いたい」との要求に応える活動を通して、奨学生を確保していきましょう。あわせて、医学生運動や医学生ゼミナールへの自主的な参加を援助することを追求しましょう。これらの活動には、サークル活動のような一致した目的での活動とは異なり、さまざまな思いや考えを持つ医学生が、集団での議論を通じて一致点を見出し、前にすすむ経験があり、医学生の民主的成長にとって大きな意味があります。医学対活動の本道に立ち、2023年の新歓期に大きな飛躍を勝ち取りましょう。
 基幹型臨床研修病院の定数が削減されていくなかで、定数を守り抜くこと、条件のあるところは枠を増やすことは、オール民医連で医師を養成する上で非常に重要です。この間、大阪民医連(耳原総合病院、西淀病院)では、大阪府から減員の通知が来るなかで、医局をあげて研修の質の向上にとりくみむとともに、増員を要望するなど攻めの姿勢を貫くことで減員通知を跳ね返し、増員や定数の維持を勝ち取りました。また、都道府県ごとに子育て支援枠などの独自要件を設定するところもあり、地域がまさに主戦場となっています。民医連の研修の質の向上と、定数を守るたたかいを、両輪ですすめましょう。一方で、指導体制の不足により、フルマッチを追求することができない臨床研修病院も生まれています。あらためて基幹型臨床研修病院の定員枠(225人)はオール民医連の医師養成を行う貴重な枠であることを確認し、県連・地協の力を生かし、フルマッチ実現に向けて何が必要か議論をすすめましょう。2023年度入職予定医師の到達は201人です。45回総会運動方針で掲げたフルマッチを今期中にかならず実現しましょう。
 2022年度は、2018年度からスタートした新専門医制度の専攻医の帰任状況などの全国調査を、初めて行いました。調査結果からは、①初期研修修了後、退職をせず専門研修(トランジショナルイヤー研修含む[以下、TY研修])にすすんだ医師の7割以上が、6年目も継続、②6年目以降の継続率は奨学生であった医師の割合が高い、③民医連外(民医連内研修なし)の研修を選択した医師も、研修修了後に民医連に戻り、常勤医師として勤務する医師や、民医連に戻る意思を持ちながら研修を継続している医師が多数であること、などが明らかになりました。この間、総合診療科や内科領域において、積極的にプログラムの取得と質の向上をすすめています。領域別でも、外科では沖縄協同病院を基幹型とする民医連初となるプログラム取得準備がすすめられています。外科医療委員会で、オール民医連での外科医を養成する議論がすすめられるなか、基幹型取得の動きにつながりました。沖縄協同病院からは「外科を標榜する多くの民医連病院が連携施設とならないと基幹型を取得する意味はない」と、全国に協力が呼びかけられています。また、TY研修を選択する研修医が増加しており、新専門医制度開始以降、民医連で初期研修を修了した医師の10・9%(91人)がTY研修を選択しました。一人ひとりの研修医にカスタマイズされる研修でもあり、民医連医療を実感しながらの研修が、全国で実践されています。TY研修の教訓を可視化し、民医連ブランドとしての確立をめざしていきましょう。
 医師委員長会議を受けて、その内容を医局にかかわる多くの事務集団に共有し、医局事務集団の果たす役割を考え合うために、全日本民医連として初めて医局事務交流集会を、2022年11月に開催しました。参加者からは「同じ地協内のとりくみであっても知らずにいることが多く、とりくみや悩みを共有する場が不足している」「医師関連事務の横のつながりは薄い。真っ先にとりくむべきは事務集団の団結である」との感想が寄せられ、年1回の企画開催の要望が多くの参加者から出されました。
 医師課題を前進させていくためには、医学生・医師にかかわる事務集団の積極的配置と成長の援助が必須であり、そこに組織の力を注がずして、前進をつくり出すことは極めて困難です。そして、医学対担当者とともに医学生に寄り添い、成長を援助する医学生委員長の活動を保障することが重要です。未来の民医連のために、今、医師の確保と養成に組織の力を注ぐことができるかどうかは、幹部の構えにかかっています。民医連医師の確保と養成をすすめることに楽な時はありません。組織として腹をくくり、全職員の参加で、やれることはどんどんやる構えを貫き、500―200―100の目標を、2024年の春にかならず達成しましょう。

