いつでも元気

2010年3月1日

特集2 いまから備えよう 骨粗鬆症

genki221_04_01
相馬 裕
青森・健生病院整形外科

 骨粗鬆症は、骨に鬆(内部にできる空洞や穴)ができて弱くなり、骨折しやすくなる病気です。全国でおよそ1000万人もの患者さんがいるといわれています。
 80歳以上では、女性のほぼ半数、男性は2~3割が骨粗鬆症だと推定されています。

どんなことが起こる?

 骨粗鬆症にはほとんど自覚症状はありません。しかし転んだりバランスを崩して体の一部に負荷がかかったときに骨折しやすくなります。
 骨粗鬆症が原因で起こる代表的な骨折は、大腿骨頚部骨折・転子部骨折です(図1)。太ももの付け根の部分が骨折し、歩行困難になります。多くの場合、手術が必要です。
 ほかに脊椎圧迫骨折や橈骨遠位端骨折などがあります。脊椎圧迫骨折は転倒などがきっかけで起きますが、とくに何もなくても骨折していることがあります。 腰痛、背中の痛みのほか、「背が縮んできた」「背中が丸くなってきた」など、人に指摘されて気付くこともあります。橈骨遠位端骨折は、転んで手をついたと きなどに起こる手首の骨折です。
 いずれも治るまでに1~3カ月かかります。手術が必要になる場合もあり、本人はもちろん、介護する家族にも大きな負担となります。お年寄りが骨折する と、寝たきりになる危険性が高く、肺炎や床ずれ、認知症などのきっかけにもなります。高齢化社会が進むにつれて、骨粗鬆症による骨折は、社会的・経済的に 大きな問題となっています。

図1 骨折しやすい場所は

genki221_04_02

イラスト・井上ひいろ

 

骨は生きている

 遺体を火葬すると骨が残ります。古代の遺跡などからも骨が発掘されたりしますね。こうしたことから、骨は岩石のようにかたくて安定した組織のような印象を持っている方もいるかもしれません。
 確かに骨は人体の中で強くて安定した組織です。しかし骨も生きた細胞からできており、体内で常に新しい骨に作りかえられています。
 人体には成人で約1罇のカルシウムがあり、99%が骨の中にあります。そして骨は、カルシウムが原料のハイドロキシアパタイトという硬い物質とコラーゲ ン(たんぱく質の一種)からできています。また、ハイドロキシアパタイトは、幼児なら1年でほぼ100%、成人でも1年に約18%が作りかえられていま す。
 カルシウムは、カルシウムを含んだ食事を取ることで体内に取り入れられます。このとき、ビタミンDが働くとカルシウムの吸収がよくなります。
 吸収されたカルシウムは血液で骨まで運ばれて、古い骨が壊され、新しい骨が作られます。古い骨を壊す速さは副甲状腺ホルモンなどによって調節されていますが、作る速さを壊す速さが上回ると、骨の量が少しずつ減っていきます。これが骨粗鬆症の原因になります(図2)。

図2 骨粗鬆症はなぜ起きる?

図3 年とともに減っていく骨量

genki221_04_03

genki221_04_04

 

女性ホルモンの減少などで

 古くなった骨を壊すのは破骨細胞の働きですが、破骨細胞はいろいろな因子が作用して、その働きが調整されています。女性ホルモンは働きを抑える役割をはたしています。
 ところが女性が高齢になって閉経を迎えると、女性ホルモンが少なくなっていきます。すると破骨細胞の働きが強くなって、骨粗鬆症の原因になります。このため、骨粗鬆症は女性の方が男性の何倍も起こりやすくなっています。
 一方、女性ホルモンは男性にもあり、年齢とともに減っていくため、男性の骨粗鬆症も女性ホルモンの減少がかかわっているといわれています。女性ホルモンはコレステロールから作られるため、脂肪が少なく、やせた人の方が骨粗鬆症になりやすくなります。
 また、病気の治療でステロイド剤を続けて飲んでいる人は、骨粗鬆症になりやすくなっています。糖尿病や慢性腎不全、甲状腺や副甲状腺の病気も骨粗鬆症の原因となります。

