いつでも元気

2012年4月1日

特集2 乳がん 定期的な検診で早期発見・早期治療

月に一度は自己検診でチェックを

年間4万人が乳がんに

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箕畑順也
兵庫 神戸協同病院 医師(外科)

 乳がんは、乳房の中にある乳腺(母乳を作るところ)から発生する悪性腫瘍です。
 日本では、乳がんにかかる女性が年々増えています。1975年に乳がんにかかる患者数は年間約1万人でしたが、いまでは年間4万人以上の女性が乳がんと診断されています。女性がかかる最も多いがんです。20人に1人は、乳がんにかかると言われています。
 乳がんで亡くなる方は、日本で年間1万人以上、女性の壮年期(25~44歳)におけるがん死亡原因の第1位となっています(図1)。日本では30歳代から乳がんにかかる率が増え始め、40代後半で最も高くなります。10万人当たり150人以上もの割合です(図2)。欧米では60歳代に見られることが多いのですが、最近の日本では、50歳以降に増加していると言われています。

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「乳がんを予防できますか?」

 外来でよく受ける質問に「どうしたら乳がんを予防できますか?」というものがあります。なかなか答えにくい質問です。確実な予防法は、いまのところみつかっていないからです。
 乳がんになりやすい危険因子として、(1)40歳以上、(2)未婚、(3)出産を経験していない、(4)初潮が早く閉経が遅い、(5)肥満、(6)血縁 者に乳がんの人がいる、(7)良性の乳腺疾患になったことがある、などがあります。このことから、乳がんにならないために自分でできることと言ったら、 「太らないこと」くらいかもしれません。
 予防上、規則正しい生活と適度な運動でストレスをためないことが一番だと思いますが、これは乳がんだけでなく他のがんや健康全般にも共通して当てはまることですね。
 また、危険因子にまったく当てはまらなければ乳がんにはならないというわけでもないので「私は当てはまるものがないから検診に行かなくても大丈夫」とは考えないでください。

診断をするには

 次に、診断についてです。
 検診で「異常」と判定されたり、しこりや痛みなどの自覚症状があり受診したという方には、診察室でまず医師が問診と視触診(目で見てさわって観察する) をおこない、その後、画像診断をおこないます。  画像診断は症状にもよりますが、マンモグラフィと乳腺エコーをおこないます。乳腺エコーはマンモグラ フィの後におこないます。これはマンモグラフィで異常があったところを重点的にエコーで観察することで、微細な病変を見つける確率が高まるからです。
 マンモグラフィは少し特殊なレントゲン撮影で、撮影方法も読影(画像を見て診断すること)するのも通常のレントゲンとは違った技量が必要です。乳腺エ コー(超音波検査)も担当者の技量によって診断の正確さに大きな差が出てしまいます。どちらの検査も、講習会と認定試験があります。最低限このような知識 を持っている技師に検査してもらうことが重要です。
 これらの画像診断でがんを疑うような異常があった場合、細胞診や組織診という、異常があるところから直接、細胞や組織を針で採取して調べる検査をおこないます。ほとんどの場合、この検査で良性か悪性かがわかります。
 この検査でも良性か悪性か診断できない場合は、異常が見られる部分を切除する場合もあります。
 乳がんと診断されたら、病気の広がりや他の臓器への転移の有無、全身の健康状態などを見るためにレントゲン、MRI(電磁波による断面撮影)、血液検査などをおこない、治療の方針を決定します。

乳がんの治療

 他の臓器への転移がない場合、手術療法が治療の中心となります。
 現在のところ、手術せずに乳がんを治す方法はまだ研究段階で確立していません。
 がんが大きくない場合は、乳房を切除しない「温存手術」をおこないます。早期に発見すればするほど、温存手術ができる可能性が高くなります。
 乳がんは腋の下のリンパ節に転移することがあるので、リンパ節も手術でとりのぞきます。約10年前までは、腋下リンパ節をすべて切除する手術をおこなっ ていました(腋窩リンパ節郭清)。ところが最近は、「センチネルリンパ節生検」という検査法によってリンパ節への転移診断が正確におこなえるようになって きたこと、また検診の普及によってリンパ節への転移が少ない早期の段階での診断が増えてきたことによって、リンパ節郭清をおこなうことは減ってきていま す。
 手術後に薬物療法をおこなうことで、再発の危険性を大きく下げることができます。薬物療法には、(1)ホルモン療法、(2)抗がん剤治療、(3)分子標的治療といった種類があります。摘出した病巣をくわしく調べた上で、どの薬剤を使用するかを決定します。
 手術した患者さんの約9割の方に、何らかの薬物治療がおこなわれています。また、温存手術をおこなった場合は、残した乳房からの再発を予防するために、放射線治療を実施します。
 すべての治療が終了した後も、術後10年間は経過を観察します。