()かかりつけ医機能の制度化への見解
 コロナ禍において、患者が外来受診することができなかったのは、かかりつけ医機能が発揮されなかったためとし、かかりつけ医機能の制度化を求める議論が展開されています。医療費抑制をすすめたい財務省や健康保険組合連合会が、かかりつけ医の制度化が必要とし「登録制」や「人頭払い」を主張するなか、2022年11月、社会保障審議会・医療部会に厚労省案が提出されました。案では、かかりつけ医の具体的機能として、①よくある疾病への幅ひろい対応、②休日・夜間の対応、③入退院時の支援、④在宅医療の提供、⑤介護サービスとの連携、の5点をあげ、患者との関係において、継続的な管理が必要と医師が判断した患者に限り、診療内容を明記した書面を患者と交わし、かかりつけ関係を確認すること、2023年をめどに医療機能情報提供制度の拡充と、かかりつけ医機能報告制度を創設するとしました。
 すべての国民が安心して必要な時に必要な医療を受けることができることが、医療提供体制の前提であり、かかりつけ医機能は、信頼で結ばれた良好な医師・患者関係の上に成り立つものであって、患者・国民には、主体的に選ぶ権利があります。
 昨年秋の建議では「2040年ごろにかけて都市部を中心に、高齢者の人数増加、医療従事者の不足が予想され、限られた医療資源について役割分担を徹底させることが不可欠であり、『かかりつけ医機能』を強化するための制度整備は不可避」と示しました。
 当事者である国民・患者不在のなかで拙速な議論を行うこと、ましてや国民にさらなるフリーアクセスの制限がかけられる事態は、絶対に避けなければなりません。
 民医連として、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備に対する見解」を作成しました。見解を生かし、地域での連携強化をさらに推しすすめると同時に、より良いかかりつけ医機能整備のために、力を尽くしましょう。

()医師の働き方改革へのたたかいと対応~医師増員を求める大運動を~
 2024年4月より、すべての勤務医に時間外労働の上限が適用され、上限を守ることが必要となります。多くの事業所において、医師の労働時間の把握、タスクシフト/シェアの検討、宿日直届けの準備など、対応がすすめられていますが、その進捗状況には差が生まれている状況です。対応をすすめるにあたり、医師の自己犠牲的な長時間労働の見直しを行い、医師のいのちと健康を守ることを柱に据えるとともに、2018年に開催した第1回常勤医師確保を前進させるための全国会議で確認した4つの視点(①医療活動内容と理念‥医療構想・医師政策づくり、②労働環境[ジェンダー平等・子育て支援など]、③処遇、④学べる環境整備・キャリア支援)を生かし、総合的に対応するなかで常勤医師確保の前進につなげていくことが重要です。2023年2月、全国の対応状況を把握するとともに課題を整理し、とりくみを加速させるため、「医師の働き方改革へのたたかいと対応検討会議」を開催しました。
 日本の医師過重労働は、医療費抑制のための医師抑制政策によってつくり出された側面が大きいにもかかわらず、政府は医師不足ではなく、医師偏在が原因とする立場をあらためていません。根本にメスを入れない限りは、真の意味での医師の働き方改革の実現は困難です。厚労省の調査結果では2024年4月時点で、全国の43の医療機関において、医師が派遣元の大学病院などに引き揚げられ、診療機能に支障が生じると見込まれていることが示されました。診療報酬の改善と医師不足を解消することなく働き方改革をすすめることは、地域医療の縮小や崩壊につながります。コロナ禍での医療崩壊、働き方改革への対応で生じる矛盾など、医療提供体制の問題が顕在化している状況を踏まえ、あらためて、絶対的な医師不足を医療界の共通の認識とし、医師の増員を求める大運動を検討し、提起します。

