まちのチカラ　北海道浜中町　海と霧とルパンのまち

文・写真　橋爪明日香（フォトライター）

乗馬クラブで波打ち際をトレッキング

　北海道の東部、太平洋に面する浜中町。
　ラッコが生息する霧多布岬など貴重な大自然と、海岸線を歩く乗馬体験が魅力。
　ファンが集うルパン三世のまちとしても知られています。
　幻想的な霧に包まれた北の大地を巡りました。

　釧路空港から東へ車で約２時間、北海道らしい広い道路を走って到着したのは浜中町。霧多布という地名がある通り、濃霧が発生しやすく夏でも気温が上がらない涼しいまちです。この日も幻想的な霧に町全体が包まれていました。
　まずは見どころのひとつ、霧多布岬（正式名称は湯沸岬）へ。トッカリ（アイヌ語でアザラシ）を見かけることから、「トッカリ岬」とも呼ばれます。太平洋の荒波に岬が突き出た霧多布半島は、標高40?60ｍのテーブル型。周辺には展望台やキャンプ場もあり憩いの広場として親しまれています。
　岬突端の灯台まで歩いていくと、双眼鏡や望遠レンズを手に野生のラッコを探す観光客の姿が。少し沖の波が穏やかな場所にラッコの親子が泳いでいるのを目にしました。野生のラッコの生活を陸の上から観察できるのは、国内でここだけ。その子育ての様子はなんとも可愛らしく、心を奪われてしまいます。

ルパン三世の聖地

　町は「ルパン三世」の原作者モンキー・パンチ氏の生まれ故郷で、ルパン三世生誕40周年記念作品として２００７年に放映されたアニメ「ルパン三世霧のエリューシヴ」の舞台でもあります。
　町では２０１１年からルパン三世をモチーフにまちおこしを開始。ＪＲ各駅や市街地のいたるところにキャラクターの等身大パネル、看板、ラッピング車両などが登場します。「ルパン三世通り」にはＰＵＢＦＵＪＩＫＯやＪＩＧＥＮ，ＳＢＡＲなどの仮想店舗も設置され、人気の撮影スポットです。
　観光客一番のお目当ては、町の中心部にあるモンキー・パンチ・コレクション。連載当時の複製原稿や愛用の画材道具など、漫画家モンキー・パンチ氏の世界を垣間見ることができる展示スペースです。
　オリオンの王冠や幸運のブローチなどのお宝もあり、すっかりルパン三世のストーリーに浸ってしまいます。ぜひルパンスポット巡りへ出かけてみてください。

昆布漁豪華海鮮丼

　太平洋に面した町南部は漁業が盛んで、特に天然昆布は日本有数の生産量を誇ります。昆布漁が行われる７月から10月にかけて、沿岸部では採れたての昆布を天日干しする風景が。大きくて長い昆布をヨイショと持ち上げて、まるで布団を干しているかのよう。長昆布、厚葉昆布、猫足昆布が代表的で、佃煮などに加工されます。
　そんな昆布漁の様子を陸上から見ることができると聞き、朝５時にアゼチの岬へ。30～40隻の漁船が一斉に出漁し、まるで競艇のようなスピードで我先にと良質な漁場を目指します。この圧巻の風景は夏の風物詩です。
　採れたての昆布をいただくなら町中心部の寿司ひらのへ。昆布漁の時期しか味わうことのできない一品「旬の豪華海鮮丼」を注文しました。
　なんと一枚の大きな昆布が器となり、その上にウニやサーモンといった魚介類がたっぷり載っています。器の立派な昆布は意外とやわらかく、噛むごとに甘くて深い味わいで海鮮との相性も抜群。ここでしか食べられない新鮮な美味を召し上がれ。

波打ち際乗馬トレッキング

　最後に、砂浜の波打ち際をトレッキングする珍しい乗馬体験ができると聞き、町東部の北太平洋シーサイドライン乗馬クラブを訪ねました。迎えてくれたのは、馬とともに暮らす阿部栄子さん一家。馬術の大会で何度も優勝して玄関にはトロフィーが山のように並んでいました。
　「もともと馬車を引く馬なので、脚が丈夫で性格は温厚なんですよ」と、阿部さんが厩舎を案内してくれました。対面した馬たちは海風に当たり、気持ちよさそうに優しい目をしています。
　乗馬体験はまず、馬場で基本の乗り方と降り方、手綱の操作方法などを練習します。その後、ビーチコースへ出発。インストラクターが丁寧に指導してくれるので、初心者や子どもでもすぐに乗馬することができます。
　きらめく海と青空が続くビーチに出ると、馬たちは打ち寄せる波の上を進みます。ザザァ…という波のしぶきとひづめの音を感じながら、馬の背に揺られて海岸を歩く。これまで体験したことのない極上の爽快感です。
　他にも、まっすぐ延びた木道からの植物観察が楽しい琵琶瀬木道など、霧多布湿原でのトレッキングもおすすめです。まさに北海道らしい雄大なフィールドに、ぜひその身をゆだねてみてください。

■次回は奈良県曽爾村です。