民医連新聞

2004年7月19日

Aさんの禁煙外来体験記

「受診きっかけに禁煙がんばれそう」

 「禁煙したい人を励まし、世間にも禁煙をアピールすることが民医連の役割では」との便りが届きまし た。「職員の健康」も強調され、喫煙者の肩身はせまくなるばかり。禁煙したいという喫煙歴三〇年の愛煙家・Aさんに同行して神奈川・汐田総合病院の「禁煙 外来」を訪問しました。勤務時間内を禁煙にした長野・塩尻協立病院の様子、奈良・伏見診療所の禁煙外来のハウツーも聞きました。(木下直子記者)

 神奈川・汐田総合病院、「厳しくされるかな? ちょっと緊張しちゃうよネ」とつぶやきながら、Aさんは診察室に 入りました。迎えてくれたのは神経内科の古谷(ふるたに)力(りき)也(や)医師。やさしい口調で、禁煙外来に来るに至ったきっかけ、これまでにも禁煙し ようとしたことがあるかどうか、それがどうして成功しなかったか、を質問してゆきました。

 Aさんはこの一〇年近く「たばこをやめたい」と考えていたこと、何度かチャレンジしてみたが、宴席をきっかけに再開するパターンになる、と話しました。「お酒で理性が働きにくくなりますからね」と先生。

 話題は次に「喫煙が体にどう影響を及ぼすか」。まずAさんの知識を訊ねた後で、表や写真などを見せ、肺ガンや脳 心疾患の発症率が高くなること、煙に発ガン性物質が含まれることなどを説明。「喉頭ガン患者の九割以上が喫煙者、吸わない人の三二・五倍の発症率」という 統計に、Aさんは「あぁ~っ」。喫煙者家族の肺ガン死亡率は二倍です。

 「長年吸っているから今からでは遅い」と考える人もいますが、やめれば効果は確実、と説明は続きます。一〇年やめれば四倍だった肺ガン発症率は一・四倍に下がります。

 コスト面の試算もされました。「日に二箱吸うと、年間約一八万円、家族旅行ができます。一〇年で一九〇万円、三〇年で…! 他に、喫煙者は病気になりやすいことから、医療費もかかります」。

 喫煙のマイナス面を確認した後は

どんなプロセスでやめてゆくか。「たばこ依存には、ニコチン中毒と、習慣の二つの要素がある、そこでニコチンパッ チやガムでニコチンの禁断症状をおさえている間に、まず習慣を喫煙しないものに変え、パッチやガムを打ち切った時点で本当の禁煙がはじまります」「いちば んつらいのは、二、三日たったあたり。パッチの処方期間の八週間で、うまくいかなければいったん打ち切り、リセットして再チャレンジです」。診察の所要時 間は約三〇分。

 問診の結果、ニコチン依存より、習慣の要素が強いことがわかったAさんは、習慣を工夫することを中心に努力し、次回の診察を一カ月後に決め、診察室を出ました。感想は…「気楽な気持ちでいいんだネ。しばらくはお酒の席もさけて、がんばってみるよ」。

* *

 同院で禁煙外来が開かれて約一年半、禁煙外来を担当する医師は窪倉孝道院長と、古谷先生の二人です。毎週二~三 人が受診、禁煙外来のチラシをみて来る人のほか、慢性疾患の患者さんが、主治医に禁煙をすすめられてくる、という二つのパターンがあります。診察は検査も 含め実費で約三〇〇〇円、「お金にはなりませんが、禁煙推進運動の一端としてとりくんでいます」と古谷先生。同院では外来の他に、月に一度、無料の禁煙指 導にもとりくんでいます。

 「僕らの態度も『指導』ではなく、あくまでも患者さんが禁煙の主体、医師はサポート役に徹します。普段の患者指導の勉強にもなります」。

勤務時間内を禁煙にして
長野・塩尻協立病院 小林輝雄(事務長)

 当院は、二〇〇〇年四月、診療所から一〇〇床の病院になりました。それを機に、全館、全敷地内禁煙にしました。

 しかし、勤務時間中にたばこを吸いたくなる職員はいました。喫煙者は、病院と通りをはさんで反対側にある農作業小屋に足を運んで一服していました。農家の地主さんが好意で提供してくれた場所です。

 そのような状態が続き、昨年、再度医療従事者の喫煙問題を考え直しました。「勤務時間内の禁煙」を病院の方針に掲げて、全職員集会で話し合い、職場ごとの学習会も行いました。