第6節 1年間の実践を確信に「育成指針」のいっそうの具体化を

〇45期前半の概況
 「職員育成指針2021年版」(以下、指針)発表から1年が経過しました。
 各地で「教育活動推進プロジェクトを立ち上げ、指針を土台に育成方針を確立」「県連の育成活動指針を策定」など、人権と共同のいとなみを大切にする組織文化の発展をめざして、積極的な学習と討議が始まっています。
 同時に、総会運動方針や憲法・人権・倫理をはじめとする学習活動が、職員の成長と運動の発展の大きな力になっています。
 総会運動方針学習の管理者職責者の読了率は61・2%(前期59・1%)、学習会開催数9683回(前期7656回)、学習会参加数6万1053回(前期6万1544回)で、例年と同等の到達でした。特徴は、①反戦・平和、核廃絶、憲法9条を守る運動と連動したとりくみとなった、②人権と公正の視点で「まず診る、援助する、何とかする」立場で「2つの柱」を実践し、地域連携やアウトリーチ活動がすすんだ、③指針の学習が始まり、職場づくりに学習を位置づけ、「組織文化の発展」をめざして議論された、などです。
 憲法を守る運動では、参院選のとりくみと結びつけ、さまざまな規模の学習会が各地でとりくまれました。「民医連新聞」の「憲法カフェぷち」による職場学習、弁護士や大学教授などの協力を得た学習会など、職員のアイデアと主体性を重視した多彩な運動の発展につながりました。
 人権の尊重と共同のいとなみを深めるとりくみがひろがり、特に、ジェンダー、LGBTQ、SOGI(性的指向・性自認)など多様性についての学習がすすめられています。「すべての民医連職員のためのLGBTQ講座」が全国で視聴されました。
 「旧優生保護法下における強制不妊手術問題に対する見解」(以下、「旧優生保護法下見解」)学習運動では、県連理事会で講師を招くなど、とりくみが始まっています。

〇46回総会に向かう基本方針
() 「職員育成指針2021年版」 の具体化
 指針の具体化とは、県連・法人の職員育成活動の現状を指針にもとづいて見直し、民医連運動の基盤となる活動としてさらなる発展をめざすことです。大切なことは、①綱領に沿ったこれまでの医療・介護活動や平和・社保運動が、「高い倫理観と変革の視点」を養うかけがえのない実践であったことに確信を持つ、②総会運動方針が提起した「人権を守り公正でいのちとケアが大切にされる社会の実現」「個人の尊厳とジェンダー平等を基本に据え、『2つの柱』を深める」ための基盤として、職員育成活動を多彩に発展させる、③職員育成活動の拠点として、職員の居場所であり多職種協働の場である職場づくりを重視することです。
 今年秋に「職員育成指針実践全国交流集会(仮)」を予定しています。育成活動を豊かに発展させ交流集会に持ち寄りましょう。
 「旧優生保護法下見解」は、職員育成活動に、常に見解の学習を位置づけることを強調しています。県連理事会などでの学習、当事者の話を聞くことを重視しましょう。

()指針 「第2章」 7つの具体的指針の実践を
①職場教育と職場づくり
 各地で職場づくり交流集会、職責者アンケート、マネジメント講座、全職員参加による社保活動・共同組織の活動などがひろがっています。「管理、職責、主任研修の統一テーマとして総会運動方針や県連長計と結びつけて指針を深め、職場づくり実践計画書を作成」(長野)などの経験もつくられています。
 同時に、職責者同士が交流し、学び合う場がいっそう必要になっており、トップ幹部集団のていねいな援助も求められます。
 さらに職員育成の視点からも、ヘルスケアを位置づけ、心理的安全性やハラスメントの学習、ラインケア、ピア・サポート、セルフケアなどにとりくみましょう。

②多職種協働による育成、各職種のとりくみ
 外来や病棟での多職種カンファレンス、在宅療養をささえる多職種学習会などで、実践や困難事例などを共有する活動が行われています。指針では、多職種協働における医師養成の努力について、特別に強調しています。いくつかの県連・法人では、医師が総会運動方針の全職員学習会や各種制度教育に積極的に参加し、多職種のなかで学び語り合う努力がすすめられています。こうした医局や職員育成委員会の経験・教訓を学び合いましょう。

③全職員を対象にした制度教育
 制度教育は、綱領や憲法・人権、SDHなど民医連の理念にかかわるテーマを重視し、人権意識を育む内容が展開されているのが特徴です。コロナ禍で制度教育が停滞した県連も一部ありますが、各地の工夫したとりくみを参考に、全職員が学べる場を保障しましょう。子育てや介護など、さまざまな条件の職員が参加しやすい工夫を、当事者の意見を取り入れながらすすめましょう。医師の制度教育への参加をひきつづき追求しましょう。

