いつでも元気

2023年12月29日

まちのチカラ 福島県下郷町 茅葺きの宿場と奇岩のまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

江戸時代に栄えた宿場の町並みが残る大内宿

 福島県の会津地方南部に位置する下郷町。
 観音沼森林公園など雄大な自然と大内宿といった歴史文化が残ります。
 山深い地域にありながら、海外からの観光客も魅了する美しい日本の原風景を訪ねました。

 東京から東北自動車道で約4時間。長いトンネルを抜け、那須山系などの山々に囲まれたのどかな里山の風景に入ると下郷町に到着です。
 まずは、町一番の景勝地塔のへつりへ。「へつり」とは、この地方の方言で川に迫った断崖や急斜面を意味します。百万年の歳月をかけて侵食と風化を繰り返し、阿賀川沿いに見事な塔の形をした崖をつくりだしました。
 到着すると、外国人にも人気の観光地でさまざまな国の言語が聞こえ、記念撮影に熱心です。こけし工房や土産物店、塔のへつりを一望できる茶屋を横目に、小さな歩道を降り大川(阿賀川)にかかるつり橋を渡ると、正面の岩には虚空蔵堂が祀られています。
 塔のような奇岩には、鷲塔岩や獅子塔岩、烏帽子塔岩など、それぞれの形の特徴で名前がつけられています。水際近くには陰石、陽石、夫婦石など、イメージを膨らませた石の名前も。
 四季の移ろいも美しく、新緑から深緑へ、紅葉から雪化粧へと、色鮮やかに変化する眺めはまるで一幅の名画。特に初夏の頃、藤の花が咲き乱れる景観は素晴らしく、「藤見公園」の別名も。ぜひ太古の歴史が創り出すロマンを感じてください。

神秘的な観音沼森林公園

 次は、町の人々の憩いの場でもある観音沼森林公園に向かいました。四季折々の花木が楽しめる公園で、周囲1・2㎞の観音沼を一周できるほか、保全林を楽しむ全9コース(総延長3・2㎞)の遊歩道を散策することができます。また、公園一帯は野鳥の宝庫で、四季を通じて様々なさえずりを聞くことができます。
 せっかくなので、運動不足解消に公園内をウオーキングしてみましょう。遊歩道から沼のところどころに浮島が見え、その神秘的な風景にとても癒やされます。晴れた日には水面が澄んだ鏡のように風景や空を映すのも見どころ。
 紅葉の時期には赤や黄に染まった木々が水面に艶やかに映り、ため息をついてしまう美しさ。湖畔で絵を描く人や、あずま屋でお弁当を広げる夫婦など、皆が思い思いにリラックスして過ごしています。自然を存分に満喫したい方は、ゆっくりと時間を取ってお越しください。

郷土料理しんごろう

 町には全国でも珍しい茅葺き屋根の駅舎があると聞き、湯野上温泉駅(会津鉄道)を訪れました。駅舎には昔ながらの囲炉裏や大きな足湯があり、ここでもほっこり。
 一息ついて目に止まったのは、郷土料理しんごろうをメニューにしたキッチンカーです。しんごろうとは、ごはんを半殺し(方言で半搗きという意味)にして竹串に刺し、甘みそとエゴマを擦り合わせた「じゅうねん味噌」を塗って囲炉裏で焼き上げたもの。町のPRキャラクター「しもごろー」のもとにもなっており、町民に愛されるソウルフードです。
 「観光客の多い駅ですが、周りに食べるところがなくて。誰かがやらなきゃと思って、キッチンカーを始めました」と語る渡部尚恵さんが提供するしんごろうは、食べやすいお試しサイズ。
 しんごろうは新米ができた際のお祝いなどで食されてきました。今は作る家庭も少なくなっているので、気軽に味わえると好評です。
 一口食べると、シンプルでありながら優しい味わいに懐かしさを感じます。きりたんぽよりかみごたえがあり、おはぎに似た食感も、町ならではです。

江戸時代にタイムスリップ

 最後にご紹介するのは、山間にひっそりとたたずむ大内宿です。江戸時代の宿場の面影を今に残す全国でも数少ない集落で、会津と日光を結ぶ街道沿いに約35軒の茅葺き屋根の民家が建ち並びます。1981年には「重要伝統的建造物群保存地区」として国の選定を受けました。
 一歩集落の中に入り込むと、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような不思議な感覚に包まれます。
 「朝茶でも飲んでかんしょ」と優しく声をかけてくれたのは、土産物屋を営むおばあちゃん。茅葺き屋根の民家は、現在はちりめん細工や煎餅、漬物などの土産物屋、古民家カフェなど個性的な店に様変わりし、国内外からの観光客に喜ばれる通りとなっています。
 また、ここは豪雪地帯で冬になると茅葺き屋根に雪が積もり、昔話の世界のような光景に。毎年2月に開催される大内宿雪まつりでは、通り沿いに雪灯籠やかまくらが作られ、さらに情緒ある冬景色となります。
 今もゆるやかに時が流れている下郷町。東北の山間部で大切に守られている異次元の世界に、あなたも迷い込んでみてください。

■次回は大分県玖珠町です。

まちのデータ

人口
5025人(10月1日現在)
おすすめの特産品
花豆、しいたけ、エゴマ、そば、会津地鶏
アクセス
東京駅から下郷町役場まで東北自動車道経由で車で約4時間。東京駅から郡山駅と会津若松駅経由で会津下郷駅まで電車で約4時間半
問い合わせ先
下郷町総合政策課商工観光係
0241-69-1144

いつでも元気 2024.1 No.386

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