初期段階では症状なし

 女性にとって、乳がんは最も身近な悪性腫瘍です。しかし、がんとしての悪性度は他のがんに比べて低いため、早期に発見できれば多くの方が治癒します(図3)。
 初期段階の乳がんは、ほとんどの場合なにも症状がありません。ですから早期発見のためには定期的な検診が欠かせません。
 自覚症状があるとすれば、最も多いのが「しこり」です。外来でよく聞かれる質問に「どんなしこりが乳がんなんですか」というものがあります。これは、なかなか答えにくい質問なのです。
 「固くてごつごつしたものががんである場合が多く、あまり固くなくてツルっとしたものは良性のことが多い」というのが正解です。しかし、そのようにお答 えすると「しこりはあるけど、ツルッとしているから大丈夫」と、受診しなくてもいいと勘違いされることがあるからです。
 どんなしこりでも、触診だけで「がんか、良性か」を見分けることは不可能です。
 ですから「しこりに気づいたら、どんなものであっても乳腺外来を受診して下さい」とお話ししていますし、「しこりかどうかわからなくても、そうかもしれないと思ったら病院を受診して下さい」とお答えしています。

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検診は

 検診では、先ほど述べたマンモグラフィと視触診をおこないます。
 視触診だけの検診は、乳がんを見逃すことが多いため、おすすめできません。必ずマンモグラフィと視触診を併用した検診を受けましょう。
 年齢が若い方には、乳腺エコーも有効だと思われます。
 しかし、行政がおこなう検診では、まだ取り入れられていません。現在、乳腺エコーの有効性を検証する試験がおこなわれていますので、数年後には取り入れられると思います。
 現在、受診者が料金を支払えば乳腺エコーでの検診を受けることができます。ただし、その場合も乳腺エコーだけではなく、マンモグラフィとセットで受けた方が早期発見につながります。
 マンモグラフィの放射線被ばくによる影響を気にする方もいますが、飛行機で海外旅行に行くときに浴びる程度の被ばく量です。年に1回程度であれば健康に悪影響をおよぼすことはありませんので、ご安心ください。
 40歳以上の方の場合、2年に1回のマンモグラフィ併用検診が推奨されています。毎年ではなく、2年に1回の検診が推奨される理由には、費用対効果が最も高いからです。がんの診断率自体は毎年の方が高いのですが、2年に1回の方が効率的ということなのです。
 多くの方に検診を実施する立場からすると、確かにそれが一番いいように思います。しかし一人ひとりの受診者のことを考えた場合、全員一律に2年に1回でいいのだろうかと思うことはあります。
 リスクが高い40~50歳代の方、血縁者に乳がんの方がおられる方、婦人科でホルモン補充療法を受けておられる方などは、毎年受診したほうが安心でしょ う。それに、2年に1回だと忘れてしまう人もとても多いです(本当です)。ですから私は、「2年に1回だけど、忘れそうだったら毎年来てくださいね」「あ なたは家族に乳がんの方がいるので、毎年検診を受けてください」「婦人科でホルモン補充療法を受けたことがあるんですね。念のために毎年検診をしましょ う」などとお話ししています。

どこで検診を受けるか

 乳がん検診は、必ずしも乳がん専門施設である必要はありません。ですが最低限、マンモグラフィ検診精度管理中央委員会の施設認定()を持つ施設で検診を受けることをおすすめします。
 乳腺エコーを受ける場合も、講習会を受講して試験に合格している有資格者(超音波検査士)を公表している施設が安心です。


() 特定非営利活動法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会
ホームページ→http://www.mammography.jp/
マンモグラフィ検診施設画像認定施設に掲載されています。


乳がんの自己検診

 「しこり」を早期に見つけることは、早期治療・治癒につながります。そのためにも自己検診をおすすめします。
 自己検診は、乳がんの診断をすることを目的におこなうものではなく、「しこりに気がつくきっかけ」です。私が大事だと思うのは、
(1)あまり難しく考えない
(2)できる範囲のことを継続する
(3)よく分からないときは病院を受診する

 以上の3点です。
 自己検診の方法は図4を参照してください。
 姿勢は座っていても寝ていても、どちらでも大丈夫です。私のこれまでの経験から「もっとも簡単で継続しやすい」と思われるのは、入浴中に乳房全体を手の ひらでなでる方法です。1カ月に1度、しこりを見つけようとするのではなく、「これまでとなにか変わったことはないだろうか」という気持ちでおこなってみ てください。
 乳頭の観察や腋の下の触診について解説されている本もあります。ですが、「できるだけ多くの方に継続しておこなってもらう方法を」と考えると、「乳房の触診が一番大切」と覚えてもらうことが効果的だと思います。
 また、自己検診はあくまで「定期検診までのあいだにおこなう補助的なもの」と考えてください。「自己検診で異常がない」からといって定期検診を受けない のは危険です。医師が触診をしても、しこりに触れないがんもあります。自己検診で異常がないと思っても、定期検診は必ず受けてください。

 「1カ月に1度の自己検診」と「定期的な検診」で、乳がんの早期発見・早期治療につなげましょう。
イラスト・井上ひいろ

図4 自己検診の方法
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いつでも元気 2012.4 No.246

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