④地域とのかかわりのなかでの職員育成
 「地域へ出向いて無料市を実施」(鳥取)など、地域の困りごとに寄り添う形で発展した活動が、職員育成のフィールドとして展開されています。
 一方、県連アンケートなどでは、業務や事業所の外へ目を向ける意識が弱くなっていることがあげられており、地域を職員育成の場として意識的に位置づけることが必要です。共同組織など身近な地域での活動からまちづくりにかかわり、アウトリーチやソーシャルアクションを通して職員育成にとりくみましょう。

⑤青年職員の育成
 幹部や先輩職員が青年職員の自主的な活動を促し、青年が、生き生き成長する経験が生まれています。北海道では、「コロナ禍で経済的に困難な人が増えているのになぜ無低診の利用が増えないのか」という幹部の問題意識を受けて、青年職員を中心に無低診プロジェクトを発足。SNSを活用し無低診制度を地域にひろげるなかで、青年が成長しています。
 一方、コロナ禍以降の入職者の交流やつながりに困難が生じ、その対策が全国共通の課題です。新入職員が安心して仕事や活動に参加し、仲間づくりができるようなきめ細かい援助を行いましょう。中国・四国地協では、青年職員の育成支援担当者会議を開催し、JB企画の成功をささえるなど、体制を強化しています。
 この間、全日本民医連は、コロナ禍における看護学生の実態調査にもとづき、経済的支援を求めて国への要請行動を続けています。職員の援助によって、学生が自分の言葉で実態を語るなどの行動につながっています。また、多くの県連がSNSにより、確保と育成の活動を発展させています。ひきつづき各県連で職種を越えて学び合い、青年職員への支援を強めましょう。

⑥トップ幹部の養成
 トップ幹部養成の課題は事務、看護、介護など各職種においても目の前に迫った課題です。「民医連運動と看護継承PJを設置し次世代看護幹部養成講座を企画」、「県連トップ多職種研修を実施」などがとりくまれつつあります。県連独自の設定が困難な場合は、地協や全国の企画を生かしながら計画的な幹部養成をすすめましょう。

⑦職員育成活動の推進体制
 指針では、育成活動の目標が組織文化の醸成を促進することにあり、「トップ幹部集団が指導性を発揮して、総合的な推進にふさわしい構成による職員育成委員会を確立・強化」することを呼びかけています。いくつかの県連・法人では、育成担当者を専任配置し、活動が活性化しています。専任配置が難しいところも、現在の体制が十分な仕組みになっているか再確認しましょう。反核平和委員会や社保委員会などとのコラボもひろがっています。また、地協機能を生かし、全国の経験に学びながら活動の強化をはかりましょう。

第7節 共同組織とともに地域で共同の〝わ〟をひろげよう

〇45期前半の概況
 9条改憲阻止やウクライナ侵略ストップの宣伝、フードバンクや街かど健康チェックなどのSDHの視点でのアウトリーチなどに、職員と共同組織がともにとりくんできました。
 第15回共同組織活動交流集会は昨年9月、「富士のふもとに思いをはせ、コロナ禍に立ち向かい、つながり広げる共同の〝わ〟~憲法・平和・いのち・人権を大切に誰ひとり取り残さないまちづくりを~」をテーマに掲げ、山梨をメイン会場にWEBで開催し、3400人の参加で大きく成功しました。
 記念講演で京都大学大学院教授の近藤尚己さんは、「つながりを強める」ことが、安心して住み続けられるまちづくりのポイントであり、共同組織がまちと社会の「資本」であると強調。分科会での各地の報告も、町内会や行政、地域福祉関係機関との連携強化を通じて、共同組織の実践が「地域の福祉力」の向上につながっていると実感できる内容で、参加者の確信につながりました。また、現地企画として動画「いのち燃えて1983年山梨勤医協倒産と再建」を視聴し、職員の奮闘と共同組織の役割、全国の連帯など多くのことを学びました。
 2022年共同組織拡大強化月間では、コロナ禍でもつながりを絶やさず声をかけ合うとりくみを重視し、5万の仲間増やし、1万人の『いつでも元気』読者を目標としました。11月末の到達は共同組織現勢362万9868、『いつでも元気』読者5万1050部です。『いつでも元気』は、職員読者比率50%以上をめざす拡大キャンペーンにもとりくみました。
 月間では、いっせい班会開催、職員と共同組織役員による地域訪問、幹部職員のたまり場訪問など、積極的に地域に足を踏み出したことで、職員から「民医連事業所の地域での存在意義を再確認し、元気をもらった」との声が寄せられ、職員の確信にもなりました。

