民医連新聞

2023年2月7日

平和、いのち、くらしの守り手に看護・介護職員は主体的行動を 第15回 看護介護活動研究交流集会 クロージングセレモニー 記念講演

 昨年12月3日、第15回看護介護活動研究交流集会のクロージングセレモニーを開催し、日本赤十字看護大学名誉教授の川嶋みどりさんが講演しました。講演の概要を紹介します。(長野典右記者)

 物理学者、デニス・ガボールの「未来を予測するもっともよい方法は未来を創り出すことである」という言葉にあるように、歴史を受け継ぎ発展させる一人として、知り、学び、生かし、ひろめることが大切です。
 日赤の看護師は、戦中、兵士の救護活動のため戦地に赴き、傷病者を看護することは国家に対する義務であるとされ、日中・太平洋戦争で1120人もの殉職者を出しました。いのち、くらしを脅かす要因のなかで、最大・最悪のいのちの破壊要因は戦争です。
 現在、自衛隊の敵基地攻撃能力の保有や、防衛費の増額など平和憲法がなし崩しになっています。また安保法制のもと、自衛隊法103条で医師や看護師など医療従事者が徴用され、戦地に送られることになります。傷病兵を生み出す事態を阻止し、一般国民の医療提供体制の崩壊に通じる道は決して許してはなりません。

戦争は人の未来を奪う

 1946年に日本国憲法が発布されたとき、空腹のなかの解放感を味わいました。ただ、主権在民、恒久平和主義、基本的人権の尊重と言われても、それまで教育勅語を丸暗記してきた軍国少女には想像できないことばかりでした。
 戦争は未来あるいのちを容赦なく奪います。限りある寿命を全うするのが人間の尊厳です。尊厳ある生の基本は平和であってこそで、尊厳あるいのちのために人智を駆使して戦争を防がなければなりません。
 誰もが生まれてきてよかったと思えるいのちを生き抜くために、現代医療、看護、介護がその知と技術を駆使する必要があります。

新型コロナを展望の契機に

 新型コロナウイルス感染症は人権と尊厳を脅かしました。医療提供体制や公衆衛生対応能力の弱体化が露見し、非正規雇用労働者、生活困窮者に大きな影響がでました。医療崩壊で救えるいのちも救えないという、誰もが未知の事象に直面しましたが、試行錯誤のもと医療従事者の奮闘で何とか乗り切りました。でも、ゴールが不明な状況下での達成感が得られず、疲労困ぱいでした。患者のトリアージ、受け入れベッドや看護師不足、入院必要患者の自宅療養、実態と倫理の相克を目の当たりにしました。
 東京オリンピック・パラリンピックの強行による感染拡大はさながら地獄であり、救えるいのちが救えませんでした。
 新型コロナウイルス感染症の一般的な予防法として、三密を避ける新生活様式が普及しました。しかし看護の柱は、「そばにいて」「見つめ、よく聴き」「触れる」ことです。隔離された医療環境のもと、感染防止策を講じながら、直接ケアのありようを探らなくてはなりません。新型コロナ危機を未来の展望の契機ととらえる必要があります。
 ナイチンゲールは、歴史に学ぶ感染管理として、清潔さと新鮮な空気、そして患者への絶え間ない気遣いをあげています。懸命で思いやりのある看護管理こそが、感染に対する最善防止策です。自然免疫力を高め、生活習慣を整え、ストレスマネジメントなどで自然回復に働きかけていくのです。

本集会は綱領実践の宝庫

 有史以来、人間のもっとも基本的な営みの一つに、人を気づかい世話をする行為は存在していました。疾病構造の変化や医療技術の進歩、医療制度の変遷のもとでも、専門職の基本的な理念は変わりません。ケアレベルの向上と専門職としてのアイデンティティーのために、すべての看護・介護従事者の研さんと研究が必要です。多重課題に直面しつつ、絶えず求められるのがよりよい看護や介護です。どうすれば実現できるのか、自分自身の力量の向上とともに、同僚と討論しながらすすめなくてはなりません。
 看護・介護の現場は実践の宝庫です。問題意識を仮説にして検証し、理論をはかる機会です。そして民医連綱領の考えを可視化させるのは職員自身です。本集会で交流した各地の実践を学び、共有することで綱領の具体化をすすめ、民医連の看護・介護のレベルアップをはかりましょう。
 平和と人権保障のために憲法を守り抜き、綱領の掲げる目標をそれぞれの立場で主体的に科学的に追求し実践することが、尊厳あるいのちとくらしを守る筋道です。山積する課題を一つひとつ乗り越えましょう。
 明るい未来をつくるのは今、生きている私たちですから。

(民医連新聞 第1776号 2023年2月6日)

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