民医連新聞

2023年3月7日

世代を越え、地域まるごと 認知症をより身近に 注文をまちがえるカフェ in 盛岡 岩手・飯岡永井地域包括支援センター

 高齢化とともに増えている認知症。しかし、認知症への偏見はいまだに強いのが現状です。そうしたなか岩手では、地元企業と協同で高校生や住民も巻き込んだ「注文をまちがえるカフェ」にとりくんでいます。(稲原真一記者)

イメージを変えたい

 大寒波が押し寄せた1月26日、5回目を迎えた「注文をまちがえるカフェ」は、岩手県盛岡市にある喫茶店「SoRacafe」で開催されました。半日限定で開店するカフェのキャスト(店員)は、認知症や障害のある人たちです。コンセプトは交流を通じて、地域で認知症への理解を深めること。今回のキャストは6人で、サポートする高校生は13人。ゲストは事前予約したキャストの家族や地域の住民、23人が訪れました。
 「この活動で認知症のイメージを変えたい」と語るのは、飯岡永井地域包括支援センターの尾形京子さん(看護師)です。とりくみが始まったのは2019年のこと。同事業所が、認知症サポーター養成講座の活動への協力団体を探していた時に、「SoRacafe」と併設する学習塾を経営する、山崎智樹さんに出会ったのがきっかけです。同じ問題意識を持ち「教育を通じて、バラバラになっている地域をもう一度ひとつにしたい」と考えていた山崎さんの提案もあり、「学生とつくる認知症カフェ」のとりくみが始まりました。

発見と共感、学びの場

 「私たちのとりくみの特徴は、学生が積極的にかかわっていること」と尾形さん。カフェは開催を重ね、いまでは準備や運営は高校生が主体。キャストの準備が終わると、学生がペアになるキャストに仕事を説明し、リハーサルが終われば、いよいよ開店です。
 「いらっしゃいませ!」と元気なかけ声で、おそろいのエプロンを身につけたキャストが、ゲストを迎えます。入店前の発熱チェックとアルコール消毒の感染対策は、高校生が担当。はじめは互いに緊張した雰囲気でしたが、食事やドリンクが出されると、華やかな声が聞こえだします。ゲストはその日初めて会う人たちが相席で座り、食事が終わればキャストも同席して交流が始まります。
 キャストの工藤健彦さんに何回目の参加か尋ねると、「初めて」との答え。サポートの学生から「2回目ですよ」と訂正されますが、「気にするな。真面目すぎると疲れるから、これくらいがちょうど良い」とあっけらかん。ゲスト参加の妻の典子さんは、「素直じゃないんです」と笑います。
 典子さんは「家で二人きりだと夫の認知症の嫌な面ばかり目についた」と、カフェに参加する前をふり返ります。しかし、カフェでの参加者との交流や、熱心に働いている健彦さんの姿に、「心に余裕が生まれ、お互いに優しくなれて楽になった」と、考えが変わりました。
 山崎さんの紹介で参加し、今回が4回目という高校2年生の村上風(ふう)和(か)さん。認知症の人とは話すのが難しいと思っていましたが、「実際にかかわってイメージがまったく変わった。普段接することのない人との交流が楽しい」と、今後も参加するつもりです。

地域の課題を共有

 キャストのコーディネートや学生への事前学習を担当するのは、同事業所の小泉麻利さん(社会福祉士)です。日々の業務で企画を案内し、法人外の地域の事業所とも連携して対象者を探します。希望者がいれば人柄などを考慮して役割を決めています。「カフェを通じて学生や家族が認知症への理解を深め、肯定的に受け止める機会になっている」と、活動に手応えを感じています。
 「学生や地域の人の視点に、こちらが気づかされることも多い。医療や福祉への理解を深めて、地域の課題を共有できる場にもなっている」と尾形さん。他の地域にも活動をひろげたいと考えていますが、課題も多いと言います。「小さくても活動を継続し知ってもらうことで、少しずつでも変化がつくれれば」と期待します。

(民医連新聞 第1778号 2023年3月6日)

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