喫煙、食事、運動不足も

 喫煙は骨に悪影響を及ぼします。タバコで女性ホルモンや、ビタミンDが減ることが原因です。
 アルコールは直接の原因にはなりませんが、とりすぎるとカルシウムの吸収やビタミンDの働き、運動機能を低下させ、骨密度の減少、骨折につながるようです。カフェインのとりすぎもカルシウムの吸収をさまたげます。
 また、食事でのカルシウムやビタミンDの摂取が少なければ、骨粗鬆症の原因になりますね。ところが厚生労働省の国民栄養調査によれば、日本人の平均的な 食事量では他の栄養素(炭水化物、タンパク質、脂肪)やミネラルは充足しているのに、カルシウムだけ必要量(1日600mg)を下回っています。
 若い女性がダイエットなどで極端に食事制限すると、カルシウム不足に加えタンパク質も不足して、丈夫な骨が作られず、閉経後に骨粗鬆症になる原因となります。
 さらに病気などで寝たきりになると、それだけで骨が弱くなって骨粗鬆症になります。興味深いのは、宇宙飛行士のように体が丈夫な人でも宇宙飛行後は骨が弱くなることです。運動量が少ないと骨を作る機能が弱まり、骨粗鬆症になるのです。

図4 骨粗鬆症にはさまざまな原因が

genki221_04_05

 

骨粗鬆症の検査

 医療機関で骨密度測定をおこないます。さまざまな検査法がありますが、一般的にはX線をあてて 腰の骨の密度を測定する検査がおこなわれています。年を重ねると骨密度が低下するのが普通ですので、健康な成人の平均値の80%以上あれば「正常」としま す。70%~80%なら「骨量減少」で要注意、70%未満が「骨粗鬆症」と判定されます。ただし、この検査だけでは骨の変形や骨折があるとうまく判定でき ないこともあるので、X線画像撮影(レントゲン)もおこない、診断します。
 その他、血液検査や尿検査でも「骨代謝マーカー」と呼ばれる項目を調べることで、骨粗鬆症の進行度や治療の効果がわかります。

治療と予防

 骨粗鬆症は、作られる骨よりも壊される骨が多いために起きますから、治療や予防のためには骨が多く作られるか、あまり壊されないようにすればよいわけです。
■食事療法
 予防および治療として大切です。過度なダイエットは避け、骨の原料となるカルシウムを含んだ食品(乳製品、豆類など)を意識的にとるようにしましょう。ほかに骨に作用する栄養素にビタミンDとビタミンKがあり、これらを多く含む食品をとることも大切です()。
 タンパク質をとることも大切です。ただし糖尿病や高脂血症の人はカロリーのとりすぎに気をつけなければなりません。痛風(高尿酸血症)の人は、タンパク質のとりすぎにも注意が必要です。