〇46回総会に向かう基本方針
 この3年間の感染対策の経験を十分に生かしながら、班会やサークル活動、地域の健康相談会などとともに、健康づくりに積極的にとりくみましょう。
 いっそう格差と貧困がひろがるなかで、コロナ禍で旺盛にとりくんだフードバンクやフードパントリー、地域での相談活動などは、ますます求められています。それらの活動でつながった人たちと、地域の要求の実現や、まちづくりの課題などにも共同してとりくみましょう。そうした共同をさらにひろげながら、新しい人とも出会い、つながり、共同組織の活動も知らせて『いつでも元気』の購読もすすめ、地域での仲間増やしにつなげていきましょう。
 職員の班会への参加や、共同組織とともに行う地域訪問は、職員にとっても地域での事業所の役割を確信する学びの場になります。2022年の月間中に、地域に足を踏み出せなかった法人や事業所でも、日常の共同組織の活動再開や職員の参加のために何が必要かを検討し、具体化しましょう。職員の『いつでも元気』読者比率50%の達成もめざしましょう。
 また、担い手づくりも重要な課題として追求していきましょう。
 2023年6月に第45期共同組織委員長会議を開催します。44期開催以降のとりくみを持ち寄り、大いに交流しましょう。
 次回の第16回共同組織活動交流集会は、2024年9月に岡山での開催を確認しました。すべての県連に共同組織連絡委員の選出を呼びかけ、集会成功に向け準備を開始します。

第8節 民医連組織の発展のために

 全日本民医連は新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、集合型の会議・集会への回復をはかりながら、全体として総会運動方針に沿い活動をひろげてきました。46回総会へ向け、感染状況に合わせて、集合型を増やしながら会務執行をすすめます。
 理事会機能の向上のため、学習会の定例開催をすすめてきました。評議員会運営の改善、病院長会議の定例化、事務幹部アカデミアのスタート、新任事務局長研修会などにとりくみました。県連会長研修、県連事務局長研修会など、幹部研修をすすめます。MMATによるBCP研修マニュアル作成支援研修をすすめてきました。
 「旧優生保護法下見解」を踏まえ、人権・倫理を専門的に扱う体制を確立するとの方針に沿い、「人権と倫理センター」を設置し活動を開始しています。各県連の活動を推進するため、民医連内実態把握アンケートの実施、学習・相談活動などの支援を、人権と倫理センターから定期発信します。SOGIについてのとりくみをすすめていきます。
 水俣病は公式確認から66年という長い年月が過ぎましたが、今もなお、四肢抹消の感覚障害、手足のしびれ、頭痛、耳鳴り、運動失調などの身体的障害に加え、差別や偏見に日々精神的・社会的にも苦しみ続ける人たちが多数存在し、いまだに救済されることなく取り残されています。水俣病の被害者救済の歴史は、被害者を切りすてようとする加害者たちに抗い、被害者自らが国民とともに切り開き、このたたかいのなかで約7万人にもおよぶ被害者救済を実現し、水俣病被害の実態と全貌を明らかにしてきました。ノーモア・ミナマタ近畿第2次国賠訴訟は2022年12月21日結審、2023年9月27日に判決が出されます。民医連は、全国的支援と連帯の輪をさらに大きくひろげとりくみます。
 東京都多摩地域の井戸水から発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)が検出され、東京都は34本の井戸(7市、11の浄水施設)の取水を停止しました。1月30日、「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」は記者会見で、多摩地域87人の住民を対象に行った血中PFAS濃度調査の中間結果を発表、「特に国分寺市の人の血中PFAS濃度は高い状況にある」と報告しました。井戸水の汚染源は現時点では不明ですが、米軍横田基地内で、長年にわたり大量のPFASを含む泡消火剤が土壌に漏出したとの報道もあり、関連が疑われています。
 国や東京都には、①健康被害を避けるためにPFASの暫定目標値をアメリカ並みに厳しく設定すること、②この基準にもとづき水質汚染の実態および汚染源を特定しPFASの排出を止めること、③人体・健康への影響を調査し必要な対策を行うこと、が求められます。PFAS汚染が明らかになっている各地の民医連事業所と連携し、重大な環境・健康問題としてこの問題にとりくんでいきます。
 今年6月、民医連は結成70年を迎えます。今日の平和か戦争かをめぐる緊迫した情勢、新型コロナウイルス感染症が浮き彫りにした日本の社会保障のぜい弱性のもとで、いのちの平等をめざす新たな決意と団結を固め合う節目としましょう。第2回評議員会に、70周年事業を提案し、共同組織とともに参加型のとりくみとして開始しました。今年8月19日に記念式典を予定します。
 国際分野では、ウクライナ人道支援募金は全国から1460万円(2023年1月10日現在)が寄せられ、ピースウインズ・ジャパン、国連UNHCR、日本ユニセフ協会へ届けました。韓国との交流を再開しました。
 今年10月、「70年の歴史を礎に、ケアの倫理が貫かれる無差別・平等の医療・介護・福祉の実現と、人権・ジェンダー平等・気候正義・平和が護られる公正な社会の実現をめざし、みんなで集い語り合おう」をメインテーマに、第16回全日本民医連学術・運動交流集会を石川県で行います。すべての県連から演題を持ち寄り参加しましょう。
 沖縄民医連と協力し、46回総会の沖縄開催の準備を開始します。ジェンダー平等の視点で、四役、理事会(地協)、部、委員会などの女性比率の向上をすすめるため、次期役員の検討を早期に開始し、45期にひきつづき、46期理事会、地協運営委員会の女性比率の改善をはかります。

