民医連新聞

2023年4月4日

気候危機のリアル ~迫り来るいのち、人権の危機~ ⑧気候変動対策の国際的議論#2 文:気候ネットワーク

 昨年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27が開催され、そこで注目を集めた議題が「損失と損害(ロス&ダメージ)」でした。地球温暖化がすすみ、10年に一度レベルの大雨や干ばつ、熱波などが頻発することで、生計手段の喪失、感染症の拡大、食糧・水不足、強制移住といった被害が生じ、健康で持続可能な暮らしが脅かされています。このような気候変動の悪影響を軽減する対策は各国で取られているものの、それらを超えて生じる被害は、アフリカやアジアなどの災害に対してぜい弱な途上国で、深刻な損失や損害となって現れています。さらに、これらに対処するために多額の資金をつぎ込まざるを得ないことで、経済状況の悪化にもつながっています。
 「損失と損害」の問題を考える上で忘れてはならないのが、先進国が大量に化石燃料を使用してきたことが原因で、気候変動が起きているにもかかわらず、温室効果ガスの排出量が少ない途上国やぜい弱な人びとに被害が集中するという、不公平が生じていることです。こうした不公平の是正を求める声が、途上国やNGOからあがっています。その一つが、気候変動の悪影響に対してぜい弱な国の「損失と損害」に対する資金支援です。COP27では、締約国が「損失と損害」に対処する新基金設立に合意しました。昨年のパキスタンでの洪水被害など、世界各地で発生している被害を、もはや先進国も無視できなくなったことが背景にあると考えられます。誰が資金を出し、誰が受け取るのかなどの詳細はこれから議論されますが、30年以上議論がすすまなかった資金支援について、初めて合意されたことは歴史的な成果でした。
 これからの気候変動の国際的議論では、「損失と損害」に向き合うことが重要な柱の一つとなっていくと予想されます。同時に、気候変動の原因である人間活動によるCO2の排出を、いかに急速に、大幅に減らしていくかということも、ますます重要な論点になります。
 各国、特に先進国に求められているのは、今まさに深刻な被害を受けている人びとや将来世代の声を聞き、化石燃料への依存からの脱却と、再生可能エネルギーへの公正な移行を世界規模で加速させていくことです。深刻な被害に直面する人びとの支援のために資金支援、技術支援、人材育成などを通じて、世界全体で協力していくことも重要です。(田中十紀恵)


気候ネットワーク

 1998年に設立された環境NGO・NPO。
 ホームページ(https://www.kikonet.org

(民医連新聞 第1780号 2023年4月3日)

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