いつでも元気

2009年10月1日

「民医連綱領」ここに力の秘密あり3 さらなるバージョンアップめざして 「どんな医療や福祉、社会をめざすのか」 大いに議論を 全日本民医連事務局長 長瀬文雄さんに聞く

 民医連の事業所は現在一七五四カ所、八万人近い職員が全国で医療・介護をおこなっています。地域や規模は違っても、同じ「心」で つながって…それを表すのが「民医連綱領」です。一九六一年に決定されてから半世紀近く経て、さらなるバージョンアップを計画中。今号では、あらためて綱 領改定の意義、新綱領策定にむけてのポイントを、全日本民医連・長瀬文雄事務局長に語ってもらいます。

民医連の原点を確認しあって

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若手職員と一緒に綱領改定論議をする長瀬事務局長(左)

 「民医連綱領」とは、「民医連がどんな理念、目標をもって活動する組織」なのかを内外に示すものです。いま綱領改定にとりくんでいる大きな理由は二つです。
 (1)生命や人権がないがしろにされている世の中で、「いのちの平等」をめざす民医連が二一世紀に改めてどんな医療や福祉、社会をめざすのかを、民医連 職員や共同組織の仲間とともに考え、つくり出すこと。(2)八万人の職員と三三五万の共同組織の仲間が、民医連の歩んできた歴史や理念を理解し、誇りをも ち、民医連を「大好き」になってもらいたいこと。
 改定論議を通し、経営難などさまざまな困難があるなかでも小手先の対応に陥らず、自らを戒め、「いのちの平等」実現のために民主主義を貫き、人を育てたたかい、事業所を守ることを民医連の社会的使命として確認しあいたいと思います。
 「綱領改定案」(別掲)の前文では民医連運動の出発点にふれました。山本宣治が暗殺された後、彼の遺志を継ごうと「労働者、農民のための病院を!」という呼びかけが出され、全国二四カ所に「無産者診療所」ができました(本誌8月号で紹介)。その歴史を受け継ぎ、戦後、続々と「民主診療所」が誕生しました。
 当時、多くの国民にとって医療機関にかかるのは“死亡診断書を書いてもらうときだけ”という時代に、医療従事者と労働者、地域住民が協力しあって自分たちの病院・診療所をつくり、「働くひとびとの医療機関」を旗印に民医連を結成します。
 民医連は徹底的に患者、住民に寄り添う医療活動や健診、健康づくりの運動をすすめてきました。この原点があるからこそ、どんなに経営が厳しくても、お金のあるなしで差別しない立場を堅持し、今日も「室料差額」を徴収していません。
 また、水俣病などの公害病、労災職業病、災害救援活動など、そのときどきの社会や医療の矛盾にも果敢にとりくんできました。病気の原因を「自己責任」と せず、患者の「生活と労働」の場からとらえること、患者と医療者の関係は対等平等であり「医療は共同のいとなみだ」という医療観を築き、介護、福祉分野へ と活動を広げてきました。同時に、すべての人の権利が保障されるよう、平和運動や社会保障拡充の運動をおこなってきました。

憲法が実現される社会へ

 綱領改定は約半世紀ぶりです。現綱領が「時代にあわなくなった、古くなった」から変えるのでは なく、よりよいものにバージョンアップさせるのが狙いです。改定案では、「基本的人権の尊重、国民主権、戦争放棄」を柱とする日本国憲法、とりわけ9条、 25条が実現される社会をめざすことを宣言しています。
 また新たに、民医連運動をともにすすめる「共同組織」の仲間の役割を明記し、あらゆる活動で手をつなぎ、「安心して住み続けられるまちづくり」をすすめ ることなど、「私たちの目標」を七つにまとめました。新たな人類の課題となっている地球や地域の環境を守ること、核兵器廃絶も目標に掲げ、「一切の」と表 現をつよめ、戦争政策に反対することも強調しました。

幅広い人々と団結し、全力をあげて

 私たちのめざす医療や福祉は、どの人にも平等にという普遍的なものであり、多くの人々の願いで す。この立場から、私たちは「後期高齢者医療制度」廃止や国保改善の運動、乳幼児医療費無料化、医師・看護師の増員などのとりくみを通じ、幅広い人たちと の共同を追求してきました。「後文」は、志を同じくする民主勢力の仲間だけでなく、要求で一致するすべての個人や団体と連帯して、戦争のない、人間を大切 にする社会を実現する道筋を示しました。この点は、現綱領と改定案の後文を比べると、違いがよくわかると思います。
 そして「全力をあげて活動する」と、新綱領にかける決意を表明しました。これは憲法前文の最後にある「全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成すること を誓ふ」に由来します。二〇一〇年春の第三九回総会までに議論を尽くし、多くの仲間と一緒に新綱領を決定したいと思います。ぜひ、ご意見をお寄せくださ い。

全日本民医連綱領(改定案)

2009年7月19日 全日本民医連第38期18回理事会

 私たちは、無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす組織です
 戦後の荒廃のなか、無産者診療所の歴史を受けつぎ、日本社会の中で苦しめられている国民の立場に立った医療従事者と、医療に恵まれない労働者・農民・地 域の人びとが手をたずさえ「民主診療所」を各地につくりました。そして1953年、「働くひとびとの医療機関」を共通の旗印として全日本民主医療機関連合 会を結成しました。
 私たちは、患者の立場に立って切実な要求に応え、「いのちの平等」の医療実践を行い、さらに介護と福祉の事業へ活動を広げてきました。生活と労働から疾 病をとらえ、生命や健康にかかわるその時代の社会問題にとりくみ、共同組織と力を合わせて生活向上と社会保障の拡充、平和と民主主義の実現のために運動し てきました。また営利を目的とせず、事業所の集団所有を確立し、民主的運営をめざして事業活動を行ってきました。
 日本国憲法は、国民主権と平和的生存権を謳い、基本的人権を人類の多年にわたる自由獲得の成果であり永久に侵すことのできない普遍的権利と定めています。しかし、その権利はないがしろにされています。
 私たちは、この憲法の理念を高く掲げ、これまでの歩みをさらに発展させ、すべての人が等しく人間として尊重される社会をめざします。

<私たちの目標>

一.人権を尊重し、共同のいとなみの立場で、親切で良い医療と福祉をおこない、内容の向上につとめます
一.医療・福祉の専門職と協力をすすめ、医療機関や福祉施設、行政などとの連携をつよめます
一.地域・職域の人びととともに、生命と健康、生活を守り、安心して住み続けられるまちづくりをめざします
一.学問の自由を尊重し、科学・技術の進歩に貢献し、地域とともに歩む豊かな人間性をもった専門職を育成します
一.民主的な運営を貫き、事業所を守り、医療・福祉従事者の生活と権利の向上をめざします
一.国と企業の責任を明確にし、権利としての社会保障の実現のためにたたかいます
一.平和と環境を守り、核兵器廃絶をめざし、人類の生命と健康を破壊する一切の戦争政策に反対します
 この使命と目標の実現のために、共同組織とともに、互いに団結し、多くの個人・団体と手を結び、国際交流をつよめ、全力をあげて活動します。

 いつでも元気 2009.10 No.216

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