おわりに

 職員、共同組織の仲間のみなさん。私たちは、70年の間、そしてこのコロナ禍でも、人びとのいのちとくらしに光をあて、無差別・平等の医療と福祉の実現をめざしてきました。それが地域からの信頼を深め輝いてきた土台ではないでしょうか。いのちとくらし、人権を守り公正でいのちとケアが大切にされる社会の対極にあり、それらを一瞬にして破壊する行為が戦争です。
 戦後70年、被爆70年の2015年8月、第2次安倍政権が安保法制(戦争法)の強行採決へ向かう暴走に抗し、国会前を幾度も市民が埋め尽くしました。
 私たちは、全国の地域で、この市民の運動の一員として戦争しない国の歴史を守り、権利としての社会保障の充実を求め奮闘してきました。
 2015年8月に開催した第41期第3回評議員会は、「特別決議戦後70年、被爆70年、平和と人権をさらに高く掲げて」を決議しました。
 特別決議の最後のパラグラフ「過去を克服し、東アジアの友好と連帯を求める行動を」を紹介します。

 全日本民医連は、戦前、いのちがけで戦争政策に反対した無産者診療所を源流とし、民医連綱領に「一切の戦争政策に反対する」ことを明記しています。改憲策動とのたたかい、被爆者医療の実践や被爆者の実相を世界に知らせた国際シンポジウム、被爆者援護法制定や核兵器廃絶への行動、自衛隊海外派兵反対や辺野古支援連帯行動など、一貫して平和と憲法擁護の行動を続けてきました。2015年のNPT再検討会議では、過去最高の159カ国が核兵器の非人道性を告発し全面廃絶を求める共同声明を発表し、最終文書合意にいたらなかったものの、核兵器禁止の法的枠組みを求める意見を大勢にすることができました。また、ベトナムの枯れ葉剤に苦しむ子どもたちへの支援、中国で日本軍が遺棄した毒ガス兵器の被害者支援、在韓被爆者の支援や韓国の医療従事者との交流など、平和と人権を求める東アジアの人びととともに活動し今日あることに誇りと希望を持ちたいと考えます。
 戦争させなかった70年、核兵器を使わせなかった70年は、憲法9条と被爆者の運動なしにあり得ませんでした。
 全日本民医連は、平和と民主主義を求める勢力の一員として奮闘し、さらに広範な人びととの連帯をめざします。そして、戦後70年の節目の夏、再び海外で戦争をする国に向かおうとする違憲の企てに抗い、戦争のない世界、核兵器の廃絶に向かって行動する決意を新たにします。

 沖縄の辺野古の浜には「勝つ方法は、あきらめないこと」、東村高江の山道には「みんなが反対すれば戦争は止められる」と書かれた看板が立ち、私たちを迎えてくれます。
 46回総会へ向け、私たちは存在意義をかけて、戦争に反対し、平和な社会を守り抜くことを確認し合いましょう。

以 上

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