 今年四月、喫煙場所だった農作業小屋を地主さんに返しました。これらのとりくみの中で、自覚的にたばこをやめる職員もでています。

 スモーカーだった三人の男性職員の意見を聞いてみました。

 10年間、1日10本たばこを吸ってきたというBさん

「喫煙にかなりの時間を割いていたことに気がつきました。その時間を有効につかえるのです。たばこを買わないので出費も減りました。でも、禁煙の提案に対しては、反発のような感情が多少ありました」

禁煙2年目に入ったCさん

「医療従事者としては、健康面から禁煙に賛成です。喫煙者としては、たばこを吸うことは個人の自由と考えていました。職場で禁煙を是とする気風が高まり、禁煙という目標を達成できました」

 多い時は日に30本たばこを吸っていたケースワーカーのDさん

「患者さんや家族と話す時、自分の吸ったたばこの臭いがしないか気にしていました。それがなくなりましたね。

 禁煙一カ月目、ニコチンが切れた時のストレスは大変なものでした。ガムやアメで何とか乗り切りましたが。だから喫煙者はたばこに手がいってしまうのでしょう。そのストレスから解放されたことが喜びです。禁煙を広げるにはたばこを吸いにくい環境をつくることが有効です」

禁煙外来のすすめ
奈良・伏見診療所 松田誠(事務長)

健康づくり外来で

 吉田病院(三一二床)に近接する当診療所は、リニューアルの際に保健予防活動を拡大、「生活習慣病改善外来(現在は健康づくり外来)」を月に八単位おきました。健診の事後フォロー、運動療法、栄養指導、そして禁煙支援を目的とします。

 ここでは患者の前向きな気持ちを引き出し行動を変えていく行動療法が中心で、様ざまなスタッフが活躍していま す。一単位に五~八人、一人に三〇分くらいかけて、歩き方や運動のやり方、食事の取り方などを指導し、その後診察します。やせた、血圧や脂質が下がったな ど、効果も満足感もあり好評です。

自信を行動に…禁煙を支援

 禁煙支援は二つの面から対応します。①ニコチンによる習慣性には、貼り薬(ニコチンパッチ)で最低量のニコチン を与え、段階的に減量、中止にもっていきます。②生活習慣化した喫煙行為には、専任コーディネータがマンツーマンで支援します。喫煙のタイミングや傾向を つかみ、個人に合った待避法を具体的に指導します。八週間のプログラム(表1)が基本です。

 禁煙指導に関わるチームは、医師のほか薬剤師、検査技師、管理栄養士です。専任コーディネータは、法人内で決め た「免許制」。模擬「禁煙外来」などの講習会に出て、訓練を受けてから免許が交付されます。二〇人が免許を持ち、六人が活動中です。サプリメントアドバイ ザー、健康運動指導士、糖尿病指導士の資格保持者がいます。

受診者のプロフィールは

 受診者層は千差万別です。「妊娠したから」、「健康のため」など、自分で「禁煙したい」と考えて来る人で、初診は月四人ほどです。最近は「吸える場所がなくなったからやめたい」と来る人もいます。健康増進法などで、社会が禁煙の方向に向いてきたことも追い風です。

 高血圧などの診断があり指導管理料の対象になる場合を除き自費です(表2)。友の会員割引は半額です。成功率は 八五%(表3)。成功者は「ご飯も空気もおいしい」「歯もきれいになった」「こんなに簡単にでき、何回も失敗していたのはなぜかと思う」などの感想を寄せ ています。

患者の立場から推進しよう

 職員が吸っていたらコーディネータはできません。相手にも甘くなってしまいます。たとえば喫煙者の胸部レントゲ ン写真を見たとき、患者の立場で本当に痛みを理解できるでしょうか? 職員アンケートでは、喫煙者の五〇%は「やめたい」と答えていました。「禁煙教室」 も開きましたが、自然に気持ちが熟すような雰囲気づくりが大事です。

 ガン・脳血管障害・心筋梗塞の三大疾病に喫煙が関与しています。ハイリスク者を放っておく手はありません。禁煙は健康日本21の九つの政策の一つ。今後は、民医連の病診では標準的に「禁煙外来」をおく必要があると思います。マンパワーは踏み出せば、ついてきます。

(民医連新聞 第1336号 2004年7月19日)

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