表 骨粗鬆症の予防に役立つ食品

カルシウムの多い食品
牛乳、チーズ、小松菜
大豆製品(豆腐、みそ)
煮干しなど

genki221_04_06

ビタミンDの多い食品
うなぎ、サケ、きのこ類
サンマ、カツオなど

genki221_04_07

ビタミンKの多い食品
納豆、卵、
ほうれん草、小松菜など

genki221_04_08

■運動療法と日光浴
 若い人も高齢者も運動は大切です。薬だけでまったく運動しなければ、骨粗鬆症はどんどん進みます。ハードな運動は必要ありませんが、最低週2~3回続け てできる運動(ウオーキングやジョギング、水泳など)をおこないましょう。屋外のスポーツは日光で体内のビタミンDが活性化されるため、一石二鳥です。
■薬物療法
 骨粗鬆症に使われる薬は大きく分けて、次の4つがあります。
(1)ビスフォスフォネート剤
 現在、骨粗鬆症の治療で中心的に使われている薬です。この薬は破骨細胞に作用し、骨が壊されるのを抑えます。骨密度を増したり、骨折を予防する効果もさ まざまな研究で実証されています。従来は1日1回の服用が必要でしたが、最近は週1回服用のタイプも使われています。
 服用時は少し注意が必要です。毎日服用するタイプも、週1回服用するタイプも、ともに起床してすぐにコップ1杯の水(約180ml)で、口の中で溶かさ ずに服用します。服用後30分は横にならないでください。胃炎や、薬が胃から逆流することによる食道炎を避けるためです。
 水以外の飲み物や食べ物と一緒に飲むと、吸収率が低下しますので、朝食をとるのは服用後30分以上たってからにしましょう。他の薬を服用する場合でも、この薬を服用後30分以上経ってから飲むようにします。
 副作用で多いのは、食道や胃腸の障害です。食道の通りが悪かったり、胃腸の弱い人は、服薬前に医師とよく相談しましょう。
 さらにまれですが、あごの骨に炎症を生じることがあります(顎骨壊死)。口の中の不衛生が原因の一つになります。ふだんから歯磨きをよくして、口の中を 清潔に保ちましょう。抜歯など歯科治療を受ける際に服用を休まなければならないこともあるので、歯科医と担当医師によく相談してください。
(2) 女性ホルモン剤とその仲間
 女性ホルモン剤はとくに閉経直後の患者さんに有効です。しかし副作用として性器出血、乳房の痛みなどをともなうことがあります。まれに子宮がんや乳が ん、血管がつまる血栓症など、生命にかかわる副作用を招くこともありますので、信頼の置ける産婦人科医から処方を受けることが大切です。
 ラロキシフェンという新しい薬も使われるようになっています。骨やコレステロールの代謝に対して女性ホルモンの働きを示す一方、乳房や子宮には影響しに くい薬です。このため、女性ホルモン剤の副作用である乳がんや子宮がんが起こりにくくなっています。
(3) 栄養素補給剤
 カルシウム剤、ビタミンD、ビタミンKなどがあります。とくにカルシウムは食事で十分にとれていない人も多いので、薬というより栄養補給として重要です。いずれも投与中は定期的な血液検査が必要です。
 ビタミンDは骨粗鬆症を改善する効果は弱いのですが、高カルシウム血症に注意すれば大きな副作用もなく高齢者にも比較的安全に使えるため、広く処方され ています。ビタミンKも作用は穏やかですが、脳梗塞や心房細動に使われる血栓予防の薬(ワーファリン)の作用を打ち消すため、いっしょには使えません。
 ビタミンDもKも骨密度を増やす効果は弱いのですが、骨折を抑える効果は一定あると立証されています。
(4) その他
 カルシトニン製剤(注射)などが用いられています。破骨細胞に作用して骨が壊されるのを抑えるとともに痛みも抑えるはたらきがあります。

仲間といっしょに

 骨粗鬆症はとくに女性の場合、多くの方がわずらいます。若い方も食事と運動に留意し、しっかり予防してください。すでに骨粗鬆症になった方も紹介した治療法をよく理解し、根気よく治療を続けてください。
 骨折しない限り、あまり自覚症状のない病気なので、治療を続けるのに忍耐が要るかもしれません。そんなときに頼りになるのが医師や看護師などの病院ス タッフや、同じ病気をもつ仲間です。当院でも骨粗鬆症の患者会「すみれの会」を通じて病気の学習会や料理教室、体操指導などをおこなって交流を深め、お互 いに励まし合いながら治療を続けています。
 文字通り「体の芯」を支えている骨を丈夫にして、みなさんが元気で楽しく過ごせるように願っています。

いつでも元気 2010.3 No.221

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